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天使王

「貴様、王か?」


 アマゾネスの質問に「そうだ、冒険者じゃない」と答える。

 クロエは矢が刺さった俺の腕を治療し、オリオンは抵抗しないアマゾネスリーダーの腕をロープで縛る。


「クロエ、頼む」


 俺が頼むと、クロエはアマゾネスリーダーにもヒーリングをかけ、傷を治す。


「ククク、アハハハハハハハ」


 唐突にアマゾネスリーダーが大笑いし始めたので、まさかまだ何か隠し玉でも持ってるのかと警戒する。


「ククク、マケタ、マケタ。我、打ち負かす、お前見上げたタネ」

「種? タネってなんなんだ? お前達はそれを探しているからこの森に居ついているんだろ?」

「タネはタネだ」

「だからそれは作物のことなのかしら?」

「タネ、女、タネ女孕ませる」


 アマゾネスが俺とフレイアを顎で指し、ようやく意味を理解する。


「タネって、男って意味ね」


 酷い呼び名をつけられたものだ。モンスターじゃないんだからと思う。


「タネを探してるってことは、お前達の男を探してるのか?」

「タネはタネ、男じゃない」

「なんだこんがらがってきたぞ? タネは男じゃないのか?」

「多分男であってると思う。こいつらきっと男をタネって言葉でしか、とらえてないのよ」


 なるほど、彼女らにとっては、恐らく男には種以上の価値がないってことなんだろうな。

 女性だけで繁栄している種族っぽいから無理もないのか。


「そのタネはこの辺でいなくなったのか?」

「強いタネ、消えた。タネ消えると我ら潰える」


 子種以上の価値がなくても、やっぱりいなくなると困るってことか。


「もうちょっと詳しい話が聞きたいな」

「村、来る。酋長話す」


 そう言うとアマゾネスは腕を縛られたまま立ち上がり、スタスタと森の奥に歩き始めたのだった。


「多分村に案内してくれるんだよ。行こう」


 俺達はアマゾネスリーダーの後に続いて、森の奥へと入って行った。



 森の奥に入り、アマゾネスリーダーが突如奇声を上げる。

 すると、木の上で待機していたアマゾネス達が、同じように奇声を上げる。

 なに、超怖いんですけど。


「守り人、言った、大丈夫」


 どうやらアマゾネスの警戒を外してくれたらしい。

 そこからしばらく歩くと、葉っぱや木で作られた集落が見えた。

 移動式の為なのか、簡単なテントや木を組んだだけで作られた小屋がいくつか並ぶものの、木々にはハンモックが多くかけられており、メインは外で暮らしているようだ。

 木製のお面に、オリオンと似たようなビキニアーマーを着た女戦士がほとんどで、俺達を警戒しているのだろう視線が集中して居心地が悪い。

 どうやらここがアマゾネスの本拠地らしい。


「多いな」


 多くても二、三十人程度の規模だろうと思っていたが、予想に反してアマゾネスの数は百をゆうに超えそうな人数だった。


