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暇をもて余した神々の戦い

 ある日のこと。

 神界でアカムがボーッとしているところにその男は現れた。


「おっす! 今暇か? 暇だよな? つーか用事あってもキャンセルしろ」

「……いきなりやってきてなんなんだ」


 黒髪黒目の普通の人間にしか見えないが、けれども圧倒的な存在感を示すその青年にアカムは顔を盛大にしかめながら応対する。


「いやさ、暇で暇でしょうがないから、じゃあ、お前と戦おうと思って」

「じゃあってなんだ、じゃあって。全くなんでこんな適当なやつが最高位の神なんだか」


 適当な理由で戦いたいと告げるその青年にアカムは大きくため息を吐く。

 目の前の男は一見すると戦う者には見えないと言うのにその実力は計り知れないほどに高く、戦うことが大好きな戦闘狂だ。

 そんな奴に絡まれたら誰だってため息のひとつも吐きたくなるだろう。


 だがその態度とは裏腹にアカムは立ち上がると人の姿への擬態を解除して機械の体を露にしていく。

 さらには背中と手から無数の糸が現れたかと思えばそれらは複雑に絡み合って、やがては大きな機械の翼と、武骨な一本の刃の長い剣となった。

 アカムはその機械の体に『神器』と『神装』を取り込んでいるのだ。


 翼と剣を顕現させたアカムは、翼から魔力を吹き出して高速で移動すると共に青年に対して剣を振るう。

 それは冗談で振られたものではなく本気で青年を斬ろうとするものだったが、いつまにか青年の右腕を覆うように現れた、爪のように長い刃がついているガントレットによってあっさりと防がれた。


「やる気満々のようでワクワクしてきたな」

「そりゃあなっ!」


 ほとんど不意打ちぎみに攻撃されたにも関わらず青年は嬉しそうに笑い、アカムはそんな青年の言葉を肯定しながらも踵から魔力を吹き出して高速の蹴りを繰り出す。

 それを青年は余裕を持って回避しつつも距離を取って笑みをこぼす。


「チッ」


 そんな青年を見てアカムは悔しげに舌打ちを打つ。

 なんだかんだ文句をいいつつも即座に攻撃を仕掛け、避けられればそれを悔しがるアカムもまた戦闘狂であった。


「相変わらずでたらめな動きだ。本当に元人間かってくらい機械の体を扱うよなあ。さすが機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナと呼ばれるだけあるな」

「簡単に避けながらそんなこと言われても嬉しくねえな、終焉始源の神(ゼロ)様よう」


 己の称号で呼ばれたアカムが吐き捨てるように言葉を返す。

 機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナというのはアカムのことを指す称号であり終焉始源の神(ゼロ)というのが青年のことを指す称号だ。

 この称号は一際特徴的な神に与えられるもので、有する神は多くない。

 もっともその称号になんの効果もないため、さほど重視されていない。


 だか終焉始源の神(ゼロ)だけは違う。

 その称号だけは唯一特別視されているのだ。

 なぜならその終焉始源の神(ゼロ)という称号を持つその青年――レイは神の中でも最強と言われる存在であり、その称号は言わば最強を示すものだからだ。


 そして、神になる前にただただ強くなろうと生き、そしてその世界においては頂点に位置する強さを得たアカムにとってレイはこの上ない目標であった。

 だからこそアカムはレイの誘いに乗って即座に攻撃を仕掛けた。

 そんな不意打ちなど無意味で終わるだろうことを分かっていながらも攻撃を仕掛け、戦いを始めたのだ。


 しばらく睨み合っていた二人だが、レイが肩を竦めて口を開く。


「さて、いよいよ本番ってところだが、まあ流石にこれで戦うってのは色々失礼な感じもするから、ひとまずは……」


 ふとレイがそう言うと刃が爪のように付いたガントレットが糸がほぐれるようにして形を崩して一旦小さな球へとなったかと思えば再び糸が絡みあうようにして形を形成していき、刀となってレイの手に収まった。

 その切先をアカムへと向けて、


「これでやってみようか」


 と、軽く告げて笑う。

 その宣言にアカムは剣を構えることで答える。


 再びにらみ合い、互いに機を待ってしばらくその場から動かない。

 長い静寂の後に二人は同時に動いた。


「ふっ!」

「はっ!」


 どちらも凄まじいスピードで距離を詰め、それぞれの斬撃がぶつかり合った。

 そして互いにその一撃で終わること無く直ぐに次の攻撃を仕掛けまたぶつかり合う。

 攻守に分かれるなどということはなく、どちらも相手を倒すために攻撃を仕掛け、互いの攻撃がぶつかり合い相殺されていく。

 剣と刀がぶつかり合うごとに広がる衝撃波は、ここが神界だからこそ問題もないが、もしも普通の世界であったならあっという間に周辺一帯は隕石が落ちたかのごとき荒れ果てた土地へと様変わりしていたことだろう。

