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イベント戦闘

「確かこっちのはずだ!」


 マキシマムが案内した部屋に押し入ると、そこは一面真っ赤な血の色で満たされていた。

 むせかえるような鉄の臭いと、散らばった肉を見て吐き気を催す。

 いくつもの呪術に使うような祭具と、床に血で描かれた魔法陣。

 拷問器具には未だ死体がそのままの状態で取り付けられている。

 首のないものや、全身の血を抜かれたものなど殺され方はさまざまであるが、楽に殺されたようなものはなく、どれも惨たらしい死に方をしているものばかりだ。


「全員この部屋で殺されてるネ」

「畜生が!」


 マキシマムが壁を殴りつけると崩れた壁の中から白骨死体がボロボロと出てくる。


「悪趣味すぎる」

「呪術師は贄を神殿、この部屋のことネ、そこでたくさん殺すと力が強くなると言われてるネ」

「あのイカレピエロのことか」

「ぜってぇ許さねぇぞ!」

「マキシマム百目鬼はどこだ、あいつの姿がない」

「あいつなら別塔だ、野郎のハーレムの中にいるはずだ」

「百目鬼が心配だ、そっちに……」


 吐き気を催す部屋を出ようとした、その時。


「フヒヒヒヒ、わたしの部屋勝手にはいっちゃダメデース」


 突如何もない場所から鎌の斬撃が放たれ、俺の脇腹をかする。


「フヒヒヒヒ、肉、肉、肉、男の肉は斬り飽きたところデース」

「んにゃろう、あたしが」

「どくネ、こいつはワタシがやるネ。お前王と一緒にドメキ助けてやるよろし」


 レイランがオリオンの首根っこを掴んで後ろに下げると、自分が前に出る。


「こいつやばい奴じゃないのか?」

「だからワタシ一人でやるネ。Rは下がってるよろし」

「誰が低レア、低能だこんにゃろう!」

「誰もそこまで言ってないネ」


 レイランは青龍刀を取り出し、ピエロ男に構える。


「吐き気のする悪はワタシの獲物ネ」

「レイラン、負けんじゃねーぞ!」

「誰に言ってるよろしか」

「負けたら往復ビンタだからな! あたしを低レアって言ったからには責任もって倒せよ!」

「オリオンに責任とか言われるとムショに腹立つネ」

「俺もやる、こいつは親父の仇だ」

「どくネ、お前いたら邪魔ネ」

「なんだと!」


 マキシマムは憤るが、レイランから放たれる尋常じゃないプレッシャーにその意味を理解する。

 自分がいては自由に戦うことができないと。

 恐らくこのピエロ男はそれほどまでに強い。しかも神殿と呼ばれる自身のホームで戦うことにより、更に強さが増すのだろう。


「勘違いするのよくないネ。お前の仇はこの男じゃなくてキザ野郎ネ。本質見失うなよろし」

「くっ、わかった!」


 レイランは王たちが走り去ったのを確認してピエロ男に向き直る。


「ヒヒヒヒ、わたしには心の闇が見える。あなたの闇ものぞいてあげるよ。ヒヒヒヒ」

「ふん、やれるもんならやってみるよろし。梶チャリオット、レイラン参るね」



 レイランをあの場に残し、俺達は全力でナルシス城を走り回っていた。


「どうするんだ!? ナルシスの野郎をぶっ殺すならダクトに戻って最上階まで戻る必要がある。だが、あのどめきを助けるならこのまま階段を上がって渡り橋から別塔に入れる」

「野郎の命より女の子の命助けるに決まってるだろうが! バカか!」


 考えるまでもない。このまま別塔まで全力ダッシュだ。


「なんだか冴えない男だと思っていたが、今お前がなぜここまで力をつけてきたのかわかる気がするぜ」

「はっ? なんか言ったか?」

「なんでもねぇ、お前も良い筋肉をしてるってことだ」

「怖いこと言うな!」


 全力で走ると、本塔と別塔を繋ぐ橋へとたどり着く。

 だが橋は音をたてながらゆっくりと別塔へと収納されていく。


「やばいよ咲、橋が!」

「わかってる!」


 もう既にジャンプした程度では届かないぐらいまで橋の収納は進んでいる。


「飛べ、オリオン!」

「任せろ!」

「嘘だろ!?」


 マキシマムはオリオンの跳躍力に度肝を抜かれる。

 おおよそ人の身体能力を完全に超えたジャンプは、空を飛んでるといっても差支えがないほどで、放物線を描いた大ジャンプを成功させるとオリオンは橋の先に転がりながら着地する。