「狩りに出かけているものと街に出ているものいる。この倍はいる」

「マジか。ウチのチャリオットより多いじゃないか」


 村に入ってすぐに、槍を構えたアマゾネスが俺達を取り囲む。

 そりゃリーダー捕獲して、本拠地にやってきたらこうなるだろう。


「構わん。道、あけろ」


 アマゾネスリーダーの言葉に従い、俺達を睨みつけながらもアマゾネスは槍をおろした。

 村の中に入ると、まだ小さな少女が走り回っていた。

 一瞬和んだが、やはり皆武装しており、ここが女戦士しかいない村なのだとわかる。


「あれ? 男いるじゃない?」


 フレイアが何かに気づき指をさすと、そこには木製の檻に閉じ込められた、数人の成人男性の姿があった。

 彼らの表情は一様に暗く、俯いているものばかりだ。

 健康に問題はなさそうだが、今にも自殺しそうな表情は見ていて不安になる。


「あれはタネ違う。奴隷商から買った。奴隷」

「奴隷……ほんとにあるんだな」

「人身売買は北の赤月帝国や、南のドロテア軍領では盛んに行われているわ」

「ファンタジーに奴隷はつきもんだが、おっさんや兄ちゃんの奴隷はリアルすぎてあんまり見たくないな」


「酋長、今、帰った」


 アマゾネスリーダーはテントの一つに跪くと、中から頭に鳥の羽を何本も刺したヨボヨボの老婆が現れた。

 老婆は枯れ木のような体をしているものの、その眼光はまだまだ衰えてはおらず、猛禽類を思わせるような目つきだった。


「戦士アギオルジ、なんだそのザマは? 捕まっているじゃないか」

「我、そこのタネに敗れた」


 酋長は俺にぎらつく視線を向ける。


「バカも休み休み言いな。お前がタネなんかに負けるわけないだろう」

「事実。我、負かしたのはそっちの機械戦士。機械戦士、王の奴隷、我タネ敗北」


 どうやらエーリカは俺のチャリオットだから、エーリカに負けたイコール俺に負けたと繋がるらしい。

 酋長はエーリカを見ると顔をしかめる。


「この娘、雷神フライデーの加護を受けているね」

「神であったか!?」


 アマゾネスリーダーが取り乱す。


「その隣の女は火神チューズデーの加護を受けている。いや竜か? 呪いの類か黒いものが見えるね」


 今度はフレイアを指さす。確かに彼女は竜に呪われているし、火の結晶石も持っている。


「まさか神の一行であったか?」

「あんたが王か……まだサンデーマンデーウェンズデーサーズデーを持っているね?」


 俺は懐から残った四つの結晶石を取り出す。

 不思議なことに酋長に見せると、四つの石が輝きだしたのだった。


「お、おぉ凄まじき神の光。そなた御使いか?」

「なんだそれ?」

「神の使者、天使ってことよ」

「俺みたいな天使いたら嫌だろ」

「やめてよ、あんたの顔想像したら笑えるじゃない」


 えっ、顔は関係なくない? ねぇフレイア顔は関係ないよね?


