溶けてゆく
「響~、はやくはやく!置いていくよ、もう…」
電車に乗る為、駅へ向かう道のりの途中。
日光がじりじりと地面を焼くように照りつける。そんな中、一本の柱のようにピシッとキメて立つ愛実。
そう、私達は、あの約束通り、原宿に行くのである。そして、待ち合わせ場所の駅へ向かっている。予め言っておくと、私は車での移動を強く、とても強く推奨した。それはそれはもう、押し切るような勢いで。
そして結果論、しょーにメロメロな熱気を纏った愛実に押され負けた。
そのおかげで、車で移動できなくなってしまった。その上真夏日の天気の今日である。ふざけんな。
日の光が眩しすぎて視界がチカチカと点滅するように感じる。私には脳からの危険信号だとしか思えない。
…一体、こんなところで何をしているんだろう、私は。
本当につくづくそう思う。
しかしこれも、言ってしまえばイベントにまんまと釣られた私の自業自得である。
自分を責めてもどうにもならないので、持っていたジュースを口いっぱいに含んで飲み、垂れる汗を手で拭って、我慢して過酷な暑い人混みを歩くことにした。
きっとこれも、クーラーがガンガンに効いた駅に着くまでだ。
そこまでの短い道のりだ、頑張ろう。
「響ってば、暑さに弱いな~」
隣で愛実が呑気に語る。
アンタだってしょーがいなかったらうなだれていたクセに。と言おうと思ったが、縛られそうなのでその言葉を飲み物と一緒にグッと、喉に押し込めるように飲み込み、閉じ込めた。
「ところで、なんだけど。愛実は愛実で良かったの?秋葉原に用事あったんじゃ無いの?」
話を変えようと、ふと気になったことを聞いてみる。
休日はいつも部屋で薄い本やヤング向け少年漫画に少女漫画と、全て漫画ではあるが幅広いジャンルの本をを読み漁っている愛実。
そんな愛実が休日にあんな乗り気で「行く!秋葉原私も行く~!!」なんて、秋葉原に用事がなければ言わないだろう。
え?私?休日はオンゲ三昧ですが。秋葉原には映画公開を控えているアニメの新グッズを買いに行く予定でした。南無三。
…と、聞かれてもいないことを心の中で悲しく語る。
「私は好きな作者さんの新連載漫画の限定版予約したくて。でも大丈夫、一ヶ月後までギリ間に合うから」
横からドヤ顔で熱い視線を向けてくる愛実。その視線を振り払うように、愛実を置いて早歩きで少し先にある駅へと足を進めた。
「待ってよー!」
「じゃあ早く来なよ…」
さっき催促していたのはどっちだよ。