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03.


 その後、聖女は王宮に呼ばれ、王命により王太子の婚約者となった。あれ程の力を見せられれば欲しがらない筈はない、と大神官は悔しそうに溢していた。


 分かりきっていた事だ。それでも現実になると頭を殴られた様な衝撃を受ける。何処か自分でも分からない内に希望を持っていたのだろうか。アシュトンは愚かな心を再度殺した。




 王太子には3年前から婚約者がいたのだが、それを白紙にしたらしい。相手は確か侯爵令嬢だったと記憶している。令嬢はきつい王妃教育を受けていたのだろう。今更白紙など、と抵抗をしたらしいが王命が覆る筈もなく、最後は項垂れながら受け入れたとの事だった。


 そして聖女はと言うと、いつも通り無表情でそれを受け入れた。その姿を見てアシュトンは女は傀儡なのだからしょうがない、心の中でそう唱えたが腹から黒いものが這い出てくる。


 一度消した感情がふとした拍子に湧き出て、何度も何度もアシュトンに問うのだ。


―――お前はそれで良いのか?、と


 それを何重にも鍵を掛けて胸に押し込め、必死に押さえつける。

 ただただ苦しいだけだった。



 婚約から暫く経つと、聖女は教会の仕事と王妃教育をさせられた。王妃の茶会にも呼ばれ、王太子とも時間を作り交流を持っていた。


 王妃はまあ良いとして、王太子は護衛騎士のアシュトンを敵対視してきた。聖女の後ろには必ず居る存在が目障りだったのだろう。なんと護衛騎士の交代を教会へ打診して来たのだ。

 

 しかしアシュトンは王太子の自分を見る目が、日に日に厳しくなっていた事に気付いていたので別に驚きはしなかった。

 何ともみっともない男だと思ったが、その正直さが羨ましいとも思える。だがアシュトンも素直に職務を外れるつもりはなかった。

 

 王太子は婚約者だ。これ以上何を望む?

 自分は何もない、ただ聖女の背後にいるだけの存在だ。それだけの存在。聖女の背景のような男。


 後々、契れる男がただの背景を何故そこまで気にするのか理解出来ない。もしかしたらアシュトンに対して何かを察したのか、とも思うがそれは無いだろう。


 聖女とは視線も合わせないのだ。察せる要素など何も無い。恐らくただ聖女の近くに男がいる事が気に食わないのだろうとアシュトンは思った。


 アシュトンは上層部が護衛騎士を女に変えた方が良いかと議論を始めた頃、聖女へこう問うた。

 

「護衛、辞めた方が良いか」


 普段、あまり話はしない。聖女は無口だ。何を考えているのかも分からない。


 しかし聖女へ直接そう聞いたのは聖女の口からはっきりと言葉を貰いたかったからかもしれない。それがどんな言葉であれ、彼女の心をアシュトンは聞きたかった。


 アシュトンの言葉に窓辺に腰掛けていた聖女は視線を動かす。ゆっくりとした動作は息を呑むほどに心を締め付ける。銀色の髪がサラリと耳から落ち、黒い感情の読めない瞳が瞬いた。


 聖女既定の服は白く、儚い印象を受ける。所々についている光るものはビジューか宝石か。しかしそんなものよりも風に揺れる聖女の髪の方がアシュトンには美しく感じた。


 聖女はアシュトンをその黒い瞳で見つめると、僅かに目元を歪めた。一瞬だけ歪められたその行為にアシュトンの心が騒めく。そしてやはり聞かなければ良かったと後悔をした。


 最初から期待はしていなかった。だが、いざ突き付けられたら自分はどうなるのだろう。必死に抑え込んできた想いは今思えば、抑え込んでいる()()()()()()だったのかもしれない。


 アシュトンは黒い瞳から逃げるように視線を逸らす。沈黙の時間に心が削れていく感じがした。

 

 聖女はアシュトンから視線を逸らされると、ゆっくりと自身の言葉を口にする。


「私は辞めてほしくは無い。私をまだ守ってくれるか」


 淡々と伝えられる聖女の感情に自分で聞いておきながら衝撃を受けた。アシュトンは視線を逸らした先で目を見開く。

 だが同時に彼女に必要とされた事実から胸が震える。湧き上がる感情をどう抑えようか。

 

 感情がないと思っていた。しかし、やはり聖女にも感情はあったのだ。いや、人間だからあるのは分かっていたが表現する事がないと思っていた。

 あまりの出来事に動揺と歓喜で脈が早くなる。それを悟られない様に表情筋に力を入れ、アシュトンは視線を聖女へと戻した。


「勿論だ」


 ぽっと出た声に聖女はほんの少し口角を上げる。

 抱き締めたかった。




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