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いつか消えるその日まで  作者: 月兎
第二章
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魔女を探す旅 3



「大丈夫です。僕に考えがあるので」



そうリアムは言い、魔物の子どもが捕らわれている格子状の箱を開ける。



「ピィィイ!」



魔物は威嚇するように毛を逆立てながら鳴き叫んだ。



「大丈夫、君に危害を加えるつもりはないよ」



リアムは優しい声色で言い、掌を上に向けて箱の中に入れた。



「ピィッ!」



魔物はリアムに怖がったのか、驚いたのかリアムの指に噛み付いた。

すると何が起きたのか、魔物の動きが途端に止まる。



「ピィ……」



先程まで毛を逆立てるほど警戒していたとは思えないほど大人しくなった魔物は、噛み付いたリアムの指を優しく舐めた。



「おいで」



リアムがそう言うと、魔物はリアムの掌の上に乗った。

そしてそっと箱から手を抜いて、魔物を箱の外へと連れ出す。

その様子を見ていた部屋にいる人達は驚いた表情をしていた。

すると魔物を捕らえた男が言ってきた。



「お、お前、どうやって魔物を手懐けたんだよ!」


「そんなことより、早く魔物の群れにこの子を返しに行きましょう」


「あぁ?そんなことってお前……」


「そうだね、早く返してやらないとね。けど本当に大丈夫なのかい?あんなに凶暴化した魔物のところに行って」



男の発言を遮ってリアムの発言に答えたのは宿主の奥方だった。



「はい、大丈夫です。この子が大人しくなったように僕の血は少し特殊なので」


「特殊って、お前まさか人間じゃないのか……?」



またしても男がリアムの発言に反応する。

だけどリアムは男の言葉に少し苛立ちを覚えた。



「人間ですよ。ちゃんと人から産まれた普通の……人間です」



その場は少し変な空気になり、戸惑いを見せる人達もいた。

リアムはニコリと微笑んで「それでは僕は行きますね」と部屋を出て、魔物の群れへと向かった。


宿の外に出ると、魔物が暴れた後なのか、建物の至るところが破壊されていた。

リアムは魔物の子どもを懐に入れ、悲鳴のする方へと駆けていく。



―――――― ❀ ❀ ❀ ――――――



時は少し戻り深夜、人は眠りにつき辺りは静まり返るそんな時間。

だがこの町は少し違った。

酔っ払いが戯れる時間なのだ。

この町で暮らす人々は毎度のことなので何も気にせず眠りに付く。


そんな時間に一人の青年もその場にいた。

見目もよくスラッとしたシルエットで身長もそれなりの高さを持つその青年は、情報を集めるために色々な酒場を渡り歩いていた。

酒を勧め、酔って思考を弱らせたところで情報の手掛かりになる話を振る。

そうすると相手は簡単に口を開く。


だが、口を開いたところで相手が情報を知らなければ何ら意味がない。

情報を集めるのに難航していたそんな時、小さな地響きが起こった。

それはグラスの中の酒が少し揺れ、食器同士がぶつかりカチャッと少し音を立てる程度の揺れ。

店にいる者は誰も気に留めず、青年も気にしなかった。


だが数分後、一人の悲鳴が鳴り響いた。

青年とさほど酔っていない数人の男達は店の外に出て辺りを見渡す。

何か動物のような群れが遠くで見えた。

再び悲鳴が聞こえる。

そして遠くの建物の一部が崩れ、落下する。



「魔物だ!」



青年とともに外に出た男の一人が言う。

どうやら魔物の群れが現れ、建物に突進して倒壊させているらしい。



「戦えるやつは武器を持って行くぞ!」



ガタイのいい男が声高々に言う。



「お、俺はこの町からすぐに出る……!」


「俺も。戦闘力に自信はないからな。商品さえ守れればいい」


続けて数人の業者が「俺も」「私も」と言い、酔いつぶれているやつを担いで魔物とは別の方向へと歩いていく。



「戦う気がないやつはいい。それも一つの選択だ」


「じゃあ僕は戦おうかな」



青年はガタイのいい男の方を向きながら言う。



「そうか。武器は宿か?」


「いや、僕の武器はこの暗器」



そう言って青年は懐や袖口から小柄なナイフを取り出す。



「こう見えてもそれなりに腕は立つつもりだよ。女の子の1人や2人くらい守れないとね」


「そうか、それなら心強い」



再び悲鳴が上がる。



「っと、話している場合ではなさそうだね。行こうか」



青年と数人の男達は魔物の群れへと向かう。

魔物が突撃した壁は崩れ、人々は逃げ惑う。

そして魔物は必死に何かを探すかのように家に突撃しては家の中を見渡す。

何かがおかしいと思う青年。

だが武器を持った男達は魔物との抗戦を始める。



「どうした、戦わないのか」



さっきの男が話し掛けて来た。



「何かおかしくないかい。この魔物たちは普段人を襲わないはずだろう。それに何かを探すような素振りをしているのも気になるんだよね」


「そうは言っても、まずは魔物を止めないと被害が拡散するぞ」


「まぁ、そうなんだよね」



青年は懐から小瓶を取り出し、ナイフの刃先に小瓶の中に入っている液体を付け始めた。



「それは毒か?」


「いや、痺れ薬だよ」



そう言って青年は魔物に向かってナイフを投げる。

コントロールがいいのか、動く魔物に向かってまっすぐに進み、まるで吸い寄せられるかのように突き刺さる。

だが、魔物は何もなかったかのように動き出した。



「ナイフが小さすぎて効果がないんじゃないか?」


「いや、これでいいんだよ」



するとナイフを刺した魔物が青年たち目掛けて走り始めた。

男は大きな斧のような武器を鞘から取り出し、向かってくる魔物に向けて構える。

しかし青年は構えることなどせず、ただ魔物が来るのを見続けた。


魔物が近付き始め男が柄を強く握ったその時、魔物は足をもたつかせ、勢いがついたまま盛大に倒れた。

起き上がろうと動こうとするが、上手く体が動かせないのか倒れたまま起き上がることはなかった。



「すごいな、その痺れ薬」



男は強く握った手を緩め、青年に関心を向けた。



「これは動けば動くほど全身に巡って、痺れで動けなくなるんだよ」



辺りを見渡すと攻撃する人間が増えたからか、魔物は少しバラけ始め、いくつかのルートへと動き始めていた。

被害が拡散する前にどうにか魔物を止める方法を考えなければと青年は思った。






「いつか消えるその日まで」の第二章3話目です!

今回はリアムの話半分、青年の話半分ですね。

ちなみに青年はナイフ以外の武器も隠し持っています( ˙꒳˙ )

それとおそらく今後は1ヶ月単位での更新は難しくなるので(今回も3ヶ月掛かってるし)ゆっくり更新していくことになります。

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