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Dキラー

 宣教師が帰った後、俺たちは即座にワクチンづくりを開始する。

 診療所に倒れたオスカーと少年を戻し、簡素なベッドに寝かすと、ルナリアはすぐに注射器や検査キットらしきものを取り出して、手際よく熱の原因を調べていく。

 

「頑張れスカートめくり少年」


 俺が声をかけても少年はハァハァと荒い呼吸を繰り返し、ぐったりとしている。

 ルナリアは少年から血液を抜くと、G-13が血中成分を調べ、検査結果を数値化していく。


「大丈夫ですか?」

「ええ、今鎮痛剤を打ちましたので、二人ともしばらくは落ち着くはずです」


 確かにオスカーと少年の息は徐々に穏やかになっていく。


「いえ、俺が言ってるのはルナリアさんの方です。凄く気負ってるみたいなので」

「あれだけ信用してもらったら、そりゃ頑張りますよ。それに……あなたが怒ってくれて嬉しかったです。その……私言い返すってあんまりできないので……」

「精一杯頑張って人を治してきたのに、悪魔ってだけで信用できなくなるっておかしいでしょう?」

「そんなことはないですよ。モンスターは悪、見かけしだい殺せと考える人は少なくありません。うちにいる無害なホルスタウロスさんやクラーケンさんたちでさえ、放っておくと危険だから殺せと考える人はいます。……悪魔はその中で、最も嫌われ者ですから」

[古来ヨリ様々ナ文献、小説、伝記ナドデモ必ズ悪魔ハ敵側デス。人ト手ヲ取リ合ウ、ルナリアサンガイレギュラーナノデス]

「ですから私からは人間を責めることはできません。悪魔とはそういうものと理解してます」


 だから彼女はあの場で何も言わず、ただ黙って涙を流しただけ。

 悪魔は共通悪という認識を最初に作った人間のせいで、彼女達は未来永劫迫害を受け続けることになるのだ。

 そう思うとむかっ腹が立つ。そもそも伝記や文献なんて後の人間が都合よく改変している可能性があるし、何にだって例外は存在する。

 多分イングリッドさんはそんな悪魔への偏見を変える為に魔軍を起ち上げたんだろうな。

 そう思うと、敵ながらも応援したい気持ちになってしまう。


「なぁオリオン、もしシロとクロが何にもしてないのにモンスターだからって理由で迫害されたらどうする」

「迫害した奴全員殺す」


 狂犬かお前は。だけど――


「俺も殺すかな」

[意外デスネ。テッキリイケメン王ハ、冷静ニナレト言ウカト思イマシタ]

「言っとくけど、俺身内贔屓凄いからな」


 そう言うと全員が知ってると頷く。


「咲が仲間泣かされてグーで殴りに行かないわけないじゃん」

「ウチの子バカにする奴は絶対許さん。誰だろうと真の平和主義ドロップキックを入れに行く」

「君がドロップキック入れたら、戦争になるかもしれないから気をつけてよ」

「上等だ、ウチの子泣かした責任は戦争でとってもらう」

「平和主義で戦争引き起こすとか狂ってるよね……。狂犬の飼い主は狂人サイコパスじゃないか」


 クリスは肩をすくめながら呆れた笑みを浮かべる。


「でもお前ら守られてる方が嬉しいだろ?」


 そう聞くと全員がほんの少しだけ頬を染め、露骨に視線をそらした。


「まぁ何にもしてくれない王よりかはよっぽどね」

「臣下の為に立つ。そういうところは実に英雄らしいと思うであります」


 ナハルに同調するように風呂敷猫がミィミィと鳴き声を上げながら、俺の足に顔をこすりつける。


「当たり前だ、家族が泣かされてるのと一緒だからな」


 俺が顔をキリっとさせながら言うと、女性陣全員がため息をつき、解散解散と言いたげにワクチン作りに集中する。

 風呂敷猫も家族かよと言いたげに俺の足から離れて行った。


「あれ、俺結構良いこと言ったつもりだったんだが……」

「良いこと言ったけど、求められてる答えじゃなかったね」

[ベタ過ギル肩スカシニ、ワザトヤッテイルノデハナイカト思イマシタ]



 それから丸一日、ルナリア、エーリカ、G-13、クリスのトライデント医療チームのウイルス解析作業は続き、朝チュンするくらいに結果が出たようだ。


「マスターお話があります」


 エーリカに揺り起こされ、俺は目を覚ます。


「やべ、寝てたか……」


 明け方くらいまでは記憶があったのだが、俺やオリオン達は見守ることしかできず、朝方ダウンしてしまったようだ。

 俺の足元で風呂敷猫がペタンと座ったまま寝息をたてている。

 俺は隣で寝ていたオリオンの肩を揺する。


「んぁ……なんだ、飯か」

「飯じゃねぇ。ワクチンだ」


 寝ぼけるオリオンと共に診療所内を見渡すと、G-13以外皆徹夜明けで、目の下に薄くクマができている。

 三人と一機はそんな眠気など微塵も感じさせず、難しい顔をしながら顔を突き合わせていた。


[ウイルスノ正体ガ判明シマシタ]

