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神と悪魔とウイルス

 翌日


 俺たちはトライデント大浴場計画に必要な鉱石を貰ったので、そのお礼はせねばなるまいとルナリア診療所を続けていた。

 診察台とデスクくらいしかない簡素な診療所内には、ルナリアとエーリカ、G-13の姿があった。昨日のような患者大行列にそなえていたのだが、今日やってくる人影はまばらだ。

 老婆の診察を終えて、ルナリアは小さく息を吐く。


「昨日に比べて、随分患者が少なくなりましたね」

「ドクターエーリカと、G-13が大暴れしたから皆怖がってるんですよ」

「失礼ですね。本機の診察は適切だと自負しています」

[医療ミスデモダイジョーブ]


 それは大丈夫ではない。

 G-13の奴、未だに大丈夫しか言わないんだが、本当に大丈夫なのだろうか?

 そんなことを思っていると、診療所にグランザムが走り込んできた。


「か、梶王はいるか!?」


 顔を赤くしてゼェゼェと荒い息を吐き、筋肉質な体がふらついている。


「おっ、どうしたグランザム……って、具合悪そうだけど大丈夫か?」

「オレの事はいい。それよりオスカーが倒れちまったんだ!」

「なに!?」

「オスカーを……たの……む」


 そう言ったグランザムも限界だったらしく、その場に膝をついて倒れ込んでしまう。

 エーリカがグランザムの額に触れると、首を振った。


「凄い熱です。この方は本機が診ましょう」

「すまん。俺とルナリアさんはオスカーを見に行く」


 エーリカにこの場を任せ、オスカーのいるウォールナイツ指揮者コテージへ向かう。中に入ると、グランザムの言った通りオスカーがうつ伏せになって倒れ伏していた。


「お、オスカー!? 大丈夫か、しっかりしろ!」


 慌てて抱き起すと、彼は荒い息を吐いて苦し気に呻いている。


「全身が熱い、やばいな」

「す、すまない……風邪をひいたようだ。不甲斐ない……」

「お前は無理しすぎなんだよ」


 きっと限界まで働いてることに気づいてなかったな。有能すぎる人間が陥る罠だ。

 俺はオスカーの体をお姫様抱っこすると、彼はジタバタと暴れ出した。


「よ、よしてくれ! これではまるで君と私が、白馬の王子とシンデレラだと誤解されてしまう!」

「そんな誤解絶対されませんよ」


 ルナリアが冷静にツッコむ。

 可哀想にオスカー、熱でかなり錯乱しているな。

 オスカーを仮眠用のベッドに寝かせると、今度はオリオンがコテージの中へと駆け込んできた。


「咲、なんかやばい! ここの住民、いろんなとこで倒れてる!」

「なにっ?」

「全員風邪っぽい! 皆すんごい熱出てるよ!」

「グランザムの奴もいきなりぶっ倒れたしな。一体何があったんだ」


 突如このタイミングで皆が倒れたことが気になる。

 その疑問は後にして、俺たちは無事なウォールナイツたちと手分けして、熱を出した住民の看護を行う。



 住民達の確認を終え一度診療所に戻った俺たちは、あまりにも不自然すぎる風邪の流行に頭を悩ませていた。


「発症者は758人。いずれも昨日までは健康で、今日の朝いきなり発症したようです。体温は38度から39度の高熱で、セキや悪寒など症状は季節熱と酷似しています」


 エーリカが凄まじい勢いで感染者名簿とカルテを作成していく。


「いくらなんでも数が多すぎるぞ」

「怪しいですね……」


 ルナリアは、診察台に寝かされたオスカーの瞳や口の中、心音、脈拍を確認していく。

 昨日彼女が使っていたスピードガンみたいな機械で、症状を確認しようとするが、装置に表示されたステータスはアンノウン。


「ウイルスファイルに該当なし……嘘でしょ」

「どういうことです?」

「病気の正体がなんなのかわかりません。この装置には何千もの病気のデータベースが入っています。それに引っかからないということは、考えられる可能性は二つ。全くの新種のウイルスが突如蔓延した、もう一つは人為的に造られたウイルスがばら撒かれた……」

