15、復讐者はなぜ復讐するのか
それぞれ別々の目的で復讐者を探す予見者と裁断者。
誰にも見つからないように弱った体で息を潜める彼を最初に見つけるのは、裁断者か、予見者か。はたまた死神か。
何かが近付いてくる音で目がさめる。
相変わらず体は痛みを訴えるせいでろくに動けやしない。
それでも首だけを動かし迫り来る外敵を目視する。
「やっぱりここにいた。」
「なんだ、予見者か。看取りにでも来たのか?」
なるべく皮肉を込め、弱い自分を精一杯隠す。
「「エクス・キュア」」
いきなりだったが予見者が俺を回復することは予想できなかった展開ではない。おそらくこの後俺に聞いてくることも、少しは予想できる。
「俺に聞きたいことがあるな、二つぐらい。」
「大体合ってる。」
思っていた通り聞きたいことがあって来たらしいが、いつもの様な何事にも興味がない眠たそうな顔ではなく、深刻そうに黙って俺が寝ている横に膝を抱えて座る。
「悪いが俺が答えられるのは一つ、昨日俺が言ってたことだけだ。」
予見者の反応を伺うが何も言わない、黙って俺の話を聞くつもりなのか、それともそこまで思考が回らないのか。
「前俺が言った事は正直強がりみたいなもんだ、本心じゃない。」
どうやったら相手に伝わるのか、頭の中でぐるぐるとこねくり回し言葉を選ぶ。
「最初ここに来た時はさ、一番最初のクエストで死ぬもんだと思ってたんだよ。カエルに頭から丸呑みされて終わり、そんな未来だと思ってた。だけど結果は違った、一切の躊躇もなくカエルを斬り殺してたんだ。それも嬉々として……それがたまらなく怖かった。」
予見者はとても静かに話を聞く。
「わかるか?心の奥底から殺したくないと願っているはずなのに、殺したという事実を突きつけられる感覚が…何度やってもそうだ、自分の中に別の何かが入り込んで体の自由を奪って消えていくんだ。殺したという事実だけを置き去りにして。」
すこし乱れた呼吸を落ち着かせる。
「それを繰り返しているうちに、だんだん俺の耳元で囁くように誰かが言うんだよ、『殺せ』って。そこでようやく気がついたんだ。俺の中に今までの俺とは正反対の俺生まれたことに。いつ、なぜ生まれたかはわからない。だけど俺の中にいる以上、これも俺で。ただその事実を受け入れられずにまた自問自答を繰り返しているうちに一つの結論が出たんだ。」
一呼吸を置く。
「この俺は造られた俺なんだって。それで現実の俺は造られた俺を否定したい、でも自分を否定することはできない…だから同じようなやつらを倒せば自分を否定できるんじゃないかって。幸せな奴らに不幸せな俺が復讐を、なんて程でやってるが、着飾っているだけで、本当はこの世界の俺よりも現世の方が強いって証明したい、つまりはエゴだ。」
「そのエゴで自分が死んでもいいの?」
ここまで静かに聞いていたのに急に口を挟んだ。
「……なるほど、大方裁断者が俺に復讐でもするとでも言いだしたのか。だがな、お前にそれを止められたか?」
その質問に対し、予見者は黙って首を横に振った。
「だろ?それに復讐者を名乗ってる以上、誰に、いつ復讐されても良い覚悟だよ。例えそれが今でもな。」
ポンと軽く予見者の頭に手を置く。
「俺は俺自身を確立するために戦っている
まだ少し痛む体に無理を言って立ち上がり、その場を立ち去ろうとするが不意に裾を掴まれる。
「昨日渡した奴、ちゃんと受け取ってもらえなかったから。」
おそらく昨日の紙袋の中身だろう、赤黒い染料で模様が描かれ、額には綺麗な宝石が埋められた白い仮面を手渡される。
「へぇ、俺好みの仮面だな。ところでこの模様って意味あるのか?」
「厄除けだって。」
「厄除け、厄除けかぁ…そう聞くと手放しで喜べないな。」
仮面の意味を聞いて微妙な顔をしているのにもかかわらず、予見者はにこやかな顔を見せる。
「渡した相手が微妙な顔してるのに嬉しそうだなお前。」
「見たいものが見れたから。」
人が戸惑っているところを見て喜ぶような女だとは思ってなかったが、最後に意外な一面を見れたと思えば、許せなくもない。
「じゃあな、あいつらと仲良くやれよ。」
「あ……そのこと、なんだけど。」
今度こそと思ったのだがまた引き止められる。
てかここはいい感じだしもう行かせてくれよマイペースか。
「今度はなんだよ、まだ質問あるのか?」
「その、昨日倒した守護者が」
最初の言葉を言いかけた時にはなんとか形を保っていたはずの廃墟はほとんど吹き飛び、古い影を失った地面に新しい影が落ちる。
「みぃぃつけたぁぁぁぁぁ!!!!」
今まで感じたことのないほど迸る殺気に近い狂気を発する少女に、前見た面影は全く感じられなかった。
彼女が何の目的でここにきたか、それを頭で考えるよりも早く体が理解し、予見者の盾になるように滑り込む。
「予見者、お前は逃げろ。最悪の場合タダじゃ済まない。」
「逃がさない…もう誰も!私の元から離さない!!だから…あなたの命、私がもらうね?」
まるでこれからは1人で戦うかのように胸の内を予見者に明かした復讐者。
そんな彼を復讐心に燃える裁断者が現れるが、その姿に前見た面影は失われていた。
彼女を包む黒い力に彼は何を思うのか。
次回、「復讐者と黒い力。」