ナルシス城攻防戦
開戦から30分が経過、梶チャリオット陽動部隊はナルシス城近くに展開し派手に戦闘を繰り広げていた。
「おらぁぁぁ! どっからでもかかってきやがれ!」
「久しぶりに仕事してる気がするにゃ」
ロベルトが自慢のマシンガンを撃ち鳴らし、リリィが右腕を振るとコントロールされた矢がナルシス兵に命中する。
アマゾネス軍団が弓を引き絞り、矢の雨を降らせ、敵の進行を止める。
「こいつら戦い慣れしてるぞ!」
「ひるむな! その程度の人数で一体何ができるというのだ!」
ディーやアデラの目の前に広がるのは薔薇の紋章を身に着けた敵、敵、敵である。
開戦直後に奇襲をかけ、敵本隊をいぶりだすことには成功したが、山のように出てくる敵兵に手を焼く。
「一軍は北に二軍は東にゆっくり後退しろ、敵に気取られるなよ」
(突入するには良いころ合いだが、王達は大丈夫だろうか)
ディーは王が隠れている陸橋近くを見やる。
「戦力差を理解できないお馬鹿さんたち」
ナルシス軍Sレア戦士、エドモンドオリヴァーはキザったらしく長い髪をかきあげる。
彼はナルシスに負けず劣らずなくらい自分のことを愛しており、あまりにも自分を愛しすぎてカマになっていた。
「オリヴァー様、敵軍が北と東に別れていきます」
「ふん、どうせ陽動よ。あたしたちをこの場から動かそうとしているだけ。でもそんな手にはかかってあげないわ」
「報告します、城南東にある陸橋付近で敵伏兵を発見したとのこと!」
「ククク、やっぱりね。そいつらが本隊よ。そこを叩き潰せばあたしたちの勝ちよ、捻り潰しなさーい!」
本隊と思われる南に兵が殺到するが、そこでナルシス軍は神の姿を目撃することになる。
「さすがディーさん、私にきっちりと見せ場を作ってくれるのですね」
「なんだ貴様は! 王はどこにいる!?」
ナルシス兵が陸橋にたどり着くと、そこには不気味にほほ笑む神官戦士の姿しか見えない。
それはディーが新たに部隊を分けた、ソフィーと黒龍隊だけの第三軍だった。
立ちはだかる少女の笑みは無邪気で、それでいて儚げな、危うくも見える微笑。
取り囲む兵は戦場には不釣り合いな少女に小さな畏怖を感じながらも近づく。
しかしその畏怖は正しく、本能が直接語り掛けているのだ。
この少女はやばいものだと。
だから安易に近づいたのが間違いである。
少女は猛々しく天に向かって叫ぶ。
目覚めよ天使と
「大天使降臨!!」
ソフィーの背中から白銀の鎧兵が顕現する。
降臨を繰り返すたびにヘヴンズソードの姿は洗練され、巨大化している。
戦いを重ね、彼の鎧兵も、また強くなっているのだ。
十字の紋章が入った巨大な剣を引き抜き、一刀でナルシス軍を薙ぎ払う。
「なんだこいつの能力は!?」
「落ち着きなさーい。相手は女が数人、包囲すれば敵じゃないわ」
冷静さを取り戻したナルシス兵はソフィーたちを取り囲み、じりじりと包囲網を縮めていく。
「あらあら、よろしいのですか? 私最近新たな技を覚えまして、あまり円形で近づかれると危険ですよ」
白き翼を生やした鎧兵が甲高い金属音を鳴らしながら、巨大な拳を地面へと叩きつける。
「神の怒り!」
大地が大きく揺れ、立っていられないほどの振動が周囲を襲う。
「ぐあっ!!」
「なんだこの力は!?」
並ではない戦闘力に、ようやくナルシス兵たちは、目の前の少女がなぜたった数十人程度で敵を引き付ける囮役をしているのかを理解する。
「まずい、あの女EXだ!」
「ぐぬぬぬ、弱小王のくせにEXをもってるなんて生意気じゃなーい」
「オリヴァー様、北へ追撃をかけた兵から報告です。敵軍にEXが現れたと!」
「なっ!? EX複数持ちなんて聞いてないわよ!」
「あらあら皆さん大慌てですね、でもEXは本当に二人だけなんでしょうかね?」
ニヤリと頬をつりあげるソフィーにオリヴァーはぞっとする。
「おー、さすがソフィーすげーな。戦略兵器みたいなやつだ」
