【第二話】イケますか、御主人様
《召喚の儀》。
それは魔法使い・魔術師・陰陽師などの後方支援や後方攻撃をメインの戦いをする者達にとっては必要不可欠。要するに接近戦を《召喚の儀》で召喚した使い魔にやってもらうのだ。
ぶっちゃけ他人任せ感はある。
そして魔法が得意なボクもそれに該当する。と、いうより身体を動かすのは少し苦手だ。剣とかああいう重いの持てないので使い魔を呼ぶことにした。
と、言うのも高等部の入学式に《召喚の儀》を行う習わしがあったりする。勿論、必要ないと拒否する事も可能で、中には剣士などの接近戦の人も《召喚の儀》を行う者もいたりするのだ。
―――――――つまるところ、《召喚の儀》で召喚した使い魔と契約するとその使い魔の世話をしなければならない。無機質なゴーレムや太陽の光や水に土だけで良いドリアードなどの食料がほぼ必要ない使い魔なら良いが、ドラゴンや大狼などの大型な使い魔の場合は食料費が掛かってしまう。貴族や商人などの裕福であれば大抵の使い魔の世話は何とかなるだろうか。
けれど、ボクは考えた。
使い魔は、人がいいなーっと。
《召喚の儀》には媒体が必要だ。
例えば、ドラゴンを召喚したければドラゴンの牙や鱗に肉。妖精なら魔力を含んだ鉱物や液体。鳥であれば、鳥の羽根。
だが、ドラゴンを呼びたいが為に肉を用意しても召喚されるのはドラゴンだけではなく、肉食系モンスターが召喚される可能性もある。つまり、ガチャだ。
けれどボクは考えた。
確実に人を召喚するの媒体は何なのかを。
そもそも、何故人を召喚したいのかから始まるだろう。歴代の有名な使い魔の中には人も僅かに存在していた。
有名なのが黒髪黒目の人間だ。他の髪の色や肌の色の人もいたが、やはり黒髪黒目。その者達は己を「ニホンジン」と名乗っているそうだ。他にも「〜〜〜〜ジン」と名乗る者もいると過去の記録にも残っている。
ボク――――――【アドニス・ノース】は、その「ニホンジン」に非常に興味を持っていた。使い魔の人間に共通するのは、異世界から召喚された人間だ。彼等がかつて住んでいた世界はどのようなものなのか、非常に興味マシマシなのである。
「母さんから渡されたこの【禁書】は何だろ。この媒体なら人を召喚出来るかもって言ってたけど」
母さんは言った。「これなら人を召喚出来ると思うわ〜、多分☆」と。因みにこのぶ厚く厳重な黒き箱と鎖に封印されており、更には魔法で施されている。「中身は絶対に見ないようにねっ♪」と言うのであまり深くは考えていない。話を聞くに、どうやらコレは禁書とのこと。
「それでは次、【アドニス・ノース】。召喚の媒体を祭壇に置き、召喚陣の外へ」
「はい」
ボクは召喚陣の中央にある白き祭壇に【禁書】を置き、召喚の準備を行う。ただ準備と言っても、召喚陣の外から魔力を注ぐだけ―――――――とは言葉では簡単だけど、もう魔法は使えない程の量だ。正直しんどいったらありゃしない。
はてさて、魔力を注ぎ召喚陣は起動した。祭壇を中心に白き光が風の如く渦巻いていく。これは召喚されるモンスターが現れる現象であり、いつ見ても綺麗な――――――――。
『え?これ、ありきたりな召喚演出ですよね?あの、もっといい演出無いんですか。やる気出ませんよ』
「――――――ん?」
何処からともなく声が聴こえる。が、その声はどうやらボクにしか聴こえていないらしく周りはどんなモンスターが召喚されるのかと次に召喚を待つ者、既に召喚を終えた者、教師陣や他の生徒達が観ている。が、その声が聴こえた刹那、渦巻く白き光は黄金に輝き出したのだ。
「な、なんだあと光は!?」
「お、黄金だと!?そんな現象、前例が無いぞ!!!」
「い、いや待て。まだどんなモンスターが召喚されるかは判明していない。単なる偶然では」
