イァン・カチャノフ
「あぁ、なんて美しいんだ真凛。君を手に入れたくてしょうがないよ……」
ナルシスは亡き父が残した、オンディーヌ家領にある古城にて遠見の結晶石を使い、真凛の姿を映し出していた。
「君のこの幸薄そうな感じがボクにはたまらない。これであと100センティほど胸があれば言うことなしなんだが……」
「失礼します、大将」
王室で悦に入っていると巨大なハンマーを担ぎ綿菓子みたいな白髭をたくわえた、筋肉質なドワーフが入ってきてナルシスは顔をしかめる。
美しいもので己の周りをかためたいと思っているナルシスは、このちんちくりんの筋肉ダルマのことが嫌いであった。
ガチャ召喚に応じて現れた戦士で、ランクはSRと高いので雇用したままにしているが、これがSR以下ならば即刻強制帰還させていたところであった。
「なんだカチャノフ、ボクは美しいものしか見たくない。早く用件を言いたまえ」
「そいつは結構、あっしも早く帰りたいんでね」
口の減らない奴めと、ナルシスの顔は苦々しくなる。
「やはり報告にあった通りボインスキー王城は陥落してましたぜ」
「そうか、資源は?」
「家畜や小麦、ワインのほとんどは既に接収されており、持ち出されています」
「チッ、取られるくらいなら火をつけてしまおうと思ったのだが」
「戦争している最中に、よその王に喧嘩売るとラインハルト城がうるさいですぜ」
「そんなこと言われなくてもわかっている。ボインスキーの足取りは?」
「逃げ出した傭兵の話から、梶勇咲という王に捕虜として捕えられたらしいです。処刑されたという報告は入ってやせん」
「ふん、所詮は金で雇われただけのゴロツキ。王一人守り通せぬとは」
「そりゃ無理ですぜ。相手は事戦闘に関しては常勝無敗の鉄乙女団が加入したチャリオットらしいですから、あんな護衛とゴロツキしかいないところじゃ一瞬で落とされて当然っす」
「それをなんとかするのがお前ら戦士の役目だろうが」
「へいへいわるぅござんした」
「イライラする奴だな」
「あっしは鍛冶屋なんでね、こういう外交や斥候なんかは苦手なんすよ」
「なら地下にこもってフライパンでも作ってろ」
「そうしたいのはやまやまなんですがね。どこかの誰かさんが人使いが荒くて」
「くそ、強制帰還させてやろうか」
「あっしもあんたみたいなのだとわかってたら召喚に応じなかったんですがね」
「お前、それ以上なめた口をきいたら反逆罪で牢にぶちこむぞ!」
「はいはいすいやせんね」
「湾の魔物はどうなっている?」
「どうもうこうもありやせん。ミディール橋の下にある洞窟に巣を作ってるらしいです」
「わかってるならさっさと討伐に行け。あそこはボクの領になるってわかってるんだ。不細工な魔物をのさばらせておくわけにはいかない。どうせ真凛から返事が来るまで暇なんだ、仕事をしろ」
テメーにだけは言われたくねぇと思うカチャノフだったが、これ以上反抗しても不毛だと思い口をつぐんだ。
「それと、ボインスキーを助ける方法を考えろ」
「向こうもこっちが動けない上に金持ってるって知ってますから、身代金ふっかけてきますぜ? 払ってもいいんですかい?」
「ダメに決まってるだろうが! 奪い返すんだよ!」
「さっきも言いやしたが、戦争中に他の王に粉かけたらまずいって……」
「それをどうにか考えるのが役目だろうが! いいかボインスキーを助けられなかったら、お前はコンテストには出さないからな!」
コンテストとは近々開催される、優れた鍛冶師を決める大会で、カチャノフは前々からこのコンテストの為に様々な準備をしてきたのだった。
「そりゃないですぜ、あっしがこの日の為にどれだけ苦労を」
「そんなこと知るか。それにお前、武器の核になる素材がまだ手に入ってないんだろ」
「それは、まぁそうなんですが」
「ならさっさと諦めてボインスキーを助けることを考えるんだな!」
ナルシスはカチャノフを追い出し王室の扉を勢いよく閉めると、激しい音が鳴り響いた。
「ほんと絵に描いたような無能王っすな。鍛冶屋には厳しいわ」
カチャノフは顔をしかめ大きな鼻をかきながら、どうするかと考えるのだった。
「あのクソドワーフめ、ほんと使えない……」
王室で苛立ったままのナルシスの後ろに黒い影が浮かび上がった。
影はどんどん大きくなり、やがてローブを着た人の形を成した。
「頼れるのはお前だけだ」
真っ黒な影は何も言わずに頷く。
「見ていろ梶勇咲。こっちにはEXがいるんだよ。お前のチャリオットなんか捻り潰してやる」
アイアンヘアー 髪型+1 (N)NEW
ワーカー 家事+1(N)
スタンボルト 強い雷を操ることができる。遠距離攻撃不可 (HR)NEW
ビックボイス 声量+1(N)NEW
スローイングナイフ 投擲武器命中率アップ(R)NEW
フォーチュンアタック+ クリティカル+3 (R)NEW
フィッシャー 釣り+1(N)NEW