 当然、それだけの威力の攻撃であれば神である二人も当たれば大きなダメージを受けかねないが、二人が守りに入る様子は一切なかった。


「はっはー! 楽しいなおい!」

「やかましい。さっさと斬られろ」

「やだよ、痛いし。そっちは機械で痛くないんだからそっちが斬られろ!」

「ふざけるな。お前その刀に痛みを強制的に感じさせる魔法かけてるだろうが」


 凄まじい速度で連続して撃ちあいながら二人は更に会話を繰り広げていた。

 お互いに神であるために呼吸の必要はなく、戦闘中であろうとしゃべることに不都合は無いのだ。


 そうして会話をしながらも二人はしばらく足を止めて攻撃をぶつけあった。

 しばらくそうして攻撃を続けていたところで、突然アカムがレイの斬撃を横へと流し、レイの体勢が崩れた所へ剣を振り下ろした。


「っぶね!」

「チッ」


 しかしレイは崩れた体勢から無理矢理踏ん張ったかと思えば出鱈目な体勢のまま刀を斬り上げた。

 無理な体勢から放たれたというのにその攻撃は振り下ろしたアカムの斬撃を相殺し、無傷で切り抜けたレイはアカムが追撃を入れるよりも早く体勢を整えつつ後ろへ下がった。


「逃げるなよ」

「ただ力を比べるなら腕相撲でもすればいい。俺はただ隙をつくために付き合ってただけだっ!」


 レイの安っぽい挑発にアカムはそう返しながら、剣に魔力を流し、距離を詰めることなくその場で連続して剣を振るった。

 すると剣の先から魔力が高密度で放出されて幾重もの魔力の刃がレイへと襲いかかった。


「斬撃を飛ばすってのは、ロマンだよなっと!」


 その攻撃にもレイは怯むことはなく軽々と避けながら軽口を叩く。

 だがアカムは当たらない斬撃を止めることなく、さらに剣速を上げて魔力の刃の密度をあげる。


 密度の上がったそれを流石に回避だけではさばけなくなったレイは魔力の刃のいくつかを切り払うことでスペースを作る。

 その行動を予め予想していたアカムは翼から魔力を吹き出して一瞬で接近しながら薙ぎ払うが、レイは驚異的な反応速度でそれをあっさりと回避した。

 が、それすらも織り込み済みだったのだろう、レイが回避した先にアカムの左腕だけがあった。


「ぐっ!?」


 その左腕が魔力を噴出しながら高速でレイへと迫り、そのまま腹部へと拳が突き刺さりレイを勢いよく吹き飛ばした。

 そのまま地面に衝突するかと思いきや地面の上を転がるように受け身を取ったレイだったが、顔を上げればすでに接近して剣を降り下ろすアカムの姿がそこにあった。

 レイはなんとか刀を間に入れて直撃を避けるも、再び吹き飛ばされ、それをアカムが追い立てる。


「っ!」


 吹き飛ぶレイへと追撃を入れようと動いていたアカムが突然軌道を変えて弾け飛ぶように上へ飛ぶ。

 その一瞬後に先ほどアカムがいた場所を光線が貫いた。

 その光線はレイの手にある銃から放たれたものだった。

 レイは吹き飛ばされながらも刀を瞬時に銃へと変えて追撃に動くアカムを狙い撃ったのだった。


 それから体を捻りながら見事に着地したレイはそのまま光線を連射してアカムを狙う。

 幾つもの光線がアカムを襲うが、アカムの機動力もまた高くその全てを回避していく。


「チィ!」


 だがアカムも軽々と回避しているわけではなかった。

 レイが放つ光線は僅かにホーミングするようになっていたのだ。

 そのため、アカムは大きく避けたり一瞬で反転したりと変則的に動かざるを得ない。

 その機動自体は別に苦でもないのだが、それだけの変則機動をしていてはレイに近づくことなどできないのだ。


 そんな状況のなか、アカムは左腕に膨大な魔力を集めていた。

 そして光線を回避しながらも左腕をレイへと向けたかと思えば、その前腕部が花のように開いた。


「ちょ、おま」

「発射ァ!」


 それがなんなのか知っていたレイは慌てた声を上げるがアカムは構うことなくそれを発射した。

 瞬間、暴虐なまでの超高密度の魔力エネルギーがレイの放った光線を取り込みながらレイへとと襲いかかる。


「魔力収縮砲とかあぶねえだろが!!」


 叫びながらレイは銃を杖に変えたかと思えば、瞬間的に膨大な魔力を圧縮し、アカムが放った魔力の塊へ向けて放った。

 二つの魔力は空中でぶつかると凄まじい衝撃を辺りに撒き散らしながらせめぎ合い、やがて大爆発を起こした。


「あっ」


 その爆発によって神界に存在する気泡のようなものが一つ弾けて消えるのを見てレイが声を漏らす。

