EXディー
「お前ディーって今日、城にいたぞ。むこうにも三人いたけど、あれがディーでお前がディーで、ディーがいっぱいいる!」
俺達は混乱するが、戦闘モードへと完全移行したディーは冷静であり、その目は一切の迷いがない。
「ふむ、知らんな。もしかしたら私の元仲間かもしれぬが、彼らにはどのような手段を使っても生き延びよと言っているので、別に私の名をかたろうと構わんよ」
「マジか」
やっぱりこいつが本物のディーなのか。
「それでは始めよう」
そう言ってディーは剣を鞘から一気に引き抜くと、足元に魔法陣が展開され、彼女の痴女みたいな山賊服が光り輝き、鎧を象っていく。
一瞬の閃光
「神鎧ヴァルハラ顕現」
眩い光がおさまるとそこにいたのは、妖精なのだろうか。白銀の鎧は月の光を眩く反射し黄金に輝いている。
背中から妖精のような二枚重ねの透明な羽をのばした女性が宙に浮かんでいたのだった。
俺達を見下ろす視線は冷徹で温度を感じさせない。
常時羽から光の粒子が零れており、見ただけで「あっ高レアだ、この人」と理解できる。
羽つきのヘッドセットに白銀のブーツ、白銀のガントレット、白銀のビキニアーマー……ん?
「お前、変身しても痴女かよ!」
「うるさい私だって気にしてるんだ! これを見たからには殺す、絶対殺す!」
やばい山賊が絶対殺すマンになってしまった。てか完全に私怨だろそれ。
「オリオン、ソフィー……逃げるか?」
「そ、そうですね、明らか強そうですし……主も言っております。虎穴に入っても殺されたら意味がないと」
「いや、やる」
腰が引け気味のソフィーに対して、オリオンはしっかりと頷いた。
「あいつをやれたら、なんかあたしの中でかわりそうな気がする」
彼女の目はもう、宙に浮かぶ白銀の乙女しか見ていなかった。
「よし、じゃあやれ」
「いいんですか」
ソフィーがわたわたと慌てる。
「ソフィー援護よろしく」
そう言ってオリオンは肉食動物のような俊敏さでディーに斬りかかった。
「あなたでは私には勝てない」
「ふざけんなよ、高レア潰してあたしがなりあがってやる」
「その品のない言葉遣いも気に入らない」
「上等だ、山賊に好かれなくて結構」
オリオンは一太刀まじえては離れを繰り返すヒットアンドウェー戦法で、ディーを襲う。
「テメーさっきの斧明らかに慣れてなかっただろ。剣がお前のエモノなんだろ、全力できやがれ!」
「ではお言葉に甘えて」
一太刀いれて、一瞬で木の上にまで逃げたオリオンの真後ろにディーは現れた。瞬間移動を思わせる速度で、枝の上にいるオリオンを叩き落す。
俺は落下地点にダイブして、オリオンの緩衝材となった。
「ぐえぇぇ」
「咲邪魔!」
俺を踏み台にしてディーに斬りかかるオリオン。
「面白い王だな、戦士に踏み台にされる王初めてみたよ」
でしょうな。
「うっせ、その余裕面曇らせてやんぜ!」
もうどっちが山賊かわからんもの言いでオリオンは斬りかかる。だが全て軽く切り払われてしまうのだった。
マジかよ超つえぇぜディー。技量Sぐらいあるんじゃないのか?