「ほほぅ!召喚するのはエルフの子か。エルフの魔力はモンスターに好まれるが故に、強力なモンスターが現れるかもしれん」
黄金の光が渦巻く中、恐らくこの場の誰よりも混乱しているボクは冷や汗をかいていた。これ、何かヤバいのでは……?と。黄金の光を渦巻く中、注目されない訳が無いこの召喚の当事者であるボクはこれどうすればいいの、と悩ませている刹那―――――。
『ちょっと、目立ち過ぎません?流石の黄金な金ピカは趣味じゃないと言いますか。はい、却下です。そうですね…………あ、目立つより美しさを優先ですかね。汚いモノでも、これがあれば緩和出来そうな、そんな演出でお願いします。あ、注文が多い?頑張ってくださいよ、光の精霊様』
またまた声が聴こえてくる。しかし、声は聴こえるだけで何かは分からない。けれど、何となく…………ロクな事では無さそうな。
と、次は黄金から虹色の輝きで渦を巻き始めたのである。黄金の様な強い豪華さではなく、神秘的な神々しいその光は上位生命体が降臨するのではと錯覚してしまうほど。
『あっ!いいですよ、いいですよこれはっ!まさしく私が超絶な激レアキャラだとわかるでしょう。ああ、もう満足しました。いえ、イッちゃいましたねこれは。いい仕事しますねえ光の精霊様』
その虹の渦は天空まで届きそうなものであった。
中には神の降臨ではないかと騒動になるほどで、各宗教では我らの主の降臨だと事件となるのは言うまでもない。無論、外野も凄い反応になっている訳で。
「に、虹じゃとぉ!?」
「こ、これは…………」
「一体、何が召喚されるのじゃぁ」
「直ぐに臨戦態勢を取れ………ッ!必要であれば、あのエルフの学生をここで始末するッ!!!」
何やら不穏なワードに背筋を凍らせてしまうが、その時には虹の渦は収まりかけていた。いや、収まっているのではなく集約されている。召喚陣の中心、その祭壇に。
虹の渦が徐々に霧が晴れる様に消えていき―――――――そこに現れたのは。
メイドであった。
「めい、ど?」
確かに召喚は成功した。しかも人間だ。本来なら喜ぶべきなのだろうけど、まさかのメイド。或いは使用人の格好に思わず思考を停止してしまう。
そんな最中、そのメイドは目を閉じたままなのにも関わらずまるで見えているかの様にボクの元までやってきたのだ。
「貴方が私を召喚した、御主人様でしょうか」
「え、ぁっ、はい」
「そうですか。それでは―――――貴方の召喚に応じ、この世界へ参りました。貴方は私の御主人様です。何なりとご命令を」
そう膝を付き、頭を垂れる様は使用人の姿をした騎士そのもののようであった。
「――――それでは、挨拶の印と言いますか。御主人様の使用済みの服を頂戴できますしょうか」
「必要、なのか?」
「えぇ勿論。実は私、可愛い少年少女は大好物でして………勿論性的な意味ですよ?」
「は?」
「因みに私はこの服装通りの使用人です。武術や剣術などの心得はありますが、あまり戦闘は好きではありません。ですので、戦闘より使用人として御主人様の身の回りの生活を任せていただけますと幸いです。それと何時、御主人様の使用済みの服や下着は――――――」
「いや渡さないよ!?」
「それは仕方がありません。ですが、やはり貴方もエルフなのですね。実は私も――――――」
「!」
メイドはボクの様な黒髪蒼眼ではなく、金髪碧眼だ。しかも耳を隠す様な髪型をしていたが、それを自ら曝け出す。すると、メイドの耳は尖っていたのだ。それ即ち、このメイドがエルフだということ。更にはこのメイドはエルフの中でも非常に容姿が整っており、マイナスの要素は何一つないだろう。
「それにしても、私の召喚時に頂戴しましたコレ。誠に素晴らしいモノでした。御主人様がご用意されたのでしょうか」
「い、いや。母さんに―――――」
「おぉっ!奥様がご用意されたのですか。素晴らしい慧眼の持ち主なのですね。ああ、素晴らしい一品でした」
