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わたくしの大嫌いなお姉様

作者: 夏目登

泣ける話を書きたかったのですが、無理だったかも。

  ~ 8月3日 ディグレランド侯爵家 ~


レオナの5つ上のお姉様は身内の贔屓目に見てもたいそう性格が悪い。


高飛車で意地悪で嫉妬深くて欲張り。イヤミくさいしすぐ怒ってレオナを叩くし本当に本当に大嫌い。


お茶会に行って喧嘩してドレスをボロボロにして帰ってきたりするし、


この間なんて、あんまりにも態度が悪いものだからとうとう婚約破棄なんてされて、癇癪をおこしてお父様の大切なカツラを毟り取って火魔法で燃やして笑っていたのよ。



お母さまが大事にしているお庭のローズガーデンの薔薇を、庭師のトム爺が止めるのも聞かないで勝手に全部むしって捨てた時には腹が立った。とても綺麗な薔薇だったのに!

それにその時突き飛ばされて転んだせいでトム爺は体を悪くして辞めてしまった。


馬車で出掛けたのに、雨の中をびしょ濡れで1人で歩いて帰ってきた時はさすがに淑女としてどうかと思ったし。


レオナと違って友達もいないし、いつも一人ぼっち。


みんなお姉様を嫌っているわ。




そんな姉が少し変なのだ。


ボーっとしていることが増えた。


泣きそうな目をして窓から外を見ていたり、なんか悩まし気な溜息?をついていたりする。


メイドが失敗しても怒って叩いたりしない。


ドレスももうずいぶん作ってないし、宝石も買わない。


なにがあったのかしらね......


実はわたし、お姉様が5歳の頃から日記をつけているのを知っているのよね。


お姉様がどこかに出掛けている隙にお部屋に入るわ。

わたくしの侍女のハンナにお姉様が帰ってこないか見張りをするよう頼んだから安心だわ。


鍵のかかる机の引き出しの中に隠してある日記を読むことにする。


もう1人のわたくしの侍女のポーラがビックリしてるけれど、鍵開けは婚約者のジョシュに教えてもらって得意なのよ。


どれどれ



ペラペラ


あら。日記の中に手でグチャッと握った様なシワだらけのページがあるわ。


7月4日ということは大体1月前ね。


読んでみますわ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【7月4日】

 お茶会。

 ベッキー様が小間使いを使って

 メグ様の紅茶に大きな毛虫を入れさせた。


 頭にきてお腹を殴ってやった。


 前にベッキー様にやられて息が止まった技よ。


 凄く苦しいのよ。


 それなのにベッキー様のコルセットが

 硬すぎて手が痛かっただけで、

 ダメージを与えられなかったわ。


 やり返されて頬にビンタされて

 髪の引っ張りあいになった。


 あの毛虫。

 ハグレニジイロスグカザアゲハの

 幼虫だったのよ。


 死んでしまったわ。

 許せない。

 次は必ず勝つわ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



......何かしらこれ。

意味がわからない。メグ様を助けたわけじゃないの? ハグレ? ニジイロ? なんなのかしら。


それに、ニジなんとかが死んだことを怒って日記のページをぐちゃぐちゃにしたの?



でも、ベッキー様はわたくしもよくご一緒するけど、上品で素敵な方よ。

こんな事するわけないじゃないの。

お姉様ったら妄想が酷いわね。誰かに相談するべきかしら......



ペラッ


あら、次のページは2週間後だわ。

毎日書いてる訳じゃないのね。ずぼらなお姉様らしいわね。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【7月18日】 

 セティに婚約破棄された。


 あの家の家族全員が水虫な事を

 私が言いふらしたかららしい。


 名誉棄損の損害賠償とか騒いでいたけど

 知ったことではないわ。


 第一私はそんなこと言いふらしてないし

 水虫の事も初耳よ。


 でも水虫くらいで

 侵害されるような名誉なんてクソね。


 ほんとうに小さい男だわ。


 破棄されて清々する。バーカ!バーカ!



