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ワンパン

 休み時間を茂木と無為に過ごしていると、教室の扉が開き二人の女子生徒とイケメンが一人、三人同時に入ってくる。


「黒キュアと白キュアに、天才の重役出勤ですわ」

一条いちじょう白銀しろがね天地あまちに変なあだ名つけるのやめろよ」


 ちなみにそれぞれのあだ名の由来は一条の下の名前が黒乃くろのというところと白銀の白をとって、よくつるんでいることから白キュア黒キュアと呼ばれ、天地はイケメンでクラストップの成績を誇る絵に描いた天才なので、まんま天才と呼ばれている。


 茂木は皮肉をこめて天才と呼んだ天地を見やる。

 髪はイケメンもじゃもじゃスタイルの、カリスマ美容師とかに多そうなタイプで、ダウン系のオーラを発しながらもイケメンフェロモンも放ち女子を呼び寄せている、とは茂木の談である。

 しかしながら俺もその意見には同意する。

 女子はすぐに天地を取り囲み、キャーキャーと黄色い声をあげる。

 しかし天地はそれを適当に相槌をうちながらスマホ片手に自席へと向かっていく。

 それに続くのは目つきの悪いぱっつんの一条と、茶髪にピアス、金銀に輝くドリルみたいなネイルをして腰にカーディガンをまいたTHE派手系女子高生の白銀だ。


「一条はマジでゲーム機手離さねーな」


 ぱっつんの一条黒乃の方はハードゲーマーとして有名で、俺が入学して以来二年、彼女が授業以外で携帯ゲームを手放しているところを見たことがない。

 今時スマホゲーが主流なのに、それでも3DDSやPSVINTAをプレイし続けるあたりゲーム好きは本物なのだろう。

 そして三白眼として有名で、睨まれるとびっくりするくらい怖い。

 逆に茶髪でアクセをジャラつかせ、派手さを微塵も隠そうとしない白キュアと呼ばれている白銀は、いつも通り席につくと、これ以上いじるとこあるのかと言いたくなるようなギラギラしたネイルをいじりながら友人たちと楽し気に談笑している。

 一条と白銀は仲が良いのだが、何がどうなったらあの二人が仲良くなるのかわからない。

 全くタイプが別だと思うのだが。

 そんな疑問を思うが、恐らく俺には卒業するまで関わりのない人物たちなのは間違いない。


「あー、天才の野郎もう毎日白銀と夜のお楽しみやってるんだろうな」

「最低か」


 茂木のクズ発言に苦笑いを返すが、恐らくクラス全員が口には出さなくとも同じことを感じているだろう。クラスのド派手な女子と、イケメンが毎日一緒に登下校しているのだ、導き出される結果は誰しも下世話なものになるだろう。


「男子高校生の性欲なめんなよ」

「てかなんで白銀限定なんだよ」

「一条はアレさせてくれるタイプじゃないだろ」


 確かにあの人を殺したことのあるような目は睨まれるだけで恐ろしい。

 ただ個人的には一条のあの目は結構好みだったりするのだ。


「お前は一条好きだよな」

「いいいい、いや何言ってんだよ!」

「童貞か。一条は好み別れるだろ。白銀は体のエロさとガードの甘そうなところから人気が高いのはわかるが」

「あの人を殺したことのあるような目がぞっくぞくする」

「お前も俺に負けず劣らず変態だよな」

「個人的な好みの話なだけで相手してもらえるなら誰でもウェルカムなんですがね」

「違いねぇ」


 ストライクゾーンは広くても誰も球を投げてこない悲しみ。

 茂木に呆れられるという末代までの恥をあっさりとかき、彼女達に視線を送っていると白銀がそれに気づいて近づいてくる。


「えっ、あんたもしかしてカジ?」

「お、おう」


 白銀は大分様変わりした俺を見て、笑いをかみ殺しており、それはやがて大爆笑に発展した。


「アッハッハッハッハ! なにそれどうしたの? なにがあったらそんな顔になるのよ。丸に点三つで描けるような顔してたのに、劇画じゃん!」


 言いすぎだろ。ちっちゃい子だったら泣いてるぞ。

 白銀は基本男女わけ隔てなく接してくる。その上やたらと距離感が近く、ぶしつけな内容でも、白銀ならしょうがないなと謎の免罪符を持っていた。

 俺や茂木のような、ど、童貞ちゃうわ! と全力童貞たちでも話をしてくれる貴重な女子でもある。

 ザマス姉さんもそうなのだが、彼女を女性と思っている男子は少ないだろう。ビジュアルって大事と思うのだが、俺たちも白銀から見たらザマス姉さんと同じで男として認識されていないだろう。