「あれがEXの力ってやつでやすか」
陸橋の上で俺たち突入チームは、ソフィーのヘヴンズソードを眺めていた。
巨大な天使兵が蟻のような兵を薙ぎ払っていく様はSLGのようで、どこかシュールさを感じる。
「でも、あれだけ派手に力を使ったらすぐ魔力切れ起こすネ」
「陽動だからな、ソフィーには素で人をイラつかせる能力がある」
「適任というわけですね」
「ソフィー人を煽るの得意だもんね」
「とても神職者とは思えんな」
橋の上で待機する突入部隊の頬を冷たい風が撫でる。
「いいな、この何かが起きそうな空気ってやつ」
「あっ、ヘヴンズソード消えた」
「魔力切れですね」
「バカスカ撃つからネ」
「めっちゃ逃げてやすね」
「敵もここぞとばかりに攻め立てていますね」
「あれが演技で、実は魔力切れと見せかけてるなら策士なんだが、ありゃほんとに魔力切れ起こしてるな」
「半泣きだしね」
別方向ではディーたちが陽動だって言ってるのに、敵をなぎ倒している。あいつらほんとに400対2000で勝ちそうだから怖い。
「ディーからの合図きたアル」
遠くの方でディーがブリュンヒルデを天高くかざし、刀身に日の光を反射させる。
「ぃよっし行くか」
「準備はできています」
「いつでもダイジョブネ」
「ボッコボコにしてやる」
「どこまでもついていきやすぜ」
俺達はこっそりと水路の方へと向かってナルシス城へと近づいていく。
「なんだあいつらは!」
水路に入るギリギリで哨戒の兵に見つかる。
「ポンコツお前目立ちすぎネ。アホの子じゃないんだからピカピカ光るのやめるネ」
「顔色の悪いアンデッドに言われたくありません」
相変わらず絶好調なレイランとエーリカである。
「でも、ここまで来れば追いつかれないだろ!」
「こっちでやす!」
カチャノフは水路に入るための鉄柵を破壊し、狭い道をこすりながら進んでいく。
「少し足止めします。Gグレネード」
エーリカは追いかけてくるナルシス兵に向かって、缶のような円筒状の物を投げつける。直後激しい爆発が巻き起こり、ナルシス城の城壁を一部粉々に吹っ飛ばす。
「やりすぎネポンコツ。ワタシたちなんのためにこっそり水路使ってると思ってるアルか」
「これで敵は追いついてこれません」
「そもそも見つかってるからな! 急ぐぞ」
水路を駆け抜けると、カチャノフの言った通り地下工房へとたどり着いた。
「ここから物資運搬用の……」
「いたぞ!」
「敵襲! 敵襲!」
「やばいバレてる!」
地下工房に上がってくるのを読んでいたナルシス兵が地下工房へと殺到する。
「ポンコツ、お前が呼んだね。お前が相手するよろし」
「言われなくても本機だけで十分です。脳が腐っているアンデッドは腐敗が進む前に先に行きなさい」
「エーリカ、大丈夫か?」
「この程度ものの数ではありません」
エーリカは腰から二丁の拳銃を引き抜くと、なんの予告もなしにぶっ放した。
その間に俺達は運搬用のダクトを登り、牢屋へと向かう。
エーリカは王がたちが行ったことを確認すると、次から次にやってくる兵を見て、ヘルムに搭載されているレアリティスカウターで敵の戦闘力を測る。
「ほぼHRとSRクラスですか」
「我々はナルシス様親衛隊である、他の兵とは練度も強さも桁違いだぞ!」
「雑魚ばかりですね。これならあのアンデッドにやらせればよかったです」
エーリカがぼそりと呟くと、前に立っていた指揮官らしき青年が顔を真っ赤にする。
「このユリウス・マクシミリアンを相手に雑魚などとは!」
パンと軽い音が響くとユリウスは後ろに倒れた。
「雑魚に雑魚と言って何が悪いのか理解に苦しみます」
「おのれ、融機人風情がぁ!」
レアリティの高い戦士達が飛びかかる。
「この俺の爪に触れれば機械だろうと腐り落ちて死ぬぜ! 俺様の名はデスクロー! 俺の名を冥途の土産にするがいい!」