「な、なんの為に?」

「それはわかりません。ですが、新種のウイルスより、この発症の仕方を見るに後者の可能性が高いです」


 ルナリアが分析を述べると、避難所の入り口で大声が上がる。


「なんということでしょう! こんなにも苦しんでいる人々がいらっしゃるなんて!」

「今度はなんだ?」


 俺たちは診療所出て、ズケズケとやって来る牧師風の男数人を見て顔をしかめる。片手に教典を持ち、足まですっぽり覆い隠す真っ黒い服を着た集団。ブサイクなヒヨコのネックレスを首にかけ、揃いも揃って頭頂部が円形にハゲている。歴史の教科書でこんな人いたような気がすると思う風貌だった。


「皆さんこれは病魔の仕業ではありません! 悪魔の呪いなのです! ですが安心して下さい。我々ピヨピヨ教団が来たからにはもう安心。大事なご家族の為に祈りを捧げましょう。ピヨピヨ様は悪魔から罪なき人々を救ってくださいます!」


 牧師風の男は天を仰ぎ、両手を広げ「神に祈りましょう!」と芝居じみた声をあげる。

 どうやらあれがグランザム達の言っていた宣教師という奴だろう。

 名探偵オリオンが、俺の服の裾を引っ張る。


「咲、あたしビョーキバラまいた犯人わかったかもしんない」

「奇遇だな、俺もだ」


 ネクストコ〇ンズヒーント――ピヨピヨ教団。答えを言っては推理モノにならない。

 このタイミングの良さ、明らかに犯人なのだが証拠はない。

 あんな胡散臭い奴に騙される奴なんかおらんだろと思っていたが、農夫らしき男性が妻を抱きかかえながら宣教師の言葉に従う。


「ピヨピヨ様を信じよう。俺はピヨピヨ様を信じるぞ! だから妻を救ってくれ!」


 農夫の涙ながらの言葉に宣教師の男は優しくほほ笑む。


「救いを求める子羊よ、あなたは祈りを捧げるのです。ただそれだけで良い」

「妻は体が弱いんだ……どうか助けてくれ……」


 農夫が祈りを捧げると、宣教師は妻に何か白い粉を振りかけた。

 すると苦し気に呻いていた女性は、たちまち血色を取り戻し呆けた表情を浮かべる。


「か、体が楽に……」

「大丈夫なのか?」

「ええ、あなた。治ったわ!」

「お前~!」


 回復した夫婦は抱き合うと、涙を浮かべてありがとうございます! 全てピヨピヨ様のおかげです! と感謝を述べる。

 するとそれに追従するように他の感染者の家族が、私も神を信じます! と救いを求めて声を上げる。


「ほんとにピヨピヨ様の加護でもあるって言うのか?」


 胡散臭いテレビショッピングを目の前で見せられた気分だ。

 俺が宣教師たちを訝しんでいると、エーリカのヘルムからピコピコと電子音が鳴り、青いバイザーを光らせる。


「マスター、データベースを照合したところ、今の夫婦らしき人物はこの避難地の人間ではありません」

「なに? じゃああの農夫と病気の妻はどっから来たんだ?」

「恐らくピヨピヨ教の差し金でしょう」

[自作自演デモダイジョーブ]


 なるほどな、教団がなんらかの手でヘックスの民を病に感染させ、神を信じると病気が治るとサクラを仕込み自作自演をうつ。それを信じたヘックス住民が宗教に転ぶって寸法か。

 ってことはこの集団感染、実はヘックスの民を狙ったっていうよりオスカーやグランザムのような、インチキを見抜く人間を潰しにかかったってのが正しいな。


 奴らの筋書きが見えてきた。

 俺がカラクリに勘づいている間も、ヘックスの民は次々に神を信じますとダメな方に転がっていく。


「神を信じます」

「よろしい、祈りを捧げなさい」

「はい……」


 目を閉じる住民に、またもや怪しい粉をふりかける宣教師。

 俺とオリオンは二人で首を傾げる。


「あの天ぷら粉みたいなのはなんだ?」

「天ぷら粉じゃないの?」

「信者に天ぷら粉まぶす宗教ってなんだよ」


 よし、確認するか。

 俺はあの粉の成分を調べるために、救いを求める子羊を演じながら宣教師の前に並ぶ列に入った。

 数分後、俺は宣教師の前に立った。

 宣教師は俺を見て、あなたは特別可哀想な顔をしていると真剣に同情してきやがった。

 ここでイラついてはいけない。ぐっとこらえよう。


「あなたは神を信じますか?」

「はい、信じます。だから俺の友達を救ってください!」

「よろしい、では友達を――」

[ダイジョーブ]

