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4、復讐者が見るのは過去か未来か、それとも異世界(今)か。

予想外の展開に巻き込まれる復讐者だったが、いよいよ解決する時が来た。


立ち去る復讐者と、それを止める予見者。


この予想外な行動が2人をどこに誘うのだろうか。

 

 暖かな温もりを感じて目覚める。


 目の前には男が一人横に寝ていて、私はそれに抱きつく形になっていた。


「やっとお目覚めか。」


「うん…おはよう。」


 そうは言ったが再び意識は夢の中に向かって落ちていく。


「おい起きろ!お前が起きないといつまでもこのままなんだよ!」


 しかし強引に叩き起こされ嫌々起き上がる。


「むー…まだ時間あるじゃん、寝かせてよ……」


 ごしごしと目をこすり相手をよく見る。


 顔に見覚えはないが、背丈や体つきにどこか引っかかりを感じる。


 どこであったのだろう。割と最近だと思う…


「うー…もしかして復讐者リベンジャー?」


「やっとかよ…まぁいい俺はもう行く、じゃあな。」


 それだけいいさっさとその場を去ろうとする。


「待って、色々と聞きたいことがある。」


「あ?あー……んじゃついてこい、話してやる。」


 少し悩むような仕草の後ついてくるよう指示され、まだ眠い体を叩き起こしついて行く。


 しばらく歩くと喫茶店に入る。


「コーヒーとトーストにするがお前はどうする?」


「オレンジジュースとトースト。」


「わかった、おい注文いいか?」


 復讐者リベンジャーは店員に注文をする。


「で、どこから話そうか……まぁ順を追って話そう。まず俺が復讐を決めたわけだが……」


 ーーーーーーーーーー


 これは転移する前の話。


 まだ暑さの残る九月の頭、俺はとあるアイドルのライブ会場に来ていた。


 ライブの開始を今か今かと待ちわびながら列に並びようやく会場内に入ろうとしたその瞬間、出たのは狭い空間。


 待ちわびていたはずの広い会場とは真反対のこじんまりとした息苦しさを感じる。


 何が起きたのか分からず慌てふためいていると一人の少女が話しかけてくる。


「おめでとうございます。突然ですが、あなたは異世界へ転移する権利を得ました。」


 いきなりのことでさらに困惑した。


 少女が発した言葉を頭の中で繰り返す。


「異世界に転移だと…?今このタイミングでか……??」


「はい、あなたぐらいの歳の人が夢見て憧れる、異世界転移です。」


「んだと……ふざけるな!!!」


 ありったけの怒声をあげ、講義をする。


「お前な!俺がどれだけ今日という日を待ち望んでいたかわかるのか!?やる予定もなかったバイトを始めて!手に入らなかったチケットを高い金払って裏ルートで手に入れて!!服装だって3万かけて全部揃えたんだぞ!!今日という日のために!なのになんだ異世界転移って?頭おかしいんじゃないのか!?!?戻せ!今すぐに!俺がいた世界に!!!!」


 感情の高ぶりに身を任せこの意味不明な状況対し、意味不明な不満を全て吐き出す。


「そうだったんですか……えっと非常に言いにくいのですが、ここから元の世界に戻ることはできません。」


 引き気味に、だがしっかりと元の世界に戻れないことを告げられ、あるわけないと疑う気持ちと、本当にそうかもしれないという気持ちとがぶつかり合い一瞬の迷いが生まれる。が、すぐさまあるわけがないと割り切った。


「そんなわけがあるか!なんでこっちに来れて向こうには戻れねぇんだよ!教えろよ!」


「えっとですね、あなたがここに来た瞬間、向こうの世界ではつじつま合わせが始まってまして、今戻ったらそのつじつま合わせに巻き込まれてあなたは消えます。」


「………え?消えるって、消えるの?」


「はい、あなたはもう存在しないので、消えます。」


 それを聞いて音を立てて、心と膝が崩れる。


 消える……というか消えたのか……俺のこの半年に渡る努力が………?この日のために生きて来た俺の全てが……もう、ないのか……???


「な、なので異世界へ行くしか道はないんです、ごめんなさい。」


 もうこの状態になってしまったら彼女が発するどんな言葉も入って来ない。だが彼女はそれでも説明を始める。


「あなたにはこれから行く世界で、他の転移者と協力して世界を滅ぼす魔王を倒して欲しいのです。」


 他の転移者という言葉に反応する。


 そうすると他にも転移者がいるということなのか?だとしたらそいつらはきっと喜んで転移を受け入れたのだろう。


 絶望を胸に転移する俺と、希望を持って転移する他の連中、そう考えると腹の中から怒りの炎がフツフツと湧き上がる。


「わかった行ってやるよ。」


「ありがとうございます、そう言ってもらえて嬉しいです。」


「ただし!一つ条件がある。」


 語を強く発し、相手を睨む。


「チートスキルを復讐者らしくしろ、条件はそれだけだ。」


「復讐者らしく、ですか?正義の味方みたいなスキルではなくて?」


「あぁ、俺は復讐する!異世界と、そこに渡った奴ら全員に!そう決めたんだ!」


 それを聞いて困惑したような表情になるがすぐに近未来的な板を出しピコピコといじる。


「設定が完了しました、これから異世界に飛ばします。では良い旅を。」


 足元が大きく開き下に落ちて行く。次第に意識が遠くなり、消えた。


 ーーーーーーーーーー


「これが俺が異世界に転移した時の話。で、ここからも続くんだが…」


「一つだけいい?」


 熱弁している間を挟むように少女が口を出す。


「なんだ、質問か?」


「しょうもない。」


 しかし俺の熱弁は大して響かずそれどころかたった一言で片付けられてしまう。


「んだとゴラァ!!お前にはわからねぇのかよ!愛するものを失った悲しみが!もう2度と会えない喪失感を!」


「そんなことより早く食べて。冷めてる。」


 いつの間にか運ばれて来た食事を口にする。確かに冷めていたがそれでも美味しかった。


「それと、なんで私の隣にいたの?もしかしてロリコン?」


「んぐっ!んっ!んっ!ごくん……ゲホッゲホッ、ちげーよ、お前をここに運んだらお前が抱きついて離さなかったんだよ!」


 実際にあったことを言ったが疑いの目しか向けられない。


「信じられない。」


「本当だよ!お前自分の寝相の悪さとか気にしたことないのか?」


「ない。指摘してくれる人も居なかった。だから私に言わせれば前世に執着するあなたの気が知れない。」


 はっきりとは言っていないが複雑な事情があったことがうかがえる。


「あー…なんかすまん、複雑な事情があったんだな。」


「別にいい、随分前に諦めたことだし今更気にすることじゃない。」


「そうか、誰にでもあるんだな諦めなきゃいけないことっていうのは。」


 なぜか意外そうな顔をして彼女はくすりと笑う。


「何かおかしいことでも?」


「ううん、わかってくれる人にあったの初めてで、少し嬉しくなっちゃった。」


 複雑な心境の中最後の一口を一気にほうばる。



復讐者の内面が次々と明かされていく。


次に見せてくれるのはどんな表情だろうか。


次回「復讐者と予見者。」

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