第2章 修行開始‼
セラフィナと共に異世界の知らない部屋に飛ばされた俺は茫然と立っていると奥の方から、
「おお、戻ったなセラフィナ! 俺の孫も一緒に来たんだろう?」
そう隣の部屋から野太い声がして俺は驚いて振り向くと部屋を仕切っていた布を横に上げて入って来たのは、左の額から目の横を通り頬の真ん中までかかる大きな傷があり顎にはいつ剃ったのか分からないほどの無精ひげが生えた、見た感じ四十代くらいの男性で彼は俺を見た瞬間興奮しながら近づいて来て、
「お前が俺の孫だな⁈ うんうん、目元がナオに似ているなぁ‼」
とかなり嬉しそうに俺の顎を掴むと上下左右に動かして眺めていて、その間俺は驚きの余りされるがままだったのだが、ハッと我に返り掴んでいる手から逃げるように後ろに下がると、
「あ、あんた誰だ? それにここってあんたの家なのか?」
そう勢い込んで尋ねると男性は母さんと同じような顔でキョトンとしてから、
「ここは俺が暮らす家で、俺はお前のじいちゃんだぞ?」
と満面の笑みを広げて言うとさらに、
「ここはお前が今まで暮らしていた〔世界〕とは違うアンチカ王国という場所だ! マローネと契約を交わしたお前にはこれから修行をしてもらうんだが、今はもう夜も近いし修行は明日からにする、それにもうじき晩飯が出来るからそれを食ってからこの世界の事や俺達の事を話そう‼」
そう言っていつも母さんが口ずさんでいた歌を彼も歌いながら部屋を出て行き、それを呆然と見送っていた俺の隣にセラフィナが近付いて来て、
「イーモンはいつもあんな感じで話すのよ、一方的なのはナオとそっくりね」
と小さく笑いながら言っていたのだが俺は心で聞きなれた声が〖耳〗で聴こえた事に驚いて、
「えっ!? セラフィナって声で喋れるの!?」
驚愕といった表情で叫ぶと彼女は怒ってしまったのか頬を膨らませながら、
「私も生きているんだから喋るわよ! それに、あなたの世界では姿を保てないから消えて声が出せなかったから心に直接話しかけていただけなのよ? 全く失礼ね!」
そう凄い剣幕で叱られて驚いた俺は、
「ご、ごめん……」
と俯いて素直に謝ると奥の部屋から楽しそうな笑い声が聞こえ振り向くと、セラフィナよりも少し大きめな【生き物】が入って来て、
「許してあげなさい、セラフィナ……彼に悪気はないのだから」
そう水のように澄んだ声で言うとセラフィナは素直に、
「はい……」
と言った後嬉しそうに、
「ただいま、お父さん」
そう言うとセラフィナはお父さんと呼んだ【生き物】と鼻を摺り寄せて何かの挨拶をしてから俺に近付き頭を下げると、
「初めまして、私はイーモンとマローネを交わしたサフォールで名はアダンという、これからの修行は厳しく指導をするからよろしく頼むよ」
と言ってから俺の右腕に鼻を寄せたので俺は無意識の内にアダンの鼻に触れると、俺は彼の吸い込まれそうなほどに澄んだエメラルドグリーンに輝く瞳を見つめていて、なぜか目をそらす事ができずにいたのだが不意に彼が目線を離すと、
「君はすばらしい功績を上げるインガになる……頑張って修行に励みなさい」
そう微笑みながら言っていると隣の部屋から、
「晩飯が出来たから冷める前に早く来いよー!」
と大きな声でイーモンが言うとアダンはため息をつきながら部屋を出て行き、その後ろからセラフィナも行こうとして俺を振り返ると、
「マモル、早く行くわよ……お腹がすいているでしょう?」
そう言って出て行ったので俺は大きなため息をついてから着いて行き、おいしそうなシチューや香ばしく焼かれたパンが並んだ机に座った途端、俺の腹の虫が大きく鳴り響き顔を赤らめて俯くと皆が楽しそうに笑う中アダンが微笑みながら、
