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第四十二話 鬼門

形意拳は出ません。

 俺こと吉田よしだ英斗エイトは悲しいことに異世界転生を果たし、何でも屋ヴァンヴォリックと共に世界の敵となっているヨコタシュンスケの一味の一人、エミリー・フリッツを打倒することを決意したその矢先、イフが攫われ、サワムラハルコが重傷を負ってしまい、近衛騎士団から取り調べやらを受けたのち、バーズさんと再会を果たし、ヴァンヴォリック、国王直属騎士団、俺の三つ個人と勢力で協力しエミリー・フリッツを倒そうという提案を受け、ヴァンヴォリック、国王直属騎士団、俺の三勢力の協定がむすばれ、その最中、エミリー・フリッツの居場所が判明し、三勢力の共同戦線をもって、エミリー・フリッツ討伐作戦が始まり、過去に街であった少女がエミリー・フリッツであった事とイフがエミリー・フリッツの手によって心まで操られ敵となって再会した事の二つに驚きながらも戦いが始まり、イフを俺とバーズさんとアーノルド・ヴィン・ラハールを中心に構成圧された部隊で倉庫内に、エミリーを鬼町きまち兼弘かねひろとを中心に構成された部隊で倉庫外に隔離することが成功し、それぞれが相手専用に練った作戦に嵌めることに成功し、俺はイフの意識に入り込み精神的な操作を断ち切るべくイフの意識へと飛び込んだのだが、一方、エミリー・フリッツと交戦しているヤーヴェンさんとヨハンの策を逆手に取り、ヤーヴェンさんはエミリー・フリッツの一撃を食らってしまう、そして、イフの精神世界に入った俺は黒い繭を見つけ、自分の影と闘うのだった、まる。



 鏡に映り合うように構えられた俺と翳はお互いに踏み出せずにいた。

 理由はない。

 ただ読み合いが先行しているだけ。

 視線を繋げるだけで合わさり、読み合い、重なり合い、打ち合う。

 そして、とうとうその時が来る。

 それは同時。

 翳と俺が一歩踏み出し、火蓋が落とされた。

 翳からは声などはない。

 痛がっているのかも、疲れているのかもわからない。

 だが、実体、手応えはあった。

 中断蹴りと見せかけ、急下降をし、構えのせいで地面と垂直の関係を失った太ももに入る。

 いくら鎧越しと言えど、相手も俺の翳。

 バアルを纏った姿の影として現れているのだ。

 鈍痛はある。

 その鈍痛を与え合う。

 剣などはない。

 一発で死ぬ要素はないが、一髪で命に関わる全力の殴り合い。

 翳の蹴りの癖、手の振り方すべてが俺そのもので、翳のパンチの癖、振りぬき方まで俺そのものだ。

 だから、やれる。

 だから、やられる。

 どうやら、翳も俺の癖をつけるようで、隙を癖を何もかもを、利用し有効打を与える。

 それこそ、急所だけ空いた防具でスパーリングをしているかのような、穴の殴り合い。

 そう、鬼門。

 これは己の鬼門を壊すための戦い。

 だから俺は負ける気がしなかった。

 自分を越えられない自分がいて、どうする。

 すでに火蓋は落とされてるんだ。

 魂に火がつかなくてどうする。


 「どぉするよ!!」


 俺の半ば、独り言のように叫びながら繰りだした右ボディブローが翳の左外腹斜筋をえぐり、内腹斜筋すらもついでと抉り、腹直筋の一部までも振り抜くついでに抉った。

 体重も、力も、加速も、感情も全部乗った渾身の一発は翳を右回転を促すかのように倒した。

 そして、倒れる間際、翳が地面に付こうと膝から崩れるその瞬間、飛び足刀蹴り。

 俺のダメ出しだ。

 これで倒れてくれ。

 俺の弱さをここで越えてやるから。

 ここで越えて、イフを助けてやるんだ。

 もう負けたり、挫けたりはしない。

 足であれ、刀と名を冠する技だ。

 弱い自分をこの刀で切り伏せる。

 その一心で俺は打ち込み、翳は吹っ飛んだ。

 威力は十二分。

 正直、俺がこの連続攻撃コンボを食らって生きてられる自信がない。

 その一撃なんだ。

 翳は吹っ飛んだ勢いのまま、繭へぶち当たり、それに背中を預かる様にして立った。

 そして、何もかもが真っ黒なのに、笑ったのが分かった。

 

 「お前の弱さはこんなで越えられるもんかよ」


 そう言っているのもわかった。

 その瞬間、思った。

 俺はこんなに分厚い弱さをもってイフに顔向けできるのか?

 仲間を傷つけたイフを真に許せるか?

 イフを取り戻せたとしても、恐怖を持たず、いつものように接せるのか?

 そう思った。

 思いがけず、自問自答した。

 そして、ふと気付く。

 何弱気になってんだ?

 助けられたとして?

 ふざけんじゃない。

 助けるんだ。

 許せるか?

 ふざけんじゃない。

 赦す、許さないじゃなくて、抱きしめないと、俺が弱かったと、直ぐに助けに行けなくてごめんな、とこっちが謝らないといけないんだ。

 ならば、顔向けも何もない。

 弱さをぶち抜くまで。

 見つければ超えて、ぶつかれば打ち抜けばいい。

 たったそれだけだ。

 もう後は何もいらない。

 そう、思った時には、もう、体は、刻んでいた。

 音にもならない、光の打撃を、ノーガードの翳にたたき込んでいた。

 光の鎧バアルとよく言ったものだ。

 光の力で加速した俺の身体は閃光と尾を放ちながら、まるで大嵐のように何度も何度も打ち込んでいた。

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 そして、打ち込むたびに下がる翳。

 気付けば、ずっ、ずず、と繭の繊維を破り、翳は繭に沈み込んでいた。

 そして、その瞬間が来る。

 繭が割れ、真っ二つになったのだ。

 イフが中にいるというのに影を繭に貫通させた俺は案外、軽い感じで思った。


 (あ、やべっ)


 だがイフにぶつかるとか、そういう心配はいらなかった。

 割れた瞬間、翳は消えた。

 消えて、割れた繭のその先にイフの姿が見え、俺は瞬時にイフを抱きかかえ、繭から救い出した。

 そして、着地。

 お姫様抱っこ、というやつで俺はイフを抱えて、着地し、その場から立ち上がり、繭へと向き直った瞬間。

 シャン!!

 鈴の音が鳴り、繭は赤黒い光をはなったと思えば、目の前から消えていた。

 それに繭が消えた途端、写真の絵が変わるマジックが如く。

 視界に新緑の草原と蒼い空。

 心地よい風と暖かな陽光が肌を撫でる。

 恐らく、これが本来のイフの心象風景。

 俺はそっとイフをその場に寝かせるように下すと、告げた。


 「すぐには目覚めなくていいさ、せめて、体の自由を取り戻すまでは寝ててくれよ」


 そして、俺は念じる。

 この精神世界から出ると。

 そして、その瞬間俺の視界は真っ暗になり、体が軽くなる感覚に見舞われた。



 体がずしっ、と重くなり、眼を開けば倉庫の中。

 そして、隣の兵士の方を見ると俺は言った。

 

 「戻ってきました。次の段階、やりましょう!!」


 そして始まった。

 対イフ決戦の終盤戦が。

 

読んでいただきありがとうございます。

次回、鬼町、荒ぶる!!

では、次回もお楽しみに!

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