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大浴場計画

 無事に年も明け、餅食ってダラダラと怠惰に過ごしていた連中は順調に増量し、平均1、2キロ太った我らトライデント一同。

 クリスマスイベントで更に仲が深まったフレイアに「お前ちょっと太ったな」と言ったら、思いっきり回し蹴りを食らった。乙女心というのは難しい。


 そんないつも通りな中、会議室と言う名の食堂に集められた我らチャリオットの主要メンバーたち――

 全員が席に着いたのを確認すると、主催のディーは立ち上がり目的を説明する。


「さて、領地を空けることが多かったため、長らく我がトライデント領の問題点を改善することができませんでした。王が今まで目を背け続けていたことです、わかりますね?」


 ディーは俺に視線を向けるが、俺は知らん知らんと首を振る。


「そうですね、お金の問題です」


 やっぱりそれか。


「喜ばしいことに、着実にトライデント領は領民が増えています。しかしそれに伴って、支出ばかりが増えています。領地内設備の拡充、周辺モンスターの討伐、兵や城の維持費などなど。現状ファラオから頂いた金塊や、アルタイル卿からの支援がありますが、これらを元手に抜本的な改革を進めなければ、ただ消費していくだけです」


 ソフィーははいっと手を上げる。


「領民が増えてるんですから、急いで何かする必要ってあるんですか? 人が増えれば税収が勝手に増えていきますよね?」

「現在トライデント領は温泉を目的とした観光客からの収入が多く、次いでホルスタウロスやマツタケたちの特産物、オンディーヌ領のワインや小麦などがあげられる。しかし領民からの税収に関してはほとんどないと言ってもいい」

「何で税金とらないんですか?」

「とらないじゃない、とれないくらいに内需が死んでいるからだ」


 オリオンが俺の服の裾を引っ張る。


「咲、ないじゅって何?」

「トライデント領内で回るお金だ。酒場フェアリーテイルで使った金とかがそれにあたる。税ってのは所得に応じてとる料を決めるんだが、お金がない人から更に税を出せって言うと破産しちゃうだろ?」

「うん、わかる。ようはここの領民、貧乏人ばっかりだからお金とれないんだ」

「そうなんだが身もふたもないまとめ方だな……。例えだが、トライデント領民が酒場でいっぱい酒飲んだり飯食ったりすると酒場が儲かるだろ? そしたら今度は酒場が酒や食材をたくさん仕入れる。次は食材を作ってる農家や酒屋が儲かる。こうやって内需ってのが広がって国の経済が活性化していくんだ」

「なんでお金使わないの?」

「ん~、やっぱりここにいる領民たちみんな貧乏だからか?」


 俺の答えにディーは半分当たりで半分外れですと答える。


「領民がお金を持っていないことは確かです。しかしここには奇跡的に貴族たちが通う冒険者学園があり、お金を持った学生たちや、その親の出入りはあるんです。つまりお金を持っている人間はそれなりにいるんですよ」

