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誤算

 ナルシスは同盟軍の残党狩りが佳境にさしかかりご満悦だった。

 自分を阻むものは全て死んでもらう。

 鏡を見ながらワイン片手に今日も自身に酔う。

 捕まえた同盟軍はマディソン住人の怒りを鎮める為の生贄として処刑する。

 そうすれば自分の英雄としての座は揺るがなくなり、更なる援助、オンディーヌ騎士団への入団希望者は増えることになるだろう。

 中規模チャリオットなんかで終わるつもりはない。この美しい顔を全世界に広め崇拝させてやる。


「クククククク、アーッハッハッハッハッハ!」

「失礼いたします! 緊急で報告がございます」


 高笑いしている最中にいきなり入って来た兵に顔をしかめる。

 機嫌が悪かったら牢屋に放り込んでやろうかと思ったが、報告を聞いてナルシスは目玉が飛びでそうになった。


「はぁっ!!? ふざけるなよ! 壊滅しただと!?」


 昨日のうちに、飼っていた盗賊団のアジトが壊滅させられたと聞いて怒りと驚きで目を見開く。


「かなりの手練れの集団だったようで、少数精鋭で壊滅させられたと」

「言い訳なんかいい! 物資は!? 奴らが集めていた物資はどうなった!?」

「かきあつめていた金品などは持ち主の商会に返却されたようです」

「違う! カカオだよカカオ! 金なんかどうでもいい! カカオだけは遅れたら殺されるぞ!」

「か、カカオですか? 物資は全て接収されたと思われます」

「誰が持って行ったんだ!?」

「城に聞けば教えてくれると思いますが……」

「じゃあ今すぐ聞いて来いよ!」

「よ、よろしいのですか? 自分が犯人だと報告するようなものですが?」

「ぐぐぐ」


 確かに大量のカカオなんか何に使う気だったんだと聞かれ、チョコパーティーをする気だったなんて見え透いた嘘をつけるわけがない。


「クソクソクソクソ、ボインスキーがいなくなって羊毛とワイン、小麦の供給も受けられなくなったんだぞ。これじゃあ聖十字騎士団に渡せるものが何もなくなってしまう。それにカカオだけはあの方のご所望品だ。あれだけは絶対なんとかしないと。畜生一体誰が……」


 ナルシスは爪を強く噛みながら思考を巡らせるが、元から理知的ではなく、優れた参謀を美しくないというバカげた理由で次から次にクビにした為、彼を支えるものはほとんどいない。


「物資の行方については後から追うにして、すぐに次のカカオとジオストーンを発注するんだ!」

「それが……バート商会を含めた、有力な商会十二社から警備の打ち切り連絡がきていて、バート商会と半数の六社が今後我が軍に対しての取引を打ち切ると……」

「なんだと!? ふざけるなよ、商人風情が客を選ぶのか!」

「バート商会から、今回の件で盗賊団から興味深い話が出てきた為、ご自身の名誉のために口外しないが、バート商会を含めた組合はナルシス軍の支援を打ち切り、今回の積荷の補填もしないと。理由が聞きたければ、ギルドを通じてラインハルト城から正式に御触れをだしていただくと」

「くっ、盗賊団が喋ったのか! これだから育ちの悪い奴らは!」


 商会を盗賊団に襲わせていたことがバレた。完全に自業自得でありながらナルシスは怒りからワイングラスを握りつぶした。

 盗賊団の団長には口封じの術を施していたはずなのに。そう思ったが所詮はただの盗賊団程度の口の硬さである。術を施していない副団長や、仲の良い人物に漏らした可能性がある。

