床とは一生抱擁したくないんですけど‼
最近職場の同僚に勧められてハマった乙女ゲーム、元々好きだった事もあり気が付いたら朝日が目に染みる時間までやっていた…そう、会社があるのにだ。
ご飯を食べる時間を短縮するために片手で食べられるゼリーを引っ掴み、最低限の身だしなみを整えた瞬間
頭の中に昔から母が言っていた「仮にも女子がそんな恰好で恥ずかしい」という言葉が聞こえた気がしたがハイハイ…と返事をして外に出た。
今朝までやっていたゲームはやっとシスコンと名高い先輩を攻略したところで終わったからとりあえず貸してくれた同僚に報告して、新しいキャラを攻略しなきゃとか思いながら歩いていたが…
寝不足で世界から意識が旅立っている私は気が付かない。
青信号が点滅したことということは車は結構なスピードで通るということを。
偶々その車が横を見たタイミングで偶々私が横断歩道を渡り。
偶々私が空想の世界に浸って居たタイミングで周りの人が叫んでいるのに全く気が付かなかったこと。
…意識が無くなる寸前に思ったのは、モフモフに埋もれて居たかった…だった。
という前世の記憶をひっくり返って床に頭をぶつけた瞬間に思い出した。
アナスタシア・フォン・スフィア…五歳なりたて。
筆頭守護家の一人娘として今日まで蝶よ花よと可愛がられてきた結果。
我儘で、意地悪お嬢様に育ちかけていた。大事なのは育ちかけということだ。
本日私は父に呼ばれておめかしを…と言ってもお気に入りの服を着てだが書斎に向かっていた。
今日の話はなんだろう、王子様と会える日が決まったのかしら?とか。
この間私のリボンを無くした使用人をクビになさるのかしら?とか。
私にも従者をくれるのだろうか?とか。今思えば頭が痛くなることを考えていた我儘娘は
新しく迎えたと紹介された兄を前に盛大に地面と抱擁を交わし、驚きながらも助け起こしてくれた少年がまさか…
「え、お…お兄様?」すごく見覚えがある顔で…というより最後に見た人物の美人顔が近距離にあって頭のキャパは勝手に超えた。