プロローグ
闇の渓谷の奥深くに鎮座する一体の黒竜、邪龍ヴリドラ。
人類に仇なす敵を排除すべく転移者、雷操者は仲間と共に邪龍の巣へと進む。
「サンダァァ…ブレイドォォォ!!」
空高く掲げた剣を振り下ろし、空気を切り裂く轟音と、全てを焼き尽くす裁きの稲妻が邪龍ヴリドラを貫き、焼き尽くす。
「グォォォォォ!!!………………」
最後の叫びが邪龍の巣に響き、木霊して消えていった。
「はぁ、はぁ、はぁ、やった…俺たちは勝ったんだ!!」
乱れる息を混じらせながら高々と勝利を宣言する。
「やったわ!流石は雷操者、絶対に倒せるって信じてた!」
仲間の一人、赤髪の少女が駆け寄ってくる。
「いや、みんながいてくれたからなし得たことだよ、ここまでついてきてくれて本当にありがとう。」
「そんな謙遜しなくてもいいわよ、素直に受け取りなさいな。」
耳の尖ったエルフがそう告げる。
「大丈夫ですか!?怪我とかしてません?」
最後に来てくれた銀髪の子は勝利の喜びよりもまず先に自分の体の心配をしてくれる。
「大きな怪我はないけど、少し怪我をしてしまったから、治してもらってもいいかな?」
「はい!では早速……「キュア」!」
緑色の魔法陣が僕達を包み優しい光が全員の傷を癒してくれる。
「ありがとう、お陰で楽になったよ。」
「私は当たり前のことをしただけですし、雷操者様の方がずっとずっと素晴らしい活躍をしています。」
頬を赤らめて恥ずかしそうにそう言われる。
「当たり前なことだとしても感謝はさせてくれ、ありがとう。」
今にも顔から蒸気が出そうな勢いで真っ赤に燃え上がり、それを姉である赤髪の少女にいじられる。
「さぁ、遊んでないで帰りましょ。雷操者お願いね。」
「では帰りましょう、「ゲート」。」
先程現れた緑色の魔法陣とは別の、赤い魔法陣が四人の足元に刻まれ、徐々に足元から頭に向かって上がっていく。
すっぽりと魔法陣に覆われると浮遊感と、暗闇を感じた途端、眩しい光が暗闇を引き裂く。
「おかえりなさいませ!勇者様!」
ゲートをくぐるといきなり大勢の民衆や所属ギルドのギルド長、果てには国王陛下までいらしている。
「よくぞ、邪龍ヴリドラを討ち取り、生還してくれた。国王としても誇り高い。ありがとう、雷操者君。」
冠を被り、赤いマントを羽織ったいかにも国王にふさわしい格好をした男性に祝福を受ける。
「僕達は今まで通りに人々の苦しみを無くそうと努力をしているだけです。」
いつもと同じ言葉を陛下に返す。
「君のその謙虚だが、頑固なところ、割と好きだよ。まずは旅の疲れを癒してくれ。夜に向けて宴の用意もしている。盛大に楽しもうではないか!!」
苦笑まじりに宴があると知らされる。いつものことだがやはり歓迎されるのは悪いものではないし、みんなと楽しくご飯をたべれることは好きだ。
「口で言う割には、随分と楽しそうじゃない?」
エルフが微笑みながらそう言う。
「当たり前でしょ?国王様が主催するパーティーってどれも華やかで、来てる人たちもみんな可愛いドレスとか着こなしてて……あーあ、私もあんな服着てみたい。」
「おねぇちゃん、そんなもの買ったらいくらになるかわからないじゃない。お金は無限にあるわけじゃないんですよ?」
「いいじゃない、少しぐらい贅沢したって。」
「少しの贅沢もできる余裕はないんです。」
もう見慣れてしまった光景だが、二人の仲の良い喧嘩は少し羨ましく感じる。自分にも兄弟がいたらこんな感じなのだろうか。
「さ、二人とも。喧嘩してないで、ゆっくりしましょう?」
「賛成、まずお風呂行きましょ!早く汗流したいし。」
「あ、待ってよおねぇちゃん!」
元気に駆け出す二人の後ろをエルフがゆっくりと追う。
ーーーーーーーーーー
その後の宴は無事に終わり、数日間滞在させてもらった。
そして今は新たな依頼を受け、王国を出た。
その後いつも通りに無事に依頼をこなし、戻ってこれるはずだった。
目の前にその男が現れなければ。
「我が名は復讐者、我の名の下に罪を定め罰するものなり。よって汝ら……罪あり!」
雷操者一行の前に現れた謎の仮面の男、復讐者。
彼が何故復讐するのか、そもそも勝つ算段はあるのだろうか。
次回、「復讐者現る」