第六話 湯煙の出会いはゴリマッチョだった
今回は微妙に長いです。
俺こと吉田英斗は絵面が強い神様にチート能力特典を添付され異世界転生させられ、チートアイテムが変身した美少女ことイフと共に始まりの街となる王都ビスタリアに到着し、そこでギルドに加入、初日で3000ルーカスを稼ぎ、宿に泊まることに成功したのだった、まる。
「ご主人様、お背中がとても広いですね」
イフの可愛らしい声が俺の背中越しに聞こえる。
今、俺とイフは宿屋の混浴の浴場にいた。
ありがたいことに、浴場にはパッと見た感じで、人影が見られないため、俺とイフだけに二人きりの状態になっている。
だが、だがしかしだ。
いくら魔剣が元の姿だとしても美少女が今、俺の背中を全裸で流すとかいう特殊浴場と間違われかねない状況。
理性と本能がせめぎ合っているその最中、勢いよく浴場の出入り口が開かれた。
そして、浴場に入って来たのは筋肉ゴリゴリマッチョマンだった。
鋼の肉体は男臭さをいかんなく発揮し、俺のせめぎ合っていたものは理性が大勝利を果たした。
「あのお方の筋肉、すごいですね、ご主人様」
イフもその男性に視線を向けていたらしく、そう呟くと男性はこちらに気付いたらしく、視線を俺たちに向け、
「お、君ら、お取込み中だったか!?」
「違いますけどぉ!?」
とんでもない勘違いに俺はすかさずツッコミを入れた。
さすがに背中流してもらってるだけでそれはヤバいいだろう。
それにイフの見た目からしてヤバいだろう。
何がやばいって、それはもう…ねぇ?
さておき、筋肉モリモリマッチョマンのおっさんは豪快な笑顔を浮かべ、
「ははは、冗談だ!どうやら、君らはここらで見かけない顔だが、旅人か冒険者の方々かな?」
素朴な疑問を投げかけた。
「はい、一応、この町のギルドに冒険者として登録しました」
それに俺は普通に問い掛けると、
「そうか、私はこのビスタリア王国、国王直属騎士団団長アルフレッド・バーズだ。バーズと呼んでくれていいぞ。では冒険者の君、名前を聞かせてくれるかな?」
よくわからないけどすごい役職にいるのはよくわかる自己紹介に、俺も普通の自己紹介を返すことにした。
「俺は吉田英斗、エイトって呼んでください。で、俺の背中を流してるのは仲間のイフです」
ついでにイフの紹介も付け加え、筋肉モリモリマッチョマンもとい、バーズさんは腕組みをし、頷いたのちに、
「うむ、覚えた。…だが、エイト、何か、君は私と似たようなものを感じるな?」
どこか疑問だけを浮かべた表情を見せ、俺をじろじろと見て、またバーズさんは一言。
「まぁ、いいか」
どうやらすべて、投げ出したらしい。
そして、何もかも面倒になったのか、バーズさんは俺の隣の椅子に座ると体を洗い始めた。
それにしても肩幅広いなぁ…。
恐らく、一般的な日本人の肩幅の1.5倍はある。
そして、さっきは気付かなかったが、全身の古傷の数々。
歴戦の戦士の裸体、相形容するしかない肉体に漢として尊敬のまなざしを送らざる負えない。
だが、そんな肉体に感嘆する以前に訊きたいことが一つあった。
それは自己紹介をされたときの思い浮かんだ疑問だった。
「…あの、バーズさん、一つ聞いても良いですか?」
「む?エイト、なんだ?」
「バーズさんって、王国直属騎士団の団長さんですよね?」
「そうだな」
「なんで、こんな宿屋に泊まっているんですか?」
「あー…」
俺の素朴な疑問になんとも情けない声を挙げ、眼を泳がせるバーズさんは少し悩むような仕草をして、ため息を付いて、顎に手を置いて再び悩むような仕草をして、3段階の逡巡を終えてから答えてくれた。
「ちょっとな、酒飲んでたら嫁の決めた門限すぎててな、締め出されちまったんだ」
しょーもなかった。
