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いつか消えるその日まで  作者: 月兎
第一章
9/17

大きな木の下でまた何度でも 8




『「あんたが、魔女?」



にわかには信じられませんでしたが、彼女の容姿を見るとなんだか納得する部分もあり、否定することもできませんでした。



「そう……私は…どんな真実でも知っている……。例えば…あなたが魔女に…なりたいことも……」



ミネルヴァは自分が魔女になりたいということを両親は基、誰にも話したことなどありませんでした。



「あたしは魔女になれるのか?」



その問いにアリシアは首を横に軽く振りました。



「無理……あなたに魔力は…全く感じられない……」


「そうかい……」



元々そんな気はしていたが、魔女本人に言われると覆せなくなったようで少しだけ心が沈みました。



「代わりに……知識をあげる……。魔女について…知識が豊富な人は……魔法が使えなくても…魔女に近い人間に…なれる……」



こうしてミネルヴァはアリシアから1日1人か2人の魔女について教えてもらうことになりました。

飲食をあげる代わりに魔女の情報を教えてもらう、そんな日々が何日も続いたある日、アリシアは突然言い放ちました。



「明日…ここから旅立とうと…思う……」


「……そうかい」



いつかは来ると思っていた日がついに来てしまいました。

ミネルヴァは止めることはしませんでした。それが彼女の生き方だと思ったからです。



「アリシア、短い間だったけど、あんたと話すのは新鮮で楽しかったよ、ありがとう。また気が向いたら来ておくれよ」


「1つの場所に…こんなに長居したのは…初めてだった……。私も…楽しかった…のだと…思う……。ありがとう…。」


「そうかい、それなら良かったよ」


「……薬草の魔女」



ポツリとアリシアが突然魔女の名前を言いました。



「え……?」


「私を探すなら…薬草の魔女を訪ねて……。彼女に…連絡手段を…委ねてあるから……」



アリシアはそう言い、村から出て行きました。』




「これが真実の魔女アリシアとあたしの出会いであり、最後の思い出だよ」



老婆もとい、ミネルヴァはゆっくりと息を吐き、エレナの持ってきたクッキーを手に取り、口に含んだ。

そして紅茶を一口飲んで言った。



「それで、お兄さんはそんなどこにいるかも分からないやつを探してまた旅をするのかい?あの女の子を連れて」


「いえ、彼女は連れていきません。これは僕の旅ですから」


「ああ、それがいい。女の子に長旅は辛いだろうし危ないからね」


「……それは彼女が『女の子だから』ですか?それとも『血縁者だから』ですか?」



お兄さんが『血縁者』と言った瞬間、ミネルヴァはピクリと反応し、そしてすぐに曇った顔をした。



「やはり気付いていたのか……」


「あなたが彼女を見ている表情に温かみを感じたので」


「……あの子、エレナはあたしの実の孫だよ」


「彼女はそのこと知りませんよね。どうして隠しているんですか?」


「元々この町は隣り合わせた2つの村が合さって出来た町なんだ。そしてあたしの村は魔女を悪と考える村だった……」



魔女を悪と考える村と悪とも神とも思わない村、その2つの村が合わさって出来たのが今のエレナの住む町であった。


ミネルヴァは小さい頃魔女に憧れていたが、村の人たちは「魔女は我々とは異なる存在、不気味な力を使い神を冒涜するもの」として忌み嫌っていたため、村の人どころか親にも魔女に憧れていると言うことが出来ずに、ただ静かに人生を送っていた。そんなある日、隣の村との合併が決まったのである。


それはちょうどミネルヴァがエレナくらいの年のことであった。

学校も何もかもが隣の村と合併し、隣の村の人たち同士が交流せざるを得ない形になったが、ミネルヴァのいる村の人たちは一向に心を開こうとはしなかった。


なぜなら隣の村の者は魔女を悪とは考えていないからだった。

魔女は悪なるものとして教えて育った者たちにとって、悪ではないと言う者たちの考えなど分からないのだ。

そんな中ミネルヴァだけは喜びに浸っていた。

なにせ魔女についての文献が見られるようになったのだ。

毎日のように隣の村の図書館に入り浸り、魔女についての本を読み漁っていた。


そんなある日、一人の少年がミネルヴァに話しかけてきた。

年はミネルヴァより少し上で、物腰柔らかそうな少年だった。

彼も魔女が好きで、毎日魔女についての文献を読むミネルヴァに興味を持ったのだと言う。

それから程なくして2人は仲良くなり、恋仲になり、ついには結婚までしたが、2人の仲をミネルヴァの村の人たちは誰一人として祝福してはくれなかった。

表面的にはいい顔をする村の人たちをミネルヴァは嫌い、自分の子供が成長しても元の村のところには帰ろうとはしなかった。


だがしかし、ミネルヴァは一つだけ気がかりなことがあった。

アリシアのことだ。

もしかしたらまたあの森に来てくれるかもしれない。

そんなことを思い、たまに一人であの森に様子を見に帰ることが多々あった。

しかしアリシアはあの日以来一度も姿を見せることはなかった。


そして月日は経ち、ミネルヴァの子どもたちが結婚をしていく年になった頃、ミネルヴァの隣にもう彼の姿はなかった。

彼は数年前に不治の病になり、この世を去ったのだった。

彼がこの世を去った後、ミネルヴァはあることを考えた。

それは子どもたちが全員世帯を持ったら、あの森に家を建てそこに住もうと考えたのだ。


今となってはこの町で魔女を忌み嫌う者はほとんどいなくなったが、ミネルヴァが村に帰った時はまだ魔女を嫌う者が多くいて、ミネルヴァは誰にも頼ることなくただ静かに森で暮らしていた。

そんなある日、一人の女性が訪ねてきた。

その人はミネルヴァにとって2人目の子でありエレナの母親であった。

エレナの母親はミネルヴァを心配し、家族で森の近くに引っ越してきたのだという。



「なんでそんなことしたんだい!あんたまで奇異な目で見られることになるんだよ!」



ミネルヴァは子どもたちに自分みたいに辛い思いをしてほしくなかったのに何故こんなことをしたのかとエレナの母親に問い詰めた。



「夫とよく話し合って決めたことなの。お母さんのためじゃない、私が心配なの。お父さんが死んで、私達兄妹もみんな出て行っちゃって、いきなり一人なんて心が持たないわよ!」



心配そうに見つめる娘の姿にミネルヴァは少し申し訳なく感じた。

だけど娘達には幸せに暮らして欲しいという思いも拭えずミネルヴァはある条件を出すことにした。



「分かった、ただし条件がある。この村では魔女について一切口にしないこと、そして私達が親子であると言わないこと。その条件が守れないのであれば認められないね」


「……分かったわ。ただし食事はこっちが用意するからね!お母さん一人の時、甘いものばかり食べるんだもの!お母さんの体のためにも私が用意するから!」



まるで親が子に注意するかのようにミネルヴァに言うエレナの母。

子どもたちが小さかった時は、見本となるために甘いものばかり食べるのはダメだろうと自粛していたが、ミネルヴァはできれば毎日でも甘いものが食べたいくらいの甘党なのであった。



「わ、分かったよ……。」



それからエレナの母親はミネルヴァにご飯を作り持って行くようになったのである。






「大きな木の下でまた何度でも」第8話目です!

ミネルヴァの過去話はこれにて終了です。

いつかミネルヴァと旦那さんの話も書きたいと思っています(*˙ᵕ˙*)

次回も読んで頂けると嬉しいです!

よろしくお願いします!

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