【7月19日】 

 お父様がセティとの

 婚約破棄の事でピーピー騒ぐ。


 唾は飛んでくるし凄くうるさかった。


 それにお父様の鼻から鼻毛が沢山でていた。


 こんなに鼻毛を出している人に

 怒られるとかないわぁと

 腹が立ったので、

 カツラを奪って燃やしてやった。


 お父様は禿頭に鼻毛でも

 くっ付けてればいいのよ。

 余ってるみたいだしね。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




......何これ。


バーカ!バーカ! とか言ってる場合じゃないわよ。

水虫だって言いふらしてないのなら冤罪を晴らすべきでしょう?

無茶苦茶だわ。誰かに嵌められてるじゃないの!


それにお父様のお鼻から毛が沢山出ているのは昔からよ。今頃気付いたの? 

たしかに見ると笑っちゃうけど、そこはチャームポイントなのよ。可愛いわ。

失礼なお姉様ね。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【7月24日】  

 またあの夢をみて目が覚めたら泣いていた。


 パーティでセティがマリアンヌに

 一目惚れしたあの日の夢。


 もう3か月もたつのにバカみたい。


 未練がましい私、死んでしまえ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




はぁっ?! こ、こ、これは! どっ、どういうことかしら?!


セティ様って、この間婚約破棄したお姉様の元婚約者の?!

ちょっと待って! ど、動悸が止まらないわよ!


急いで3か月前の日記を読まないと!


ペラペラ ペラペラ


3か月前。3か月前っと。


あったわ。きっとこれね。


あら、これ、従妹のマリアンヌが留学から帰ってきた時の内輪のお祝いパーティじゃない。

わたくしも出ていたわ......


ん? マリアンヌ? 従妹のマリアンヌ? セティ様が一目惚れ? 嘘でしょう?!


たしかあの日、お姉様はセティ様を置いて勝手に帰ってしまって、更に朝帰りして無茶苦茶怒られてたわね......


貞操を失うようなことをしたんじゃないかって疑われてお医者様を呼ばれて......潔白だったけど......


お母様が、朝帰りなんて恥知らず! 汚らわしい! って激怒して。

修道院に送るとか勘当するとか言い出して大変だったわね。


お母さまはあれ以来お姉様を無視しているわ。でもお母様は高潔な淑女ですもの。許せないのも仕方がないわね。

それに、たとえ純潔を守っていたからといって、朝帰りなんてやっぱりふしだらよ。


でもあれってあの後どうなったのだったかしら。


覚えていないわ。


あんなに大騒ぎだったのに......お母様が急に何も言わなくなって......


はっ!


そんなことより、日記よ日記!




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【4月20日】 

 マリアンヌの留学お帰りパーティ。

       

 生まれてはじめて、

 人が恋をする瞬間を見た。


 それが、自分の婚約者でなかったら

 どんなにロマンチックに思えたろう。


 ずっと好きだった人が、

 他の女を見た瞬間、恋に堕ちた。


 マリアンヌを見た瞬間、

 彼は本当に雷に打たれたように震えた。


 私は彼の隣で、ただそれを見ていた。


 自分が犬の糞になったみたいな気分だった。

 

 息が出来なくて、

 部屋を飛び出してしまったけれど、


 セティは追ってこなかった。


 外で転んで。親切な人に助けてもらったけど

 泣いてしまってて殆ど覚えていない。


 家に帰ったら、愚母が絡んできた。

 ふしだらなのはお前だ! 

 お前の秘密を私は知ってんぞ!


 傷付いた娘をいたわれ! 親だろが!

 慰めろ! 優しくしろ!

 ばらすぞ!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




なんだか眩暈がするわ。頭痛も......ダメだわ。落ち着かなくては。深呼吸よ。


すぅー。はぁー。すぅー。はぁー。


ダメだわ。ドキドキしてしまって倒れそう。


でも続きが読みたいわ......