「本当か?」


 G-13がウイルス核と思われる画像を投射する。立体映像化されたウイルスは、紫の丸っこいアメーバのような形だ。ふわふわと小刻みに揺れているが、どことなく意思を持っているようにも思える。


「これがウイルス細胞って奴なのか?」

「いえ、ウイルスを媒介したもので、これ微生物なんですよ。元々泥の中にいる無害なものなのですが、何者かによって汚染され有害な生物になっています。この微生物は人の口から入り、体内で菌を放出することで、熱などの症状がでます」

「人の口ってことは食料や水に、この微生物が入り込んだってことか」

[恐ラク一番怪シイ感染経路ハ、飲料水デショウ。コノキャンプニハ3ッツノ井戸ガ存在シ、東エリアノ井戸ヲ使用スル人間ニ、感染者ガ集中シテイマス]

「成程。オリオン、東側にある井戸近くにあるろ過機、雨水を飲み水にかえる機械があるはずなんだが、そこに泥がぶちこまれてないか見て来てくれ。もし泥があったら、即時井戸を使うのはやめろって伝えるんだ」

「がってんだー」


 俺が「絶対に泥には触るなよ!」と言うと「ネタフリは任せろー」と口走りながらオリオンは浄水施設へと向かう。


「あいつほんとに大丈夫だろうな。泥触ったら感染するぞ」


 俺が一抹の不安を感じていると、ルナリアは白衣を翻しながらウイルスの説明を始める。


「さて、この汚染された泥から生まれた微生物をDウイルス寄生体と仮称します」

「なんかゾンビ化しそうなウイルスだな」

[ゾンビ怖イデス]


 お前の両手のガトリング砲は飾りなのか。


「治療方法は、寄生虫駆除剤を使いDウイルス寄生体を駆除、抗生物質を使って治療していくのが最善かと思います」


 聞いてるだけだと、結構簡単に治りそうなのだが、説明するルナリア、クリスの顔色は明るくない。


「何か問題が?」

「ええ……症状の治療自体はさほど難しいものではありません。しかし問題はこのDウイルス寄生体たちです。この微生物は薬学的なものではなく呪術によって強化汚染されています。これをどうにかしないと、治療になりません」

「この微生物、こんな小さいくせに魔法でバリアみたいなの張るんだよ。だから並の駆除剤を使ってもバリアに弾かれちゃって薬が届かないんだ」


 G-13がわかりやすく映像を映し出す。そこにはアメーバ型のDウイルス寄生体がふよふよと浮かんでおり、そこに薬品が投与される。すると彼女達の言う通りDウイルスは自身の周囲に円形のバリアを張り、薬物から自分を守ったのだった。


「微生物のくせに賢い奴だな……」

「宣教師たちが自信満々に治療することができないと言っていた理由がこれでしょう。かなり複雑な呪術式で汚染されていて、正直私には解呪の検討がつきません」

「ソフィアちゃんがいればどうにかなったかもね」


 ソフィーさん大体必要な時にいないんだよな。

 バリアを張るウイルスなんて規格外すぎて、クリス達はう~んと唸る。

 エーリカにどうかと尋ねるが、彼女もさすがに呪術はわからないと首を振る。


「ホワイトジャックでも無理となると、困ったな」


 俺が呻ると、風呂敷猫たちが徐々に起き始めた。

 その中で大きく伸びをするメジェド様ではなくナハルの姿があった。彼女は褐色の脚を覗かせながら起き上がると、手詰まりになっている俺たちを見やる。


「おや? 何かお困りでありますか?」

「いや、まぁ……ちょっと呪術的なもので……」

「あぁ、呪術は複雑でありますからね。太古の昔からあるものですから、術式自体何万、何百万通りあると言われています」


 そう言いながらナハルはポットからコポコポと音をたててお湯を注ぎ、コーヒーを淹れる。

 あれ? ちょっと待てよ、こいつよく考えたら……。


「ナハルってさ、神だよな?」

「ファラオに比べれば自分めなど若輩でありますが、猫神と呼ばれていますよ」

「お前確か呪術のエキスパートだよな?」

「いやいや、エキスパートだなんて照れるでありますね」


 ナハルの風呂敷下からのびる鍵尻尾がフリフリと揺れる。

 医療チームは俺が言いたいことを理解したようで、全員の視線がナハルに注がれる。


「あれ、皆さまどうしたでありますか? そのような熱視線を――」

「ナハルさん、協力してください!」


 ルナリアはがっしりとナハルの手をとった。


 その後オリオンが帰って来て、やっぱり浄水器に泥がぶちまけられていたらしく、井戸は物理的に封鎖してきたらしい。(方法は聞いていない)

