エピローグ 出会い、そして……
その日は朝方から強い雨が降っていて俺は窓辺に立ちがら、
(今日も来るだろうな……いや、もう来るか)
と内心呟いているとドアが激しくノックされたので俺はため息をつきながら扉を開けると、少年の姿をしたコロニ達が笑顔で立っていて、
「マモル、今日も遊ぼう!」
そう言うなり家の中へと入り部屋を行ったり来たりとしたりベッドの上を飛び跳ねたりと盛大に散らかしていくので、
「ったく! 雨の日はいつもだな……」
と半ば諦めたように呟くとため息をついて暴れまわるコロニ達を止めようと魔法を使いかけた時、またドアが激しくノックされたので驚いて扉を開けて左右を見渡すのだが誰も見当たらず首をかしげていると、下から赤ん坊の泣き声がしたので驚いて視線を下げると1歳にも満たない銀の髪をした子供がカゴの中で泣いていたので、俺は咄嗟に抱き上げて家の中に入ると瞳を輝かせてこちらを見つめるコロニ達に気付き慌てながら、
「こ、この子……多分捨て子……だと思うんだけど、どうしよう……?」
そう困惑しながら尋ねると奥にあるキッチンから突然ミシルアが現れたので俺はさらに驚いて声を上げると彼女はため息をつきながら、
「私が出てきたくらいで驚くんじゃないよ!」
と怒られて何も言えなくなった俺にまたため息をつくと抱いている子供を奪うように抱き上げ、目を凝らしていたのだがしばらくして眉間にシワを寄せながら俺と目を合わせ真剣な表情で、
「マモル、この赤子は魔女だ……なんの理由があって捨てられたのかは知らんが、この子はもう我々の森ヘは戻れないだろうな」
そう悔しさが滲む表情で言うと舌打ちをして俺から目を離し呟くように、
「あと……おそらく彼女はイーモンの生まれ変わりだ、若い頃のあやつにそっくりだしな……まぁそれが神の元へ逝ったライティアの運命だからね」
と言ってから子供の右腕を上げて俺に見せると薄くアダンと刻まれていたので驚く俺にミシルアが呆れたように、
「まさか、イーモンからなにも聞いてなかったのかい?」
そう尋ねられたので俯いて頷くと彼女は頭を掻きながらため息をつき、ライティアの最期から生まれ変わるまでの説明をしてくれて、やっと俺はこの子がイーモンの生まれ変わりという実感がわきそれと同時に育てていく決意も固め、それをミシルアに伝えると彼女は穴が開きそうなほど俺を見た後微笑み、
「分かった! この子はマモルに任せるがなにせ魔女の子だ、何かあればすぐにでも私に言うんだよ? 良いね!?」
と眼光鋭く言われた俺は真剣に頷き俺と魔女の子供との生活が始まった。
最初の内は子供にミルクを飲ませる事も知らない俺は何度もミシルアに叱られ、子供にも泣かれて落ち込むこともあったのだが次第に慣れていき俺の子育てに安心したミシルアは嬉しそうに、
「大分慣れてきたみたいでよかったよ、あんたが立派な父親になる事を確信できたしね、でも……この子が魔女という事は絶対に忘れちゃいけないよ? でないと傷つくのはこの子なんだから」
そう最後は真剣な表情で言われ俺も神妙な面持ちで頷くと彼女は満足気な笑顔で頷き返し家を出た。
それからは瞬く間に月日が過ぎていき10歳になった俺の子供アーシュは夕飯を作っている俺の服をじっぱり、それに気付いた俺はしゃがんで目線を合わせると、
「どうしたんだ?」
優しく尋ねると彼女は思いつめた顔で、
「ねぇ、どうしてパパは私の友達のパパと違うの? それに私はまだ小さいのに友達は大きくなってるんだよ……? 私は……皆と何が違うのかな?」
と尋ねられた俺は一瞬言葉に詰まったのだが時が来たことを知り真剣な顔で、
「アーシュ、今からとっても大事な話をするからちゃんと聞くんだぞ? アーシュは、お前の思う通り普通の人間ではない……強い魔力をもつ魔女なんだ、それに俺も人間じゃない……いや、人間ではなくなった存在なんだ、分かるか?」
