3、復讐者の災難
予見者を倒し順調に復讐を進める復讐者。
森の中に1人たたずむ彼は何を思うのか。
「ふぅ……疲れた。」
仮面とコートを脱ぎ、戦いで火照った体に夜風を当てる。
「おっと、こいつを町に運ばなきゃな。」
自分で倒しておきながらだが下手なやつに殺されたり、変な事をされては転移者としての使命が果たせなくなる。
足元で倒れる銀髪の少女を担ぎ上げ森からそれなりに人の手の加えられた道へと出た。
その道を月明かりを頼りに歩く。
今までこんな道を歩いたことは一度もなかったが、意外と明るくて歩くには困らない。それに星も綺麗だ、見ていて飽きない。
だんだんと自然の明かりではない、人口の明かりが見えてくる。
それなりに栄えた町で、街というには少し小さいが住むには困らないだろう。
「さてと、こいつを適当な宿にぶち込んでさっさとお暇しましょうか。」
宿を見つけるのはそう難しくはなかった。
少女を背中におぶり直し、宿に入る。
「いらっしゃい…って、どうしたんだい、その少女?」
「この先で倒れてて、とりあえずかつぎこんだって感じです、はい。」
「とにかく休んでいくかい、まけとくよ?」
「ありがとうございます、とりあえず1日だけで。」
「あいよ、これ部屋の鍵。」
鍵を受け取り二階へ登り、部屋に入る。
部屋は思ったよりも俺の好みに合う簡素で使いやすく、木のいい匂いがした。
おっと、そんなことよりこいつをとっとと置いて逃げなければ。
ベットに降ろし、横たえようとした時ある異変に気付く。
降ろすことができないのだ、ガッシリと抱きしめられ離そうとしてもビクともしない。
そうこうしているうちに重心を後ろに崩され少女を背に添い寝をする形になる。
「あったかい……」
いやあったかいじゃねぇよ、てかなんか濡れてるし、これよだれじゃねぇのか?だとしたら相当汚ねぇ。
解こうと何度も抵抗するもやっぱり解けない。
そうこうしていると、バタンと隣で扉が閉まる音がする。隣にも泊まってい人がいるらしい。しばらく耳をすませていると押し出されるような息に紛れてわずかに漏れる声が聞こえる。
おそらく大人の楽しみってやつだろう多分。
そのままでいると何かが軋むような音も聞こえてくる。なぜか一人で気まずくなっていると寝返りを打った為に拘束が少し緩む。
逃げるなら今だと思ってベットから抜け出そうとするが強い力で手を握られまた戻される。
しかも最悪なことに今度は面と向かい合う形になった。色々とまずい。
匂いとかはもちろん耳元に吹きかけられる吐息や無いと思っていた胸が独特の柔らかさを持って押し当てられ、ギリギリとメンタルを傷つける。
「だれか………助けて………」
耐えられずに弱音が漏れる。しかしその声はどこにも届かず、暗い夜に吸われて消えてしまった。
抵抗むなしく逃げ出すことができず同じ寝床で一夜を明かした2人。
復讐者にとっては予想外の事だったが、この出会いが2人を変えていく。
次回、「復讐者が見据えるは過去か未来か、それとも異世界(今)か。」