16、復讐者と黒い力
2人の前に現れる、変貌を遂げた裁断者。
襲いくる剣劇をくぐり抜けることはできるのだろうか。
裁断者は腕をダラリと垂らし、手には禍々しく光る刀を握っている。
後ろで結んでいたはずの髪はほどかれ、まるで何かに取り憑かれたような、いや実際に復讐という悪霊に取り憑かれているのだろう。
「わたしも一緒に戦う。」
「辞めろ、今のあいつからは理性を感じられない。何かの拍子に誤っておまえまで殺しかねない。」
「でも、一人で勝てるの?」
さすがに予見者にもわかるようで、正直あれほどの殺意を持つ人間は相手にしたことはない。だがそれでも裁断者を救わなければいけない。
「勝つさ、復讐者としてじゃなく同じ転移者として。」
「信じるよ、その言葉。だから死なないで。」
「さすがに死ぬなんてドジは踏まねぇよ。」
予見者の半歩前にでてフゥッと息を吐き、ビシッと構える。
「もういいかな、予見者。殺しちゃって。」
相手はもう待ちきれないようにダラリと持っていた刀をしっかりと持ち、予見者にも殺気当てる。
その殺気で、警戒したような顔をし、数歩後ろへ下がる。
「もっと下がれ、邪魔だ。」
「う、うん…」
そう警告すると半壊した廃墟から出て行った。
「これで、やっと、殺せるぅぅぅ!」
まだ刀の間合いでは無いが、振り下ろされる。
そして俺を襲ったのは硬い金属ではなく、纏っていた禍々しい光だった。
無理せず躱し距離を取る、しかし代わりに建物が派手に犠牲になってしまった。もう昨日見たいい感じの廃墟は見る影もない。
そんなことを思っていると土煙の中から再び禍々しい光が一閃し、飛び越えるようにして避ける。
先程の間合いより長いため自由に長さを変えられるのだろう。
「まだまだまだまだまだまだまだまだまだ」
土煙の中から伸びた光剣が何度も弧を描き襲いかかる。
避けること自体はこの世界で培った力があるので苦ではない。しかし全くと言っていいほど近づくことができない。
このままだとスラム街がどんどん廃墟になって行ってしまうし、早めに終わらせなければ取り返しのつかないことになってしまう。
ここは大怪我も覚悟で挑まなければ最悪の事態になりかねない。
腹を決めて裁断者の斬撃に踏み込む。
目で見てから避けるのでは遅い、相手が次にどう動くか、こちらに避けたらどうするか、頭で考えて避ける。
「ちょこまかとぉ!うざい!!」
刀は鋭さを増して襲いかかり服を裂き肌を露出させ、血が飛ぶ。
斬撃の嵐のような猛攻をくぐり抜け、あと一歩踏み込めばこちらの間合いになる距離。
このまま踏み込んでしまおうかと考える。だが踏み込んではいけないと俺の直感が騒めいている。
直感の言うとうりに踏み込まない方が吉かもしれない、でもそれでは一方的な展開は変わらない、ここは打開のために踏み込もう。
斬撃の刹那に潜り込むように踏み込んで相手の前へと飛び出すその瞬間、僅かに裁断者は微笑む。
咄嗟に腕を顔の前でクロスさせるが、御構い無しに裁断者の周囲から無数の黒い棘が飛び出す。
「っっく!!」
黒い棘は腕や体を貫き、さらに傷を増やす。
「あははぁっ!引っかかった!!でもまだまだこれから!これからだよぉぉ!」
刀から伸びる光と棘となった力を刀に集中させ、より凶悪さを増す。
「復讐者!」
「来るな!来たってどうしようもならねぇ。」
くそっ、こんな時のために少しでも魔法を習得しておけばよかった、全然次の手が思い浮かばない。
ユラユラと左右に揺れながら一歩一歩着実に近づいて来る。
何か手はないか?攻撃を避けてこちらが攻撃を…いやあの刀を見る限り、一撃で決めなければ死ぬ。じゃあどうする?どう動く?
「素直に死ぬ気になったんだ……じゃあそのまま死ね!!」
刀を高く上げこちらへ踏み込んで来る。
何かないか、言ってしまえば刀をぶっ壊せる見たいな……ん?待て刀…
恐ろしく危険な発想が出てきたことに死ぬほど呆れそうになるが、どの道これに賭けるしかないか。
「死ねぇぇぇ!!」
「「プロテクト」!」
両手に魔法でバリアを作り、さらに痛みを具現化し、より頑丈にを手を覆う。
振り下ろされる刀をタイミング良く両手で挟み込む。要するに真剣白刃取りだ。
強い力で上から押さえつけられ、刀身に触れただけだというのに纏ったバリアが勢いよくガリガリと削られている。
「往生際が、悪い!!」
刀により力が込められ地面がベキベキと音を立てて体を埋めていく。
それでも歯を食いしばり全身全霊の力を腕に込め、刀をへし折ろうと試みる。
二つの力と力が交じり合い、強力な衝撃波が辺りに飛ぶ。
この拮抗を制するのは、果たして。
「るるぁあぁぁぁ!!」
ピシリと刀にヒビが入り、最後には砕けて二つに折れる。
「なっ…!私の……刀が!?」
へし折ったはいいが両手に激痛が走り、見ると手のひらの皮膚は削りきられ、真っ赤に染まっていた。
拳を作ることなど到底無理だが手刀でなんとか…ならないがここは気合だ!
「パイルバンカーインパクト!!!」
痛みを堪え具現化させた杭打ちは腹を通り抜け、ピクンと仰け反り、掠れたような声を上げて崩れる。
砂埃と彼女が倒れる音の後に、独特の静寂が訪れた。
無事裁断者を止めることに成功した復讐者だったが次に待っていたのは最悪の終わりだった。
次回、「復讐者→犯罪者」