オリオンは歯が立たず、再び木に叩きつけらる。俺は落下してくる彼女の体に向かってダイビングキャッチする。
「あいつ超つぇぇ桁が違う」
「さすがEXだな」
「レアリティで呼ぶなって言ってんだろ」
俺の膝の上で口元から血を流すオリオン。
「大丈夫だ、お前ならやれる」
「軽く言ってくれるぜ。でもなんかやれそうな気がしてきた」
オリオンはぴょんっと飛び上がると、剣を構える。
「あれでダメージがない……」
対するディーはオリオンのしぶとさに眉をひそめる。
「では一気に」
中空に浮いていたディーは急降下して、オリオンを狙う。明らかな殺意をもって狙われる首。
「逃げろ!」
咄嗟に剣でガードするが間に合わない。
「!?」
首がはねられたと思った瞬間だった。薄く発光する巨大な盾がオリオンを守っていたのだった。
それにはディーも驚く、ソフィーの背中から透明な鎧兵が盾を構え攻撃を遮っていたのだから。
「ゴーストアーマー? 使役しているのか?」
「ソフィー!」
「主は言っております。のけ者よくないと」
やりたかったのかよと思うが、ソフィーのスキルが発動したならこっちのもんだ。なんたって大の男五人を簡単に吹っ飛ばすほど強力な力なのだから。
「やっちまえソフィー」
「いきます!」
俺の掛け声とともに鎧の幽霊はバカでかい剣を羽虫を払うかのごとく振り下ろす。
軽い音とともにディーは受け流すと一気に飛び上がり幽霊鎧を攻撃する。
「そんな攻撃でソフィーのスキルがやぶれるかよ!」
へへーんと俺が良い気になっていると、ディーは眼下にいるソフィーに狙いをつける。
「あなたが本体なのでしょう」
一瞬で急降下すると、ディーはソフィーに向かって弾丸のような突きを繰り出す。空気を切り裂く刺突、狙いはその首だと。それを許さぬと幽霊鎧は巨大な剣を叩きつける。
しかし
「なめるなっ!!!」
「なっ!?」
叫び声とともに超巨大な剣を、ディーは細い剣で下からかちあげるように切り払ったのだ。
マジかよ! 規格外にもほどがあんだろ! EX反則すぎる!
「君には戦闘経験がないようだね。動きは悪くないが怯えが前に来ている」
ディーは肘鉄をソフィーの胸に叩き込むと、ソフィーは酷いセキをしながらその場にうずくまった。
ソフィーが戦闘不能になったからか幽霊鎧の姿が薄くなり消えていく。
マジかよ、いきなりパワーインフレしてんじゃねーぞ。ソフィーさん瞬コロじゃねーか。
「よそ見してんじゃねーよ、あたしがまだ残ってんだよ!」
すこしだけ回復して、再びオリオンが斬りかかるがジリ貧だ。レアリティどうのってレベルじゃない戦闘経験が違いすぎる。一体いくつ修羅場をくぐったらあれだけ的確な上、相手の予想を上回る動きができるのか。
「ほとんど未来予知みたいな動きしてるじゃねーか……」
ディーの右目は髑髏の眼帯で覆われている為オリオンは右側を狙うが、逆に動きを読まれ足技で吹き飛ばされる。
俺は倒れたソフィーを抱き起す。
「ゴホッゴホッ」
「大丈夫か!」
「ゴホッゴホッ、苦し……」
気管を攻撃されて、肺から空気が逆流しているのだろう。
「大丈夫か! これはもう人工呼吸しかない!」
ゴホゴホとむせるソフィーの唇に、自分の口を近づける。すると思いっきりグーで顔面を殴られて俺はのたうち回った。
「ゴホゴホっ、主は言っております。調子にのるなと」
はい、すみません。
「このままではやれらてしまいます、……このまま負けてしまうのでしょうか?」
「大丈夫だ、まだあいつがいる」
俺は戦っているオリオンを見る。
「ですが彼女では」
「見ろよソフィー、あいつの顔……笑ってやがる」
そう、どれだけやられていてもオリオンの顔は曇っていない。むしろ嬉々として、笑ってやがるのだった。
「あの、オリオンさんなんだか速くなってません?」
それは俺も思っていた、段々あいつディーの動きに対応してやがる。
「このっ!」
ディーが横薙ぎに切り払うと、驚くことにオリオンはその刀身を歯で噛みついて受け止めていたのだった。
「なっ!?」
「どうした、育ちの良さそうな山賊。底辺の戦いはこれぐらいのことするぜ」
「くっ!」
奇想天外な動きに、ディーが驚かされている。
いけるな。
「オリオンやれるぞ! RでもEX討ち取れるぞ!」
「Rって言うな殺すぞ!」
あいつまだ余裕そうだな。
俺の声援が聞いたのかはわからないが、オリオンはディーを一気に攻め立てる。右左、上下、後ろ、斜め360度全方向からの攻撃を受け、ディーがたじろぐ。
「おらおら、この程度かよEXってのはよ!」
「なめるな、私はバラン王最強のチャリオットだぞ!」
本気になったのかディーの鎧が全て金に発光し、鎧から光の粒子が舞う。
飛びかかってきたオリオンを切り払うと、後ろにあった木々がまとめて斬り倒された。
奴の剣から衝撃波のようなものが飛び、木々をなぎ倒したのだった。
衝撃波ってなんだよ、わけわからんぞ。
オリオンはそんなことを気にせずひらりと俺の元に戻ってくる。
「なぁ咲、今のあたし強いかな」
「あぁつぇぇ最強だ」
「あいつより強いか?」
「あぁ勿論だ」
「へへ、嬉しい。やれそうな気がしてきた」
ディーは金色に輝く剣を構え、オリオンは四つん這いになり獣のような構えで対峙する。間違いなくディーは必殺の一撃でくる。オリオンにそれを打ち破れるか……。