 神界に無数に浮かぶ気泡はそれ一つ一つが世界であり、それが消えたということは世界が一つ滅亡したことを示していた。


「また貴様らかあああああ!」


 世界が一つ消えたその瞬間、アカムもレイも並々ならぬ圧力を感じて『神装』を全力で展開し、怒りの声とともに降り注いだ極光から身を守る。


 光が消え、辺りが見渡せるようになればいつのまにやら老人のような姿をした存在がアカムとレイの間にいて、その顔は怒りからか赤く染まっている。

 また、その身からはかなりの力を発しており、神の格で言えばレイにも及ぶ最高位の力を持っていることが分かる。

 それもそのはず、その老人の正体は最初に生まれた神であり全てを作り出した創造神であった。


「アカムのせいだぞ」

「違う。俺はお前に仕方なく付き合っただけだ」


 神の中でも最も偉いとされる創造神が現れ、怒りを露にしているにも関わらず、レイとアカムは互いに責任を擦り付けあっている。

 その態度から萎縮してないのは明らかだったが、これはレイもまた創造神に並ぶ最高位の神格の持ち主であり、アカムはそんな最高位の神の暇潰しに何度も付き合ってきて遥か格上の存在と相対することに慣れているからだ。

 また、こうして戦ってる間にうっかり世界を消滅させてしまうことも今回が初めてではないというのも二人が落ち着いている要因の一つだろう。


 だからといってこのまま創造神の説教を受けるのも面倒だと二人は目を合わせて頷いて、アカムが消え去った世界の辺りを魔力障壁で囲って世界を構成していたリソースを残らず保護し、レイが杖を懐中時計に変えてその障壁内の時間を戻して世界を消え去る直前の姿に再構成することで消え去った世界は元通りとなった。

 その手際のよさはひどく慣れた様子で二人がどれだけ似たようなことをしでかしているのかうかがい知れると言うものである。


 そうして世界を元通りにした二人は創造神様へどや顔を向けた。

 正確にはどや顔を晒したのはレイだけであったが、アカムはアカムで、これで文句はないだろう、という目を向けていた。

 当然二人の態度は許しを乞うものではなく、その態度が創造神の逆鱗に触れるのも仕方のないことであった。


「お主ら、いい加減にしてもらおうかの」

「げっ!?」

「む!?」


 創造神がそう言うと突然レイとアカムの側から鎖が現れると一瞬で手足に絡み付き拘束してしまう。

 その鎖は神の力を封じてしまうようで二人がどうあがいても外れることはなく、身動きを取れなくなってしまった。


「くそっ、雷化もできねえ!」

「ぐう……腕を分離することもできん……」


 それぞれ抜け出そうといろいろ試したがどうあがいても抜け出せないことを悟り項垂れる。

 そんな二人に冷たい目を向けながら創造神は言った。


「そのまま千年ほど反省しておけ」


 その言葉に二人は再び暴れるが、やはり拘束から抜けられず絶望した。

 そして本当にそのまま拘束が解かれることなく創造神はその場から立ち去ってしまったのだった。






 その後の二人はと言うと……。


「ごめんねーレイ。ソウ爺に言われてるから助けてあげられないの」

「まあ、自業自得ね。少しは反省しなさいよ。解放されたときはいっぱい構ってあげるから」

「私もー」


 レイは創造神がいなくなってからしばらくしてやってきたサクラとエルザに慰められていた。

 二人とも長い間レイと共にいるだけあってそれなりに毒されているのだ。


 一方のアカムは言えば、


「バカね。大馬鹿者。なんなら私の拳もいる?」

「ああ、これがマスターなのかと思うと、なんて嘆かわしい……ところで例の栄養剤がありますのでいかがですか?」

「なぜ主原因のあいつは甘やかされて俺は追い打ちされているんだ……」


 と、イルミアとアイシスに冷たい目を向けられ責められていた。

 残念ながら彼女たちにアカムのことを甘やかすなんて考えは一切なかった。

 ちなみにその矛先がレイに向かわないのは相手が最高位の神であるから……ではなく、あんなキチガイの神の言葉に乗せられるのが悪いという認識からである。

 何気にひどい評価だった。


 そんなこんなで神界は今日も大変平和なのであった。

Q.登場人物、こいつら誰?


A.こいつらです↓

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