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49、死刑囚最後の覚悟


どろりとした眠りからまぶたを開く。魔力で造られたという真っ白な空間にただ1人ポツリといる。生活に必要な最低限の物はあるがそれ以外のものは無い非常に簡素な場所だ


あの街からこの場所に移送されどれだけの時間が過ぎたかわからない


体を動かす自由はあるが動かす気力が出ず、何を考える気力すらもない、何も考えず何もせず床に突っ伏している。このまま床に溶けて行きそうな程に


そうしているとカチャンと飯が置かれる


まるで動く死体のようにゆっくりと立ちひたひたと歩く。そしてパンを貪り、スープを飲み干し、また同じ所に戻り床に身を投げる


しばらくすると別の音がした。足音から人が入ってきたのだろう


「随分と腑抜けたようになったの。復讐者リベンジャー


久しぶりの声に体を起こす気力が湧いた


相手を直視する。この世界に来て初めて触れ合い、技を教わった人。ギルドマスターとか呼ばれていたか


「…久しぶり。」


「見た目だけじゃなく心まで腑抜けたか。これは一度鍛え直す必要がありそうじゃ。」


蓄えた白髭を撫でながら少し困ったような気配を見せる


「用件は?」


「とくにありはせんよ。老人のお喋りに付き合ってもらうだけじゃ。」


ギルドマスターはその場で胡座をし、寛ぎ始めた


「しっかし面倒なことになったなぁ…魔王討伐までの処刑猶予付きとは、討伐に強制的に協力させるという魂胆が見え見えじゃ…弟子が道具の様に使われるなんて気の毒じゃ。」


「いつ死んだって同じだよ、変わらない。」


「少しぐらいはショックに思うと思ったのじゃが、まぁええ。最近体調はどうじゃ?五感の一つでもなくなったか?」


「味覚が無くなった、そのぐらい。」


「どうやらかなりの強敵だったようじゃのぉ…魔王幹部の2人は。」


「まぁ…ね。」


「リアクションが薄すぎじゃ、まるで自分はやってないみたいな言い分に聞こえるぞ。」


「覚えてないから…また暴走したらしい。」


「知らぬうちに変な力手に入れおって…程々にしておけよ。」


「あぁ。」


「そういえば最近他の転移者達の調子は良さげらしいぞ、昨日の新聞でもう四代目の幹部を倒したようじゃ。」


「へぇ、あいつらもなかなかやるじゃん。」


「知り合いでもいるのか?」


「まぁ、3…いや4人と知り合えた。色々あったけど仲良くなれた。友達になれたし、俺のこと認めてくれたよ。おかげで悔いなくここにいられる。」


「良き友人ができたようで何より。じゃがそうすると彼らの様子はちとおかしかったのじゃが…」


ここに来てから初めて心が揺らぎ、思わず体が動き立ち上がりそうになった


「それは、どういうことだ?」


「よほど大切なんじゃな、その友達が。」


相手を睨んでいたということに気付いた。少し息を吐き、浮いた腰と強張った表情を緩める


「少し会話する機会があってな、お前の話をしてみるとほぼ全員が異様なまでに嫌悪に語たったわけじゃ。もう少し言及してみればよかったかの…」


「他に何か変わったところはなかったか?」


「そうじゃの……そういえば皆、狂信者に随分と素直にしたがっていたように見えたわい。従順な犬かとも思えるほどにな。」


「そうか…わかった、ありがとうな来てくれて。」


重たかった腰を久々に持ち上げる。倦怠感はあるが黙ってはいられない


「何をする気じゃ、というのは野暮じゃな。ほれこれを持っていけ。」


牢の隙間からいつもの黒いコートと持っていた白い仮面を手渡された。彼女から貰った仮面も一緒だ


「サンキューな。でも行かせていいのか?立場的に。」


「そんな心配するより先に二度と捕まらないようにせい。」


「確かにな、じゃちょっくら復讐してくるわ。最後の復讐な。」


「おう、ついでに魔王まで突っ走ってけー。」


「できたらそうするさ!」


もらった荷物を小脇に抱え、肥大化させた右手で牢の壁を粉々に吹き飛ばす


(魔法でできてるって聞いたからもっと頑丈かと思ったんだが案外脆いな。)


[やっとやる気を出してくれたかい?]


(待たせて悪かったなガノイン。)


[うん、腑抜けた君よりも今の君の方が何倍もマシだね。]


適当なところの壁も先ほどと同じように吹き飛ばすとなんと地上までかなりの高さがある場所だったようで周りを見ても何もない高い山が続いている


「まさに監獄にふさわしいところにいたんだな…ま、今の俺にはどうってことないけど。」


「いたぞ!あそこだ!」


騒ぎに気付いた看守どもが集まり始めていた


(どうやって逃げるのがクールだ?)


[羽出せるようになったから飛び降りるのがクールだと思うよ。]


それを聞き不敵な笑みを看守どもに見せつける


「じゃあなクソやろうども、最低な監獄生活だったぜ!!」


仮面を被り、開けた穴に背中から倒れるように飛び降りる。天と地は逆さになり、しばらくの浮遊体験、そして背中から羽を出し、力強く羽ばたく


もう夜は開けつつあり、月は消えつつ、太陽は見えつつあった


「旅立つにはうってつけだな。」


[確かにね。さぁ、最後の復讐を、友に害なす敵を粛清しに行こうじゃないか。]


「あぁ、待ってろよ!狂信者!!」

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