普通に考えれば無理だ。だが、今のあいつなら。
「いけぇ、オリオン!」
俺の叫びとともにオリオンは跳んだ。そしてディーは最大火力で迎撃する。
かたや極光の光を纏う剣、かたや鉄の剣を振り下ろす。
まるで大砲同士がぶつかったような巨大な音が響き、暗い森に真昼の如き光が漏れ、必殺対渾身の一撃。力と力がぶつかり合う。
「こんのぉ!」
「私は……負けないっ!」
それは一瞬だったのか数分だったのか、恐らく数秒が正しいのだろうが俺達には十分以上の時に思えた。
ディーの光がおさまったとき二人はお互いの肩で支えあい立っていた。
「まさか、私が負けるとは……」
「よく言うぜ、全然本調子じゃないくせに」
最後オリオンの持っていた鉄の剣は砕けたが、ディーの腹にはオリオンの拳が突き刺さっていた。
ディーが膝をおると、白銀の鎧が消え、痴女山賊の姿に戻った。
こうしてRがEXを打ち破ると言う奇跡はおこりえたのだった。
固唾をのんで見守っていた少女達は一斉にディーの元に集まってくる。
俺は崩れたオリオンを受け止め背中を撫でる。
「ご苦労さん、さすが相棒」
「へへ、ただのR娘なんて言わせるかよ」
なんてカッコイイセリフを吐いて、オリオンは目を閉じた。
しばらくしたら気が付くだろう、文字通り全力を使い果たしてしまったのだろう。
オリオンをソフィーに預け、少女達に近づく。
俺は飛びかかってきそうな少女をかきわけ倒れたディーの隣にしゃがむ。
「あんたほんとにバラン王のディーなんだな」
「あぁ、そうだ」
なまじさっき三人のディーを見ていたせいで、未だ信じられずにいる。
てことはあのスリーディーは全員偽物だったってわけか。
「あんたをラインハルト城に引き渡せば俺の依頼は完了なわけなんだが」
そう言うと取り囲む少女達はチャキっと音をたてて武器を構える。ディーを差し出すならお前を斬ると言いたいのだろう。
「よせお前達」
「いろいろ解せない、あんたほどの能力があればどこでも引っ張りダコなはずだ。なんでこんなところで山賊なんかやってるんだよ」
「…………」
「それは、私達のせいなんです」
黙り込んだディーのかわりに剣を投げ込んだリボンの少女が話す。
「私達は元全員バラン王の召喚した戦士です。ですがドロテア王の侵攻時に深い傷を負い戦うことができなくなったものばかりなんです。故郷にも帰れず、戦うことしかできない私達をディー様は見捨てず、こうして野盗に身をやつしてまで支えてくださっているのです」
「…………」
ディーは喋らない、少女の言っていることは本当なのだろう。
「なるほどな、最初から戦力はディー一人しかいなかったってわけか」
周りを見回すと、少女戦士達の数は三十人をゆうに超える。
恐らく怪我をするまで彼女達はきっとバラン王の優秀な騎士だったのだろう。
「どうか、どうかディー様を捕えないでください。城には私が主犯として捕まりますので、どうかディー様だけは!」
そうして少女は地に頭をつけるほど頭を下げる。
「いや、わ、私がみがわりになろう!」
「いえ、私が!」
「いやお前達では説得力がない、私が行こう」
少女戦士達は皆我が我がと俺のところに殺到する。
「よさないか、私が負けたのだ。私が捕まろう。でも彼女達だけは無関係としてくれないだろうか?」
「いや、そりゃ別にいいんだけどよ。でもお前捕まったらこの子らのたれ死ぬんじゃねーの?」
「…………」
俺はピーンと閃いた。
「ディーさ、俺と契約しねぇ?」
スマホを取り出して、契約画面を呼び出す。
「私は賊だぞ」
「あぁダイジョブダイジョブ、見つかりませんでしたすんません言うとけばなんとでもなる」
「いいのかそれで……」
「そんでさ、ディー召喚石があるんだけどさ。これお前の願いなら大体かなえられるわけよ」
「あぁ、知っている」
「バラン王を元に戻せとかは無理だと思うけど」
俺は周りを見る。
「怪我治せくらいなら、……なんとかなるんじゃない? いや石の使い道はお前の自由なんだけど」
「…………」
ディーは驚いているのか目をくりくりさせている。
「凄いな君は、絶対に断れないじゃないか、そんなの」
「いや、別にいいんだぜ契約した瞬間裏切っても」
「私がそんな軽そうな女に見えるか?」
見えないからこの話を切り出した。
「俺召喚石一個しか持ってねーから。もっと勢力のでかい王に取り入った方が賢いとは思うけどな」
「いや、この状況でその提案が出せる君と契約しよう」
ディーがそういうと、彼女の足元に魔法陣が一瞬だけ浮かんですぐに消えた。
俺がディーにスマホをかざすと彼女のステータスが表示される。ステータスが表示されるというのは俺のチャリオットに入ったという証であった。
戦乙女ディー
筋力B =====
敏捷A ======
技量S =======
体力C ====
魔力B =====
忠誠EX
信仰B =====
神鎧ヴァルハラ 全ステータスを一段階上昇させる。
技量Sで特殊スキルで能力上がってたのか。道理でくそつぇと思った。オリオンの攻撃ほとんど切り払われてたもんな。
よくオリオンこのステータスお化けに勝てたなと思う。
ありゃ忠誠がEXなのにゲージが伸びてないのはなんでだ?
