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自爆

「人は産まれながらにして不平等である」

「何を今更」


 翌日朝っぱらから始まったもっさんの謎の演説を話半分に聞く。


「人間には二種類の人間がいる。それは性の悦びを知っているものと、知らないものだ」

「やめろやめろ、そういうSNSで流行ってるのを適当に持ってくるの!」

「しかしあれは真理だよ! 僕も知りたいよ!」


 かっこ書きで切実と書かれ、漫画なら集中線で囲まれている鬱陶しい茂木を払いのける。


「あぁ、そうだもっさん、お前と同レベルでくだらないこと聞くけどさ」

「その前置きいる?」

「もしさ、白銀と男女の関係になったとしたら、こう深い仲になる?」

「めんどくさい言い回しする奴だな。いつもはそういう低俗なネタをお下劣の一言で斬り捨てる梶君が珍しいですわね」

「なんなんだよその喋り方……」

「結論から言うと」


 すぅっと茂木は息を吸い込む。


「そんなもん誰だってやりたいわ! アホかお前は!!」


 机をばんっと拳で叩き、血管を浮かせながら怒鳴る茂木に友人ながらちょっと引いてしまう。


「てかやらない奴いるの?」

「…………」

「まさか……」


 茂木は俺の沈黙と、先ほどの質問で何があったか察したらしい。


「お前嘘だろ!!」

「やめろ、教室のど真ん中で!」

「いや、えっ、だって、お前千載一遇つか、宝くじで3回連続で1等当たるくらいありえないぞ!?」

「そこまで確率低くねーよ」


 そんな確率10回生まれ変わっても無理だわ。


「えっ、マジで? なんで俺じゃなくてお前が?」

「俺にもよくわかんねぇ。お前の言った通り、偶然白銀の頭のネジが何本か外れてたのかもしれん」

「いや、ネジどころじゃなくて多分演算機能生きてなかったと思う」


 言いすぎじゃない? 虫と同レベルだよそれ。


「てか、ほんとかよ、なんかうさんくせーな」

「こんなもん嘘ついてどうすんだよ」

「そりゃそうなんだが、お前と白銀って生物レベルで違う生き物だからな。なんか死んだカメレオンに似てるとかじゃねーの?」

「お前はカメレオンとするのか」


 と話していると、教室の扉が開き珍しく今日は遅刻せず白銀一人で登校してきたらしい。

 茂木はおっ、話の主が来たと半信半疑で視線を向けたがすぐに顔をそらした。


「やっべ、すげー機嫌悪そう」


 確かにいつもの明るいオーラはなく、白銀からは話しかけんな殺すぞと闇のオーラが発せられている。


「俺が見るに、ありゃ男に盛大に振られたな」


 確かにたまにめっちゃ機嫌悪そうなときもあるので、今日はたまたまそう言う日なのだろう。だが、それを考えるともしかして原因俺なのかなと少し思ったりもする。

 まぁそこまでは自意識過剰かなーとも思うのだが。

 クラス連中も敏感に白銀の空気を感じ取り、いつもはいの一番に駆けつける鼻や前歯も自席から動かず男同士で談笑をかわしている。

 男と話しつつも意識は全力で白銀に向いているところが、またなんとも。


「それよりお前、昨日川島探ったのか?」

「いや、もう帰っててわかんなかったんだよ。家どこかもわかんねーし」

「今日日プライバシーやらで学校に聞いても教えてくんねーしな」


 と話をしていると、突如ドンっと押され、俺は椅子から転がった。


「いった、なんだ?」


 そこにはさも当たり前のように俺の席を横から強奪した白銀の姿があった。


「何やってんの?」


 ゴミ虫を見るような目で佇む白銀。あれ、これ俺が悪いの?