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【4月26日】 

 愚母がしつこい。


 修道院とか勘当とかのぞむところだ!

 

 でも、キンキン声がうるさくて、

 温厚な私も、

 いい加減に我慢の限界で、


 トム爺と浮気してる事をバラされたく

 ないなら黙れ! と言ってやったら

 大人しくなった。


 やーいやーいクソババア!

 バーカ! バァァァーーカ!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



      

何なの......

お母様とトム爺のこともだけど、お姉様......言葉が出ないわ......


あ。そういえばわたくしも子供の頃にお母様の大事な薔薇園のガゼボで裸のお母様とトム爺を見つけたことがあったわね......


あの時は、服の中に蜂が入っちゃった。とかいうのを素直に信じてお母様とトム爺が刺されていないかを普通に心配していたけれど。

あれは逢引きだったのだわ。


なんてことなの。これは大変だわ。


お父様はきっとご存じないわ。お母様をとても愛していらっしゃるもの。



ペラッ




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【4月28日】 

 トム爺がすごい睨んでくる。


 愚母からバレてることを

 聞いたに違いない。


 色ボケジジイめ!


 クソ生意気な妹のレオナを

 舐めるように見ている事を

 私は知ってんだぞ!


 あああああ。ぶん殴りたい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




鳥肌が立ってしまった......本当だろうか。トム爺が? わたくしを? 噓でしょ? 信じられないわ......


でも......ちょっと思い出したことがあるのよね。

小さい頃、わたくしが薔薇の棘を指に刺してしまうと、トム爺はいつも「可愛い妖精さん」って言ってわたしの指を舐めていたわ。

薔薇には危険な毒があるけれど、免疫があるトム爺が消毒すれば大丈夫って。


大きくなってからは薔薇で指を怪我することもなくなって......忘れていたわ......


毒なんて嘘だわ......

嫌だ。わたくしなんてことを。


気持ち悪い。


吐きそうだわ。



ペラッ




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【4月30日】

 0のつく日はセティと約束の日。

      

 外せない用事があるとかで

 キャンセルされた。


 0のつく日は何があっても

 私の日だって言ってたのに。


 長い付き合いだから、

 用事が嘘だとなんとなくわかる。

    

 気分が悪い。

      

 足元の地面が無いみたい。



【5月10日】 

 0のつく日。セティと約束の日。


 今日は花祭り。


 毎年セティと行っていたから


 いつもの場所でセティを待っていた。


 来なかった。


 どうしたらいいのかわからなくて、

 ずっと待っていた。


 知らない男の人に「綺麗なお嬢さんへ」と、

 花冠を差し出された。


 外国訛りの異国の人。

 花冠は愛の告白なのをきっと

 知らなかったんだろう。


 毎年セティに貰ってて、

 セティの花冠以外いらないから

 断った。

     

 日が暮れてきて家に帰った。

 セティは来なかった。

      

 どうしたらいいんだろう。



【5月16日】 

 メグ様のお茶会でマリアンヌに会う。


 セティはこの人に一目惚れしたんだなと、

 ぼぉっと見ていたら、

 涙が出てきて、恥ずかしくて。

 涙を隠したくてやらかしてしまった。


 これがお父様にバレたら本気で勘当される

 かもしれない。

 バレないことを祈るのみ。

 まぁ大丈夫な気はするけど。

 

 そんなことより、

 マリアンヌがセティの事を聞きたがって

 イラついた。


 でもそうだよね。

 二人とも一目で惹かれ合ってたものね。


 運命かもね。


 真実の愛ってやつ。


 なので、嘘を教えてやった。

 水虫で失禁癖があって入れ歯なのよって。

 皆ドン引きしていた。

 ざまぁみろ! 天誅!!

     

 気付いたらゲストの一人に

 送ってもらうことになったんだけど、

 帰りの馬車でその人に、

 会うのは3回目だと言われた。


 セティとマリアンヌが出会った日。


 あの家を飛び出して転んだ私を拾って

 世話してくれた人だった。


 それと花祭りで花冠をくれた人だった。


 嘘でしょう? 同じ人だったなんて......