 後、ハゲの宣教師がワクチン作り捗ってますか? っていけしゃあしゃあと聞いてきたから、ムカついて殴っちゃったと狂犬ぶりを発揮していた。

 俺は狂犬によくやった、次は殺すんだぞと労い、こちらも進展があったことを伝える。


「咲、あのハゲの宣教師、感染から三日で死人が出るって言ってたよ」

「ってことは後二日か……。あいつらがDウイルスを作ったのは間違いないから、多分ブラフじゃないな」

「降参するなら、ピヨピヨ教に入信しなさいって言ってきた」

「うるせードンフライぶつけんぞって言ってやれ」

「大丈夫です。その余裕、私が曇らせてあげますよ」


 ルナリアはワクチンを作りながら、不敵な笑みを浮かべる。


「ナハルさんのおかげで後二日も必要ありません。一日で完成させてみせますよ」

「ルナルナかっこいいな」

「ルナリアさんはいつだってカッコいいからな」


 俺がそう言うと、彼女は「ふわああああ」とか言いながら、ビーカーを落とした。

 かなり動揺してるな。




 ――翌朝


「完成したーー!」


 二徹目のルナリアは、カプセルの中に入ったエメラルドグリーンの液体を見て恍惚とした表情を浮かべる。彼女の周りにはぐったりとしたクリスとナハルが転がっていた。


「カウンターカースドプログラムを組み込んだナノマシン、DキラーデストロイVer1.33です」

「おぉ……」


 パッと見はグリーンサイダーにしか見えないが、多分凄いものなのだろう。


「この子ほんと無茶苦茶。体にナノマシンを仕込んで、微生物迎撃プログラムを作るとか言い出したんだよ……」

「咲、ナノマシンってなんだ?」

「ナノマシンってのは人間の免疫では倒せないウイルスが入って来た時、かわりにウイルスを駆逐する正義の殺し屋みたいな人工抗体だ」

「なんだそれ、すげぇ強そうだ」

「ええ、ナハルさんのおかげでDキラーに呪術汚染された菌を殺す武器を装備させることができました。見て下さい」


 G-13が実際のDキラーとDウイルス寄生体が戦い合っている映像を映し出す。

 アメーバ型のDウイルスは自分の周りにバリアを張るが、手裏剣みたいにトゲトゲしたDキラーが突撃し、あっさりバリアを切り裂くと微生物を駆逐していく。


「おぉ、ナノマシンすげぇ……」

「私の全科学力とエーリカさんの医学、クリスさんの薬学、ナハルさんの呪学全てが合体した無敵のナノマシンです」


 さすが発明大好きっ子。すげえもんを一日で仕上げて来たな。

 よし、これでヘックスを救えるぞ!



 しかし――


「い、いらないですと?」


 俺はスカートめくり少年、オスカー、グランザムにナノマシンを注入して、次は感染している人たちを治そうと思い救護コテージへと入ると、そこにいた住民からNOを言い渡されたのだ。

 疲れた顔をした中年の男女は、俺の顔を見て首を左右に振る。


「すまないが悪魔の造ったものなんて、恐くて使えないよ……」

「オスカー様はああ言ったけど、やっぱり宣教師様の言葉に従おうと思うわ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! これを使えば本当に治るんだって! あんな怪しい粉に頼らないでくれ」


 俺は必死に説得するが、感染者やその家族は眉をひそめながら首を振る。


「俺たちからしたら、あの粉もその注射も正体がわからないのは同じなんだよ……」


 いや、確かに中身がわからない注射器ほど恐ろしいものはないが。


「まずいな、もう時間がないって言うのに……」

「あの眼鏡に説得してもらったら?」

「オスカーか?」

「難しいですね……オスカーさんはじきに回復すると思いますが、それから説得してもらって投与になると時間切れになる可能性があります……」

「高齢者や体力のない子供は、多分今晩が山だよ」


 ルナリアとクリスは苦い顔をする。

 それはまずい……。なんとかこのナノマシンの安全性を訴えなければならない。


「そのナノマシンって最悪注射じゃなくても大丈夫ですか? 例えば飲んだりとか」

「大丈夫ですけど……飲み物は警戒されてますよ?」

「困ったな……どうしたもんか……」

「ごめんなさい……私が悪魔だから……」


 こんなに頑張って人を助けたいと思って作った発明を、種族程度で否定されるなんて不憫すぎる。

 俺は泣きそうなルナリアの頭を撫でながら「大丈夫だ」と伝える。


「俺に任せとけ、なんとかする」

「そうそう、こういうのは咲に任せとけばいいんだよ」

「マスター実際どうしますか?」

「ようは治療されてると思わせないうちに治しちまえばいいんだろ?」

「そんな手あるんですか?」

「G-13手伝ってくれ」

[イヨイヨ私ノハイパーブレインガ役立ツ時ガ来マシタカ]

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