7、復讐者の哀愁
ウェザリンシティに向けて出発した復讐者。
行く手を阻んだゴブリンを殺した彼だったが、なにやら浮かない表情をする。
先ほどの惨事があった場所からだいぶ距離を置いたところで、遅くなったがキャンプを始める。
キャンプ、と言っても火を起こし、薄い布を敷くだけでこれといったイベントもない。
あったとすれば先ほどの事を賞賛され、ものを少し分け与えてくれたぐらいか。
正直気は引けたが好意は素直に嬉しかったので受け取った。
夜は御者の男四人が見張りをするらしいが殺気があればすぐにわかるし問題はないだろう。
「おはよう、復讐者。」
「おはようってお前もう夜だし、一日中寝てたよなお前。」
「ところでそれ何?」
俺が言ったことは耳に入らず、予見者の興味はみんなからもらった物に向けられた。
「ゴブリンを倒したお礼としてみんなから少しずつもらったんだよ。」
答えたはずだが納得いかないように不思議そうな顔で見つめられる。
「なんだよ、顔になんかついてるか?」
「ううん、嬉しくなさそうだから。」
どうやら自分でも気づかないうちに不安が顔に出ていたらしい。
「そのことか…言いにくいんだけどさ、ゴブリンを殺した時自分が自分じゃないような気がして、複雑な気分でさ。」
「それで受け取りにくいの?」
コクリと頷く。
それを見た予見者は励ますように優しく笑いながら話す。
「確かに変わったかもしれない、これから変わるかもしれない。でも優しさが変わらなければ私はそれで構わない。」
「構わないってお前だけの話じゃないか。」
「うん、そうなる。」
何がおかしいのかわからないが、優しい火に照らされながら互いに笑う。
「なんかここにいたら眠くなってきた。」
「起きてきたばっかで寝るのかよ。」
起きてすぐにもかかわらずまた寝ると言った予見者の行動には呆れる。
「人の欲は尽きないって言う。復讐者は?寝るの?」
「俺はいいかな、昼に寝たし。」
「じゃあ一人で寝る。おやすみ。」
「あぁ、おやすみ。」
挨拶を交わし目の前の火が消えない様に薪をくべる。
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一人の男が玉座に座り、退屈そうに頬杖をつく。
耳に入る話は全て興味のかけらも惹かれないクソみたいな文字の羅列で、派手さもなければ真新しさもない。
実際、前線は拮抗状態で動きがなく、監視の目にも動きはない。
あくびを一つすると扉を開けてデーモンロードが入ってくる。
「突然申し訳ございません、只今急ぎの連絡が入った故、お許しを。」
「構わんよ、お前なら許せる。」
「はっ、ありがたきお言葉。」
デーモンロード胸に右手を当て軽く頭を下げる。
「で?要件はなんだ、早く言え。」
「つい先程、ウェザリンシティ周辺に雷操者を倒した男と同一と思われる男が目撃されたと報告がありました。」
興味はそよ風となって自分の心に波を立てる。
「その報告確か?」
「間違いはございません、このルートですと他の転移者のいるウェザリンシティに向かっていると思われます。」
「ウェザリンシティか……ジェネラルオーガが間に合うかどうかだな。」
奴の戦力は領地外では多いと言える部類の軍力だが、抵抗された場合は足りないだろう。
「そのことなのですが、戦闘中は狂喜に満ちたと顔をしているのに対し、終了するなり落ち着き過ぎると言えるほど豹変するという報告もございます。」
「わかった、最悪の事態も想定しておくよう伝えよ。」
「はっ、作戦の名はいかがいたしますか?」
作戦の名前、無くてもいいがあった方がらしいだろうか。
「シンプルに「復讐者捕獲作戦」とでも名付けよう。」
「それでは「復讐者捕獲作戦」実行に移ります。」
「良い報告を期待しているぞ。」
「ご希望に添えるよう尽力いたします。それでは失礼いたします。」
扉を押し開け、デーモンロードはいなくなった。
また静寂が訪れる。
だが今はもう退屈ではなく、今回の作戦がどのように転ぶか、それしか頭になかった。
自らの目的を果たすため、行動をする復讐者。
しかしその裏では新たなる計画が進められていた。
次回、「復讐者の休日」