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イカサマ王

 俺はアギを遮り、テーブルの上に53枚のカードを並べる。

 この世界にもトランプと似たようなゲームがあって良かった。

 名前は違うものの、ほとんどカードの構成は同じだ。


「ここに53枚のカードがある。1~13のカードが4セットにジョーカーとなるワイルドカードが1枚」

「こんなもの誰でも知っている」

「じゃあルールは簡単だ。俺とお前らが交互に伏せられたカードを引き、数字が低かった方が負けだ。結果は一戦一戦リセットされ、使用したカードは除外する。ワイルドカードは最強で全てに勝ち。もし互いのカードが同じ数値ならカードを除外してもう一回だ」

「良いだろう、この人数でそのような博打にでるなんてよっぽどのバカなのか?」

「さぁ、どうだろうね」


 俺はカードをザッと横に並べ、適当に上下にかきみだす。


「お先にどうぞ」


 俺が先手を譲ると、見ていたアマゾネスの一人がカードをめくる。


「10だ」


 俺は手近なカードを一枚引く。


「12だ」

「クソッ」

「次はわたしだ」


 カードを除外すると、次のアマゾネスがカードをめくる。


「8だ」

「9」

「クッ!」


 次から次へとカードをめくっていく。


「やった13だ!」

「喜ぶのは早いんじゃないか?」


 俺は13のカードを見せつける。

 同じ数値はカードを除外して引き直し。


「4……」

「6だ」


 そして徐々に気づきだすのだ。この不自然さに。

 どれだけやっても近しい数字で負ける。

 それも偶然などではない確率で。


「貴様イカサマしているな!?」

「根拠のないことを言うな」

「こんなことありえない! まぐれなどで勝ち抜ける人数ではない!」


 既に20人抜き。残りのアマゾネスは後わずかになっていた。


「カードを全てひっくりかえせばわかることだ!」


 カードを全てめくろうとしたのを許さず俺はアマゾネスの腕をおさえた。


「最初に確認しなかったのはお前らだろ? 旗色が悪くなったからイカサマってそりゃ誰だって怒るぜ。お前らの落ち度だ。続けるぞ」


 このイカサマのタネは簡単だ。最初からカードの束に1を4枚ずつ2を4枚ずつと全てのカードを4枚ずつ固めて入れており、机の上でシャッフルしたように見せかけて実は上下に揺らしただけで全く混ぜておらず、数字の低いエリア、数字の高いエリアを作り、アマゾネスが引いたカードを見てそれより少し高いエリアからカードを引いているだけだ。

 イカサマがバレにくくする為に引いたカードを除外している。


 最後のアマゾネスであるキュベレーの番が回ってくる。

 キュベレーはカードを一枚めくり俺に見せる。そこには13の数字が書かれていた。


「やった! 13はお姉さまので4枚全てでたぞ!」

「残りのカードどれを引いてもお姉さまの勝ちだ!」


 だが、俺はあっさりとその希望を打ち砕いた。


「はい、ジョーカー」


 ワイルドカードが提示され、アマゾネス全員が押し黙った。

 明らかなイカサマに納得しているものは誰もいない。


「俺の勝ちだな」

「ふざけるな! こんなもの勝負などではない」

「そうだそうだ!」

「イカサマをするな! この卑怯者め!」


 アマゾネスの一人が酒瓶を投げつけ、俺の顔面に命中する。


「いった……」

「ふざけるな、さっさとアギを解放し出て行け!」

「ふざけてんのはテメーらだろうが!!」


 俺は思いっきり机を叩くと、古いテーブルは半分に叩き割れ、アマゾネスは黙った。


「勝負事に途中から待った。負けてから卑怯だなんて言うのはただの負け犬の遠吠えなんだよ! イカサマに気づくのがおせーんだよ。ワイルドカードは元から俺の手元にあった。だけどな、このカード最初に53枚と言ったが、はなから机に並べられてるカードは52枚だったんだよ。そのことにこれだけの人間がいて誰も気づかなかったんだぞ! どっちがマヌケかわかってんのか!」


