第六十六話 夢のようだけど、普通に出会えていたら
今回割と真面目に構成していたお話です。
イフは吉田英斗の所有する魔剣イフリートの人型に姿を変えているときの名前だ。
吉田が異世界に来てから行動を共にし、紆余曲折で絆を深め、前途洋々で何もない道を共に歩んでいる。
楽しい。
そう思う日々が続く彼女の過去は笑顔などない、暴虐と廃れた栄光しかなかった。
これは魔剣イフリートのイフではなく、大悪魔イフリートとしての物語。
失う物語だ。
そして、喪失のためにはもう一つの物語も存在している。
そう、喪失は何かのきっかけがなければ自力で行うことができない。
正義、悪意、どちらかの答えを出さない限り、それは果たすことができないのだから。
上陸した竜が発見されたのは竜が上陸してから一週間ほど後だった。
近隣国の兵士が竜の進行を阻むために交戦、しかし、その結果は惨敗と終った。
その情報を聞き入れた吉田たちはサワムラを拠点において、イフとともに向かった。
クエストを引き受け、竜を吉田たちが接触したのはそれからさらに四日ほど後の話だった。
物陰から吉田とともに竜を除くイフは竜を見て、その正体を一瞬で見破り、驚愕した。
「・・・ギル?」
変わり果てた我が子のように可愛がった人間の姿にイフは記憶を辿った。
イフリートが教えた自らを封印する方法とは、ギルの力を借りて、イフリートを一本の剣に封印することだった。
最初は嫌がったギルも繰り返すイフリートの説得に折れ、イフリートの頼みを受諾した。
イフリートは最後にと、ギルに一つの約束を取り付けた。
自分が封印された剣を使って人を殺さない、そんな扱いをすること。
その願いは自らを封印するとき、魔剣として類されるように同時にかけられる『封じた剣で人を殺した場合、その使用者はその姿を竜へと孵される』という呪いが発動しないように、という理由。
そして、自分が繰り返した血の歴史を断ち切りたいという願い。
その二つからくる約束だった。
ギルはその約束を承諾し、儀式を行い、封じられたのだった。
ここからは剣となったイフリートの断片的な記録だ。
封じられて間もなく。
ギルの家に大切にしまわれた剣を振るったギル。
振るう先にはギルの子を人質にとった武装した悪人。
そして、呪いをかけられたギルは姿を消した。
そこから、だいぶ経ち。
イフは誰かの手に渡り続けた。
そして、強大な悪意を持つものに渡り、悪意を持つものはその姿を竜に変えながらも悪意をばらまいた。
その悪意は世界の理を優に超えた圧倒的な力を持つものに倒され、剣共々、光に包まれ、イフリートはその世界での役割を終えた。
イフリートが目を覚ますとそこには肌は日焼けで妙に黒く、髪は金髪で少し髪が伸びていて、ピンクの太縁のサングラスに、耳には大きいリング状のピアスを付けていて、黒い短パンに黄緑色のアロハシャツを羽織り、その下は何も着ていないが、やけに鍛え抜かれた筋肉が覗いている一人の少し年を重ねた男性の前に悪魔に羅刹に落ちる前の、幸せだったころの少女の姿で立っていた。
「…私は死んだんだ」
そう呟くと男性は、
「まぁ死んだというか、君の生まれた世界での役割を果たしたって感じだね」
男性は落ち着いた様子で答えた。
それにイフリートは言った。
「…私を正しい道に導いてくれる人間が現れたら、その人間の武器として、私を渡してほしい」
そう言って、眠りについた。
それから数千年後に吉田と出会う事になるのだった。
思い辿ったイフは断片的な記憶からその理由を察し、吉田に告げた。
「私の知り合いです。…ご主人様、お願いがあります」
「ん?」
「ギル…、あの竜は私にとどめを刺させてはいただけませんか?」
「ちなみに、強さとかわかるか?」
「恐らくですが、クェクェまではいかなくても相当強いと」
「…なら、融合魔翼だけはさせてくれ。何かあったら怖いからな。主導権は、全部イフに任せるよ」
「…ありがとうございます」
そう言葉を交わすと、唇も交わし、第二形態へと吉田たちは姿を変え、竜、呼び改めギルに立ちはだかった。
「…イフリート…、なのか?」
ギルは歪んだ声で問う。
