17、復讐者→犯罪者
怪しい力に取り込まれた裁断者との戦闘にけりをつけた復讐者
その喜びを味わうまま束の間、新たな問題が発生する。
裁断者が倒れる横でヒタヒタと手から血が流れ落ちる。
彼女が纏っていた黒い力はなくなり、苦しそうに息をする。
「街まで運ぶぞ、手を貸してくれ。」
「その前に手とかの傷。」
予見者が軽く杖を傾けると光の粒子が全身を包み、みるみるうちに怪我が治っていく。
痺れを残してはいるが動かないよりは全然マシだ。
「悪い、ありがとう。」
感謝するが返事はない。
「どうかしたか?」
黙っていることを疑問に思い指摘すると体重を乗せ、抱きしめられる。
「よかった…生きてて…」
俺の体を確かめるように、更に腕に力が込められる。
「本当にっ…死んじゃうかと…」
顔を埋めているためどんな顔をしているかはわからないが涙ぐんだ声からだいたい察しはついた。
「悪いな、心配かけて。」
安心させる為の一言をかけ、軽く頭を撫でる。
「落ち着いたらこいつを宿に運ぼう。」
頭が少し動いたってことはわかったということか。
正直胸骨が圧迫されて少し苦しいが黙っておこう。
「いたぞ!あいつだ!」
だが予想外なことに、全身に鎧を纏った兵がガチャガチャと音を立ててこちらに走ってくる。
声のトーンからして穏便に済まそうとしている様子ではない。
「ごめん、少し乱暴するわ。」
強引に予見者を引き剥がし、強めに見えるように押し倒す。
もう手遅れかもしれないが一応仮面を付け、その場から全力で立ち去る。
今打てる最善の手だったと思う。
だけどあいつの顔、すごいくしゃくしゃだったな。
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窓に応急処置として板が打ち付けられた薄暗い寝室で裁断者の目覚めを待つ。
復讐者が逃亡してから数時間経ったが、未だ目覚める気配はない。
それに問題はそれだけではなく、スラム街を襲撃した犯罪者として復讐者は指名手配される方向に話が進んでる。
私はあの時の演技が効いたらしく容疑者からは外れ、裁断者はこの街の厚い信頼や、状況から見て外された。
「あー…新しい転移者が心配なのはわかるけどさ、そろそろ晩飯に行こうぜ?腹が減ってしょうがねぇ。」
新しい、もうその言葉で傷付くのは私一人になってしまったのだろう。
「ん、行こう。」
なるべく平静を装って守護者と接するように心がける。
「さてと、今日はどこに行こうかな…予見者はどこ行きたい?」
「お勧めのところでいい。」
「あー、多過ぎて逆に困るな…うーんっと、気分的にあの店だな。」
案内された道を歩いて行く途中、掲示板の前に集まる人溜まりが目にとまる。
「ん?なんか新しい記事でもできたのか?」
野次馬を押しのけて無理やり見た守護者は驚愕の声を上げる。
「なっ!復讐者がお尋ね者?!?!」
苦渋を飲んだように口を固く結び杖を固くにぎる。
「あいつ最低な奴だけどお尋ね者になるほど悪い奴じゃ……おい、何か知ってるか?」
「わからない。」
「お前あの転移者と一緒に探しに行ったんじゃないのか?」
「私は…私は会えなかった。」
つきなれない嘘をつく。
「んー、まぁ詳しいことは被害者が起き次第ってことかな。」
そう行って特に言及する様子もなく道を進む。
憲兵隊に追われ再び街をめちゃくちゃに走りまわる復讐者。
そのいく先は幸か不幸か。
次回、「犯罪者の時間稼ぎ」