まぁいいや、とりあえず契約はすんだ。後はディーが召喚石をどう使うかだが。
「彼女達の怪我を治してほしい」
まぁそうですよね、金がほしいとかいきなり言いだしたらどうしようかと思ったけど。いや金でもいいんだけどね。
少女戦士達の体が淡く光り輝く。皆恐る恐る怪我してる部位を触ってみている。
「凄い痛くない!」
「足が動く!」
「目が見えるよ!」
「背中が痛くない!」
「火傷が消えたわ!」
皆口々に大喜びである。
「良かったのか? 召喚石って本来自分の為に使うもんだぞ」
「いいよ、彼女らの笑顔を見ていると私も嬉しい」
ディーにとって彼女達は家族のようなものなのかもしれないな。
ひとしきり全員が喜び合った後、ディーは大きく咳払いをする。
「じゃあお前達、これからは自分達でしっかり生きていくんだぞ」
ディーの声に全員が黙り込んだ後涙目になり、彼女に殺到した。
「私ディー様と離れたくありません!」
「私も」
「私もです!」
おーいおーいと泣きじゃくられ、さすがのディーもこれには困り顔である。
「困ったな、私は既に人のものだから君たちをどうこうしてあげることはできないんだよ」
人のモノってなんか響きいい、エロい気がする。
彼女達の悲しみの別れを横目に、ディーのことどうやって報告しようかなと俺は依頼書を再度眺める。
「君たちは優秀な戦士だ、きっと良い王が拾ってくれる。もし敵同士になったときは……悲しいがそれは定めだ」
「私ディー様となんて戦えません!」
「ディー様ぁ!」
「あぁウチ今人足りねーから、全員ウチ来てもいいぞ」
どうすっかなぁ、やっぱオーソドックスに見つかりましぇんでした~か。いやでもディー顔バレしてたらどうするか。困ったぞ。
「い、今の本当か?」
「えっ、見つかりましぇんって?」
鳩が弾丸くらったような顔をしてるディー。
「いや、全員来てもいいって」
「あぁ契約はしてもらうし、ウチ弱小だし、金ねーし、召喚石もさっきので使い切ってないけどな」
いっそサイモンを身代りにつかうという手も……。いやさすがに外道すぎるか。しかしNと引き換えにEXが手に入ると思えば……。
「「「「「ぃやったぁぁぁぁぁっ!!」」」」」」
突如全員が歓喜の声を上げて飛び跳ねはじめて、俺氏困惑。
「えっ、何これ?」
「ありがとう、ありがとう!」
そう言ってディーは感謝の涙をぽろりとこぼした。
「あぁ契約のこと? 言っとくけど、ウチマジでぼろいからな、来てからやっぱやめますとか言うなよ」
「皆でいられることが嬉しいんです」
おーいおーいと泣く三十人余りの少女戦士達。この子らよっぽど離れ離れになるのが嫌だったんだろうな。
それから全員と契約を行い、俺はオリオンをおぶりながら、大所帯で帰ることにした。
後日ギルドに見つからなかった旨を伝えると、城の方の書類不備を修正する為に依頼書は返還された。しかしその後ぱったりと山賊がでなくなったことから、ラインハルト城はそのまま依頼書を再度提出することはなかったのだった。