大きな木の下でまた何度でも 7
「さて、話を戻そうか。薬草の魔女だが、あたしも若い頃に聞いただけでね、今もまだその街に居るのかまでは定かではないね」
「それでも、探し出してみせます」
「ほぉ、いい心意気だ。その街の名前は『ルーチェ』姉妹の魔女が住んでいたはずだ」
「『ルーチェ』、聞いたことないな」
「魔女が住処にしている街は外の者に気付かれないように密かに暮らしているか、または逆に街を大きくして魔女の存在を分からないようにしているか、だからね。ちょっと待ってな、今地図を……」
老婆は最後まで言い終える前に、突然言葉を詰まらせた。
お兄さんとエレナの2人はどうしたのかと老婆を見つめたが、老婆はエレナの方を向いてすぐに言葉を発した。
「あぁ、悪いんだが嬢ちゃん、廊下を出て左の突き当りの部屋に地図があるはずだから持ってきてもらえるかい?最近どうも腰が悪くてね」
「分かりました。すぐに持ってきますね」
「すまないね、ゆっくりでいいからね」
エレナは笑顔で受け答え、すぐに立ち上がり地図を探しに部屋から出ていった。
扉が閉まり、エレナの足音が遠くなっていくのを聞き届けた後、老婆は話し始めた。
「さて、地図が来るまでの間、あたしの話を聞いてくれるかい?お兄さんよ」
「はい、僕で良ければ是非」
2人はお互いこれからどんな話をするのか分かっているかのように真剣な顔付きで向かい合っていた。
『昔、ある村の離れた場所に、小さな女の子が両親と細々と暮していました。
朝に畑仕事を手伝ってから学校に行き、帰ってすぐにまた仕事を手伝う。それが女の子の日常でした。
だけど女の子はそれを苦とは思っていませんでした。
女の子には友達がいませんでした。それどころか友達を作る気すらありませんでした。
だから放課後に友達と遊んだことなどありません。家の仕事を手伝って早く終わった時は一人で家の裏にある森を散策するのが好きでした。
今日も一人で森を散策していると、森を少し抜けた先にある花畑の中心に一人の少女が立っていました。
その少女は肌も髪も服も全部真っ白で、まるで妖精かのように神秘的で綺麗で可愛い子でした。
女の子はその少女があまりにも神秘的で、立ち尽くしてただ見惚れていました。
「ここ……人間が住む……森……だったんだ……」
少女は無表情のままボソッと話しました。
少女が口を開いて言葉を発したのを見て、女の子はハッと我に帰り、返事をしました。
「ここはあたしの家の裏の森。人はほとんど寄り付かないよ」
「……?あなたは……人では……ないの?」
「いや、あたしは一人が好きだからよくここに来るんだよ。あんたはどこから来たんだい?」
「どこでもない……。ただ気ままに……歩いているだけ……」
空気とともに生きているかのように揺れ動く少女の声からは、疑いや驚きなども感じられず、不思議な子だと女の子は思いました。
「……そう。まぁ、好きなだけいればいいよ。じゃぁ、あたしは行くから」
そう言って女の子はこの場から離れ、歩き出しましたが、何故か少女までついてきました。
「……何だい。あたしに何か用でもあんのかい?」
「お腹……空いた……」
少女の突然の物言いに女の子は驚き、一瞬静止しました。
「……はぁ、分かったよ。そこで少し待ってな」
女の子は歩き出し振り返ると、少女は女の子の言い付け通りに付いていくのをやめて立ち止まっていました。
「ほら」
女の子が持ってきたのは、家にあった野菜やおにぎりでした。
「あり……がとう……」
そう言って少女は女の子が持ってきた食べ物をゆっくりと食べ始めました。
「そういや、あんた名前は?」
「……アリシア……あなたは…?」
「あたしはミネルヴァ。さっき気ままに歩いてるって言ってたけど、旅でもしてるのか?」
「旅……ただ歩いてた……」
「そ、そうかい……」
少し……いや、かなり変わった子だけれど、聞いたことはちゃんと返してくれるしお礼も言ってくれるので、悪いやつではないのだろうなとミネルヴァは思いました。
そのままアリシアが食べ終わるまで2人は何も話さずに、アリシアはただ黙々と食べ物をもそもそと食べ、ミネルヴァはそんなアリシアの姿をただ見つめていました。
目を閉じると鳥の囀り、木々が奏でる木漏れ日の音が聴こえるそんな静かな自然の森がミネルヴァは好きでした。
そんな好きな森の音を壊す人を近付けたくはないと思っていましたが、アリシアの音は嫌いではありませんでした。
自然の音を壊すのではなく同調するような彼女の音は、まるで自然から生み出された精霊のように感じられました。
「ごちそうさま……でした……」
ミネルヴァが目を開けるとアリシアは全て食べ終えていました。
「ありがとう……お礼…する……何がいい……?」
「お礼なんていい。ただ気まぐれであげただけだからね」
「ダメ……。お礼は…大切……」
「だからいらないって」
「……むぅ」
初めて彼女が表情を崩しました。とは言ってもほんの少し、眉をひそめ頬を膨らませたに過ぎないが、初めて見る彼女の顔に少しだけ人間味を感じるミネルヴァでした。
「……わかった。じゃあ魔女に会わせて。それか魔女について教えてくれるかい」
ミネルヴァは少し意地悪をしてみました。というのも魔女について知っている人がほとんどいないからなのです。
この世には魔女は悪なるものと思う人と神のように崇める人とで分かれており、どちらにせよ魔女は普段人前には姿を表さないため、この世にどんな魔女がいるのか把握している人などいないと言っても過言ではありません。
ミネルヴァがアリシアに意地悪をしたのは、絶対無理なお願いをすれば諦めるだろうと思ったからでした。
だけどアリシアが出した答えはミネルヴァが想像していたものとは遥かに掛け離れたものでした。
「もう会ってる……。私が魔女…真実の魔女……だから」』
おひさしぶりです(*´ `)
1年近く間が空きましたね。
去年はちょっと忙しくてあまり書けなかったので、今年からはまた頑張ります!