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6、復讐者、出発

思わぬことで親睦を深めた2人。


情報を頼りにウェザリンシティ行きの馬車に乗る。

 

「予………者……見……予見……予見者!!!!」


 強く肩を揺らされ強引に目覚めさせられる。


「もう行くの?」


「あぁ、早く支度しろ。」


 短い会話を交わしながら復讐者リベンジャーは荷物をまとめる。


「ん、わかった。」


 するりと寝間着を脱ぐ。それを見た復讐者が目を見開いた後、気まづそうに目をそらす。


「お前な…人前で脱ぐもんじゃねぇぜ?」


「別に下着なんて誰に見られてもいいでしょ。」


 素直に自分の意思を告げた。


「まぁそうだけど。俺は外に出てるぜ、早めに着替えろよ。」


 バタンと音を立ててドアが閉まる。


 今気づいたが初めて見る服が丁寧に畳まれ、枕元に置かれていた。


 おそらくこれに着替えろということだろうか。


 着てみたがサイズはピッタリで良い着心地だ。だが何故か気持ちがふわふわとして落ち着かない。


 とりあえず外へ出て見る。


「これ買ったの復讐者リベンジャー?」


「あぁ、昨日の服汚れてたからな。洗おうにも時間がなかったし、買ってみたんだが…気に入ってくれたみたいだな。」


「うん…まぁそうなんだけど……人から服をもらうのって初めてだからどんな顔すればいいのかなって。」


 それを聞いて復讐者リベンジャーはにへらとだらしなく笑う。


「俺だって人に何か物を、特に服をあげるのは初めてだよ。普通の顔してれば大丈夫だって。」


「そう…じゃあそうする。」


 なんとか普通の顔を作ろうとするが何故か顔がだらしく無く緩んでしまう。


 ーーーーーーーーーー


 荷物をなんとか後ろの馬車に押し入れ前の馬車に乗り込む。


「間に合ったな。ふぁあぁ……」


 大きくあくびをする。


「どうしたの?もしかして寝れてない?」


「んー…まぁな。」


「ごめんね、私のせいだよね…」


 できるだけ悪気のない言い方をしたと思うが相手には気づかれてしまった。


「お前のせいというわけではないさ、とりあえず寝かせろ。」


「ん、わかった。」


 そう言って何故か俺の膝の上に座り、いつもとは逆に俺が抱き抱える体制になってしまう。


「なんでそこに座るんだよ。」


「いつも隣に居てくれるお礼。」


 言っている意味はわからんし、周りの人から仲のいい兄弟を見るような視線を感じる。だが今は突っ込むより先に眠りたい。


 ーーーーーーーーーー


 暗い暗い空間。


 自分に注がれるのは冷たい視線。


 いや、それだけではない、伸びて着た腕が自分を殴る、放たれた言葉が鋭利な刃物となって自分を傷つける。


(ヤダ、やめて、痛い、辛い、悲しい……誰か……助けて……)


 孤独という闇が自分を包みさらなる深みへ突き落とす。


 もう誰も居ない、このまま落ちていくだけ。


 しかし不意に自分の手を暖かな何かが掴む。


 その正体を確かめようと見上げるが眩しすぎて何も見ることはできなかった。


 ーーーーーーーーーー


 パチリと目がさめる。まだ走り続けている馬車から外を見ると既に月が登り始め、はっきりと星が見える。


「おい馭者、馬車を止めろ。」


「え?なんでですか?」


 まだ膝の上に乗りすやすやと眠る予見者を開いているスペースに移動させ、馭者の後ろから顔を出す。


「いいから止めろ、それと誰かナイフを貸してくれないか?」


「ナイフなら私が持ってるけど、何に使うのかしら?」


「すまない、すぐに終わらせる。皆さんはここから動かないでください。」


 完全に停車した馬車から降り荷物の中にあったコートを着る。


「だいたいこのぐらいかな。」


 ナイフを数メートル先の木の上に当たるよう振りかぶり投げる。


 しばらく様子を見ていると木の上から緑色をした小さな影が落ちる。それを見た人は皆、血相を変え悲鳴をあげた。


「それ見ろ、ゴブリンだ。僕はアイツらを殺しにいくんで、ここで待って居てください。」


 コートの中に仕込んでおいたトンファーを取り出し進行方向に向かって走る。


 流石に相手もほとんど降りて俺を向かい打つ構えになっていた。


 下に降りて着た数は8、木の上にいるものも数えると9か。


 すれ違いざまにゴブリンの頭にトンファーを殴り刺すと、硬い音の後に柔らかいものがぐちゃりと音を立てて、脳漿と血を出しながら潰れる。


 すかさずに次のゴブリンを蹴り飛ばす。


 骨が内臓ごと潰れた音を出し、木に向かって飛んで行った。


 ここでようやく弓が射抜かれるが躱し、地面に刺さったものを指で挟み射手に向け投げる。


 ばたりと音が聞こえたということは死んだということだろう。


 後のゴブリンもこの調子で次々に肉片に変え、ついに最後の一つも動かなくなった。


 一つ息を漏らし夜空を見上げ、ゴブリンの体液でねっとりと汚れた手を月にかざす。


 前の世界では、虫はともかく、死んだ豚の眼球すら解剖できなかった俺が、今では派手に生きているものを容赦なく殺している。


 そう思うと、なんだか別人になった気持ちで、当たる夜風がまるで自分の心の穴を通り抜けるような感覚を覚える。

ゴブリンを倒し、馬車を守った復讐者。


しかしその顔はどこか悲しそうで。


次回「復讐者の哀愁」

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