「俺にはあんなジャンプできねぇぞ!」

「自慢の筋肉が泣いてんぞ!」

「筋肉にもできることとできねぇことがある!」

「いいから飛べ!」

「マジかよ!?」


 俺とマキシマムはオリオンから遅れて橋に向かってジャンプする。だが、跳躍力が全く足りず、一瞬で落下する。


「うあああああああああっ!!」

「この位置なら!」


 フラッシュムーブを使い、短距離転移する。

 無理やり二人で転移したのが悪かったのか、座標がずれ、俺とマキシマムの体は別塔の屋根の上に移動する。


「どこだここ」

「屋根だ!」


 トンガリ屋根の上を転がり落ちる、俺とマキシマム。


「お前無茶苦茶だ!」

「生きてるんだから文句言うな」


 二人で屋根の端にぶら下がりながら罵り合う。

 そのまま体を大きく振り、振り子の要領で近くの窓を蹴り破って別塔へと侵入する。


「くっそ、まさかこんなルパンみたいなことすることになるとは」

「こっちのセリフだ、無茶苦茶しやがって」

「オリオンが下にいるはずだ。百目鬼を探しながら合流する」


 俺達は螺旋階段下りながら、百目鬼の姿を探す。


「ここはなんだ?」

「奴のハーレムだ。気に入った女をぶちこんでる女用の牢獄みたいな場所だ」

「マジでクソ野郎だな」


 渡り橋があったところまで戻って来たのだが、オリオンに会えていない。


「あいつ下っていったのか?」


 そう思った直後、壁を突き破ってオリオンが吹っ飛んできた。


「うぉっ!? どうしたオリオン!」


 崩れた壁を見やると、そこには椅子に座らされた花嫁姿の百目鬼と、椅子に肘をかけるナルシスト。それに甲冑の騎士が立っていた。


「ナルシス、ここにいやがったのか!」

「好都合だ! あいつを倒して、百目鬼も助けて終わりにしてやる」


 俺とマキシマムは剣を引き抜き、ナルシストに向かって駆ける。

 しかし一瞬で割って入って来た甲冑の騎士に遮られる。


「なんだテメーは! 俺様の筋肉の錆にしてやる!」


 マキシマムの斬撃は巨大な柱を叩き切るほど強力なものだった。しかし甲冑の騎士は片手で剣を受け止めると、もっていた剣をかちあげてマキシマムの体を吹き飛ばす。


「ぐあああああっ!」

「この野郎!」


 俺はフラッシュムーブを使い一瞬で背後に回り込むと、甲冑の関節部めがけてサーベルを突き入れる。

 しかしそれを読んでいたように身を軽くそらすと、俺の突きは外れ甲冑のヘルムに赤い光が浮かぶ。

 甲冑騎士の回し蹴りがさく裂し、俺の体はゴムボールみたいに天井まで吹き飛び落下した。


「なんだこいつ、強すぎる……」

「咲、生きてる?」

「死ぬ……」


 強すぎる。ディーと出会った時と似ているが、ここまでの絶望感は感じなかった。

 例えるならイベント戦闘で負けが確定しているボス戦のように思える。


「アッハッハッハッハッハ、あれだけ大口をたたいてざまぁないね」


 ナルシストは這いつくばる俺達を心底愉快気な目で見下す。


「どうやってここまで入って来たかは知らないけど、ここでお前たちは終わりだ」

「ふざけんなよ。お前の兵はエーリカとレイランが押さえてるし、同盟軍も解放した。その甲冑野郎さえ倒せばお前の負けなんだよ」

「本当にそうか?」

「何?」


 ナルシスは遠見の水晶を取り出すと、壁に外の情報を映し出す。

 そこには湾から船に乗ってやってきた新たな兵と、内陸のナルシス軍に挟撃されるディーたちの姿が映し出されていた。


「なっ!? 増援だと」


 それにしてはおかしい。ナルシス軍の兵力は2000、最初外には約1500以上の兵がいたとみて間違いない。城の中には500ほどの兵がいただろう。

 なら、この湾からやってきた新しい兵は一体誰だ。数にしておおよそ1000はいるだろう。数があわない。


「もって30分ってとこかな」


 遠見の水晶には、湾からやって来た兵に押され続けているディーたちが映っている。