「あぁちょっと諸事情で日焼けしたんだ」

「諸事情って、アッハッハッハッハ、嘘でしょウケる!」

「説明下手かお前は」

「俺にもよくわかってないもん説明しようがないだろ」


 茂木は呆れるが、俺だってなんて言っていいかわからないんだ。


「えー、なにこれ触っていい?」

「お、おぉ」


 童貞まるだしみたいな反応を返すと、白銀は無遠慮に胸をモミモミと揉みだす。


「うわ、すっご、超かたい! 本物じゃん!」

肉襦袢にくじゅばんつけてきたら嫌だろ」

「肉襦袢……、アッハッハッハッハッハッハ!!」


 そこまで面白いこと言ったつもりもないのだが白銀は大爆笑である。

 白銀曰くツボを押すのが上手いと言われたことがあるが、こちらとしては押したつもりもないのに勝手に大爆笑する笑い袋みたいな奴と思っている。

 が、白銀と絡んでいると面倒な奴らにも絡まれる。

 それはThe白銀の取り巻きで、イケメン崩れみたいな連中だ。

 天地は間違いなく正真正銘のイケメンだと思うが、この取り巻きのイケメン崩れ共はどこかしら顔のパーツが残念で、俺と茂木は残念なパーツでこいつらのことを呼んでいる。

 最初に絡んできたのは鼻が残念な男、桜井だ。

 こいつら何が面倒かと言うと、白銀や一条に気があるので彼女らが他の男と話をすると見境なく嫉妬してうざい絡み方をしてくるのだ。


「おぉなんだよ梶、キモオタって言われるのが嫌で体でも鍛えだしたのかよ?」


 鼻は嬉し気にドスドスと俺の脇腹を殴ってくる。わりかし本気で殴っているので勢いが激しいし、地味に痛い。


「俺にもやらせてくれよ」


 今度は残念な前歯をした矢代やしろが俺の背中に足蹴りを入れる。もはや筋力など何も関係ない。

 鼻と前歯はドスドスと前から後ろから殴ったり蹴ったりしてくるのでうざいことこの上ない。

 暗になにちやほやされてんだよ、このクソ野郎と副音声が聞こえてくる。

 童貞の多いクラスだこと。


「なんだよ、格闘技してんじゃねーのかよ。ホレホレボクシングしようぜ、オイオイー!」


 前歯が俺の頬にいい感じに鋭いジャブをいれてくる。

 悪乗りがエスカレートしてくる典型だ。


「ちょぉ、あんまり本気でやったら可哀想っしょ」


 白銀が止めに入るが、もう鼻と前歯は鬱憤を晴らすことしか考えていない。

 いつもなら最終的には俺が逃げるか、天地が睨みをきかせて、この悪乗りは終了となる。


「オイオイー!」


 前歯はシュッシュとボクサーのように腕をたて、俺の顔面にビシビシとうざったい拳を浴びせてくる。

 この遊びとイジメの中間点を見極めるのが得意な奴らで、たびたびこういった悪乗りは見られるが、教師の前では遊んでいたつもりだったでかわす奴らだ。


「かかってこいよ、無駄に鍛えたその体でよ」

「チキンかよ、来いってば、オイオイー!」


 前歯のオイオイーって語尾上げるのが腹立つわ。


「じゃあ……一発だけ」

「おっ、やんのかオイオイー!」


 ちょっとでもムキになってこいつらに反撃すると、後で陰湿な報復をしてくるので、こいつらに絡まれたらさっさと逃げるというのがウチのクラスの暗黙のルールであり、見ている方も嫌な気分になるから早く終わってほしいと願う。

 しかしながら対岸の火事が燃え移るのはごめんだから誰も助け船をだしたりはしない。学校とはまさしく社会の縮図のようだと思う。きっと君ら社会に出てもうまくやっていけると思う。

 そんな大人になりたいかどうか話は別だが。

 俺は鬱陶しい前歯の拳を払う。


「やんのかオイオイー!」


 スパンと良い音がした。

 その瞬間前歯は膝から崩れ落ちて倒れた。


「はっ?」


 全員が驚き目を見張る。

 うまいことはいった俺の左ストレートが、前歯の顎を射抜き、そのまま前のめりに倒れたのだった。


「えっ、オイ矢代、オイ!」


 唐突に素にかえった鼻が慌てて前歯を抱える。鼻が前歯を抱えるって、響きだけだとシュールだな。


「人間って弱点多いよな。顎に目、こめかみ、喉、鳩尾、金的、髪だって掴まれると痛いしな。そう考えるとゴブリンやミノタウロスって弱点が少なくできて……」

「何言ってやがるんだ!」


 鼻が怒りに燃える目でこちらを見上げる。

 その瞬間、鼻はぺたりと腰をついた。

 こちらの視線が、今度はどこを狙おうかと探っていることに気づいたからだろう。

 それは正しくて、鼻が面倒な動きをしたら躊躇いなく顎に膝をたたき込んでやろうと思っていたからだ。


「ま、マジになんなよ、俺達友達だろ?」

「友達でも分別はつけた方がいいと思うぞ」

「お、おぅ」


 鼻は萎縮しながら倒れた前歯を担いで保健室へと走って行った。

 二人がいなくなった途端に教室内がざわつき、全員なぜか左ストレートの練習をし始めた。


「梶、お前キャラかわった?」

「あの手の手合いは一回釘刺さないと何回でも同じことしてくるからな。盗賊団も見逃してやってるって気づかせないと何回でも襲ってくるし、カモじゃないってことは最初にはっきり……」


 相変わらず俺のわけのわからない話に首を傾げる茂木。


「なにそれ超シヴイじゃん」

「CV?」


 なんのこっちゃと思うが、白銀は興奮しながら肩をバンバンと叩いてくる。

 グループをノックアウトされて怒るかと思ったが、マジでとスゲーを連呼している。


「凄い、やるじゃん! なにあれ、こうビシッとストレートパンチ? ストパー?」


 美容師がやってくれそうなパンチである。


「やばくない? こう左で顎パーンって……あれ、あんた左利きだっけ?」


 言われてみれば。俺なんで左で殴ったんだろ。右利きのはずなのに。

 俺の右手には見慣れぬブレスレットが巻かれている。

 首を傾げていると、天地が席から立ち上がる。


「右で殴ったら死ぬと思ったんじゃない?」

「グーパンで人が死ぬわけないじゃん、バカじゃないの」

「…………」


 白銀は笑っているが、なぜか右手で殴るのは良くないと思ったのは確かなのだった。

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