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記憶の条件

 ハードな学校での授業が終わり、俺は爺さんが指定したビルに向かった。

 五星館と書かれたビルは一階はゲームセンター、二階はビリヤード、三階はボウリングとアミューズメント施設が集まっていた。

 どこにいるんだ? と思ったが四階が碁会所になっていたので、多分ここだろうとあたりをつけて中へと入る。


「ここにいるか?」


 ビル自体新築なのか小綺麗なエレベーターを上がって奥に入ると、爺さんたちが囲碁や将棋を楽しんでいた。


「あの、ここに……」


 訪ねようとして、爺の名前を知らないことに気づく。

 なので……


「とんでもなくスケベな爺いませんか?」

「ああゲンさんかい? ちょっと待ってな」


 あっさりと通じた。

 囲碁をうっていた老人が奥に向かって声をかける。


「ゲンさん、若い子が訪ねてきてるよ」

「なに、ギャルか!?」

「男だよ」

「しらそん」

「しらそんって何です?」

「知らんわそんなもんの略だよ。ゲンさん若い女の子以外に微塵も興味がないからね」

「クソだな、あの爺」


 男だと聞いて露骨に声のトーンが下がる爺。

 どう考えてもあの爺の元にギャルが訪ねてくることはないだろう。出てくることすらしない。

 しかし声からして昼間の爺とみて間違いないだろう。


「というか、あの爺さん何者なんです?」

「ゲンさんはこのビルのオーナーで、大企業の会長をやっているらしいよ。今は隠居して好きにやってるみたいだけど」

「確かに好き放題やってますね……」


 大企業の会長ってことは社会的立場があるはずなんだが、そんな人間が下着ドロなんてしていいのか?

 立場が良かろうが悪かろうが下着ドロはいけないと気づく。


「爺さん、そっちが呼んだんだろうが」

「む、この声は昼間のクソ生意気な青二才略してKONANコナンではないか」


 どんな覚え方してるんだ。Oはどこから出てきた。

 スケベ爺は奥から顔を出すと、そのまま俺を奥の部屋へと導く。

 奥は畳敷きの和室になっており、将棋板が置かれていたがスケベ爺以外に人はおらず、部屋のど真ん中で大の字になって寝ていた。

 たくさんのパンツの上で……。


「おい爺、下に敷いてる下着は全部自分で買ったもんなんだろうな」

「自分で買ったパンティーに一体なんの意味があるんじゃ」

「いい年して下着ドロとか、息子や孫が泣くぞ」

「ほっとけ、あいつらが文句言うくらいの覚悟があるなら、こんなことしとらんわ」

「爺さんの闇には触れないぞ」

「触れんでええわ。まぁよいそこに座れ」


 言われて座ると、爺はキセルに火をつけぷかぷかと煙をくゆらせ始める。


「それで、俺のことを知ってるみたいだったが」

「焦るでないわバカもん」


 プハーと顔に煙を吹きかけられむせる。


「臭い、電子タバコにしろよ」

「煙のでんタバコなんぞ、ワシはタバコとは認めんわ」

「それで、煽る為に呼んだのなら帰るぞ」

「待たぬか、これだからせっかちな奴は」


 カンカンと音をたててキセルの火を落とすと、爺は俺に向き直る。


「お主、どこかしらか別の世界から来た、もしくは戻ったのではないか?」

「…………は?」

「その身の傷、剣を振っていたとしか思えん上半身の筋肉の付き方、ワシの熊殺しに耐える胆力。昔別世界から帰って来たという者と全く同じじゃ。そ奴も何かを思い出すたびに記憶を失う症状に悩まされておった。ワシはそのことを忘却と呼んでおる」

「いや、えっ?」


 さすがに冗談きついと思ったのだが、爺さんの真剣な眼差しは嘘を言っているようには思えなかった。


「まぁそ奴は記憶にさして興味がなかったようじゃったから、忘れても深く考えておらんかったが、記憶は記憶じゃ、失いたくない物も混じっているのではないか?」

「…………」


 確かに、何度か忘却を繰り返すうちに、最初はさしてなんとも思わなかったが、特に人物らしきものを思い出して忘れる時は深く胸が痛み、思い出せない歯がゆさと苛立ちが胸の中に残った。