「いや、押し出されたんだが」

「あぁ、揚羽お尻大きいし。ほら半分あけてあげた」


 そう言って椅子の半分スペースを開けるが、狭い一人用の椅子にそんなスペースあけられたところで座れるわけがなかろうが。


「座んないの?」

「もういい、その席はやる」


 俺は諦めて隣のまだ登校してきていない友人の席に腰を下ろそうとした。だが、その瞬間白銀は椅子を蹴り飛ばし、俺は後ろにひっくり返った。


「……お前なぁ」


 白銀は無言であいた椅子のスペースを叩いている。


「そんなとこ座れるわけな……」

「ここに座らなきゃお前の膝の上に座るぞ」

「はい、座らさせていただきます」


 謎の脅しに屈し、結局自席で白銀と半分半分の席で座ることになった。

 白銀は俺のことは全く気にした様子はなく、勝手に机の上に鏡やらメイク道具やらを並べ、俺の背中に全体重をかけながら、かわったはさみ(ビューラーというらしい)みたいな道具で睫毛の手入れをし始めた。

 その様子にクラス全体がどよめく。

 いや、正確には皆各々談笑しつつも全力でこちらに意識を集中させていると言った方が正しいだろう。


「お前さっきの話本当だったんだな。疑ってすまん」

「いいんだ、嘘みたいな話だから」

「あの、つきましてはどうしてそうなったのか梶君のテクニックを教えていただけると嬉しいんですけど」


 茂木は手もみしながらへりくだるので、俺は昨日のことをありのまま伝える。


「拳を大きく振り上げて、女の子の前でパワーッ! って叫ぶだけだよ」

「嘘だろ? それで彼女できんの?」


 なっ? と後ろの白銀に話を振ると、上を向いたまま「大体あってる」と返って来る。


「ねっ、チークいる?」

「チークってなんだよ」

「ほっぺたに塗るパウダー、ピンクにしたり肌綺麗にみせたり」

「いらんわそんなもん」

「じゃやめとく」


 白銀は俺の注文を受け付けると、メイクを続ける。


「嘘だろ、ほんとに彼女みたいになってんじゃんお前ら……」


 茂木が指をふるわせわななく。


「だからパワーだよパワー」

「よし、パワーだな。絶対使うわ」

「おぉ商標権とか主張しないから気兼ねなく使ってくれ」

「おはよー」


 始業チャイム5分前に巨乳の百目鬼が登校してくる。

 茂木はそれに気づき、一瞬で彼女の前に立ちはだかると拳を雄々しく振り上げた。


「パゥワーーーーッ!!」

「………………」


 目の前で友人が盛大に自爆したところを見てしまった。


「あ、あはー、な、なんかのギャグかなー?」


 百目鬼の引きつった笑いと、気を使った言葉にいたたまれない気分になってくる。

 話が違うと茂木が鬼の形相でこちらを見るが、そんなもん普通に考えて目の前でパワーって叫んで彼女できるなら誰だってできとるわ。むしろ絶縁されなくて良かったなと思うレベル。


「あぁ、これは梶君の入れ知恵か……な?」


 百目鬼の声のトーンが一気に下がる。俺が白銀と謎の相席していることに気づいたみたいだ。

 百目鬼の体が石のように固まった。


「え、え~っと。ウチなんか目悪なったんかな、梶君がそんなまさかね」


 百目鬼は眼鏡をかけてもう一度こちらを見る。しかし見えているものにかわりはない。

 そのことに気づくと、百目鬼の眼鏡にビシッとヒビが入る。


「あ~あかんわこれ、視力かわって度があってへんわ。梶君が女の子と一緒に席座ってるように見える」

「ちーっす、百目鬼ちゃんダーリンと仲良かったんだ、知らなかった」


 パリンっと百目鬼の眼鏡のレンズが砕け散った。


「あ、あはー、どうしたんやろ耳腐ったんやろか? ダーリン? あっ、ダージリンかな? 紅茶?」

「百目鬼ちゃんおもしろー」


 ケラケラと笑う白銀に百目鬼の理性は限界をきたしつつあった。


「あはははははははは」

「アハハハハハハハ」


 百目鬼と白銀の笑いが木霊するが、片方は全く笑っていない。女の子怖い。


「はぁ……どうしてこうなった」

「なんか浮気バレた奴みたいだな」

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