 すごい偶然。

 しかも最悪な場面ばかりみられている。

      

 全然顔を覚えていなかったけど、

 覚えているふりをした。

      

 私は人に弱い所を見られるのが嫌いなのだ。

 しょうがない。  

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





待って! 待って待って! お茶会でセティ様が水虫って言ってるじゃないのお姉様!!


きっと適当に言った事とか全然覚えてないんだわ......


それに、メグ様のお茶会で何をやらかしたの?

書いていないからわからないわよ。


でもとても嫌な予感がするわね。


メグ様かマリアンヌに聞いてみようかしら。


ああ、でも知るのが物凄く怖いわ。震えそうよ。


受け止めきれるかしら。もう、知らないふりをする方がいいかしら......困ったわ......


ふぅ。あら、ありがとうポーラ。お茶を入れてくれたのね。ちょうど飲みたかったのよ。


こくん。


はぁー。生き返るようよ。美味しいわ。


ああ。なんだか、滅茶苦茶すぎてお姉様が花祭りで悲しい思いをしたことを忘れそうになってしまったわね......


花祭りの日記を読んで、切なくて可哀そうで思わず泣きそうになったけど、


その次のお茶会のやらかしで色々ぶっ飛んでしまったわ。


あら?


いやね。


言葉遣いが......お姉様のが移ったかしら。いやだわ。気を付けないと......



ペラッ



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【5月20日】 

 0の付く日。

      

 今日はセティが迎えに来てくれて、

 街に出かけた。


 来てくれたのが嬉しかった。


 またもとの私達に戻れると、

 私のことが本当は好きで、

 その気持ちに気付いて、戻ってきたのだと

 勘違いしてしまった。


 花祭りは、私に花冠を渡せないから

 来なかったんだって。


 わかってほしいって。

 初めて恋をしたって。 

 苦しいけど幸せで、

 マリアンヌは自分の命だって。


 なんて残酷な人だろう。


 頭にきて滅茶苦茶に罵倒してやった。

 何言ったか記憶がないけど。

      

 セティが傷付いた顔してたけど、

 止まらなかった。止められなかった。

 もっと傷付けって思った。

 ボロボロにしてやりたいと思った。


 でも傷付いた顔を見たら、

 泣きそうになってしまって走って逃げた。


 セティは追いかけてくれなかった。


 きっと探してくれるって

 いつも待ち合わせする所で待ってたら、


 またあいつに会った。

 あの異国人。

 セティじゃなくて腹が立って、

 なんなの? 後付けてんの?

 変態マン! って罵倒してしまった。


 「君はいつも泣いてるなぁ」って笑われて、

 バカにされたってカッとして

 両手びんたして走って逃げた。


 セティに会いたい。

 謝ったら許してくれるかな。


 傷付けてしまった。

 胸が痛い。

 大切にしていた私の唯一。


 酷いこと言ってごめんなさい。


 許してくれなかったらどうしよう。


 心が無くなってしまえばいいのに。


 会いたい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




なんだか、突っ込みどころ満載ね。


お姉様......何やってんの? バカなの? まぁ、わかってはいたけど......


すごく可哀想なのに、頭に来るってなんなのかしら。


と、いうか、その異国の方、どういう方なのかしら。


ビンタなんてして......身分のある方ではないことを祈るしかないわ。



ペラッ




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【5月22日】 

 庭を散歩していたらトム爺に会った。

 

 うちの愚母を手玉に取って大金貢がせて、

 その金で街に家買って若い女を住まわせてる。


 なんかイラついていたので、

 「マリィさんのお腹ずいぶん大きくなったわね。

 いつ産まれるの?」って言ったら、

 真っ青になって変な奇声をあげてどっか行った。


 頭おかしいんじゃないのあれ?