「恐らくじゃが、ワシは重要な記憶のカギになるものを知っておる」

「本当なのか!?」

「そんなに食いつくではない。男に寄られても吐き気がするだけじゃ。ワシもなぜそれがカギになっているかは知らんが、前に記憶を失った者はそれを見て何かを思い出していたようじゃから間違いない。どうじゃ知りたいか?」

「ああ、教えてくれ!」

「どうしよっかのー、いたいけな老人に石ぶつけるような青二才じゃからのー」


 爺は楽し気に俺の周囲をグルグルと回る。

 それでなんとなく読めた。


「俺に何をさせたいんだ」

「ふむ、察しの良い青二才じゃ。教えてやっても構わんが、何事もタダというわけにはいかん」

「……嫌な予感がするが、一応聞こう」

「簡単じゃ、ワシはギャルのパンティが欲しいんじゃ~!」


 ウハハハハと大笑いする爺に俺は頭をおさえる。


「あのな、記憶が戻っても俺が社会的に死んだら意味ないんだよ」

「記憶の正体を知りたくないのか? それならそれでワシは一向にかまわんのだぞ~」

「ぐっ……」


 確かに記憶のことは知りたいが、むざむざこの爺の言いなりになるというのも。


「ウハハハハハ、悩め悩め、そしてギャルのオパンティー以下の記憶なんぞ忘れてしまうんじゃ~」


 嬉しそうに俺の周りを飛び回るエロ爺。


「くそ……」


 記憶とパンティという今まで生きてきた中で最低な天秤が動いている。

 下着ドロなんてしてたまるかと思ったが、一瞬見たことないはずの少女の顔が脳裏に映り消えていった。

 やばい、今なんか結構やばいのを忘れた気がするぞ……。


「くそ、やるよ!」

「ウハハハハハ、そうこなくてはな、さすがワシの認めた男じゃ」


 さっきまで生意気な青二才とか言ってたくせによく言う。



 爺との話を終え、やっちまったんじゃないかなと思いながらエレベーターを降りる。


「なんか悪魔契約をかわしてしまった気がする……ゲーセンでも寄ってくか」


 1階にあるゲームセンターに入ると、いつも通りの騒がしさと空気の悪さを感じるが、何故か懐かしい気持ちになった。


「つい最近も来たはずなのに、やたら懐かしい気がするのはなぜだろうか」


 もやもやを晴らしにきてモヤモヤしてどうするのか。

 近年は据え置き機やもしもしゲーに客をとられてどこも苦しいと聞くが、やはりゲームセンターでしかできない楽しみがあり、この何をやるかゲームを探すだけでも楽しく、ただプレイしてる人の後ろで観戦しているだけでも楽しめたりする。


「しかし、やっぱ何かやってこそだよな」


 そう思いゲーム筐体を物色して回ると、俺が昔よく遊んでいたゲームの続編が見つかる。


「メタルビースト2か……続編出たんだな」


 そこそこやり込んだ(謙遜)ゲームで、戦闘システム自体はよくあるロボット格闘ものなのだがVRを装着し本物さながらの臨場感が味わえるゲームとして、初代はアーケードゲーマーやネット民たちをわかせたものだ。

 丁度モニターには白熱したバトルシーンがライブで映し出されている。

 巨大な人型ロボットが砂漠地帯で、サーベルを交えながら戦っている。片方は狼、片方は熊をモチーフにしており、この獣を題材にしたロボットがメタルビーストと呼ばれるプレイアブル機だった。


「ハウンドウルフとレッドベアーか。スピード系とパワー系の戦いだが、前作じゃ確かパワー系の圧勝だったはずだが」


 エネルギーゲージが徐々に追い詰められていくハウンドウルフだったが、突如機体全体が光り輝きキャラクターのカットインが挿入される。


[BEAST MODE!!]


 ハウンドウルフは人型から四足歩行の獣形態へと変形し、レッドベアーの頭部を食いちぎる。

 直後有利だったレッドベアーは爆発し、ハウンドウルフの勝利となった。


「ビーストモード調整されたのか、面白いな。よし、これにするか」

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