【第四話】エロは世界を救うのです
「お初にお目にかかります。私はハルカ。この度は御主人様の使い魔として召喚に参上致しました」
「あらあらまあまあっ!」
帰宅後、母親に事情を説明したアドニス。その後に自ら挨拶をしたメイド兼使い魔のハルカであったが、母親はハルカを物珍しそうにあちらこちら観察するのだ。
「本当に人を召喚しちゃうなんて、お母さん驚いたわぁ」
「いえいえ奥様。あの性書によって、この私を呼び寄せたのです。流石としか言いようがございません」
「あらまぁっ♪あの本の良さを理解してくださるなんて、お母さんハルカちゃんと仲良くできそうっ♪」
「私もです。ああ、あの性書とは趣向が異なりますが――――――――これを」
そう言ってハルカが何処からともなく取り出したのは――――――――表紙が余りにもアダルティなものであった。人の母親に何セクハラ紛い、いやセクハラをしているのだろうか。
「何やってんだよ、おまえっ!?」
「これですか?私の世界にあるS○本ですよ。多種多様な攻め方が載っているので、奥様と旦那様との営みの為に、と」
「余計なことすんなっ!」
「――――――と、言うのは建前で。この本を没収して己のオカズに、ですか。ご安心ください。御主人様のモノもご用意しています」
と、再びハルカは何処からともなく取り出した何冊かの本をアドニスの前に置いたのであった。
「御主人様の性癖に当たりがあるかは分かりませんが、○M以外にも和○に、寝取られ、寝取り、教師、生徒、複数、人妻、年上、年下――――――などがございます。どれがお好きですか?」
「いらんわっ!?!?」
「我儘な御主人様ですね」
呆れた表情で溜息を付くハルカの反応にアドニスはそれこっちの反応だろうが、と吐き出したくなってしまう。ハルカは溜息付きながらもアドニスを小動物の様に頭を撫でたり抱き締めてしまう。ハルカの使用人服からなのか身体からなのかは分からないがほのかに心地良い香りに鼻をくすぐられる。自己主張が激しい臭い香水のものではない。いい匂いでも強過ぎて刺激も増してしまえば激臭と変わりないのだ。自然的ないい香りに包まれて若干癒やされてしまうアドにすであったが、顔を左右に振って抱き着いたハルカを引き剥がした。
「はなれ、ろっ!」
「あんっ!もぅ、続きは寝床でですか?」
「ちがうから、ちがうからっ!!!」
「あらまぁっ!アドニスちゃんはどちらかと言うと年上好きだからまんざらでもないとお母さんは思うわ」
「お母さん、やめて!?!?」
そんなこんなで夕食では、ハルカが御馳走を振る舞う事となった。元の世界の食材は無いものの、それに似た食材で活用し、ローストビーフ丼や豚汁にサラダなどを用意していた。しかも高価な食材ではなく、一般的に安く購入出来るものや家にあるもので代用したとのこと。
異世界の料理に舌を打つアドニスと母親であったが、彼女は少し不安そうな表情でハルカに訪ねた。
「ハルカちゃん、今更だけど元の世界は大丈夫なのかしら。ご家族の方も心配してるんじゃ………」
「!」
アドニスは母の言葉にハッと今更ながら気付いた。余りにもハルカ自身が使い魔になることを受け入れ過ぎた為に、その考えが直ぐに浮かばなかったのだ。何よりそんな事を考える隙さえ与えぬ程の下ネタやアドニスがツッコむしかない場面が多かったという原因もあるが。
「いえ、現在私………絶賛家出中なので問題ございません」
「問題大有りだよ!!!」
「冗談です。実は私、武者修行中だったのです」
「武者修行……?」
ハルカは語る。
「最高の使用人になるために武者修行をしてきました」
「へぇ…………修行って、どんな?」
「そうですね。各国を放浪しながら、使用人として住み込みの仕事をしました。食事のレパートリーを増やす為にも居酒屋や料亭なども働きましたし、洗濯も衣服の素材によって方法も異なります。身嗜みも気をつける為にネイルやメイクなども勉強して、更には肌の手入れも欠かさずしていますよ。ああ、勿論仕える主を守る為の護身術や陰陽術や暗殺術も心得てます。これでもまだまだメイドとして未熟ではありますが」
「聞いてる限り、十分凄そうだけど」
「一番大変だったのは、主を喜ばせる【房中術】ですね。知識としては得てはいますが、実技になると中々………………試してみますか、御主人様」
「あ、うん。お茶の間を凍らせる発言今すぐやめよっか」
アドニスは思わず、夕食中に濡れシーンがあるドラマを見てしまった時の様な微妙な雰囲気を恐れていた。特に気不味くなるのは親の方かと思われたが――――――――。
「あらそう?お母さん的には、ちゃんと性知識を高めてから実践してほしいわぁ」
「そうですよね。避妊とか性病とかもありますから」
「エッチだからとかそういう偏見で知ろうとしないのはいけないことよ、アドニスちゃん」
「え、ボク怒られるの?」
「そうですよ、御主人様。エロは世界を救うのです」
「うん絶対違うような気がする」
ちょっとした討論が行われた後、夕食の時間は終わりを迎える。疲れた表情をしたアドニスは入浴後に自室に戻るとハルカが用意されていたアロマを焚いていた。元々自室は綺麗な方だったが、更により綺麗にされていたのだ。
「………これ、変なモンじゃないよね?」
「そうですね。媚薬入りのアロマを焚こうと計画していましたが―――――それこそ、御主人様に嫌われてしまうかと考え改めてリラックス効果のあるものを用意しました。ご安心を。ぐっすり眠れますよ」
「なら………いいけど」
「明日も学校との事ですので、お早めにご就寝を」
「わかってる」
そうベッドの上で横になったアドニスは酷く疲れた様子で睡魔に襲われてしまう。眠気に誘われながらも、アドニスはハルカは何処で寝るのかと訪ねると「床で寝ますよ。御主人様の側に居ますので…………あ、オ○ニーされる際に関しては、私を空気として認識してください。私は私でその御主人様の○ナ○ーをオカズにしますのでご安心を」、と返答があり、何処が安心できるか!と叫びたいがそのまま無視して就寝するのであった。
「―――――――さて、外にいるお客様のご対応をしましょうか」
ハルカの右目の瞼が開かれる。
その月星の様に輝く金色の瞳は、闇夜を照らし見透かす千里眼の如く。
周囲から向けられる塵埃の殺気にも明確に察知し、これから行われる裁きが行われる。
「仕方がありません。お掃除をしましょうか」
今宵、死神が降臨する。
月の満ち欠けの如き、その鎌を持って、敵の命を刈り取るのであった。