【5月24日】

 トム爺が辞めたらしいわ。


 そのまま野垂れ死ねばいいのに。


 なんだか、私に突き飛ばされて怪我して、

 仕事が出来ない体になったそうだ。


 あんなトム爺なんかに指一本ふれてないわよ。

 気持ち悪い。


 それに薔薇をむしったとか、

 そんな事する小さい女じゃないわよ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




お姉様が自分に冤罪かけられてるのに全く気にしてない事にビックリよ...


ずっとわたくし、お姉様の事を高慢ちきで意地悪だと思ってたけど......なんだか思ってたのと違うわね。


トム爺、腹が立つわ。


貴族はなめられたらやっていけない商売よ。トム爺のことはこのままにはできないわね......



ペラッ




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【6月5日】

 セティから夜会のドレスが届く。

 嬉しい。


【6月8日】

 セティのエスコートで夜会へいった。

 とても楽しみにしていたのだけど、

 上手く喋れなかった。

 

 セティとのダンスが嬉しくて、

 幸せだったけど、セティはよそ見してた。

 

 セティはマリアンヌを見ていたから、


 思いっきり足を踏んでやった。


 ダンスが終わって、マリアンヌが近づいてきた。

 恋をしていると、一目でわかる。

 瞳は潤んで、頬は上気し、綺麗だった。

 怖くなって、来ないでほしくて、

 ワインをかけた。

 

 セティが慌てて控室に連れて行った。

 

 セティのあの目。

 私を見たあの目。


 もう、この人の心は私に、

 戻らないのだろうと、わかった。


 大声で泣きわめいてしまいそうだったけれど、

 私は淑女だから、嗤ってみせたわ。


 少し離れた所に、大勢の人間に囲まれて、

 あいつがいた。

 あの異国人。

 ニヤニヤ笑って楽しそうに私を見てた。


 気に入らない。

 なにもかもが。


 パーティは一人で帰った。


【6月10日】 

 0の付く日。

 セティからキャンセルの使いが来た。


 今日は雨だものね。


【6月11日】

 雨。雨。雨。


【6月12日】

 また雨でむしゃくしゃして。


 本屋に行こうと思い街へでた。


 雨で馭者が濡れていて、

 なんとなく馬車を先に帰した。


 本屋で買いたかった本を先に取った奴がいて、

 見たらまたあいつだった!

 異国野郎!


 本を譲ってくれて、


 こんなに何度も会うなんてあるんだねって、

 嬉しそうに笑ってた。

 

 あんたなんかに会いたくない! って言って、

 本を持ったまま代金を払わず逃げた。


 雨の中を走って、濡れて、本も濡れて、

 

 そのまま立っていたら、


 追いかけてきて、着ていた自分の上着を掛けてきた。

 セティを思い出して、

 上着と本を叩きつけてまた逃げた。


 濡れて帰ったら怒られた。


 雨に濡れるのも、風呂に入るのも一緒よね。

 細かい事にうるさくて困る。

 暇でいいわね。


 

【6月20日】 

 0の付く日。セティが家に来る日。

 

 いつもは必ず私の好きそうな

 お菓子を持ってくるのに、

 何もなかった。

 

 手紙に返事をくれないことを責めたら、

 セティは帰ってしまった。


【6月23日】 

 セティと夜会に行く予定だったけれど、

 キャンセルされた。


 一人でも平気だわって思って

 一人で行ったら、あいつがいた。

 無視した。


 酔った男の人たちに絡まれて、

 部屋に連れ込まれそうになって、

 またあいつに助けられた。


 あいつに送ってもらって帰った。


【6月30日】

 0の付く日。セティの家に行く日。


 今はちょっと喧嘩してしまってるけど、

 やっぱり会いたくて、

 今日は謝ろうと思って、


 勇気をだしてセティの家に行ったら、


 いなかった。


 セティのお母様も態度がおかしかった。


 家に入れてもらえなくて帰ってきた。


 なんだかもう、


 心が空っぽになったみたい。


 疲れてしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ふぅ。やっと最初に読んだ7月4日のベッキー様のお茶会でニジ何とかが死んだ箇所まできたわ。


