第10章 最後の別れと決断
アテウルが突然消え去り異世界間戦争が終結してから数分後、サキが呻いてから目を覚まし目の前の光景に衝撃を受けたのか目を見張っていると、俺が近付いている事に気付き彼はボーっとした目つきで俺を見上げると、
「僕は……どうして王の部屋にいるんだ……? それに……どうしてマモルが、ここに?」
と言っているうちに動揺が広がって行ったのか顔を曇らせる彼に、俺は全て説明すると顔面蒼白になり震えながら、
「僕が、そんなことを……?」
そう言って俺に怯える目を向けてきたので安心させようと微笑み、
「大丈夫だよ、サキは催眠術で操られていたんだ、悪いのは全部アテウルなんだから」
と言うとサキは一瞬俯いたがすぐに顔を上げると目に涙を溜めながら、
「ありがとう……マモルは優しいんだな」
そう曇りなく笑いながら言われた俺は恥ずかしくなり顔をそらせると、彼は不思議そうに首を傾げるので話を変えようと、
「そ、そう言えば、異世界の人達をどうやって元の世界に戻そう? 俺一人では流石に無理があるし……良ければ手を貸してくれないか?」
と手を差し出して言うと初めは驚きの表情をしていたサキだったのだが、次第に嬉しさが混じった面持ちで微笑むと手を取り頷いてくれた。
その後俺達は城の最下層にある祭壇に行くとそこには大きな魔法陣と血痕が残されていて、覚悟はしていたのだが思った以上に悲惨な光景だったので絶句していると、サキがスッと前に出て来て両膝をついて床に着いた血に触れながら涙を流し、
「ごめんなさい……」
と言っていたので俺は黙って見守っていると突然後ろから大声で名前を呼ばれたので俺達が振り向くと、そこには憤然とした面持ちの晴登と困惑したような目つきのミシルアが立っていたので俺は、
「な、なんでお前がここにいるんだよ!?」
と尋ねるが怒りが収まらないのかその表情を崩さずに、
「ミシルアさんに連れて来てもらったんだよ! そんな事より、お前は本当にここに残るつもりか!? 学校はどうするんだよ‼ お前の家族も待ってるんだぞ⁈ それに……俺とも二度と逢えないんだぞ? そんなの……そんなの俺は嫌だ‼」
最後には顔を涙でくしゃくしゃにしながら言って俺の返事を待っていたので俺は微笑むと、
「ごめん、それでも俺はこの世界に残るよ、ここで……マローネとして生きる、それが俺の使命だと思うし俺が出した答えだ」
そう言った後サキに向き直り合図を送ると魔法陣の上で呪文を唱え始め光に包まれると、泣きながら大声で俺の名前を何度も呼ぶ晴登に俺は、
「ごめん……元気でいろよ」
と心の中で呟くと同時に魔法が発動してその場所から晴登は消え去った。
そして異世界の人達を転移させた後も俺はその場で俯いているとミシルアが近付いて来て、
「本当は戻りたかったんじゃないのかい? 意地を張らなくても……」
そう途中まで聞くと俺は被せるように、
「ミシルアさん、この世界にはマローネが必要なんです……だから残ると決めたんだ」
と言うと彼女はため息をつきながら涙を流す俺の頭に手を置き、
「言っている事と表情が全く違うぞ? それに我慢なんかするな、マモルは自分の気持ちをもっと通してもいいんだぞ」
微笑みながらそう言われた俺はさらに涙をこぼしながら、
「本当は……本当は戻って晴登達と暮らしたい! 母さんの料理が食べたいし、父さんがいつも言ってるバカな事ももっと聞きたい‼ でも……俺がマローネである以上異世界でも命が尽きる事は無いんだ、そんなの……今よりもずっと耐えられない……!」
袖で涙を拭きながらそう言うとミシルアはまたため息をつき、