本当にしょうもなかった。
「…なんかすみません」
俺はさすがに端だと思うようなことを訊いてしまったと思い謝罪を口にしたのだった。
風呂から上がり、借りている部屋に戻った俺は備え付けの椅子に座り、ぼーっとしていた。
それにイフは後ろから肩を揉み始めた。
「どうした?」
唐突なその行動に俺は質問すると
「本日は簡単な相手と言えど、200を超える相手をなさったのです。いくら全能神様から頂いた丈夫な体があるとしても、疲労は残ります」
イフはそう答え、気を聞かせてくれていることが分かった。
「そっか、じゃあ、お願いしようかな」
と、言う訳で受け入れることにした。
そして、10分程、マッサージをしてもらった後、
「よし、じゃあ、交代だ」
「えぇと、交代とはどういう事でしょうか…?」
「交代は交代だよ、イフが座って俺が肩揉みって事」
「よろしいのですか?」
「いいって、今のところまでずっと畏まってばっかだったし少しくらいはまったりしてよ」
「…では、お言葉に甘えさせていただきます」
という事で、椅子に座る側、肩を揉む側を交代した。
そして、俺とイフは何気なく会話を始めた。
「どう?」
「大変、気持ちいいです。ですが、ご主人様、私のような剣がこんなもてなしを受けてよいのでしょうか?」
「別に気にすることはないし、もてなしてるつもりでもないよ」
「そうなのですか?」
「そうなのです。そういえば、イフってなんでずっとそんな俺に仕える姿勢なの?」
「それは私の使命だからです」
「使命?」
「はい、私は全能神様からご主人様を守り、ご主人様の剣になる、その使命を担っております。それに現在、この瞬間は私の懲役でもあります」
「懲役って、どういうこと?」
「出会った時に説明いたしましたが、私は元々堕天した悪魔でした。悪魔だった時代、私はさまざまな悪行を働き、たくさんの命を奪いました。だから私はご主人様に仕え、この世界を救う事で贖罪したいのです」
その話に俺は少し口が止まってしまった。
何となく、イフが間違っている気がしたからだ。
だから、イフが望むのならばその立場で言う事にした。
「なるほどな。…でもさ、そういうコトで贖罪になるなんて、少なくとも俺は思う。俺の考えなんだけど、大小はさておき、犯した罪って、一生消えないと思うんだ。だからさ、罪を犯した人間はその犯した罪を背負って、責任もって生きていく、その姿勢が抜けてたら話にならないと思うんだ」
「責任をもって生きる、ですか…?」
「そう。贖罪って罪を償ってチャラにするって事じゃん。それって最終的に自分が犯した罪から逃げるってことだと思うんだ。だから、そういうのはだめなんじゃないかな。向き合って、罪の大きさを知って、それからなんだからさ」
「向き合って、知る…」
「まぁ、極論だけど、自責しなくてもいいんだよ。背金盛って活きることが出来ればいいと思う」
「…、私には今のところ、ご主人様のおっしゃることがあまりわかりません」
イフは一通り俺が話したことを反芻して解釈しているのだろう、眉に小さなしわを寄せて、考えてから、
「ですが、私はご主人様とのこと旅の目標を見つけました」
そう言ってイフは俺に笑顔を作ってみせた。
明日も俺たちのクエスト生活が待っている。
この旅の大きな目標は世界を救う事だ。
だが、それだけじゃ、何か足りない。
イフには自分の目標が出来た。
なら、今度は俺の番だ。
俺がこの旅で何をしたのか決めなきゃいけない。
そう思いながら、イフとまた他愛のない会話をし始める。
この短い間でイフとはだいぶ友好を深めることができたと感じながら、夜は過ぎていくのだった。
読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!