9、復讐者のジレンマ/予見者の買い物
意外にも目的の転移者2人と早々に接触した復讐者。
2人を倒すための策とは…
あれから少し時間が経ち、もう少しで昼時といった時間帯。
風でバサバサとコートが翻る中、全体を見渡せる教会の十字架の上で見渡す。
狙いの二人は遠くでよくわからないが予見者を連れ室内に入って行く。
この際詳しくはわからなくともだいたい場所がわかればいい。
いつものように正確に殺気をぶつけ敵を炙り出す、がしばらくしても相手は室内から出てこない。
おかしい、いつもはぶつけるとすぐに出てくるはずなのに、もしかして気づいていない?
いや、そんなはずはないと思うが、これも相手の戦略だろうか。
もしこれが戦略だとするならば今は離れて相手の出方を見たほうがいいだろう。
教会の上から飛び降り、あまり音を立てずに着地する。
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「裁断者、気にしないの?」
飛んで来た殺気に物ともしないことに疑問を覚え、予言者は青髪のポニーテール(裁断者)に質問をする。
「んー、気にしないってわけじゃないけど、私たちにピンポイントで殺気を当てるんだから悪い人じゃないかなって。」
落ち着いたようにしてそう語る。
「そうそう、大量虐殺したいならこんな回りくどいことしないし、第1襲ってこない臆病者だ。焦って話を進めることはないよ。」
二人のやけに落ち着いた物腰から相当な数の敵と修羅場を潜り抜けてきたことを予見者は察知する。
「それよりもプレゼントの服どうするの?」
先ほどの殺気を気にしつつも、予見者は少しうつむくようにして思考する。
「よくわからない。」
「うーん、それは困ったわね…その人の特徴とか、これだったら似合いそうとかっていうのはないかな?」
「いつも黒一色、あんまりそういうの興味ないみたい。特徴はないのが特徴。」
腕を組み唸り声を上げて裁断者は考え込んでしまう。
「じゃあ好きに買えばいいんじゃないか?使うかはともかくもらっただけで嬉しいもんだぜそういうの。」
「あ、守護者がまともなこと言ってる〜。」
茶化すように笑いながら赤髪の少年に賛同する。
「わかった、だったら仮面がいい。」
「仮面か、また随分と変わった趣味を持って人なんだね。」
「結構好んでつけてる。」
「だったらここより市場の方がいいな、いろんなところからいろんな品が来るから1日見てても飽きないぜ?」
「今日はお面見るだけだからそんな長居しない。」
守護者と呼ばれた赤髪の少年は不満そうに息を漏らすが何も言わずについて来る。
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3人は談笑しながら歩き、市場へと向かった。
いたるところに出店が並び前にいた町よりも多くの活気を感じさせる。
「この奥に世界中の仮面を集めたお店があるんだ。誰も近寄らないからここでは少し奥にあるがな。」
「さすが毎日来てるだけあるね。」
「ここぐらいしか暇つぶしにならないんだよ。」
守護者は嫌味を笑い飛ばし人混みの中をズカズカと歩く。
その後ろを歩いて行くと、どこまでも絶えることのない人の波とは別のところにあるような異彩を放つ一つの店が見えてきた。
「あれがお面屋、不気味な雰囲気だけど店主はいい人だから安心しろ。」
中に入るとニコニコと笑う店主が真正面に座っていた。
「いらっしゃい、ここは世界中のお面が集う福面屋。どんなお面をお探しですか?」
「なるべく質素で顔全部を覆えるようなやつ。」
出来るだけ復讐者が好みそうな条件を店主に伝える。
「そうですか、そうなりますとこちらとかはいかがでしょう。ここからずっと東に行った村で使われている厄除けの仮面です。」
取り出してきた面は白の仮面がベースとなっていてそこに赤黒い染料で模様が入れられている。
「額の石は神の力が宿っているそうですよ。」
厄除け、縁起はいいかもしれないがどちらかというと厄を作る立場なので微妙な表情をするかもしれない。
でもそれも見てみたい、そんな好奇心でこの仮面を買う。
「毎度ありがとうございます、今後ともご贔屓に。」
「喜んでくれるといいね。」
店主の言葉を背に裁断者が話かける。
「うん。」
少し早くなる鼓動と不安が入り混じった心境で、紙袋を軽く抱きしめる。
「さてと、買い物も終わったしそろそろ相手してあげますか。」
「えぇ、そうね。予言者はどうする?それ渡しに行くの?」
相手の気遣いを断ろうと思ったが、あいつは多分倒した後には宿に戻る、だとしたら宿で待っていた方がいいだろうと考え、頷く。
「そう、じゃあ頑張ってくるね。」
街の外に向かって二人は走り出した。
無駄に時間を食わされた復讐者。
いよいよ対面し力が交わる時、赤き火球が横槍を入れる。
次回、「復讐者と守護者」