第7章 実践訓練開始! そして最後の別れ
その日俺は初めてセラフィナの背に乗ると彼女はとても嬉しそうに微笑みながら、
「それじゃあ飛ぶわよ? 落ちないでね!」
と言ってから羽を何度か上下に羽ばたかせると俺達は宙に浮き、驚きと感嘆の声を上げて叫んでいるとセラフィナがさらに嬉しそうに大声で、
「空の空気は気持ちいいでしょ、マモル? 一回転も出来るのよ‼」
そう言われるが落ちるのが怖かった俺は返事に困っているとイーモンが後ろでアダンに乗りながら、
『大丈夫だ、心配いらないさ! セラフィナの精神に入って心を繋ぐんだ、簡単だからやってみろ‼』
と直接心の中で説明され少し驚いたのだが早速試みようとセラフィナの心に俺の精神の腕を伸ばして触れてみると、彼女はすんなりと受け入れてくれたので嬉しくて微笑んでいるとセラフィナが突然横回転したので、驚いて声を上げるが落ちる事は無く呆然としている俺を見てイーモンがとても楽しそうに笑いながらまた心の中で、
『な? 平気だったろ? これは俺達ライティアにしか出来ない技なんだ、まぁ慣れるまで時間はかかるが数をこなせば直ぐになれるさ!』
そう言われ俺は素直に頷くのだがイーモンから心の中に語り掛ける技を教えられ驚きが隠せずにいると彼は微笑みながら、
『人の心に触れる事も慣れれば簡単だからすぐにできるさ! 試しにやってみろ、俺の精神世界を見つけられればいいだけだから』
と言われ試みるが難しすぎて諦めかけた時セラフィナが、
『諦めてしまえばそれで終わりよ、ほら……私の心に触れたようにイーモンの心に手を伸ばせばいいの』
そう詳しく教えてくれたのでやってみるとなんとかイーモンの心の扉を見つけ、恐る恐る開いてみると突然台風にも似た突風が起き慌てて心の手を引こうとすると、扉の中から柔らかな暖かい手が現れ俺の精神を受け入れたので小さな声で、
『し、師匠……?』
と試しに言ってみると彼は嬉しそうな声で、
『おう! やっぱりマモルにはライティアの素質があるな、だがセラフィナに頼ってちゃあまだ訓練がたらねえな‼』
そう言われやっと先ほどの風はイーモンがわざと出したものだと気づいた俺は、
『普通に何もしないで入れてくださいよ! 心臓に悪い……』
と心の中で大きな声を出し抗議するのだが彼は逆に嬉しそうに、
『すまんすまん、少し試したくなってな』
微笑んで言った後また黙り込むとまた突風が起き俺を追い出そうとするのでしがみついて耐えていたが、無意識のうちに自分の扉を閉めると同時に雷を伴う風を起こし精神攻撃をしていて、セラフィナに呼ばれてイーモンの呻き声に気付き攻撃を止めると、彼は俺の心から出て行きアダンに一言呟くと森の中に戻りまた呆然としているとセラフィナが小声で、
『イーモン……また魔力がおちている……』
そう呟くのが聞こえ尋ねようとすると下からアダンが、
『マモル、セラフィナ、降りて来なさい』
と言われて降りて行くと落ち葉の上で横になったイーモンが荒い呼吸を整えようと深呼吸を何回もしていて、黙って立ち尽くす俺に彼が無理に笑みを作りながら、
「なんて顔してんだ……俺の事は気にしなくてもいい、ただ少し疲れただけだ」
そう弱々しく言うと少しの間を開けて、
「マモルが来る一か月ほど前……俺は身体の調子が悪くて医者に行ったんだ、そしたら心臓が悪いと言われてしまってな、将来歩く事も出来なくなって早く死ぬそうだ……だからお前を早めにこの世界に連れてきたんだ、俺の身体が動かなくなって、逝っちまう前に強くするために……な」
と淡々と説明するイーモンを見た俺は胸が締め付けられ涙が溢れて止められずにいると彼が腕を伸ばして引っ張り俺を座らせると頭を撫でながら、
「男が泣くんじゃねぇよ……休めばすぐ落ち着くから心配すんな」
そう言ってまた微笑むので俺は袖で目元を拭って笑顔を作ろうとするのだが、どうしても悲しくて口が歪む俺を見たイーモンはアダンに目配せをすると、
「マモル、君が落ち着くまで私と話でもしようか、こちらに来なさい……セラフィナはイーモンを守っていくれ」