ゆっくりとした口調で説明するとアーシュはしばらく考え込んでから、
「魔女って……パパみたいに魔法が使えるの? 年を……取らないの……?」
そう首を傾げて聞かれた俺は驚きの余り黙っていたが気を取り直し、
「そうだな、使えるよ……でも見せつける為に魔法を使うのはダメだ、自分に帰って来るし必要な時だけに使うものなんだ、あと……アーシュは俺と違ってちゃんと年を取るから安心して、ただゆっくり成長するだけなんだ」
と鋭い真剣な目つきで言うとアーシュも真面目な硬い表情で頷くので、俺は優しく微笑んで頭を撫でると彼女は嬉しそうに顔を輝かせて、
「ねぇ、私に魔法を教えて! 私……パパのお仕事のお手伝いをしたいの‼ 私はパパが大好きだから……本当の子供じゃなくても大好きだから‼」
覚悟を決めたような真剣な顔で言われた俺はアーシュの最後の一言に驚いて目を見張っていると、彼女はにっこりと笑いながら俺の手を取り、
「私……捨て子なんだよね? この前友達のお母さんが言ってたのを聞いたの、最初は悲しかったんだけどパパはいつも優しいから私の家族はパパとセラフィナちゃんなの‼ あとね、どうしてパパは人間じゃなくなったの?」
そう言われて一瞬固まる俺の目をアーシュは見つめると首を傾げて手を握ってきたので、俺は以前起きた戦争や俺が人間ではなくなってしまった経緯を話す決意を固め、1時間ほどかけ全てを話すとひたむきな目を向けて聞いていたアーシュは瞼に涙を滲ませて俯くと、
「パパは……その戦争のせいで大好きなお友達と離ればなれになったのね……? でもそれなら……パパが可哀そうだよ……」
と泣きじゃくりながら言うアーシュの頭を俺は優しく撫でながら、
「アーシュは本当に優しい子で俺は鼻が高いよ、その気持ちを絶対忘れるなよ、きっと役に立つから」
そう唇をほころばせて言った後勢いよく立ち上がって、
「よし! 明日から早速訓練を始めるぞ‼ ちなみに明日からはパパではなく師匠と呼ぶんだ、あと俺との会話は全部敬語を使う事! 良いな?」
と熱く燃える目つきで言うとアーシュは真剣な顔で頷きその日は夕食を食べた後すぐに眠り、翌朝から訓練を始めたアーシュは元々真面目な性格のためか、あっという間に呪文が記された書物に書かれた呪文を全て覚え、魔法を使うための体力づくりで始めた剣技も俺と並ぶほど強くなっていてさらに一人で生きていくために必要な家事も出来るようになり、18歳になったアーシュに随分と前からミシルアに言われていた魔女の森での生活を促すと、彼女は心が大波のように荒れた様子で反論されたのだが俺は一歩も引かなかったので、彼女は急に黙り込み部屋へと戻るなり何かをし始め何度も声をかけたが何も言わず、朝の風が動き始め明るさが訪れた時刻に何も言わずに家を出て行った。
その後も俺はセラフィナと共に街の人達を助けながら暮らしていて、異世界間戦争を知らない人が殆どになった今彼らに未来を託す事を考えた俺は、さっそくユニコーンの元へと行き俺の決意を伝えると彼は頷いて、
『承知した、この先からは我々に任せなさい、それと今までよく頑張ったね……これからはゆっくりと休むといい、ではマモル、準備はいいか?』
と軽く柔らかな声で言われた俺は涙をこらえて微笑んで頷き、ユニコーンが呪文を唱え始めたその時茂みの中からミシルアと共にアーシュが現れ泣き腫らした顔で、
「パパ、ありがとう‼ 私を拾って育ててくれて本当にありがとう……! 私は、ずっとずっとこの先もパパが大好きだよ‼」
そう涙で顔をくしゃくしゃにしながら言われた俺は堪えていた涙が溢れ出したのだが最期は笑顔で神の元へと昇って行った。
――終——




