14、災い
復讐者は傷ついた体であてもなく街を彷徨う。
1人残された予見者は疑念を抱くも、決意を新たに朝を迎える。
もう何度額のタオルを入れ替えたのだろう。
既に街の灯は無くなり、長い時間が経った。
そろそろ空が白み始める頃になるが、一向に目覚める兆しがない。
「裁断者、そろそろ寝たら?」
どうやら起こしてしまったようで少し目に眠たさを残しながらも、心配そうに予見者が言ってくれる。
「ありがとう、少し休むね。」
交代するように自分の布団に入りあの男の顔を何度も思い浮かべる。
私の大切な仲間を傷つけられ黙っているわけには行かない、この私があなたのくだらない復讐に終止符を打ってあげる。
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ゆっくりと固く閉じられた瞼を開ける。
体は重たさを感じさせ、ぼんやりとした頭は思考を鈍らせる。
「おはよう、守護者。」
まだあまり見慣れない少女から挨拶をされた。
えっと、昨日何があったんだっけ?確かクエストから帰って、風呂に入って、それで仮面を買ってから……ん?仮面?
「あっあいつ!復讐者だよ!復讐者!あの野郎どこ行きやがった、絶対にあいつの鼻を明かしてやる!」
「落ち着いて、病み上がりなんだから寝てないと。」
「このぐらいなんてこっ……ってぇ〜」
軽く腕を回すと肋骨のあたりから痛みが全身を走りたまらず痛んだ箇所を抑える。
「一応繋がってるけどまだ完全じゃない。だから今は休んで。」
苛立ちを隠せずに荒く溜息を吐くと重力に任せてベットに横になる。
「あ、確認したいことがあるからスキル使って見て。」
思い出したように予見者はスキルを使って欲しいと頼まれる。
「ん?まぁいいけど、「絶対防御」。」
イメージした通りに緑色のバリアが右手を覆う。
「…おかしい、復讐者はスキルを奪うはずなのに、なんで?」
「そんなことできるなら最初からしてるだろ。」
真っ当なことを言ったはずだがそれでも納得できないような顔で予見者は呻いた。
その時バンと勢いよく扉が開き青髪の女の子が入ってくる。
後ろに束ねたポニーテールがふわりと可愛く揺れ、胸もいい感じに揺れる。
顔も悪くない、というかこれ以上ない理想形だ。
「守護者!よかった、このまま起きなかったらどうしようかと思って、私すごく心配で、心配で…」
思わずどきりと胸が弾む。
なぜ初めて会う少女が自分の名前を知っていて、というかなんでこんなにも親しげに心配してくれているのだろう。
「えっと、俺のファンの子?とりあえず心配してくれてありがとう、少し休めば大丈夫だから。それよりさ、このあと空いてない?一緒に遊び行こうよ。」
しかし相手は喜ぶどころか絶望したかのように目から光が消える。
「今の冗談じゃないよね、私のことちゃんと覚えてるでしょ?だってあんなにもお互い愛し合って」
「裁断者、少し2人で話しがしたい。」
裁断者と呼ばれた少女は予見者と一緒に隣の部屋に戻った。
「なんだったんだあの子。あーでも俺らと同じ転移者ってことは間違いないな。」
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守護者を1人残しパタンと寝室の扉を閉める。
「そんなっ…なんで私との記憶がないの?もしかして記憶喪失?」
「いや、それはない。私のこととか復讐者のことは覚えてたから。」
「じゃあ!じゃあなんで私との、一番大切な記憶だけが欠けてるの?!さっきの態度はわざとやってるんじゃない、本当にわからないって時の態度だったし…もうわからない、なんでこんなことになってるの!?!?」
裁断者はひどく取り乱し、真っ青になった顔を覆うように手を当てる。
安心させるような一言をかけてあげたいが下手に何か言うとかえって混乱させてしまうかもしれない、そんな不安が私の喉を塞ぐ。
「ねぇ、予見者は何か知らないの?復讐者がどんな力なのかとか、復讐者が何かしたとかさ!」
何も言えず黙っていると光の消えた目で私に迫る。
その悲しい瞳を自分はわかっているはずなのに、それから逃げてしまう。
「わからない…私は能力しか奪われなかった、だから今回のことについては本当に初めての事…」
口から出る言葉は弱く、か細い。まるで怯えているような言い方をしてしまう。
違う、本当はあなたを励ましたい、安心させたい、そんな言い方を、そう言うことを言いたいのに、うまく言葉を使えない。まるで自分の物ではないように勝手にそう出てしまう。
「あぁそうなんだ、やっぱり復讐者が悪いんだよね、だったら最初に会った時に殺しておくべきだった。」
私の後悔は一番最悪な形で裁断者の口から放たれる。
「なんで、そんなことになるの?」
「なんでって当たり前じゃん!私の大切な人を奪われたんだよ?!なんでそれで恨まないでいられるの?なんで何もしないでいられるの?!そうよ、復讐よ!!今度は私が復讐するの!あいつに!!」
引きつった口角で私じゃない、ここにいない男を見ているような目をして裁断者は武器を取り、部屋から飛び出す。
その光景をただ眺めることしかできなかった、止めることなんて、私にはできなかった。
「おい、なんかでかい音したけど大丈夫か?」
音を聞いて心配して守護者が顔を覗かせる。
「大丈夫。」
出来るだけ平然を装おうと声を絞り出し、それだけを言う。
本当は全然装えていないことは相手にはバレているだろうが守護者は特に何も言わなかった。
「少し、出かけてくる。」
裁断者を止めるためなのか、復讐者に話を聞くためなのかわからない、でも2人を会わせてはいけないと言う意志だけはあった。
「ちゃんと仲直りしろよ。」
部屋を出る際の悪気のない守護者の言葉に居た堪れない気分を覚えた。
無事に目覚めた守護だったが、裁断者との記憶を失っていた。
そのことに動揺し、錯乱する裁断者。
2人と復讐者の間で揺れる予見者。
この物語はどこへ向かい、終わるのだろうか。
次回、「復讐者はなぜ復讐するのか。」