エーリカは飛びかかって来たデスクローの顔面を掴み、そのまま力任せに石壁に顔面を打ちつけると、デスクローはそのまま動かなくなった。
「よくもデスクローを! 我が名は疾風の鷹、椿国で鍛えた我が分身殺法に恐怖しながら死ぬがいい!」
エーリカの周りを黒装束の男がグルグルと周り、背後から首筋を狙う。
「貰った!」
一瞬で首を刈り取る斬撃が放たれる。しかしエーリカは後ろを全く見ないで拳銃を放つと、弾丸は見事に疾風の鷹の鉢金に命中し、額から血を流しながら倒れた。
「無念」
「EXM3転送」
エーリカは両腕にガドリング砲を転送すると、全く容赦のない弾丸の雨を降らせる。
マズルフラッシュが工房内を明るく照らし、凄まじい勢いで空薬莢が排出されていく。
弾丸は石壁を紙屑のように粉々に吹き飛ばし、彼女が右から左に移動するだけで、工房内は嵐が通ったようにズタズタになっていく。
「ぎゃあああああっ!」
「この女無茶苦茶だ!」
「こいつ聞いたことがある、融機人の白い悪魔! EXレアだ!」
「なんだと!?」
「やばいやつが乗り込んできやがった!」
「うろたえるな、所詮相手は一人だぞ!」
そう叫んだ瞬間、青い斬撃によって兵は倒れた。
「ひっ!?」
「リボルバー剣、ファイア」
銃と剣が一体化した剣の刀身が爆発し、切り裂かれた兵が爆ぜる。
気づけば地下工房には屍の山が築かれていた。
「なんなんだ、このでたらめな強さは!? これがレアリティ差だっていうのかよ!」
「兵をかき集めろ! たった一人に壊滅させられるぞ!」
「本機一機に集まって来るなら僥倖でしょう。戦闘モード全開」
俺達はダクトを伝い、牢屋の天井までやってきた。
天井から降りると、牢屋の中には繋がれた同盟軍兵の姿があった。
レイランが音もなく天井から降りると、看守を気絶させ鍵を奪う。
すぐさま牢屋を片っ端から開き同盟軍兵を解放していく。
一番奥の牢屋にはマキシマムの姿があり、牢を開き、手錠と足枷を外す。
「大丈夫か?」
「お前は、梶王なのか、なぜここに?」
「同盟軍との戦争が終わった直後に、間髪入れず宣戦布告した」
「お前らの規模じゃやられるだけだぞ!」
「じゃあなんで俺達はここまで入ってこれてるんだろうな」
言われてハッとするマキシマム。
「百目鬼を助けに来た。お前らはついでだ。他に仲間は?」
「わからねぇ、でも何人かは別室に連れて行かれている。俺達はその順番待ちをしていた」
「場所はわかるか?」
「多分すぐ近くだ」
「よし、行こう。他の同盟軍兵はそのまま逃げてくれ、俺の仲間があちこちで敵の気を引いてるから今なら逃げられるはずだ」
「聞いての通りだ。お前らは梶チャリオットを援護しながら城から抜け出せ!」
「「「了解」」」
同盟軍兵が逃げ出したのを見てからマキシマムは仲間が連れて行かれたという別室へと向かおうとした。だが歩き出したカチャノフが膝をついた。
「大丈夫か?」
「このくらいなんともねぇでやす」
しかしカチャノフの胸からは血がにじんでいる。
走り回ったせいで傷が開いてしまったのだ。
「カチャノフ、お前も同盟軍と一緒に逃げろ」
「そいつはできやせん、この命兄貴のために使うと決めたんでやす」
「俺の為を思うなら生きてくれ。こんなところで死ぬんじゃない」
「あ、兄貴……」
「お前の武器も俺が取り返してくる。その時製作者が既に故人になってるなんて許さないからな」
カチャノフの目にはうっすらと涙がたまっていた。
「すいやせん、兄貴。もし取り返したら、その剣は兄貴が好きに使ってくだせぇ。それとお守りがわりでやすが、こいつを」
俺はカチャノフから銀の腕輪をもらう。
「これは……」
「戦闘が始まる前に兄貴の持ってたジオストーンを拝借して作り上げた腕輪でやす。もしかしたら役にたつかもしれやせん」
「すまない、借りていく」
カチャノフが同盟軍兵に肩を貸されながら離脱していくのを見送り、マキシマムと一緒に他の仲間が連れて行かれたという別室に向かう。