「マモルの腹の虫も限界みたいだし、早く食べようか」
と優し気に言うと楽しい食事が始まり俺は初めて会った親戚と呼べる人と話が出来てとても嬉しい気持ちと、母さんが小さかった時の話が聞けて感動といった気持ちでテンションが上がっていたのだが、アダンに言われて気持ちを落ち着かせるとそれからは少し静かに話をしていて、夕食が終わるとイーモンに俺がこれから暮らす部屋を案内してもらい部屋に入ると、そこには簡素な木で出来たベッドと机や小さめのタンスが置かれていて、相当疲れていた俺はイーモンが出て行くとベッドに近づいて倒れるように横になると一瞬で深い眠りに入っていた。
そして翌朝、俺はうつぶせになって眠っていると深鍋と木のお玉を使い俺の耳の横で騒音を立てながらイーモンが、
「おーい、早く起きろー! 陽が出ているんだぞー!?」
そう叫ぶと俺は耳を塞ぎながら起き上がり、
「う、うるさーい‼」
と全力で不満を叫ぶと騒音を立てた本人は満足気に頷いてから微笑み、
「ほら、朝飯だ! 着替えてさっさと来い!」
そう言いって歌を口ずさみながら部屋を出て行くので俺は小さな声で不満を口にしながらタンスに用意された服に着替えて部屋を出ると、全員で朝食を取りその後イーモンに連れられて歩いて行くと一番広い部屋へ入り彼が振り向くと、
「まずは今日からこの部屋にある書物を全部読んでこの世界の事を覚えてもらう、それまでは外出禁止だ、分かったな?」
と真剣な顔付きで言われ俺も真剣な表情で頷くとイーモンに紙と羽ペンを渡されそれから勉強の日々が始まり、怒涛の一か月があっという間に過ぎると俺は何とかアンチカ王国の文字を覚え次の三か月で計算が出来るようになり、ついにイーモンが一緒の時だけの外出を許可された俺はさっそく彼と一緒に夕食の買い物へ行くことになり、初めて家の外へ出た俺はこの国に来る前の生まれ育った世界とは全く違う事に衝撃を受けていて、それは石畳の道に漆喰が所々取れたかなり古そうな白い家が建ち並び歩いている街の人達は女性が赤や黄色のくたびれて当て布をしているドレスの上から白い腰エプロンを着けていて、男性は黒く薄汚れたシャツにサイズの合っていない短い焦げ茶色のズボンを履いていて、楽しそうに木の棒を持って走り回る子供達は女の子が淡くくすんだ赤色のワンピースで、男の子はつぎはぎだらけのシャツにサスペンダーを付けたこれもサイズが合わない茶色や灰色のズボンをはいていて、俺はその光景を見て今まで住んでいた世界とは全く違う事を悟り絶句していると横で黙って立ち竦んでいる俺に気付いたイーモンは心配そうな面持ちで、
「大丈夫か?」
そう言われた俺は我に返ると小さな声で、
「あ……うん」
と歯切れの悪い返事をして頷くともう一度街の人達を見ている俺にイーモンは遠くを見つめるように、
「ここには一日をやっと過ごせる程度の金しか持っていない奴が大勢住んでいてな、男は全員危険な炭鉱の仕事をして生計を立てているんだ、俺はこの街の中でも裕福な方で毎日飯が食えるんだがあいつらはパン一つでその日を過ごす事も当たり前なんだよ、だから俺は少しでもあいつらを楽にしてやりたくてここに家を建てたんだ」
そう深刻な面持ちで言った後俺を見て微笑むと、
「それじゃあ買い物にいくか!」