と言って森の奥に行くがやはり彼が気になり振り向くとセラフィナが、
「イーモンは私が見ているから安心して、いってらっしゃい」
と笑顔で言われたので俺は頷いてアダンの背中を追い森の奥に行くと、彼は綺麗な赤い花の前で座って前を向きながら、
「マモル……イーモンは君に悲しんで欲しくて病の事を打ち明けたんじゃない、突然で戸惑うかもしれないが君なら乗り越えてくれると思っているんだ、イーモンはマモルが強くなって異世界間戦争で守るべき人達を助けて欲しい……そう思っているんだ、もちろん私も同じだそれはわかるね?」
そう諭すような口調で言われた俺は言葉の一つ一つを噛み締めるように胸の内にしまい込んで頷いた。
そして次の日からの訓練はアダンがする事になりイーモンは即席の杖を片手に岩に座って指導をする程度に抑えていて、時折疲れたようにため息をつき日々弱っていく彼を見るのは辛く早く強くならないといけないという焦燥感にかられていた俺は寝る間も惜しみ木刀を振っていて、話を聞いてから三週間が経ち俺は森の中で夕食に食べる動物を狩っていると急に目元が暗くなり気が遠のくと倒れてしまい、次に目を覚ますと心配そうな面持ちのイーモンやセラフィナとアダンがいたのだが、俺はまだ頭がボーっとしていて黙っていると横から、
『訓練のさなかに倒れるなど情けない、適度と言う事を知らないのか? 無理をすればそうなるともっと早く気付くべきだ』
と少し怒ったような声でユニコーンが言うとイーモンが申し訳なさそうに、
「すまねぇな……俺がこんな身体になっちまったせいで……」
そう項垂れて言っているとユニコーンが鼻を鳴らし、
『元々人間はとても短命だ……だがマローネはその理から外れるはず、なぜ彼に病などと嘘をつくのだ? 今すぐ真実を全て話せ』
と威厳を込めた口調で言われたイーモンは岩に座りながら黙って俯いていたのだが一つ小さなため息をつくと、
「やはりユニコーンにはバレていたか……ならアンタには全て話すしかねぇ見ないだな……あの日、俺の妻レナが転移魔法を使って王都に連行された時、俺も一緒に連れて行かされレナは目の前で処刑され俺は呪詛をかけられた……本来なら魔術犯罪者が受ける魔力制御の一つで減退の呪を……な」
イーモンは終始冷静に説明するとユニコーンは憤りを隠せない様子でため息をつくと、
『今の国王は何を考えているんだ⁈ 元々数の少ないマローネをさらに減らすなど愚行ではないか!』
そう話すうちに怒りがこみ上げたのか叫ぶように言うとまたため息をつきイーモンと目を合わせると申し訳ないように目を閉じ、
『私には人間が創り出したその呪詛を解くことは出来ないが、マモルの訓練を継ぐことはできる……それに彼は通常のマローネよりはるかに魔力が高い……つまり神の御子という事だ、貴殿には最初から基礎技術を教えるので精一杯のはず……なのに気付いていてなぜもっと早く私に言わなかった? 少なくともお前の命が長くなったのかも知れないのだぞ……?』
と非難するような口調で言われたイーモンは俯いたまま、
「俺は……命を削ってでも自分の手でマモルを育てたかった……たとえ神の御子だとしても……」
そう言って横になっている俺を見て、
「だが……やっぱり俺には荷が重かったみたいだな……これからはあんたがマモルを強くしてやってくれ」
とユニコーンに頭を下げて言ったあと完全に目を覚まして全てを聞いていた俺を見ながら、
「マモル、俺はもう師匠じゃねぇからな、次の師匠は彼だ……失礼の無いようにするんだぞ?」
弱々しく微笑みながら言われた俺は感情が抑える事が出来ず涙を流しているとイーモンが俺の頭を撫でながら、
「子供じゃねぇんだからこんなことで泣くな、お前の師匠が変わるだけだ……分かってんだろ?」
そう言って俺をなだめるように説明するがまだ納得のいかない俺は身体を起こし体育座りをして顔を腕にうずめながら、
「そんなの嫌だ……俺は師匠と一緒に強くなりたいんです……」