 頭の悪い盗賊団を自分の手ごまとして扱ったツケが回ってきたのだ。


「最悪だ」

「どうやら襲われた馬車に、バート商会の令嬢が同伴していたようで、通りすがりの王に助けられた為事なきをえたようですが、その際積荷を助けてくれた王に譲ったと」

「くっそ、他の商会に連絡をとってすぐに別の補給路と物資を確保するんだ! マディソンの連中ならボクの言うことを聞くはずだ」

「しかし、ジオストーンやカカオは有力な商会でもなければ数を集められません」

「知るか! いいから集めろ! 英雄であるボクが言ってるんだ。やれと言ったらやれ!」

「は、はっ!」

「それと補給ルートが確保できるまで同盟軍を追い詰めるな。今奴らが降伏して戦争状態が解除されでもしたら、別の王が宣戦布告してくる。そうなるとまずいことに……」


 その直後別の兵が王室へと入ってくる。


「報告いたします! 同盟軍副団長であったニコライ・マキシマムを含めた残党同盟軍約150人を捕縛! 同盟軍は我が軍に完全降伏いたしました!」

「最悪だ……この馬鹿どもめ!」


 間の悪い兵はナルシスから理不尽な叱責を受ける。


「今戦争を終わらせたら、ボクらは補給が受けられない状態で宣戦布告を受け……」


 また別の兵が急ぎ王室へと入ってくる。


「報告します! 梶チャリオットが我が軍に対して宣戦布告!」


 ほらきた、こっちの戦争が終わるタイミングを見計らっていた王がいやがった。

 確かボインスキーを討った王のはずだ。やられる前に仕掛けてきたと見て間違いない。

 ナルシスはぎりっと奥歯を噛みしめる。


「む、無視だ無視しろ!」

「その、何を言っているかよくわからないのですが、敵軍から物資は我がもとにある。宣戦布告を受けなければ物資は全て海に沈めると通告してきていますが」


 ナルシスは頭の中が真っ白になる。

 盗賊団を壊滅させたのも、教会への貢物を奪ったのも奴だとしたら全てが繋がる。

 マディソンでナイフを投げつけた、なめた真似をしてくれた少年の言葉が思い起こされる。

「お前を絶対引きずり落としてやる」と。見事に奴らは自分を引きずり落とすことに成功した。しかもまだ他にはバレていないという状況で。


「あいつが梶勇咲だったのか……!」


 バート商会から物資を購入できなくなった今、奴が持っている物資を奪い返す以外に、教会へ顔をたてる方法が見つからない。

 マディソンで同盟軍役として兵を借り受けてしまった為、物資を送り届けなければ教会に睨まれるのはこちらだ。


「くっ……」

「いかがなさいましょう?」

「う、受けると伝えろ」


 それ以外にナルシスがとれる手段はなかったのだった。


「ロ、ロリンダ様に連絡しろ。兵を借り受けたいと」

「よろしいのですか? 今前回のペナルティ審議でラインハルト城は我々の動向に注目しています。下手によそから兵をかりていることがバレたら……」

「いいから早くしろ! 絶対に負けるわけにはいかないんだ! 物資さえ取り返せば全てをなかったことにできる」


 逆を言えば取り返せなければナルシスの首が飛ぶことを意味していた。




 開戦五時間前

 チャリオット主要メンバーによる作戦会議が行われていた。


「彼我の戦力差は約4倍強、ナルシス軍2000に対して、我がチャリオットは500弱、まともにぶつかれば勝ち目はありません」

「レアリティの力で押し切るっていうのはどうにゃ? レイニャン、エーちゃん、ディー姉ちゃん、アマゾネス姉ちゃんたちで東西南北四か所からごり押すにゃ」

「なんでそこに私の名前が入ってないんですか! 私だってEXですよ!」

「ソフィーじゃ100対1は多分無理にゃ」

「そりゃ敵の強さが均等ならできるかもしれないが、誰かの持ち場に複数の高レアリティが現れた場合EX一人じゃやられてしまう可能性があるし、そこから瓦解するんじゃないか」

「その通りですね。レアリティに任せての突撃は格上相手に使う戦法ではありません。我々とて油断すれば毒矢の一撃で死にます。まぁ油断なんてしませんが」

「セオリーとしては陽動部隊を用意して、敵本隊を城から引きはがし、少数精鋭で乗り込んでナルシストを討ち取る。ナルシストの性格からして前線に出ず、城の中に引きこもってるだろうしな」

「わかんないにゃ、威厳を見せるために前に出てくるかもしれないにゃ」

「そりゃめんどくさいな」

「城の中に連れて行けるEXは多分一人が限界ネ。それ以上連れていくと陽動が壊滅するネ」

「恐らく敵もその可能性は読んでいるでしょうし、強力な兵を城には残すでしょう」

「そこがこの作戦の穴なんだよな……。城の中に入ってからが不透明すぎる。同盟軍の救出も行うから、相当迅速に動いて、敵のいないルートを通って行かなきゃならない。セバスなんか抜け道とか知らない?」


 セバスに視線を向けるが、ゆっくりと首を振る。


「申し訳ございません、わたくしはボインスキー様付きでしたので」

「ボインスキーに聞いてみたいが、あいつ牢屋で廃人みたいになってるんだよな……」


 キュベレーが補給ルートを聞き出すために結構無茶したみたいだった。

 虚ろな目でち〇こち〇こ言ってた気がするが気のせいだと思う。


「他にナルシスト城に詳しい人間がいれば……」

「あっしがいやすぜ」


 声に振り返ると、そこには体中を包帯で巻かれたカチャノフの姿があった。

 コンテスト会場で襲われて意識がなかったが、回復できたようだ。


「動いて大丈夫か?」

「こんなもんかすり傷でさぁ。二度も助けていただき、このイァン・カチャノフ感謝の言葉もございやせん」

「お前、なんでナルシス城に詳しいネ?」

「すいやせん兄貴、ずっと隠していやしたが、あっしはナルシスチャリオットの一人だったんでやす」


 全員の目が一瞬険しくなったが、俺だけは「えっ、そうなの?」と間の抜けた声をあげる。


「はい、この事に関しては申し開きのしようがありやせん。いくらでも罰を与えていただいて結構でやす。しかしその前にあっしがナルシス城の抜け道を案内しやす」

「大丈夫なの? 罠ってこともあるんじゃない?」

「いや、ないだろ。生死を彷徨ってまで俺達に取り入るなんて考えられない。俺はカチャノフを信じる」

「ありがとうごぜぇやす。このカチャノフ御恩を返せるように最大限尽力いたしやす」


 カチャノフの話してくれたルートというのは、城の地下工房で使用する水を引くための水路が存在するらしく、その水路を通って地下工房に入り、地下工房から物資運搬用のダクトを通って同盟軍が捕らえられている牢屋に入り、捕虜を解放した後、再びダクトに戻って王室へと上がるという手段だった。


「このルートはナルシスの野郎も知りやせん」

「よっし、それでいこう」

「大丈夫なの、そんな簡単に決めちゃって?」

「こういうのは単純な方がいいんだよ。複雑にしてどっかが失敗してリカバリーがきかないってのが一番タチが悪い」

「了解しました。では陽動部隊を200人ずつ2部隊に分けます。第一軍の指揮は私とキュベレー、アデラで、第二軍をロベルト、ソフィー、フレイア、リリィ、セバスに分け、突入部隊をオリオンとレイラン、エーリカ、カチャノフでお願いします」

「突入部隊にEX二人入れて大丈夫なのか?」

「あくまで本隊は突入部隊です。陽動は時間稼ぎに徹すればなんとでもなります。無理をしてでも突入部隊は厚くするべきでしょう」

「了解した」


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