「……………その【禁書】の中身ってなんなんだ?」
メイドが心底興味深そうに、本来媒体として消え去った筈の【禁書】をペラペラと読んでいたのだ。元々、【禁書】中身には興味があった為、ダメ元で聞いてみたくなった。いや、そもそも目を閉じているのに読めているのだろうか。
「御主人様も気になりますか。お年頃ですもんね」
「…………いや、その中身は何だ」
「エロ本ですよ?」
「は?」
「正確には、SMプレイのモノですね。まさか異世界でもこの様な至高品が―――――いいえ、やはりエロは異世界共通ということでしょうか。素晴らしいですね」
「――――――待って、待って待って」
透かさずにボクはメイドの【禁書】を奪い取り中身を確認すると――――――やはり、アダルトな本であった。最初は母さんの間違いでは、思ったがよくよく考えてみれば念入りに「中身は絶対に見ないようにねっ♪」と念押しされていた事を考えると…………。
「何やってんの母さん。あと何でこんなものを……………」
「何故困惑されているか分かりませんが、御主人様。私は【ハルカ】と言います。お気軽に【ハルカ】、又は【肉便器】やら【この犬】などののし―――――いいえ、お呼びください」
「言いませんからね」
「それは残念です。時に御主人様、この状況どう致しましょうか」
「この状況……?」
メイド――――ハルカの指摘に改めて周りを確認すると、周りに取り囲まれていたのだ。この召喚の為に万が一の為に警備されていた騎士達。しかも全員が抜剣している。
「―――――へ?」
「敵意を向けられていますね。もしかして私、ヤバい奴と思われてませんか?せっかくこの世界の光の精霊様方に無理言って過度な演出をしていただいたのに」
「その過度な演出が原因じゃないかな!?」
「何をおっしゃいますか。確定演出ですよ、確定演出。あんな芸術に満ちた演出であれば、召喚者の方々もテンション上がるものでしょう」
「知らんから」
即答した為か、ハルカは少し落ち込んだ様子。
しかし、直に気を取り直したハルカは騎士達に尋ねるのだ。
「皆様はあれですか、こぞって私を輪○する気ですか?これは驚きました。でも定番ですよね。女を妬み物にするのは騎士の特権ですし」
「「「誰がするかっ!!!騎士をなめるなっ!!!」」」
「―――――ま、まさか、私だけではなく御主人様を!?イケますか、御主人様」
「「「「やらんわっ!!!」」」」
ボクと騎士達の気持ちは一つになった。
このメイド、ヤベェと。
さっきから下ネタを息をするかの様に吐き出すのだ。そして騎士達の中には「あ、あれ、俺達ってそんな風に思われてる?」、「そんな風に思われねぇようにもっとしっかりしなきゃ……」、「ンなことすりゃ、お天道様に顔向け出来ねぇし」等などショックを受ける者や自ら律する者などがそれぞれ呟く。
「えぇ……意外とマトモな騎士の方々ですね。これは大変失礼しました…………ハァ。Sではないということなので―――――――――さっさと働きなさい、このぶt――――――」
「はいはいもう黙って!本当に黙って!御主人様の言うことは聞けないのかなっ!?」
「承りました御主人様。次回からは罵声も含んでいただけると―――――」
「いやほんと。これ以上メチャクチャにしないでくれるかな?」
兎も角、敵意を向けていた騎士達は剣を納めた。というより、変態メイドに何名かは引いており、残りは明らかに害はない(明らかに子供には害がある)の分かったのだろう。そして僅かに変態ではあるものの、美人メイドが下ネタを言うさまに興奮を覚えた者もいたりした。その中には女騎士もいたとか。
「アドニス・ノース。この後、その使い魔を連れて学長室に来なさい」
「はい…………」
高等部、入学式早々に使い魔が起こした問題に頭を悩ますしかなかった。