確認のためもう一度読むわよ。



ペラッ




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【7月4日】

 お茶会。

 ベッキー様が小間使いを使って

 メグ様の紅茶に大きな毛虫を入れさせた。


 頭にきてお腹を殴ってやった。


 前にベッキー様にやられて息が止まった技よ。


 凄く苦しいのよ。


 それなのにベッキー様のコルセットが

 硬すぎて手が痛かっただけで、

 ダメージを与えられなかったわ。


 やり返されて頬にビンタされて

 髪の引っ張りあいになった。


 あの毛虫。

 ハグレニジイロスグカザアゲハの

 幼虫だったのよ。


 死んでしまったわ。

 許せない。

 次は必ず勝つわ。



【7月18日】 

 セティに婚約破棄された。


 あの家の家族全員が水虫な事を

 私が言いふらしたかららしい。


 名誉棄損の損害賠償とか騒いでいたけど

 知ったことではないわ。


 第一私はそんなこと言いふらしてないし

 水虫の事も初耳よ。


 でも水虫くらいで

 侵害されるような名誉なんてクソね。


 ほんとうに小さい男だわ。


 破棄されて清々する。バーカ!バーカ!



【7月19日】 

 お父様がセティとの

 婚約破棄の事でピーピー騒ぐ。


 唾は飛んでくるし凄くうるさかった。


 それにお父様の鼻から鼻毛が沢山でていた。


 こんなに鼻毛を出している人に

 怒られるとかないわぁと

 腹が立ったので、

 カツラを奪って燃やしてやった。


 お父様は禿頭に鼻毛でも

 くっ付けてればいいのよ。

 余ってるみたいだしね。



【7月24日】  

 またあの夢をみて目が覚めたら泣いていた。


 パーティでセティがマリアンヌに

 一目惚れしたあの日の夢。


 もう3か月もたつのにバカみたい。


 未練がましい私、死んでしまえ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





たった3か月間のことなのに盛り沢山ね......


でも。なんだか......嫌だわ。


お姉様がこんな悲しい思いするなんて......


セティ様。ずっと、本当のお兄様のように思って大好きだったけれど、

見損なったわ。


虫唾がはしるとはこのことよ。




さて、ここまできたら続きを読むわよ。



ペラッ




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【7月25日】

 あいつから手紙が届いた。


 遊びに行こうだって。

 バカじゃないの。

 お断りよ。


【7月26日】

 あいつから手紙。

 美術館へ行きませんかだって。


 毎日誘うとかバカなの? って思ったら、

 仕事で急遽帰国しなきゃならなくなって、

 今月一杯でこの国を出るのでって書いてた。


 ますます行かないわよ。


 意味ないじゃない。

 遊ばれて泣かされるなんて沢山だわ。


【7月28日】

 あいつからお菓子が届いた。


 今日は誘いは無し。


 なんとなくムッとするわね。


【7月29日】 

 あいつからお菓子と手紙。

 

 会いたいけど出国準備で抜けられないって。


 ふぅん。


 明日、出国だものね。

 

 明日は0の付く日だから予定がないし、


 見送りくらい行ってあげようかしら。


 色々助けてもらったし。


 暇だから。


【7月30日】

 見送りに港へ行った。


 私を見つけてびっくりしすぎ。

 笑ってしまった。


 またすぐ会いに来るって。

 手紙も毎日出すって。

 美味しいお菓子も送るって。

 それか付いて来ちゃう?だって。

 

 嬉しそうにはしゃいじゃって、バカみたい。


 何勘違いして喜んでるのよ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



まぁぁぁーーー!! 大変だわ! ロ、ロマンスね!


いきなり過ぎて心が付いていけないわよ!!


この後半部の怒濤の展開! あわわわわ!