自分でも子供っぽい事を言っていると思うがやはり納得できない……そう思っていると後ろで聞いていたユニコーンが突然俺を蹴り飛ばすと睨みながら、
『いつまでも子供のようにめそめそするんじゃない! イーモンは魔法を使えば使うほど命が削れてしまうんだ、今の話を聞いたのならイーモンを休ませることが弟子の務めではないのか!? それに、今ここで師を変えなければお前の守るべき者も守れなくなるんだぞ⁈』
と珍しく大きな声で一喝され驚いて目を見開く俺を見みたユニコーンは、
『私はお前を認めたんだ、それでなければ他のマローネになど教えるものか!』
そう言って目を瞑り俺の返事を待ってたので困惑しながらイーモンを見ると、彼は真剣な面持ちで頷いていたので俺はユニコーンに向き直ると首のあたりに触れながら、
「これからよろしくお願いします、師匠!」
と言って頭を下げると彼は満足気に頷いて、
『やっと決心がついたようだな、うん……いい顔をしている』
そう褒められ嬉しくて大声で礼を言うと、
『そんなに大きな声を出さなくてもいい、ところで私はまだ名乗っていなかったな……私の名はアシャストス、誇り高きユニコーンの長だ』
堂々たる口調で名乗るとまた驚きの表情で目を丸くする俺を見て呆れたようにため息をつくと、
『まったく、お前のそのバカみたいな顔はもう見飽きたんだがな……まぁいい、私の名を知り驚いて逃げる人間は幾度となく見てきたが、逃げなかったのはイーモンとお前のただ二人だけだ、それにどちらも私の弟子だから仕方がないがな……』
と普通に驚愕発言をされたので俺はまた大きな声で、
「じ、じぃちゃんも育てたんすか⁈」
そう言うとアシャストスは呆れたような目つきで、
『なんだ、イーモンから聞いていないのか? 私は長年マローネの師をしてきたんだ、それくらい自分で調べるべきだ、呆れて物も言えんな』
とため息をつきながら言われた俺は食い下がろうと口を開きかけると、横で見ていたイーモンがとても楽しそうに笑いだしたので、俺とアシャストスがそろって顔を向けると先ほどの疲れてきっていたようすとは違い、元気に笑っていた事に安心した俺が微笑んでいるとアシャストスがイーモンに近づき、
『イーモンも覚悟はできたみたいだな』
真剣な面持ちで言うと笑い終えたイーモンは穏やかな表情で、
「ああ、俺はもう人としてもライティアとしてもやり切った、悔いはないさ……なぁ? アダン」
そう言って横で静かに座るアダンを見やると、
「そうだな……もう逢う事は無いだろうが、私もマモルを見守っていくさ」
アダンは微笑んで言ってからセラフィナに顔を向けて、
「セラフィナ……マモルを私達の代わりに守ってくれ、そして異世界間戦争を無事治めるんだ……頼むぞ、愛する我が娘よ……」
と終始穏やかに言うとセラフィナは目に涙を浮かべながら、
「はい……あなた達の遺志は必ず私達が継ぎます……悲しくないと言えば嘘になるけれど、どうかお元気で……お母さんによろしく」
無理に笑顔を作って言うが目には涙が溢れていて二人が首を寄せ合っていて、何も知らない俺は呆然としていたのだがセラフィナがその場から離れると、アシャストスが鎮魂の呪文を唱え始めやっと意味が分かった俺は大声でイーモンを呼ぶと彼はこちらを向いたので、
「じぃちゃん! 俺の父さんはすごくいい人で、家族思いで……俺が小さいころからずっと……ずっと会いたがってた! 俺はそんな父さんが大好きなんだ、でも、でも……俺はじぃちゃんも大好きなんだ‼ ありがとう……! じぃちゃん……絶対に忘れない、俺はじぃちゃんが自慢になるような孫になる‼」
最後は涙を流しながらそう言っていてイーモンは優しく微笑むと、
「ありがとよマモル……! 俺はお前と出会えて本当に良かった、これからも頑張るんだぞ! お前なら出来る、俺の孫なんだからな!」
鎮魂の呪文をかけられ光に包まれながらそう言い微笑むと光はイーモンを全て覆いつくし、最後には弾けて昇っていく光を俺は笑顔で送った……彼が大好きだと言ってくれた笑顔で。