大きな木の下でまた何度でも 9
ミネルヴァは自分の過去を話し終えた後、ティーカップを持ち紅茶を一口啜った。
そんな話を聞いたお兄さんは何とも言えないような表情をしていた。
「あなたがエレナに隠している理由はわかりました。けれどもうこの村に魔女を嫌う者はほとんどいないのだし、もう話してもいいのではないですか?」
「あぁ、その通りだよ。そろそろあの子に話さないといけないね」
ミネルヴァは自分が祖母であること、そして魔女の話、全てを話そうと決意した。
―――――― ❀ ❀ ❀ ――――――
時は少し遡り、ミネルヴァが過去の話をする少し前、ミネルヴァに頼まれて地図を探しに行ったエレナは今の状況に絶望していた。
ミネルヴァに言われた通り行った部屋には、たくさんの本や資料などが棚に収まりきらずに散乱していたのだ。
「こ…ここから地図を探すのかぁ……」
どこにあるかもわからない地図を探す、なんだか骨が折れそうだと思うエレナであった。
取り敢えず闇雲に探してみようとも思ったが、本など量が多いうえに散乱しているので、これでは日が暮れてしまうということで、探す順序を考えてみた。
とは言っても、部屋を時計回りに探していくか反時計回りに探していくかくらいしか案が出てこないので、取り敢えず時計回りに探していくことにした。
探していく内に黒魔術の本やら精霊魔術の本など怪しげな本がたくさんあった。
「魔術の本がいっぱい……魔力を高めるための本なんてものもある……。」
もしかしておばあさんが魔女について詳しいのって、自分が魔女になりたかったからなのかな……?
目に入るだけでも魔法や魔術の本がたくさんあり、エレナはそんな考えを持ち始めた。
「魔女って寿命長いのかな……」
気付いたら口に出して言っていた。
もしそうなら私はお兄さんともっと一緒にいられる。もしかしたら旅にだって連れて行ってくれるかもしれない。
「あーもぉ〜、なんでこんなことばっか考えちゃうんだろ!お兄さんが幸せならそれでいいのに!」
そう、お兄さんが自分が不老不死になった真相を知りたいというのなら手伝うし、足手まといになるようなこともしない。
「よしっ!ちゃっちゃと探して戻ろっ!」
そうしてエレナは自分の心を誤魔化して再び地図を探すことにした。
結局地図が見つかったのは一番最後の棚の辺りで、見つけるのに結構な時間を浪費してしまった。
エレナは心の底から反時計回りに探せばよかったと落胆したのであった。
何にせよ地図が見つかったので、お兄さん達のいる部屋へと戻るエレナ。
戻る途中何やら2人が真剣な声で話しているのが聞こえてきたが、内容まではあまり聞き取れなかった。
そしてエレナが部屋のドアに手を掛け開けようとした瞬間、衝撃的な言葉を聞き取ってしまった。
「……あの子、エレナはあたしの実の孫だよ」
エレナは咄嗟にドアノブから手を離して扉から少し距離を置いた。
えっ、今私のことを孫って言ったの……?
エレナは思考回路が追いつかなかった。
今まで親に祖父母のことを聞いた時は、エレナが生まれる前に亡くなっていると聞いていたから、まさか生きていてしかも今扉を隔てた目の前にいるだなんて想像つかなかったのである。
エレナが驚きに満ちている中、エレナが扉の前にいると気付いていない2人は会話を続けていた。
まだ頭の整理が追いついていないが、取り敢えずまだ続いている会話を聞くことにしたエレナは、距離を置いた扉に再び近づき、今度はドアノブを触るのではなく扉に耳をあてて、2人の会話を静かに聞いてみることにした。
「――――――あたしの村は魔女を悪と考える村だった……」
そしてエレナは知った。
ミネルヴァが魔女が好きなこと、祖父のこと、どうして自分が祖母だということを隠していたのかということ。
全部知って、あぁこの人も自分を犠牲にする人なんだな、とエレナは思った。
みんな他人の心配ばかり、いいことだけど少しは信頼してほしいものだ。
地図を探しに行かせたのだって、私に話を聞かれたくなかったからだろう。
お兄さんといいそんなに私は弱い子に見えるのだろうか。
エレナは何だか腹立たしくなってきた。
だから開けたのだ。扉を躊躇なく。
「あの……!」
扉を開けた先には、驚いた表情をした2人の姿が目に飛び込んできた。
「あ……あぁ、譲ちゃん地図を見つけてくれたんだね。ありがとうね」
全てを知ったエレナにとってミネルヴァの『譲ちゃん』という言葉はとてつもなく悲しく感じた。
「エレナです……」
「え……?」
「私の名前はエレナです!おばあちゃん!」
そしてそれと共に誰も本当の事を話してくれなかったことに怒りも感じたのである。
「どの辺りから……話を聞いていたんだい?」
「おばあちゃんが、私のこと実の孫だって言った辺りから」
「そうかい……それは、今まで黙っていてすまなかったね……」
「私はまだ子どもだし、頼りないかもしれないけど、でもちゃんと言って欲しかった!私はそんなに弱くないよっ!」
つい叫び出してしまった。だけどこれはミネルヴァだけに言っているのではないのだ。
「これ、おばあちゃんだけじゃなくてお兄さんにも言ってるんだからね!言い辛い事でもちゃんと口に出して言ってよ!私、どんな言葉だって聞き入れるから。……だから、何も言わずにいなくなるのだけはやめて……」
最後の方は涙を流さないようにするので必死だった。
怒りで涙を流すのではなく、嬉しい時に涙を流したい。だから今は泣かない。
「ごめん……。でも言い出せなかったのは君が頼りないからじゃないよ。僕が、僕自身が弱いからなんだ」
「お兄さんが、弱い……?」
弱い人間が命をかけて人を助けられるものなのだろうか。たとえ死なない体だとしても痛みはあるはずだ。それでも躊躇わず助ける強い心があるはずなのに……。
「君の話をはぐらかし続けたのは、君と離れるのが嫌になりそうだったからだよ。何も言わずに出て行けば君の悲しむ顔を見なくて済む。だから何度も出て行こうとは思ったんだけど、できなかった……。なんて言うのは言い訳かな……気付いたらこんなに長い間この町にいて、僕が君と離れるのが寂しくなってしまったみたいなんだ」
お兄さんはとても優しくて、そして少し寂しそうな顔をした。
「私もお兄さんと離れるのは嫌……でも、お兄さんは魔女を探さなきゃ!だってずっと探してたってことは不老不死じゃない普通の人間に戻りたいってことだよね」
「そうだね、人間には戻りたい。だから魔女は探さなきゃいけないんだ」
でも……、とでも言葉が続きそうな表情をお兄さんはしていた。
お兄さんが何を考えているのかやっぱり分からないけれど、でも人間に戻りたいという気持ちは本当だろう。
だから……きっと私は邪魔だ。
「大きな木の下でまた何度でも」第9話目です!
ずっとミネルヴァの過去話でしたが、今回はエレナサイドのお話です。
次回はお兄さんの名前がわかるかもしれません。
次回も読んで頂けると嬉しいです(*´ `)