「…………」

「俺の友達のG-13です。昨日から大丈夫しか言わなくなったんです! 助けてください!」

[インチキデモダイジョーブ]

「ん゛ん…………次の方」


 宣教師はセキ払いしてスルーしようとしたので、俺は無理矢理すがりついた。


「助けて下さいよ! 神は機械だからと言って差別するんですか!? 俺信じます! 凄く信じてるんでお願いしますよ!」

「ピ、ピヨピヨ様も無機物には……」

「試すだけでもいいですから! お願いします! お願いします! 何でもしますから!」

「は、離さないか!」


 俺は半泣きになりながら宣教師にすがりつく。



「咲って情けない役やらせたら右に出るものいないよね」

「あれが強力なチャリオットを統べる王だと言っても、誰も信じないでありますね」

「多分マスターは世界最強の王になってもあのままでしょう」

「後ろにいるルナルナ、他人のふりしてるのがウケる」


 宣教師はめちゃくちゃ嫌そうな顔をして、舌打ちをすると「そ、それでは神に祈りなさい」と半ばヤケクソな態度で続ける。

 俺たちは信じてないピヨピヨ様に祈りを捧げると、宣教師は例の天ぷら粉をG-13にふりかけた。

 G-13は空中に散布された粉を即座に解析していく。


[解析結果……判明。モルヒー粉デス]

「なっ!?」


 結果を聞いて、ルナリアの目の色がかわる。


「今すぐ使用を中止してください! モルヒー粉は強幻覚、強依存性のある麻酔薬です! 治ったと思ってる皆さん勘違いしないでください。モルヒー粉によって一時的に症状がおさえられているだけです! 恐らく6時間から8時間後にまた発症します!」


