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プリーストはお嬢様

 翌日


「お、お風呂に水を、しかも雨水を張っているなんて思いませんでした」

「あのね、君のとこみたいにライオンの口からお湯がでてくるところなんて普通ないのよ。一般家庭は水や布で体を拭く程度のことしかしてないの。それでたまに風呂屋にはいりにいくの」

「そんな! 毎日体を清潔に清めませんと神への背信行為になりますわ!」

「あっ、咲塩とって」


 俺はオリオンに塩の入った小瓶を渡す。

 今朝の献立はサイモンの釣ってきた焼き魚に、山菜のおひたし、玄米のご飯だった。

 魚の見てくれは悪いが、食べるとなかなか油がのっていておいしい。これでこの魚の目玉がこんなにもデカくて飛び出ていなければ食欲をそそるのだが。

 ガツガツと食べるオリオンに対して、ソフィーの方は全く進んでいない。


「食べないのか? 昨日の夜も食べてないだろ?」

「わ、私朝はパン以外には食べられません」


 修道女みたいな格好して(帽子だけ)神様がどうのって言ってるわりに、わがままなやっちゃな。

 ちなみに神様って、俺に適当で雑な説明だけして消えていった神ドラゴンのことだろ。あんなの信じても仕方ないぞ。


「そう言ってもパンはないぞ。この近くに米農家の人がいるから、その人達が米をわけてくれてるからウチは三食米がでてくる」


 米農家を襲っていた魔物を倒してから以降仲良くなり、釣った魚や山菜を米と交換してもらっている。


「で、ですが。このようなお魚も食べた事ありませんし」


 明らかにソフィーはこの見てくれの悪い魚を嫌悪していた。そりゃ目玉飛び出して、マンドラゴラでもこんなに叫ばねーよって言うくらい、口を開けてたら気味悪くもなる。


「食べないならあたしがいただくよ」


 ソフィーの分まで食おうとするオリオンを引きとめる。


「行儀の悪いことするんじゃないの。とりあえずこれは残しておくから、後で食べてくれ」


 と言っても、食べないなら無駄になってしまうわけなんだが。

 結局ソフィーは一口も食べることなく朝食は終わってしまった。


 食後自室で俺はどうしたもんかなぁとソフィーのことを考えていると、ついうつらうつらとしてきてしまう。

 やばい、急激に眠気が……。ギルド見に行こうと思ってた……のに。

 昨日ソフィーの言う礼拝堂(仮)を確保するために、夜更けまで掃除してたのがたたったのか、俺はしばらくすると安らかな寝息をたてはじめていた。



 しばらくして


「お、王様! 来てください!」


 サイモンの慌てた声に驚いて、俺は飛び起きた。


「な、なんだ!?」


 サイモンに促され、俺は二階にある空き部屋へと連れてこられた。そこには既に全サイモンとオリオンが部屋の中を覗いている。


「あぁここは礼拝堂に使っていいってソフィーに……」


 部屋の中を見て驚いた。どこから集めてきたのか、部屋の中には長椅子が二列並び、一番奥に小さな机と、その上に大きな銀の十字架が飾られていて、簡易教会みたいなものがつくられていたのだった。

 その下に陽光を浴びながら祈りを捧げるソフィーの姿があった。

 一見聖女のような姿で見惚れてしまうところではあったが、問題なのはあの銀の十字架である。真ん中にあの不細工な神ドラゴンがついている。一体これをどこから持ってきたのか。