あ、うかつにも取り乱してしまったわ......胸がドキドキしてるわ。


平常心よレオナ、平常心、平常心。


ふぅー。すーはー。すーはー。


さて、と。......困ったわね。どうしようかしら。


応援したい気持ちで一杯なのだけど。


日記読んだのがバレたら激怒して確実に殺そうとしてくるわね。

そういう人なのよねお姉様は。


でも、手をかさないと遠距離恋愛なんて上級者向けのロマンス絶対失敗するわ。


お姉様ってちょっとポンコツが過ぎるみたいだから。


取りあえず日記を戻してっと。部屋にいた痕跡も消さないと......




よし。いいわね。


さあ、行くわよポーラ。忘れ物はないわね? はやく出ましょう。



ガチャ パタン



**********



あの日から3年たって、今日はお姉様の結婚式。


あの後いろいろあった。


お姉様を幸せにする作戦を頑張って考えてはみたけれど、どう考えても12歳の子供一人でどうにか出来るものではなくて、


それで結局お父様にあの日記をみせた。


私が日記を読んだことを、お姉様に内緒にすると魔法契約で誓ってもらってからね。


お姉様にさえバレなきゃいいと思ったのよね。

私の命がかかってたから。必死に頼んだわ。


でもお父様、あれを読んだ後とっても怖かった。

鬼のようとはあのようなことを言うのだと学んだわね。


それでお母様が家から居なくなっちゃって。まあ領地にいるらしいけど、もう会うこともないしどうでもいいわ。



これもどうでもいい話だけどセティ様はあの後、辺境の騎士団に配属されてたわ。あの人ももう王都に帰ることもないでしょう。

まだ独身みたいだけど。マリアンヌには元から婚約者がいたし。バカな男。


二人は刹那の恋のつもりだったのかは知らないけど。ほんと何考えてたのかしら。

マリアンヌもうちのお母様みたいな末路になったりしてね。

まぁ、きっとお父様が何か仕込んでると思うし。

どっちにしろ貴族としてはもう終わってるわ。



話を戻すわ。

それであの後、異国の彼から本当に毎日手紙が届いたの。異国のお菓子やお茶も!

お姉様は、面倒くさいとか、しつこいとか文句を言いながらせっせと毎日返事を出してて笑っちゃった。


太るし飽きたとか言いながらお菓子もちゃんと全部食べて。

誰にも分けないで独り占めするから本当に太ってたわ。

一生懸命運動がんばって痩せたけど。凄かったな。お腹。


それであの半年後、彼はお姉様に会いに来た。


仕事が忙しくてすぐ戻らなきゃならなかったけど。


その後も長めの休みを取れるたびに会いに来た。


お姉様の事が大好きで、本当に蕩けるような目でいつも見つめていて。

どこがいいのか私には謎だけど。まあポンコツで面白いのはわかるけど。


2年くらいたって、お姉様が書置きを残して勝手に会いに行っちゃって。大騒ぎになった。

淑女が一人で船旅とかありえないでしょ。

男装してたのよ! お父様の服を着て行っちゃうのだもの。頭おかしいわ。


その後も戻ってこないし。


困ったお姉様。


お姉様が居ないと家が静かで、寂しかった。今も慣れなくて恋しいわ。


でも結婚式に出席するためにこの国に来たけれど、いい所ね。とても美しい国。


お姉様がお友達に囲まれて笑ってるなんて、初めて見た。


お友達出来たのね......


ウエディングドレスのお姉様とても綺麗。


凄く幸せそう。


泣かないって決めていたのに、隣のお父様が凄い号泣するからつられてしまう。


おめでとう。


私の大好きなお姉様。




誤字報告ありがとうございます。

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[良い点] すごく面白かったです! [一言] 読み終わってからまた読み返したんですけど、序盤の紅茶に毛虫入れて腹パンのくだりが気になって気になって……(良い意味) 友人視点(友人いないんでしたっけ?妹…
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