 俺の言っていることはほとんど屁理屈だし、イカサマ主の逆ギレ以外に他ならない。

 だが、元からこっちが提案したカードゲームなんて100%イカサマが入ってない方がおかしい。

 それに二十人以上の人間とカードの数字バトルなんて確率で考えて成立するわけがないのだ。

 それを踏まえたうえでイカサマを破り、俺に勝利するのがこの勝負の勝ち方のはずだが、それをただ普通に勝負して負けたから卑怯だなんて、人生なめてんのかって思うわ。


「お前ら聖人君子か、脳みそのない虫とでも戦ってるつもりなのか? お互いの利益がかかっている以上是が非でも勝ちに行くのは当然。その手段がイカサマであろうが飲んだ時点でお前らの負けなんだよ。ましてや俺は自分の首を賭けたんだ。この意味わかってんのか? 絶対に負けないっていう自信だ。お前ら戦いで殺されてから後ろからは卑怯だとか、闇討ちは汚いとか言い出すつもりか?」


 俺の怒気を孕んだ声にアマゾネス全員が押し黙った。


「ラストチャンスだ。選べ」


 俺は金貨を一枚取り出し親指の上に乗せる。


「裏か表か。イカサマだと思うならその裏をよめ。落ちるまでに裏か表か答えろ」


 金貨はキンと音をたて、宙を回転する。

 キュベレーの目には焦りと困惑が浮かんでいた。


「お、表だ!」


 金貨は甲高い音をたてて床の上を回転し、やがてゆっくりと回転をやめてひっくり返った。


「裏だ」

「…………」


 金貨は裏面を向いていた。

 アマゾネスの誰もが絶句する。

 俺は使った金貨をキュベレーに放り投げる。


「この金貨には何にも細工なんかしちゃいない。だが、この金貨は単純に装飾の関係で表面が重く縦回転すると高確率で表を下にしてひっくり返る。これは知ってるか知ってないかだけの話だ。これをイカサマだと言うなら、お前らはもう何もするな」

「それはさっきのイカサマも同じということだな……。なぜ我が表にかけると思った」

「お前ら単純に派手な装飾のある表面が好きそうなと、後俺はコインを投げる前に裏を連呼した。心理的に人間は敵が使う方とは逆を選ぶ傾向があるらしい。後は運だ」

「こちらの人間性も、焦って答えさせられたのも全て策略のうちというわけか」


 そう、全ては単に知っているか知っていないかだけの話。

 知っていれば最初から気づくことができた。ほとんどの勝敗はそれで片が付く。

 運が介入してくる要素は潰すことは可能であり、それをいかに相手にバレず、相手に不利な勝負を飲ませるかが勝負であって、始まる前からアマゾネスたちの負けは決まっていたのだ。

 このコイントスでの勝ち負けは、はなから勝負を受けないが正解であり、無視して仕切りなおしてから自分に優位な戦いを提案するのが正しい。


 キュベレーは目をふせ、小さく首を前に傾けた。


「約束通りお前らの命を全てもらう。だが、俺はお前らみたいな傭兵団なんかいらんから、俺のチャリオットに入ったアギたちだけを貰う。これ以上アギたちに口出しするな。以上だ」


 俺は立ち上がると、アギも困惑しながらも立ち上がる。

 酒場を出ようとすると、アマゾネスたちが立ちふさがった。


「貴様のような男に負けるわけにはいかない」

「男への敗北は我らの掟で禁じられている!」


 大そうな掟だこと。

 アマゾネスの一人が鉄の入ったグローブを握りしめ、腰の入った拳を俺の顔面に叩きつけた。

 それを全くのノーガードで受けると、俺の瞼が切れて勢いよく血が流れでた。

 アマゾネスも全く避けないとは思っていなかったようで、あまりにも激しい打撃音と拳の感触に驚いているようだった。

 俺はノーガードだが全く引かず、拳を受け止めると首を少し傾けた状態で殴って来たアマゾネスを見据える。


「で?」


 この暴力に何か意味はあるのかと問う。

 アマゾネスは拳を震わせながらゆっくりと後ずさった。


「よせ、我々の負けだ。見苦しい真似をするな」


 キュベレーが前に出る。


「負けを認めてくれるとは思わなかった」

「貴様の言うことはほとんど屁理屈だ。だが、我らはその屁理屈や知識というもので貴様の言う通りうまくいっていない」

「あんたらまっすぐすぎるんだよ。なんでもかんでも全身全霊真正面からぶち当たらないと気が済まないんだ」


 嫌いではないがね。


「王よ、我ら一族は王に敗北を認めよう。我らを打ち負かす意味は当然理解しているのだろう?」


 えっ、なにそれ何かあんの?