 明らかに新手でやってきた兵は強く、練度が高い。

 その異常な強さに、俺はピンと閃く。


「お前まさか、聖十字騎士団か!」


 俺は甲冑姿の敵を睨む。

 この兵の圧倒的な能力差、突然現れた増援。

 マディソンでの自作自演。


「さぁなんのことだかボクにはわからないね。彼女はボクのチャリオットの一員だよ」

「女かよ、そいつ」

「いいことを教えよう、彼女はEXだ。あとあの中華娘が戦っているモスキートもね」


 やっぱりか、呪術師の方はなんとなくそうじゃないかと思っていた。

 甲冑女もナルシストが自分の防衛に置くからには一番強いのを置くと思っていた。


「宣戦布告中の戦争に別国が手を貸すのはラインハルト法で禁止されている。バレたらペナルティでお前は王の資格をはく奪される」

「わかんないやつだな君も。彼女はボクのチャリオットだって言ってるだろ。あっ、そうだまだ面白いのがあるよ。城に入って来た融機人、多分あいつか、中華娘が一番強いよね」


 ナルシスが映像を切り替えると、そこにはナルシス兵ではなく、城に押し寄せた市民たちにによってエーリカは包囲されていた。

 正義の使者ナルシスに敵対する、悪のチャリオットとして、エーリカの体には石やトマト、卵が投げつけられ、ドロドロにされている。

 しかしエーリカはじっとそれに耐え、市民が城の中に入って来れないように食い止めているだけだった。


「エーリカ……汚いぞ、市民を使うなんて!」

「別にあれはボクが用意したわけじゃないさ。彼らがボクを自主的に守りにきてるってわけ」

「意識を操られた民衆ほど厄介なものはないぜ」


 マキシマムが苦々しく呟く。


「あとこっちの女も限界じゃない?」


 映像が再び変わると、今度はレイランの様子が映し出される。

 そこには傷だらけのレイランが壁を背に蹲っていた。

 目の前には不気味なピエロ男が笑みを浮かべている。


「モスキートは心の隙間に入り込み、精神を破壊する。それはどんな人間だって例外じゃない。あいつに精神で勝てる人間なんかいないんだよ」


 ナルシストはアッハッハッハと大きく笑う。


「ふざけやがって! テメーをぶっ倒せばいいんだよ!」


 マキシマムは折れた剣を捨てて、ナルシストに殴りかかる。だが、甲冑女の拳が腹にめり込み、マキシマムの体はくの字に折れ曲がった。


「ごはっ……」

「咲、仕掛けるよ!」

「おう、俺も援護する」


 オリオンは結晶剣を構え、四つん這いの肉食獣スタイルで甲冑女に飛びかかる。

 俺は火蜥蜴の種火で炎の塊を投げつける。

 甲冑女は炎を切り裂くと、真上から降ってきたオリオンを迎撃する。

 

「おらぁ育ちの良さそうな女! テメーの名は!」

「貴様と語る舌なんぞもたん、低レアが」

「ふざけんなよ、その言葉高くついたぞ!」


 甲冑女の一言にプツンとくるオリオン。

 四方八方に飛び斬撃を繰り返す。この360度攻撃なら敵は反応できないはず。


「遅い」


 しかし、甲冑女は飛び込んできたオリオンにカウンターの蹴りを放つ。咄嗟にガードをするが、重い蹴りはガードを割って吹き飛ばす。


「ぐっ!」


 オリオンは一瞬意識が飛びそうになったのを気合いでこらえ、足と手をつきながらノックバックを止める。


「アッハッハッハ、ほうっておいてもボクの勝ち、なめた真似をしてくれるからだよ梶勇咲! さぁこいつらにトドメをさすんだ!」


 甲冑女は持っていた剣を輝かせると、剣を十字に切る。

 直後地面が十字に爆発し、俺達は全員吹き飛ばされる。


「ぐあああああっ!」

「キャアアッ!」

「くっ!」


 衝撃で壁に叩きつけられ、全身に重い痛みが襲う。

 俺達は倒れ伏し、立ち上がることが出来なかった。

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