 ルナリアの言葉にざわつく住民たち。


「ありゃ昨日のお医者さんじゃないか……」

「もしかしてほんとに?」

「モルヒー粉は使用を続けると、徐々にそれなしでは生きていけなくなる危険な薬物です。神なんて言葉に騙されないでください!」


 住民たちが「えっ、そうなの?」と正気を取り戻しかけると、宣教師は慌てて言葉を遮る。


「皆さん、彼女の言葉に騙されてはいけません! この粉はゴッドパウダー神の粉です! 決して怪しいものではありません!」


 いや、どう考えても怪しすぎる。


「神を冒涜する不届きものめ! さては貴様、民を迷わせる悪魔だな!」


 冷や汗をかいた宣教師は、苦し紛れにルナリアに向かってヒヨコのネックレスをかざす。多分アレ十字架的役割なんだろうな。

 しかしまずいぞ、あてずっぽうが当たってしまっている。


「正体を現すが良い。この悪魔め!」


 宣教師が聖魔術らしきものを唱えると、ルナリアは額を押さえた。

 それと同時に隠していたコウモリ羽を覆うハンカチが取れてしまった。

 それを見ていた住民たちが一斉にざわつく。


「あ、悪魔じゃ……」

「ほんとに悪魔だった……」

「まさか、あのお医者さんが……」


 ルナリアの正体がバレて一番驚いているのは宣教師の方だった。まさか適当に言ったら本当に悪魔だったとは……という顔をしている。

 しかしすぐに好機と口元に笑みを浮かべる。


「フフフ、わかったぞ、民を苦しめている原因はこの女悪魔にある! 皆さん、この女があなたたちを苦しめているのです! 心当たりはありませんか?」

「そ、そういえば昨日、この人皆を治療して――」

「それです。間違いありません! この女は治療と言いながらあなた達に病魔を仕込んだのです!」


 まずい、野郎全ての責任をルナリアに押し付けるつもりだ。

 しかもここの住民は悪魔に恐怖感情を持っている、聞こえの良い宣教師の言葉に転んでしまう可能性は十分ある。


「えっ、まさか本当に……」

「医者と言っていたのは俺たちを油断させる為だったのか?」

「可愛い顔をして、恐いことを考える」


 宣教師はチャンスと、住民をはやしたてる。


「皆さん、あんな得体の知れない連中を信じてはいけません。ピヨピヨ様は皆平等に信じるものを救います。悪魔と神、あなた達はどちらを信じますか!?」


 住民たちは動揺しているようだ、やはりここ最近の悪魔事件が気になっているようでルナリアを懐疑的に見ている。


「悪魔は人を操り人形にするらしいよ……」

「良い医者だと思ってたのに……」

「私注射されたんだけど、あれ何だったんだろ……」


 口々に勝手なことを言う住人。ルナリアはその言葉にじっと耐えている。

 まるで、この程度慣れていると言いたげに。

 しかし俺は彼女の瞳にきらっと光るものが見えた。

 当たり前だ、困っている人をただ助けたい聖女に生卵をぶつけるような、そんな物言い。しっかり治療が出来なくて凹んでしまうような優しい少女。あれだけ頑張ってきたルナリアに対して、あんまりすぎる。

 俺のそばにオリオンがすっと近づいてきた。


「咲、ここでブチギレてもなんも良いことないぞ。皆あのハゲに惑わされてるだけだからな」

「おう、俺がそんな適当なテンションに流される男だと思ってるのか?」

「思う」

「その通りだ。お前らふざけんじゃねぇぞ! 昨日はさんざん助けてくれってルナリアさんのとこにわんさかやってきたくせに、悪魔だとわかった瞬間掌返してんじゃねぇ!」


 二重人格かと言いたくなる俺のキレっぷりに、オリオン達がやりおった……という目で見やる。


「さっきの神と悪魔の話そのまま返すぞ。しっかりと診断して治療してくれるルナリアさんと、わけわかんねぇ天ぷら粉で治す胡散臭い神、どっちが信用できるんだ!?」


 俺がそう叫ぶと、宣教師は間髪入れず「それが悪魔の策なのです!」と叫ぶ。


「す、すまねぇ兄ちゃん。俺達にはどっちが正しいかわかんねぇんだ……」

「こんな時にオスカー様がいてくれれば……」

「牧師様は俺たちを治してくれるんだ……」


 どういう結果であっても、奴の持つモルヒー粉で症状が緩和しているのは事実。

 くそ、ここの住民じゃない俺が何を言っても、よそ者の言葉としかとらえてもらえないか。

 住民達が宣教師の前に再び列を成そうとすると、顔色の悪い少年が突然大声を張り上げた。


「皆、そんな奴の言うこと信じちゃダメだ! この姉ちゃんは縞パンだけど俺たちを助けてくれたじゃないか!」

「縞……」

「グランザムが言ってた、その人たちはヘックスを解放してくれたえいゆーなんだって!」


 そう叫んだのはスカートめくりの悪ガキだ。それと同時にコテージで寝かせていたオスカーがよたよたとよろけながら、姿を現した。

 ゼェゼェと荒い息を吐きながら、ヘックスの住民に指示を出す。


「我が愛すべき民よ! この少年の言う通りだ。宣教師の口車に踊らされてはいけない! 皆……彼らの……指示に……従……」


 オスカーは最後まで言い切れず、その場に倒れ込んだ。


「オスカー!」

「皆さん家に戻って安静にしてください! 私が必ずワクチンを作ります! 必ずです!」


 ルナリアの鬼気迫る声に、ヘックス住民は気圧される。


「オ、オスカー様が言ってるしな……」

「悪魔を信じても大丈夫なのか?」



 オスカーのおかげでこっちに流れが返って来た。あと一押しあれば住民を説得できる。

 何かもう一押しあれば――。

 そう思うと、白き闇医者が正義の心を秘め、住民を説得する。


「これ以上この場に残るのでしたら、本機が治療を開始します」

[不治ノ病デモダイジョーブ]


 エーリカの人を救いたいという気持ちが通じたのか、ヘックス住民は顔色を変え「こ、殺される!」と叫びながら家へと戻って行った。

 その様子を見て、宣教師たちは悔し気に歯噛みする。


「くぅ、ワクチンなんぞ作れはしない! 先に言っておく、この病は数日で死に至る。それまでに心変わりすることだな!」


 なんでこの病気にそんな詳しいんだよ。100%お前らがウイルスばらまいたって言ってるようなもんじゃねぇか。

 宣教師は捨て台詞を吐いて避難地を後にする。

 

 さて、こっからはウチの仕事だな。


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