第一話 鬱々とした日々1
校舎1階の白い部屋には、燃え上がるような美しい夕日が差していた。
悲しみと嘆きが積もったその部屋を、少女は愛おしそうに見つめる。
誰かは彼女が抱えたその苦しみを、そんなのはよくある話だと笑うかもしれない。
それでももう彼女は真っ直ぐに笑って歩いて行けるだろう。
だって彼女はもう、彼女だけの誰にも盗ることの出来ない宝物を見つけることができたのだから。
陽の光が降り注ぐ、活気に満ち溢れる体育館の隅で、私はひとり座りこんで見学レポートを書いている。
陽の中でバスケットボールに打ち込む彼女らと、それを陰からひっそりと見つめ黙々とシャーペンをはしらせる私は、さながら別の世界の生き物のように思われた。
私、谷本詩穂は高校入学直後に体調を崩し、頻繁に貧血のような症状をおこしては倒れるようになってしまった。
かかりつけ医を始めとする様々な医者に診てもらったが、これといった原因は見つからず、「環境の変化によるストレスでしょう」、「心因性でしょう」という様な曖昧な事しか言われなかった。
その度に「あぁ、誰も分からないんだ。病名も病因も。」と、暗い気持ちになった。
なぜならストレスや心因からおこる体調不良ではないと断言できるからだ。私はストレスには強い方だと自負していたし、体調に支障をきたす程何かに悩んだり苦しんだりしていなかった。寧ろ新しく始まった高校生活は順調で、毎日楽しいくらいだった。
でもそんな日々はたった数週間と経たない内に、完治はもちろん改善の見通しもない体調不良と闘う鬱々とした生活に一転した。
病名、病因が分からないと言う事は対処方法の分からない得体のしれない怪物と闘うようなものだ。
そして私が闘わなくてはならないのは、それだけではなかった。