『あぁ、私だ。なぁ、ギル、お前がその姿になったのは理由は何となく察してるんだ。昔から大切な者のためならなんだってやる、そんな性格だったからな。だから、約束を破ったことは根に持ってやる程度で許してやる。だが、なんで、この世界に来た』
そう言って、ギルに投げ返すと、
「あなたをもう一度、振るうためだ。あなたと共にもう一度、あの頃のように暮らしたい。あなたの傷を私は受け止めたいんだ」
その答えにイフはため息をついた。
『確かに、私は傷をあの時は追っていた。でもな、今は違うんだ。今、私を振るっているご主人様がいるからな。彼に出会って、私は傷を乗り越えた。今じゃ立派な足場なんだよ』
まるで子供をたしなめるような声色で言ったその言葉の後、イフはそっと微笑んだ。
それを見て、ギルは驚いたように目を見開いて、静かに言った。
「そうか、そうだったのか。俺はイフリートを振るうにふさわしい存在になるためにあなたから教わったことを土台に様々な知識をつけて世界を転々と出来るようになったのに。…まさか初めて見る笑顔が今この瞬間だったとはな」
そして、ギルの寂し笑い声が続き、言った。
「…ならば本当の最後だ。俺はあなたから最期に教わりたいことがある」
『いいだろう。好きなものをみっちり教え込んでやる』
すぐさま返されたイフの応答にギルは安堵した表情を見せ言った。
「最後に…、殺し合いというのを教えてほしい」
それはギルの願いだった。
亡者と化した自分を殺してほしい。
教わったこと、学んだことをすべてぶつけて死なせてほしい。
そんな願いだった。
『あぁ、わかった。わかったとも!』
イフはその願いを純粋なものだと見抜き、受け入れた。
そして、音もなく、お互いに、1、2、3歩同程度の歩幅を進めた瞬間に始まった。
それからはとても悲しかった。
吉田はその間、何の影響も出さぬようにじっとこらえるだけだった。
繰り返される攻防。
圧倒的なイフの力にギルは成す総べなく倒れ、イフはその剣に変えた腕をギルの首元で止めた。
「…早く」
ギルの声に、
『わかってる』
そう言い返すもイフは手を動かせずにいた。
その瞬間。
ギルは笑顔を見せて、言った。
「やっぱり、イフリートは良い奴いなんだな」
その瞬間、イフリートの向ける刀身をつかむと自らの力でイフの剣に胸を突き刺した。
そして、ギルは続けるように言葉をイフに渡した。
「ご教授、いいえ、今まで、ありがとうございました」
そして、ギルはその生命を途絶えた。
融合魔翼を解いたイフは冷たくなり、呪いが解け風化した死体となったギルに縋りつき泣き叫んだ。
泣いて、泣いて、泣き叫んだ。
拠点に戻ったイフはその夜、夢を見た。
ギルと暮らしていたころの夢だ。
小さな洞穴を家と見たてて、そこに雑に置かれたベッドの上でまだ小さかった頃のぎるがイフと添い寝しながら話す、思い出の夢。
「ねぇ、イフ、もしこんな出会いじゃなくてさ、夢のようだけど、普通に出会えていたら、どんな関係になってたのかな」
そう訊くギルにイフは彼の頬を撫でて答えた。
「たぶん出会わなかった、かもね」
読んでいただきありがとうございます。
イフ編終了です。
この作品を書こうと決めたときから作ってある絶対に書きたいお話の一つでした。
このお話はほかの話と毛色が違うというのと、後味が何かしら残る、この二点を過去の私が図々しくディレクションしていたせいで難航するという最悪な足の引っ張りようが書いているときにめっちゃくちゃ腹立たしかったですが、そこは頑張りました。
子の作品の構成自体は決まっていたのですが、作品を通して下書きなしのライブ感大有りの小説を掲げていたことがあり、どういう感じでまとめるかという問題を解決するために某バイク乗りの戦士の平成旧作品目を若干モチーフにしながら、書かせていただきました。
あと、この構成だけ状態に肉を作るために曲を聞いていたのですが若干、その曲に引っ張られるという状況にこれを書いている私も苦笑いものの話ですが、何せ、一番構成の中でディレクションだけしっかりしていたせいで、曲を聞いてないと多分書くことができなかったという…。
たぶんこの話全体であとがき、前書きの最長を生み出したと思うので今回は此処までという事で。
では、次回もお楽しみに!