「そ、ソフィー、ちょっと……」


 手招きすると、祈りの時間は終わったのかソフィーは俺の元にやってくる。


「はい、王様なんでしょうか?」

「あのさ、あの銀の十字架どこから持ってきたの?」

「先ほど街に行って購入してまいりました。店の方が非常に良いお方で、お安くしていただきました」

「あぁ、そう……で、お金は?」

「王の部屋にありましたので、それを使いました」

「…………いくらだって?」

「八万ベスタでした」

「有り金全部じゃないか! 今すぐ返してきなさい!」

「八万ベスタくらい大したお金じゃありませんよ?」

「君にとって大したことなくても、ウチにとっては全財産なの! それとそういうことは自分でお金を稼いでから言いなさい!」


 俺は巨大な十字架を持ち、ソフィーをつれて購入したといわれるお店を探しに大急ぎで城を出た。


 街に入ると既に昨日の晴天祭は終わっていたが、ちらほらとまだ出店は残っていた。

 石造りの街並みが続くこのラインハルト城下街は、東側が城のある富裕層地区になっており、西側が貧民街となっていた。

 彼女は丁度貧民街との分かれ目の場所で購入したとのことなので、街の中央に向かって走った。


「くそ、めっちゃこの十字架重い」


 真ん中にとりつけられているマヌケなドラゴンの顔がやたら腹立つ。


「ここです、ここに……あれ?」


 ソフィーがさす場所には空家があるだけで、何か店があるような様子はなかった。


「確かにここで購入したのですが、何もなくなっています」

「なにもなくなるって……」


 確かに空家にしては小奇麗で埃の一つも落ちていない。


「兄ちゃん達何しとるんじゃい?」


 俺達が店を探していると、後ろから声をかけられた。そこには白鬚の爺さんが杖をついて歩いていた。


「あの、ここにお店とかなかったですか? こんな十字架とか売ってる?」

「あぁん、フォッフォ兄ちゃんら騙されたの。そこで売ってたのは全部偽もんの盗品じゃて」

「なんですって!?」

「たまーにそこで盗んだもんやらを売る連中がでてくるんじゃ、恐らく貧民街の人間じゃと思うが、わからんな」

「じゃ、じゃあ返品とかは?」

「フォッフォ泥棒に返品なんか頼んだって相手にされんよ」


 そう言って爺さんは杖をついて歩いていってしまった。



 俺とソフィーは二人で街の中央にある噴水の前でうなだれる。

 ソフィーは偽物だったことがショックで、俺は返品できないことがショックで肩を落とす。


「くそ、これからどうする……」


 いきなり全財産を失い路頭に迷うことになった俺達チャリオット。隣を見ると気落ちしているソフィーの姿がある。

 スマホを取り出してギルドからのお願いをチェックしてみるが、すぐにお金になりそうなものはなかった。

 ふと画面のタッチを間違えて、表示される戦士を帰還させるのメッセージ。


 EXレアだけど戦闘経験がなくて、お嬢様で、常識がぬけてて、お金の価値観が違ってて、米を食べれない少女。俺は表示されていた戦士の帰還の画面をしばらく眺めていた。

 この子は戦士に向いていないのでは? 才能云々より適性の話である。

 その時パン屋から焼きたてパンの良い匂いが漂ってきて、腹がすく。


「くー」


 可愛らしい音が聞こえて隣を見ると、ソフィーがどすどすと自分の腹を殴っていた。


「腹減ってるんだろ?」

「な、なんのことでしょう?」


 別にすっとぼけなくてもいいのに。

 俺は硬貨のはいった布袋を取り出し、パン屋に入る。



「ほら」


 俺は買ってきたチーズパンをソフィーに投げる。


「あっ」


 パンは焼きたてで、ソフィーはアツアツと手からこぼしそうになっていた。


「私お金を……」

「いいよ、別に」


 俺も買ってきたチーズパンをかぶる。


「お金、持っていらしたのですね」

「二千ベスタだけな」


 昨日報酬を受け取ってから、金庫にいれるのを忘れていた金だ。


「チーズパン一個八十ベスタだ。俺は別にお前の信じる神をどうこう言うつもりはねぇが、この俺の背中にのっかかる十字架で千個もチーズパンが買えるわけだ。お前が神にどんだけ祈りを捧げようが神はチーズパンをおごってはくれねーぞ」


 俺がそう言うと、ソフィーはしゅんと俯いた。

 パンを全部食べ終え、いつまでもうなだれていてもしかたないので、俺はステファンギルドに行って何か稼ぎになりそうなものがないか探そうと思った。


「ちょっとそこのボーイズエンガール!」


 俺か? と自分を指さすと、声をかけてきたリーゼントで筋肉質だが、なよっとした男性が近づいてきた。


「あなた達、今お暇かしら?」


 ズイズイと顔を近づけてくる、筋肉質なおじさん、うわ凄い青髭。


「暇といえば暇ですけど」

「だったらウチのお店手伝ってくんない! 今すぐに!」

「えっえっ?」


 青髭の男性に腕を掴まれ、俺とソフィーは強引に貧民街近くにある酒場まで連れてこられた。


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