 視線でアギに、このお姉さん何言ってるのと尋ねる。


「我らアマゾネス、リーダーが敗北を認めたとき、そのものに全てをさしだす。プライドも尊厳も全て」


 それはつまりどういうことだってばよ。


「つまり姉様たち、今から王様の奴隷と同じ」


 すると全員がカチャカチャと音をたてて武装を解除しはじめた。


「くっ、仕方ない」

「くっ、殺せ」


 何が、何が仕方ないの!?

 殺さないよ!

 てか何やってるの!?


「これから上書きの儀を行う」


 何か勝手に話進んでるんですけど!

 もう一度アギにこのお姉さんたち何言ってんのと聞く。


「姉様たち既に種付の儀終わってる。心も体も神の嫁。でも男に負けると神の嫁やめなければならない掟。やめる方法、上書きの儀。姉様全員に王が儀式を行って王の嫁にする。大昔に一度だけ我が一族、男に敗れて上書きの儀したことある。凄い屈辱と聞いた。でもなぜかみんな嬉々としてやっていたとも聞いた」


 それって結構なスケベなお姉さんなんじゃ。

 今のキュベレーたちがそうだとは限らないけど。


「好きにしろ」


 年上のお姉さんが羞恥に震えている姿は、見ていてくるものがあるが、そんな目的の為にここに来たわけではない。


「みんな神の嫁やめなくていいから! そのままでいて!」


 だがアマゾネスたちは首を振る。


「これはもっとも厳しい掟だ。だから破ることできない」

「なんでそこ厳しくしたんだよ!」

「敗北を厳罰にするのは当然だ。勝負事には絶対負けられないという強い意思が必要。だから掟を破った時は厳罰にしないと掟の意味がない」


 なるほどな。

 じゃないよ!

 納得している場合ではない。


「さぁ来い!」


 来いじゃないよ! いかないよ!

 なんでみんなちょっと嬉しそうなんだ!? 実は男に飢えてたんじゃないかこの人達。


「さすが我が王よくわかった。一族の掟で男と交わるの儀式一回だけ。それ以外許されてない。姉様たち実は結構性欲強いから、この掟別の意味でとても厳しいもの」


 なんだよあれだけ男はクソとか言ってたのに実はアレしたかったのかよ!


「本来は神に対する貞操を保ち続けることが掟だが、王に負けて神に対する貞操が王に対する貞操にかわる。神は儀式できない。でも王は儀式何回でもできる。姉様たち体力あるファイト」


 ファイトじゃねーよ、ファイトじゃ。


「いや、そういう意味じゃなくてだな」

「話によると、昔男に負けた時一族爆発的に増えたと聞いてる」


 それってもう朝から晩まで……いや、何も言うまい。


「とりあえずここではしないから!」

「ここでは? よし、ならば王の城へと移動する。全員荷をまとめよ!」


 そういうところだけ抜粋して曲解しないで!

 アマゾネスたちは最低限の服装だけ身に着けると、居住区らしき酒場の二階に上がり荷をまとめ始めたのだった。


「おい、これどうするんだ」

「さすが我が王。姉様を引き入れるなんてしゅごい」

「ウチ奴隷制度なんてやってないから」

「でも、もうこれ掟で決まってる。これ認められなかったら姉様たち自害するしかない」

「極端すぎない?」


 その後奴隷にこだわるキュベレーと話をして、奴隷ではなく、新たな仲間になるという形でウチのチャリオットに併合することで落ち着いた……。

 結局俺はハイアマゾネス傭兵団鉄乙女を連れて、自城へと帰るのだった。

 あー、またディーが怒るのが目に見えるんじゃー。

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