「そなたに集まる力の流れを感じる」

「咲、なんかすげーな」


 オリオンが小学生並の感想、通称小並感こなみかんをもらすが、俺もそんな感じだ。


「むっ、ヌシは……」


 酋長がオリオンに近づく。


「えっ、何かあんの?」


 まじまじと見つめた後。


「ヌシからは何の力も感じん。ただの低レアじゃな」

「テメーぶっ殺すぞ!」


 いきなり斬りかかろうとするオリオンを羽交い絞めにする。


「酋長さん、俺達は争いに来たわけじゃないんだ。この近くの森に居座られると困るって、近隣の村から言われてるんだ。どうか、場所を移動してくれないか?」

「……それはできぬ」


 酋長はゆっくりと首を振る。


「タネが失われた。タネなくては我らは立ち行かぬ」

「そのタネってのは仲間なのか?」

「違う。タネはタネ。奴隷を殺し合わせ、生き残ったものを戦士アギオルジと戦わせ、勝ったらタネとして血脈とする」

「つまり、まずあの男の奴隷たちの中で殺し合わせて、その中で勝った奴をこのアマゾネスリーダーと戦わせて、更にそこで勝ったら繁殖相手にすると」

「いかにも。失ったタネは奴隷の中で勝ち残った有望なタネ。アギオルジに勝つ為特訓もしていた」

「特訓までさせてたのか」


 それにしても奴隷に殺しあわせるって無茶苦茶すぎるだろ。


「育てるって概念があるのかもね。もしかしたらそうでもしないと、あのアマゾネスリーダーに誰も勝てないのかもしれない」


 フレイアの推測は多分当たりだろう。あんな凶暴なアマゾネスに普通の男が勝てるわけがない。


「それ特訓が嫌で逃げ出したんじゃないのか? もしくは奴隷ってのが嫌で」

「タネは他の奴隷とは違い、この村で生まれたアギオルジの弟」

「えっ、弟も殺し合いに参加させてたのか!?」

「我らの村にタネと奴隷以外に男は不要。タネとして見込みのない男は全て村を追放しておる」

「無茶苦茶だな」


 民族的文化なのかもしれないが、男として生まれてきた子供に罪はないのに。


「ここ近年で生まれてきた男はタネ以外におらんがな。カカカカ」

「子宮中で既に戦い始まってる。男弱い、女強い」


 愉快気に笑う酋長とアギオルジ。

 そりゃ気の強そうな女の人ばっかりになるはずだろう。

 男の精子押しのけて、女が産まれてくるみたいだし。

 正確には精子の時点で性別なんかないはずだが、それでも女性が生まれやすい何かがあるんだろう。


「逆を考えれば、タネとして見込みがないってことは見込みがあるかわかるまでは育てるってことよね?」

「それが?」


 フレイアの質問に俺は首を傾げたが、すぐに意味は理解した。

 一体いくつで見込みがあるかないか判断するかはわからないが、恐らく一人で生活できるくらいまでは育てるってことだろう。

 その上で一族を繁栄させるタネとして認められなければ村を追いだす。

 無責任に村を追いだしてるってわけでもないんだろう。

 そして奴隷はタネとしての見込みをチェックする最初のテストみたいなものなんだろう。

 奴隷として連れてこられたものはたまらないが、恐らくこのアマゾネスたちはタネと呼ばれる男の人を最初から血脈にするつもりだったんだろう。

 そう考えるとわりかし理性的な民族なのかもしれない。


「話を戻すが、そのタネさえ見つかれば、ここから移動してくれるか?」

「構わぬ。タネさえ見つかればここに用はない。我らも電気のないところで暮らすのは身に応える」


 えっ、電気使ってるのかと、逆に驚いた。

 ウチだってまだ電気なんてほとんど使ってないのに。意外と文明の機器を扱っているらしい。

 よく見るとテントの中にバッテリー式の扇風機やラッパ型の蓄音機のようなものが見える。

 もしかしたら俺達より文化的な生活してるかもしれない。


 目的は分かった。あとはそのタネって言われてるアギオルジの弟を探しだすことだな。


「俺達も探すのに協力するよ」

「ダメ、我ら男の力を借りてはならぬ定め」


 めんどくさい奴らだな。とことん男を排他的に考えている。

 民族文化と言ってしまえばそれまでなんだが。


「男の力は借りぬが、力だけは余ってそうなお前さんたちの手は借りよう」


 酋長が指さす後ろを振り返るオリオンとフレイア。いや、お前らだから。


「いいけどさ。オリオン、フレイア、クロエ、エーリカ手伝ってあげてよ。俺はこの話を依頼者の村長さんにしてくるからさ」

「あっ、咲楽する気だな!」


 人聞きの悪いことを言うな。少し村で休んでくるだけだ。


「マスター、私も」


 エーリカがついてこようとするが、俺は手を振る。


「いや、帰ってもすることないし、エーリカは皆を手伝ってあげてくれ。もしかしたら力仕事があるかもしれない」

「……了解しました。ですがマスター、あの村で出されたものは決して口にしないと約束してください」

「ああ、わかったよ」


 俺は頷いてアマゾネスの村を出ようとする。


「ちょいと待て。これは森の中で拾ったもんじゃ。持って帰るがええ」


 そう言って酋長は俺に二冊の手記を手渡す。


「なんだこれ?」


 中を開いてみると、一冊目には料理のレシピがいくつも記されていた。

 こんなもの森で落としたのか?と首を傾げる。

 もう一冊を開くと、日記のようでごくごく普通に、今日はどのようなことがおきたかが記されている。


「菱華村の人のものかもしれないから聞いてみるよ」


 俺は二冊の手記を持って、アマゾネスの村を出た。

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