と言って先を歩いくイーモンに俺は慌てて付いて行くとしばらくして大きな市場に着き、その中へイーモンと入っていくと果物屋でリンゴとスイカに似たものを買いその後野菜や肉類を買っていて、その間俺はイーモンにいろいろ聞いて覚えるため紙に書き記していたのだが、彼は街の人達から慕われているのかどの店に入っても楽し気に話をしていて近くを通った人達にも話しかけられたイーモンはあっという間に街の人達に囲まれていて、彼の隣で一人黙って立っている俺に街の人が気付くと一人の男性が不思議そうに首を傾げながら、
「なぁイーモン、この子誰だ? さっきから一緒に歩いてたろ?」
そう指を差して言うとイーモンは嬉しそうに俺の肩を掴むと、
「こいつはなぁ、ナオの子供で俺の孫なんだよ‼」
そう言いながら嫌がる俺の頭を軽く二、三回叩くと周りの人達は歓声を上げていて先ほどとは違う男性がとても嬉しそうに、
「この街からライティアが出るなんてなぁ! それにこの子とイーモンがいれば前に言っていた異世界間戦争ってやつも防げるかもしれねぇしなぁ」
と言われた俺はこの世界へ来た理由を思い出し黙り込んで固まっていると、イーモンが俺の顔を覗き込みながら、
「おい、マモルどうした? 急に黙り込んで……大丈夫か?」
そう心配そうに言われた俺はゆっくりとイーモンに向き直ると、
「い、いや……何でもない……大丈夫」
と言った後無理に微笑むと彼は困ったように微笑むが頷くと、途端に周りが騒がしくなり2人が振り返ると大勢の人垣を重厚な鎧を着た数人の男達がかき分けながら割り込んできていてリーダーらしい男が、
「おい! こんな所で何を集まってるんだ⁈ さっさと散らんか‼」
そう大声で言うなり部下に命令を出して人々を散らせながら中央まで来ると怒鳴り散らしていた男が忌々し気に顔をしかめ、
「またお前か、イーモン! 毎度毎度迷惑なものだな‼」
と睨みつけながら言うと彼も睨み返すがすぐに笑顔に変え、
「サバスも相変わらず神経質だなぁ、見ろよ皆怖がっているだろ?」
そう皮肉を込めて言うとサバスと言う男は額に青筋を受けべていたのだが一つ深呼吸をすると、
「まあいい、今日は見逃してやる、だからさっさと帰れ! ……ん? 誰だお前は、見ない顔だなどこから来た!?」
と急に大声で問い詰められた俺は少し引いているとイーモンが俺の肩を掴みながら、
「こいつは俺の孫でマモルっていうんだ、ちなみにもうライティアの契約を結んでいるぞ?」
かなり自慢げに大声で言うとサバスは眉を寄せた後バカにしたように鼻で笑うと、
「所詮お前の孫だ、何もできずに死んじまうんだろうなぁ?」
そう言われ後からきた連中に笑われた俺は頭に来て男の声より大声で、
「なんでそんな事言うんだよ⁈ なんなら俺は一生懸命修行して異世界間戦争なんかくい止めてやるから首洗ってまってろ‼」
と我を忘れて叫び男に指を差すと辺りは静まり帰っていて次の瞬間自分が言った事に気付いた俺はその体勢のまま赤面していると、全てを聞いていた街の人が1人歓声を上げるとそれが次々と広がっていき辺りは騒然となると焦る俺の肩にイーモンが肩を組んできて、
「よく言った‼ そこまでの意気込みがあるなら俺も熱を持って教えてやらねぇとな‼」
目に少し涙を浮かべながら言うと先ほどから怒りで震えていた男は落ち着かせるために一つ咳ばらいをしてから、
「ほ、ほざいてろ! どうせその内辛い修行に耐え切れず逃げ出すに決まっているさ、その時になってさっきの言葉を悔いるはずだ、それが楽しみだな‼」
そう無理に高笑いをしながら立ち去ると二人を囲っていた街の人達はサバス達を気にして散っていき、その後の買い物を無事終えた俺達も家に帰り夕食を作って先ほどの話をしながら食べていると、突然ドアが勢いよく何度も叩かれイーモンが出るとそこには今にも泣きだしそうな女性が一人で立っていた。