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バギーニャ・フヴォスト〜黒い世界の壊し方  作者: しつマ
第零章 【天のお膝元】
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戻ることのない過去

 お久しぶりです。色々と日常生活にあったのと、設定の基本的な見直しによって幾度目になるかわからない再投稿となりました。こんな状態ですが。見てくださる方に感謝です。

 評価などは作者の励みになるので、出来るだけして頂くと喜びます。


【注意】

ファンタジーらしい表現が頻繁に出てきます。人外は多いですが、人化多めです。

「なあ、最後に聞いてくれるか?」


 その声は、死にかけの人の声だった。もう長く生きられもしない。気力も、体力も、全てが残っていない人の声だった。


「何を、ですか」


 彼はあくまで人間。人間でありながら、己の力のみでこの世界の最上位種を倒し、神をも欺こうとした。それでも神は強い。神とは誰の上にも立つ、最上位者でなければならない。


「お前は……味方、だよな」


 最上者の戦いについてこれた者はいたのだろうか?

 それは今の彼の周りには誰もいないことが証明している。誰も彼には着いていくことはできなかった。だからといってその者達を責めるわけにはいかないだろう。


 絶対者。


 国に住んでいる者であれば王


 村に住む者であれば村長


 集落にいる者であれば長


 教会に所属している者であれば教皇


 そして神はそれらすべての、さらに上にいる。誰にも犯されることのない天界の、更に上位に。この世界で生きている下の者では、神と同じ場に立つこともできないだろう。仮に立てたとしても、当然相手にもならない。


「はい……僕はあなたの味方です」


 そんなことをしようとした男を、ある者は無理と言い、ある者は彼を裏切り、ある者は殺そうとした。





 それでも彼は────





 そんな彼の最後はとても静かなものだった。それまでの争いのことなんて微塵も感じさせない、とっても静かなものだった。


「そうか、それは良かった」

「う、動かないでください」


 動くたびに男の全身から血が溢れ出、力を受けるべき形もなくなった手足が虚しく地面を掻いた。


「とは言ってもな、愛弟子の一人に何にもできないってのも、また変なもんだろ」

「いりません……いりませんよ!」


 転がりそうになった男の体を支えた少年が叫ぶ。


「僕はまだあなたの力の半分も持っていません! あなたが貫く動機も何一つ持っていません! 最初から最後まで、僕はあなたに相応しくありません。だから、だから……あなたから僕がもらう権限はないのです」

「ふっ。そこまで自分を落とすな」


 彼は泣き叫ぶ少年を和める。顔の全てから体液を出している少年は、納得しがたそうに顔を彼に押しつけていた。


「お前は私に勝てたし、私が継がせたい相手もお前しかいない」


 彼はもう一本の腕で少年の頭を退ける。


 いつ見てもはっとするほど、作り物じみた美形である少年の顔は今はない。

 目を腫らせ、鼻水とよだれが垂れている少年の顔がそこにはあった。


「これを返してやろうか」

「えっ……」


 暗い朱色の鞘に入った太刀。彼の身体の大きさで丁度良い大きさのそれは、少年の体には少し大きいように感じた。


「何を戸惑ってる? 元々君のだっただろう」

「ですけど……」

「ああ、これもお前にあげとかないとな。この戦いのご褒美だっただろ?」


 二つ目に彼は、己の首にかけられたプレートを少年にかけた。

 少年が息を呑む。彼が少年に渡したプレートについて知っている者などこの世にはもう殆ど残ってはいない。少年はその残っている内の一人である。彼がこのプレートを少年に託した意味をしっかりと理解していた。


「これで俺は悔いはないってわけだ。安心して死ぬことができる。お前を残すことだけが心残りだが、俺よりもはるかに長い人生だ。どうとでもなるさ。お前は強い」

「そ、そんな僕は強くありません……」

「だから君は自分を下にしすぎなんだよ。でも、時間が解決してくれるかな」


 彼は笑った。


「だって、だって、僕なんて……僕なんて、種族があなたより上だから勝った。誰よりも種族が強かったからここまで生き残った。そこにあなたが教えてくれたものなど何もありません! こんなもの……こんなもの……


 こんなもの!!!!」


 強く握りしめた拳は、力なく彼の体に振り落とされた。




 彼は動かない




 彼は動かない









 彼はもう生きていない。


 今までの相手と同じ、道端に転がる死体と一緒になった。少年の手に持つ物を授けた者は、この世に存在しなくなった。


「嘘……ですよね……」


 動かない


「嘘…………」


 動かない死体を前に、少年はただ涙を流す。そこは天界に最も近い場所。人が住む所など何処にもなく、彼の死体もまた誰にも漁られることはない。静かに時を過ごし、骨、地面へと帰って行くだけ。


 彼が過ごしていた、彼が戦っていた記録も何もない。どれもこれも全て誰かが戦果を掠め取った。


 ここに来れる者も少年を除けば殆どいないだろう。


 彼に関する心配はない。


 少年にあるのは一つだけの問題。依存していた者が居なくなればどうやって生きて行くのか、だけ。そして少年には力があった。全ての技術を塵に出来るほどの力が。





 だからこそ少年は願った。かつての彼と同じことを





「世界を壊そう」









 その日、天界では奇襲の形をとられたことによって、雑兵である天使の約五割、およそ半数を喪失。

 さらに三等天使である座天使が二体。最上位であるセラフィムが一体喪失した。


 この犯人は各天使によって即座に排除され、天界より落下。





 地上における最上位種である、エンシェントルート一体の殺害を確認した。






 そして、天界での襲撃より数十年後───

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