「そうか……なら私は何も言えないな、これからもよろしく頼むよ、マモル」
と屈託のない笑顔で言われ俺も彼女に笑顔を向けると、
「はい……!」
そう大きな声で返事をして祭壇を出ようと歩きかけた途端サキが両膝をつき両手で口を押えると、大量の血を吐き倒れてしまったので、最初何が起きたのか理解できずに立ち尽くしているとさらに口から血が出て来るのを見て、我に返った俺はサキを抱きかかえ名前を呼ぶと彼は浅い呼吸をしながら虚ろな目つきで俺を見上げながら途切れ途切れに、
「やっぱり、無理だったな……マモルと一緒なら、大丈夫だと思ったけど……僕の魔力は、思った以上に少なかったみたい、だ……」
と言って笑みを浮かべるとそのまま彼は人生の幕を閉じ微笑んで眠っているようにも見えるサキの頬に手を置いた俺は、以前イーモンに教わった弔いの言葉を歌うようにかけているとミシルアも加わり、光となったサキを見送った後城を出て街へ行くと俺達に気付いた街の人々が歓声を上げていて、それは後ろに立ち並ぶ人たちにも広がり最終的には王都を揺るがせるほどの大歓声になっていたので、驚いて目を丸くしている俺を見たミシルアが吹き出すと大声で笑いだしひとしきり笑った後、
「ここは偉大なマローネ殿が相棒と共に街を回るのがいいんじゃないのかい?」
そうからかうように言われ一瞬言葉を失った俺だったが街の人々に輝く目を向けられ、ため息をついた後セラフィナに尋ねてみると彼女はやる気満々で返事をしてきたので、俺はもう一度ため息をつきセラフィナに乗って心を繋ぐと飛び立ち、歓声が大きくなっていく様子に嬉しくなった俺はセラフィナの名が刻まれた右腕を掲げながら歓喜に沸く街を飛んでいるとイーモンの事を思い起こし目に涙を溜めながら、
(師匠……俺、やり遂げましたよ、異世界間戦争を止められた……見て、いますか……?)
心の中で話しかけると雲間から陽が射し照らす光の中にイーモンの微笑む顔が見えたので、押さえていた感情が溢れ出し涙を流す俺にセラフィナが、
「マモル、街の人達を見て……皆幸せそうよ、これはあなたが努力をして成し遂げたのだから見られたのよ……それに大切な家族を失って悲しいのは私も同じよ、でもマローネだから……私は自分の役目を果たす、だからマモルもライティアとして最後まで役目を果たして」
と冷静な口調で言ってから振り向き笑顔を向けると彼女も目に涙を浮かべていたので、俺は袖で目元を拭ってから笑顔をセラフィナに向けて、
「そうだな、俺はこれからこの世界でライティアとして役に立つように過ごすんだ、それに泣いてたらまた師匠に怒られるしな!」
そう言って決心を固めるとまた右腕を上げ王都を飛んで回った。
その後戦争が終わってからは王にかけられた催眠術を解いたり王の手伝いをしていて、気が付くと俺がこの世界へ来てからすでに30年も経っていたのだが、あれから姿が変わらない俺に比べ共に復興に尽力していた人達は次々と年を取り変わっていく様子を目の当たりにして、俺はため息をついて俯いているとセラフィナが隣に座り遠くを眺を眺めながら、
「これがライティアとなった者が耐えるべき運命……イーモンもずっとあなたのように遥かな時を耐えてきたのよ」
と言って俺と目を合わせ微笑むので俺も微笑み返し決意を固めた面持ちで前を向くと、
「セラフィナ……俺と師匠……いや、イーモンが以前暮らしていた街へまた戻ろうと思うんだ、そこで俺はイーモンと同じことをして暮らしたい」
そう伝えるとセラフィナは嬉しそうに頷いて賛同してくれたので、次の日には頼れる人に後を託し俺達は全てが始まった街、セステリアへと戻った。




