第五十四話 目を逸らしたのは
誰だって超えることはできるものばかりだけど、糧に出来るものはほとんどないと思う、そんなことはないって言いたいだけです。
俺こと吉田英斗は悲しいことに異世界転生を果たし、様々な変化を迎えながら前に進むことを続けている、そんな毎日の中で俺とサワムラとイフは異形のバケモノと遭遇してしまったのだった、まる。
デカブツが消滅したあと、サウラジィアのギルド支部でそれらを報告、ビスタリアに戻ってからは正式な報告書をギルドに提出し、一段落付いたのはビスタリアに戻って三日後の話だった。
それなりに時間を経たはずなのにあの時感じた恐怖は消えていなかった。
そして、またあの夢を見るようになった。
それは超えていなかった頃のどうしても繰り返す夢。
普通だった俺の唯一、普通じゃない思い出。
俺が弱いばかりに掴めなかったあの手を思い出す。
十年前。
俺は七歳で、当時、転校が多く、学校ではあまりクラスになじむことができず、いじめの対象にされた。
そんな時、近所に住む中学生の少女、ユリが学校内では無理だったが、学校外でいじめられていた俺を助けてくれた。
そんな日々を続けるうちに俺はユリと仲良くなり、ユリの家に行って俺は彼女の部屋でよく遊ぶようになった。
ユリは優しく、俺の話を聞いては楽しそうな顔をした。
時々顔にガーゼを張っていることがあったがそれは転んだだけだとよく言っていったが、彼女はたぶん両親から暴力を振るわれていたのかもしれない。
その理由にたまに服の隙間から見える腹部には無数の青痣があったからだ。
だが、その当時、俺はそんなことはわからなかった。
そんな強かな彼女と過ごし二年が過ぎたとき、ユリはストーカー被害にあっていると告白した。
ストーキングしている人物はユリのクラスメイトだという。
俺は子供ながらの正義感を抱き、小学校を休み、ユリの後を尾行した。
ユリが中学に行っている間は近くのゲーセンで過ごし、いつもユリが俺と会う時間から少し前に中学校へ向かうとちょうど下校時刻だったらしくユリの姿を見つけ、また、尾行を始めた。
すると、変にユリを追う細身で色白なユリの通う学校と同じ制服を着た男がユリを追っているのが目についた。
俺はその男に接触しようとしたとき、ユリはばっと振り向き、男はうまく隠れ、うまく隠れることができなかった俺はユリに見つかり、「えいとくん、こっちおいで」と言われ、俺は言われる通りにユリの元へ向かい、ユリは説教を軽くした後、俺の手を引いて、彼女の家に通された。
そして、玄関に入り、逃げるように鍵を閉めたユリは俺に「さっきの男の人、あの人だよ」、そう言って、あの男が例のストーカーだと教えてくれた。
それから数日後。
俺はユリと遊びに行こうと公園へ向かった。
当時の年齢から、どんな遊びなのかはお察しのレベルだが、楽しんで満足し、時間も時間だから帰ろうとした時、「ユリさん」嫌な声がユリを後ろから呼び止めた。
俺とユリはその声に驚きながらも振り向くと、そこにはあのストーカーがいた。
その男は気持ちの悪い笑いを浮かべながら、近寄って来て、子供の頃の正義感を振りかざし、その男に立ちはだかると、「邪魔だ!」と叫びながら、力強く凶悪な目で男は俺をすぐ横、車道へ吹き飛ばした。
俺はその力に成す術なく弾き飛ばされ、転倒した。
その瞬間、ブブー、車のクラクションが鳴った。
クラクションのほうへ目を向けると、トラックが迫り、その光景を見たユリは「危ない!」叫びながら、反対車線へ俺を突き飛ばし、目の前で、トラックに轢かれた。
そして目の前でユリが死んだ。
最後に俺は市にかけのユリが伸ばした手をつかめなかった。
掴もうとしたときに力尽きたからだ。
だから、俺はその手に自分に対する恐怖心を抱いた。
その後の話は分からないが、俺はそれが原因であまりいい学生生活を送れなかった。
俺が変な正義を振りかざさなければユリは死ななかったかもしれない。
その思いが消えず、高校に進学しても、自分の存在に肯定が出来ず、俺は高校を中退した。
もうさんざん考えて、どうしようもないんだとわかったはずなのに見続ける記憶の夢。
あの頃がいつまでたっても消えないでいた。
そして、その恐怖に怯え、心が沈み込みそうな時。
「お隣、失礼させていただきます」
ベッドに腰かける俺の横にイフが座った。
その小さな体を俺に少しだけ寄せ、彼女は言った。
「最近、ご主人様が変な気がします」
そう言う彼女の表情は心配そうで。
その原因は俺にあるのはすぐ分かった。
その表情を作れせているのは俺なんだ、俺が恐怖に怯えているから、そうなっている。
そう思った瞬間、俺は向き合わなければいけない。
そう思うしかなかった。
そして、イフにはすべてを話した。
それに対し、イフは言った。
「どうしようもなかった、といって弱い自分から目をそらすのは違うと思いますよ。確かに起こった出来事については仕方ないとしか言いようがないです。ですが、その自分の弱さを体験した経験自体に仕方ないと言っているように私は感じました」
それに俺は何も返せなかった。
だから、俺は決めた。
もう、逃げないと。
超えるのではなく、糧にするのだと。
読んでいただきありがとうございます。
では、次回もお楽しみに!