バイタリティ 体力+1(N)NEW
レジスト+ 状態異常耐性+3 (R) NEW
ビーストフェロモン 異性の魔物と仲良くなりやすくなる。同性の魔物は凶暴化しやすくなる (HR)NEW
ボインスキー城近くで、領地の確認をしながらボインスキーを倒した報酬で10連スキルガチャを回してみると、ゴミばっかり出て白目をむいていると、ディーが依頼書を片手にやってきた。
「ギルド依頼に例の海魔退治が出た?」
「ええ、ミディール橋下の洞窟に巣を作っているようで、ギルドから正式に討伐依頼が出ました」
「それは誰が出したの?」
「同盟軍ブルードラゴンとなっていますね。どうやら戦争が長引いて食料がかなり苦しい様子です」
「湾で自給自足したいけど、魔物がいるから漁にでられないってことか。推奨は?」
「S4ですね。一パーティーSR4人以上推奨となっています」
「ってことは結構えぐいのが中にいるんだな。SR4人推奨なんてなかなか見ないぞ」
「はい、それと単独クエストではなく複数として出しているようで、既に何組かのパーティーが向かっているとのことです」
「あぁマルチならなんとかなるか。勝手に倒してくれれば万々歳なんだけど」
「しかしオンディーヌ家や、同盟軍が討伐すると湾全体の領有権を主張してくる可能性があります」
「だよなぁ、湾のモンスターと戦争が無関係なのが救いか。ちなみにこの湾って何がとれるの?」
「新鮮なホタテやイカなんかが名産だそうです」
「いいなぁパスタにはあいそうだ。ウチも食糧事情が苦しいのは間違いないからな」
「なに、パスタ食えんの!?」
パスタというワードにひっかかってオリオンが飛びついてきた。
「呼んでないから座ってろ」
「キャゥーン」
オリオンは犬のお座りをしながら鳴き声をあげる。
「参加した方がいいな」
「そうですね、討伐はできなくても参加したという実績はあった方がいいでしょう」
「じゃあアマゾネスたちを……」
「すみません王よ、マルチでの参加を募っている依頼は強力な王の独占を防ぐために一パーティー四人までと決められています」
「そうか、そういやそんなのあったな。ってことはパーティー全員SRでいけってことじゃん。無理だろそんなの……」
昔討伐依頼に入ったのに、強い王に一瞬で敵を倒されて、こんなの無理だろ……って絶望した記憶があった。
しかし逆に強い王が来なくていつまで経っても倒せないという事態が発生したりするのでマルチ依頼のバランスは難しいところだった。
「今、誰が出せる?」
「フレイアは怪我が治っていません。エーリカ、リリィ、ロベルトは元ボインスキー領の治安任務、レイラン、アマゾネス隊はナルシス軍と同盟軍の戦力調査に出しています」
「ってことは出せるのはオリオン、ソフィーあたりか」
「わたくしも行きましょう。あの辺りの地理には詳しいです」
そう申し出たのは燕尾服を着たセバスチャンだった。
捕虜にしたときは甲冑姿だったが、この人執事服が似合いすぎてやばい。
「でもセバスさんは、ミディール橋がオンディーヌ領に近いから顔を知ってる人もいるんじゃないかな」
「敬称は不要です我が主セバスとお呼び下さい。でしたら変装を少ししましょう」
セバスはシルクハット被り、スーツに着替え、炭を使った染料で白髭を黒く塗ると、あっというまにどこにでもいるような紳士姿となった。
「これでいかがですかな」
「おぉ……」
モノクルをかけなおすと、宝石商のようにも見え、セバスチャンと一瞬で見抜くことは難しいだろう。
「よし、じゃあ俺とオリオンにセバスと、ソフィーで行くか」
そう思い振り返ると、さっきまでお座りしてた奴の姿がない。
どこいった? と思い探すと、釣竿を持ったサイモンの姿が目に入った。
「王様! これから釣りにいってきます! いっぱい釣ってきますね!」
「あっ、湾には魔物がいるから近づいちゃ……」
注意しようと思ったが、オリオンが魚につられてふらふらとサイモンについて行っている。
あいつがいれば逃げるくらいなんとかなるか。
そう思いオリオンをメンバーから外す。
「となると戦闘がソフィーだけじゃ不安だな」
一応あれでもEXなのだが、彼女の能力はピーキーなところがあり、ボス戦では役立つかもしれないが、道中進むには不向きな能力だろう。
「どうしよっかな」
三人でもいけるかなと思い、視線を上げるとよく考えたらディーいるじゃんと気づいた。
「ディー一緒に行ってくれる?」
「そうしたいのはやまやまなのですが、いくつか執務が残っていますので……」
「そっか……」
俺はもう一度ディーに甘えた視線を送った。
「い、行きましょう」
さすがディー、できる女はダメ男に弱いという理論が確立されそうだ。
※単位
1メリィは1ミリ
1センティは1センチ
1メイル1メートル
1クロは1キロ
1ルッターは1リットル
1グアムは1グラム
1ツァンは1トン




