表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

04.


 それからまた数年が経ち、聖女は20歳となった。

 王太子はいまだ護衛騎士を外れないアシュトンを敵視していたが、そんな嫉妬も気にならない程度に聖女との距離は近くなった。近いと言っても0から1程度だ。さして変わらん。


 王太子はこの数年で、聖女に懸想したらしく甲斐甲斐しく貢物を贈っている。落ちない、靡かない女が珍しいだけなのだろうとは思うが。


「アシュトン、だったか?お前、見合いをする気はないか」


 王太子は余程自分が邪魔なのだろう。見合い話を持ってくる様になった。だがアシュトンは護衛騎士は騎士でも聖騎士である。神に捧げているので、余程のことが無ければ結婚はしない。


「殿下、有難いお申し出ですが神に使える身なのでご遠慮させて頂きます」

「そう言うな。お前の実家も賛成してたぞ」

「私の問題ですので、家は関係ありません」


 そんな茶番を続けていた頃、聖女と王太子の結婚の日取りが決まった。


 2年後の夏、大聖堂で挙式するそうだ。


 それを聞いても女は表情を変えず、国王と王太子を見ていた。2人も女の無表情には馴れているのだろう。特別何を言うでもなく、その場は終わった。


 その後、聖女は王太子の居室に呼ばれたが、護衛であるアシュトンの入室は断られた。王太子に婚約者同士であるのに不服か?と威圧されれば、強行する事も出来ず扉の前で待つ事しか出来なかった。


 扉が閉まる一瞬、女と目が合った。いつものあの目だ。だがその中にほんの少しの感情が見えた気がして、自身の焦りを感じた。


 聖女が助けを求めていると確信したが、国に逆らえる訳もない。無力さを感じて拳を握れば指先の血が引いていた。


 暫くすると王太子の部屋の扉が開き、エスコートされながら聖女が出てきた。


―――いつもと同じ顔だ


 ほっと胸を撫で下ろし、定位置に着こうとした時、王太子が女の顎を掴み、口付けを落とした。


 アシュトンは瞬間的に剣に手が出そうになったが、王太子の騎士に止められ、抜刀はならなかった。

 こちらからは王太子の様子しか見えず、場所は分からなかったが、聞こえて来た卑猥な音に唇にしている事は確実だった。

 騎士に肩を押さえられながら、それを見せつけられていると薄く目を開けた王太子と目が合う。意地の悪い笑みに怒りで思考が閉ざされていく。


 自分はどんな顔をしていたのだろう。王太子の顔は更に歪み、その瞬間限界を超した女の、エミリアの体ががくんと膝から崩れた。

 王太子がそれを当然の様に抱え、見せつける様に頬を寄せる。

 チラリと見えたエミリアの上気した顔に頭が真っ白になった。


「エミリア!」


 騎士の拘束を解き、エミリアへ駆け寄る。

 顔を見れば、いつも何の乱れもない口元が僅かに光っていた。どの感情から来るのか、思わず息を呑んだ。


「お前は私の婚約者を呼び捨てにするのだな」


 エミリアを抱えたままの王太子が何かを言っている。だが、何も聞こえなかった。


「不愉快だ。護衛を辞めろ」


 ゆっくりと王太子を見れば優越感と軽蔑が混ざった様な醜い顔をしている。

 アシュトンは何かを言おうと口を開いたが声にならず、また何を言えばいいのかも分からず、顔を顰める事しか出来なかった。

 王太子の腕の中にいたエミリアと目が合う。その瞳は酷く怯えていた。だが直ぐにいつも通りとなり汚れたままの唇を開く。


「アシュトンは私が聖女である限り、私の護衛だ。辞めることは私が許さない」


 はっきりとそう言い、エミリアは王太子の胸を拒む様に押した。王太子は顔を歪め、アシュトンを見る。


「お前に懸想している男を側に置いたままに?俺を馬鹿にしているのか?」

「デュークは婚約者だろう。結婚の日取りも決まった。何を恐れる事がある? 2年後には常に隣にいるのに」

「だとしても、だ。あと2年もある。その間に何かあったらどうする」


 エミリアは誰の支えもなくその場に立つと、真っ直ぐと王太子を見やる。


「何かあったとしたら、それは私の責任だ。彼ではない」


 淡々と言い放つそれに周りの時間が止まったかの様に静まり返った。

 最初に口を開いたのは誰だったか、小さい笑い声が短く響く。その後、王太子は何を思ったのかそのまま部屋へ戻り、エミリアも教会へ戻った。




次回更新は明日。そして明日完結予定です。


良ければ「いいね」や評価、ブクマをしていただけると今後の励みになります。

宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