第五十五話 歯車、動く
準備段階のお話です。
俺こと吉田英斗は悲しいことに異世界転生を果たし、様々な変化を迎えながら前に進むことを続けている、そんな毎日の中で俺とサワムラとイフは異形のバケモノと遭遇してしまい、バケモノが発したと思われる俺の記憶のしこりに恐怖を抱きつつも俺はその記憶のしこりから目を逸らすまいと決意するもだった、まる。
あのデカブツが再び現れたのは意外と早かった。
発見から一週間後、デカブツは王都ビスタリアから、やはり南側の森に出現した。
その報告を受け、緊急クエストが発表された。
そして、そのクエストを受けたのは、やはりも何も、俺たちだった。
イフとサワムラも連れ、現場へと向かうとやはりアイツがいた。
とりあえずサワムラには近隣の町に被害がないように見張る事だけ言い渡し、俺はバアルとイフリートを携えて再びあの目まで空中を跳んだ。
『ご主人様、もしかして、あの目を?』
「とりあえず前と同じ作戦で行こうとは思うけど、どうしても拝みたくてな」
イフの質問に俺は答え、間もなくしてその目までたどり着いた。
俺はデカブツに語り掛けるように言った。
「お前は何者だ」
根拠はないが言葉が通じるような気がしたからだ。
すると、
『えいとくん、私はユリ…、あ、あああああああ…』
あいつの声がまるで壊れたラジオから発せられる音声のように俺の脳内に響いた。
あの記憶がリフレインするが俺は動じなかった。こうして進めているのはあの時の事件があったからだ。
過去を乗り越えるだけなら誰だってできる、だが、俺は糧にする。
過去を肯定し、今を信じ続けるために俺はぶれることをあきらめた。
だから、俺はその記憶に感謝した。
感謝して、謝罪して、また、感謝した。
そのうえで、デカブツに言った。
「目的は?」
それにデカブツはアイツの声で脳内に、
『わたし、は、記憶、空間の記憶、この世界、に、送られている異物、が、多い。わたし、は、異物、を、確認、するため、に、いる』
答えてくれた。
異物、それはおそらく転生した者たちのことだろう。
その異物がこの世界に多すぎるから、確認しに来ているだけなのだと言っている。
だが、おかしい。
あの神はこの世界を救うために転生させているといっているが、このデカブツはまるでその転生した者たちが世界の邪魔者のように言っているのは、どうしても違和感を覚える。
そう思っていると、デカブツは続けた。
『異物、は、世界、に、ある、バランス、を、歪ませている原因、だから、見張るべき、と、判断した』
それは俺の疑問の答えだった。
そして、目の前に居る、空間の記憶の意向。
俺は単純いこの世界、神の行動に不信感を抱いた。
だが、こうやって停滞を選ばなくさせた世界には感謝しているせいかどうしてもその不信感を信じることができなかった。
だから、俺は言った。
「何もしないでほしい。もし何か間違ったことを転生組がしたときに、また姿を現してくれ。その時、俺はあんたたちに協力をするよ」
それに空間の記憶は俺の目をのぞき込むように見つめ、しばらくして、
「ならば、その言葉、を、信じよう」
そう言うと空間の記憶は消えた。
そして、その後、空間の記憶は現れなくなった。
全能神は椅子に腰かけながら背伸びをした。
彼の目の前には世界を映す水晶があり、それを目にして溜息を吐いた。
「んー、とうとう来ちゃったか。記憶の獣。ちょと送り過ぎってことだよなぁ…」
少し反省するような表情を見せて、サングラスを額に乗せて、一冊の本を手元に出現させると、記憶の獣の頁を一瞬で開いた。
そして、全能神は独り言をポツリ。
「世界を戻すためだ…」
どこか、少なくとも吉田英斗と同じ世界のどこか。
横田俊祐は草原を歩いていた。
彼の横にはこの世界には似合わない黒いスーツを身にまとっている高身長痩身の男が横田の一歩後ろを維持している。
横田はあたりを見回して、
「ヨル、気配は?」
そう聞くと、ヨルと呼ばれたスーツ姿の男はあたりを眼球の動きだけで見回すと、
「ないですねぇ…」
短く返した。
それに横田はため息をついて、足を早めると、目の前にクラスタベアの大群が急に現れた。
どうやらテリトリーに踏み行ってしまったらしい。
「ヨルムンガンド!」
横田はそう言いながら手を広げると、ヨルの姿は魔剣ヨルムンガンドへと姿を変えた。
禍々しくも、神聖で、醜悪ながらも、高潔な細身の刀身は刃渡り二メートルを誇る太刀でそれを携えた横田は送ることなく、大群へ突っ込んだ。
相手の数はおそらく三百匹前後の大群。
その大群を一秒ほどですり抜けるように走り抜け、大群を走り切り、止まった瞬間に先頭から遅れて、クラスタベアが倒れた。
そしてあたりに残った角をあとでゆったりと拾うと麻袋の中に詰め、ヒト型に姿を戻したヨルに持たせた。
「重いですねぇ」
麻袋を持ったヨルは弱音を吐くが横田はそんなことを気にしている様子などなく、
「そろそろ、招集していくしかないかな」
そう呟きながら先を急ぐばかりだった。
世界は、もう止まらない。
読んでいただきありがとうございます。
では、次回もお楽しみに!