「じゃあなんで金持ってるのに使わないんだ?」


 俺の問いにディーが小さくため息をつく。


「お金を使う場所がないんです」

「あっ……(察し)」

「貴族の子供たちは酒場には行きませんし、大した市場や娯楽施設もありませんから」


 そ、そっかぁ……。


「ですので、学舎にいる貴族たちは皆休日になると、ラインハルト城下町など大きな街へと遊びに出かけるんです。できるならそこで落とすお金をウチで使ってもらいたいです」

「ん~となると、貴族の学生たちが気に入りそうな店や娯楽施設を誘致、建設するか?」

「そ、その貴族のお子さんの財布をアテにするより、観光分野に力を入れるのはどうでしょうか?」


 銀河の言うことは正論だ。もし冒険者養成学園が潰れたり、生徒がいなくなったりしたら経済が共倒れになるってことだしな。


「そうするにはやはり目玉となるものがありませんと。ここは本当に温泉以外何もありませんし……」


 ディーは腕を組んで自分の胸を押し上げると、難しい顔をしながら深く考える。

 温泉を目玉にして領地を改革か。


「もう銀河を脱がせてお金とるしかないんじゃない? 温泉街ってよくストリップがあるって言うし」

「そうですね、それでいきましょう」


 脚を組んで頬杖をついたフレイアと、ぐでっと机に上半身を倒したソフィーが雑な金策を提案すると、銀河はあうあうと涙目になっていた。


「それは後で検討するとしてだな」

「け、検討するのですか!? お、お館様がやれとおっしゃるのでしたら自分は……自分は」

「冗談だ、そんなことしねぇよ。G-13お前なんか領地内のデータ取ってたよな? それ出せるか?」


 ボディが完全に復元された自称家庭用ロボットは、アイカメラから壁に向かって温泉の利用率や、領民一人当たりの支出などをまとめたグラフを投射する。


「んーなるほどな……」

「咲、なんかわかったの?」

「いや、やっぱり湯ってのは貴重なんだよ。グラフを見る限り、ここで生活する領民のほぼ全員が毎日温泉に入りに行ってる。女子学生なんかは朝晩二回入りに行くほど綺麗好きだ」

「まぁお風呂は気持ちいいですからね。かくいうわたしも毎日行きますよ」

「あたしも前までお風呂嫌いだったけど温泉は好き」

「現状ウチの温泉ってどうなってるんだ?」


 G-13がグラフから領地内の画像に切り替えると、サイモンがあちこちに作った小さな露天風呂が映し出される。


「そうだな……このちっさい露天風呂一つにまとめようぜ」

「と、言いますと?」

「全部まとめて、でっかいプールみたいな大衆浴場を作ろう。そこに人を集めて商売した方が効率が良い。冷えた牛乳一本売るだけでも、皆湯上りに買って帰ると思うんだ。後は食事なんか出せれば領民たちの生活サイクルをコントロールできると思わないか?」

「朝昼働いて、夕方は浴場に向かい、そこで食事をとって眠るわけですか……」

「風呂の後に酒場で一杯ひっかけたりとかな。休みはダラダラ一日中風呂に入っててもいいわけだ。大浴場を一本の柱として、そこからいろんなサービスを展開する。この周辺には休憩ポイントとなる街なんかがないから、うまくいけば旅客も呼び込めるかもしれない」

「領民やお客さんががいっぱい来すぎて、浴場がパンクしちゃったらどうするんですか?」

「そりゃ大成功ってわけだから、第二浴場を造ればいい」

「男女混浴は恥ずかしいのですが……」

「時間で区切ればいい。もし時間外で入りたくなったら、いくつか露天風呂を残しておいてそっちに入ってもらえばいい」

「掃除はどうするネ?」

「朝から昼までの、一番入浴客が少ない時間帯に人手を使って素早く終わらせる。この辺は領民にお金を払って働いてもらう。それと領民割りで領民は入浴料半額にしてメリットをつける」

「見た目ボロボロのくせに綺麗好きが集まる街ってなんか変だね」

「でも、おっきなお風呂って夢があるわね」

「……お風呂で……ゴロ寝……いいね」


 俺の案のほとんどはスーパー銭湯を参考にしたものなんだが、フレイアやサクヤたちは悪くないんじゃない? と賛同してくれる。

 皆の意見がその方向でかたまると、最後にソフィーがはいっと手をあげる。


「なんだ?」

「それ、どうやって作るんですか?」

「そこなんだよなぁ……」


 源泉があって集客システムは作れても、それをちゃんとした大浴場にする資本と資源がない。

 ちょっと考えればわかるが、大浴場の建設費なんてとんでもない額になるだろう。


「ダメじゃないですか」

「夢物語ってやつネ」


 大浴場計画は正しく絵に描いた餅というやつで、盛り上がったものの現実にすることは難しい。

 しかし、その様子を見かねたのか恐い人が手をあげる。

 軍服に白衣姿の悪魔少女を見やると、彼女は立ち上がって発言する。


「お金、貸しましょうか?」

「怖い怖い怖い! 君らにお金を借りることほど怖いものはない!」


 浪速金融みたいなルナリアは、借用書をさっと用意して俺に差し出してきたので、それを紙飛行機にして返却した。


「とりあえず王の大浴場計画を試算してみましょうか」


 ディーがこの件をカチャノフに話すと、彼はおおよその設計図を描き、必要な素材や費用を見積していく。


「え~っと、この規模ですと……こんくらいですかねぇ」


 俺たちはカチャノフが描いた大衆浴場の完成予想図案を見やる。

 プールのように広く、周囲を石柱で囲まれた浴場は、ローマの大衆浴場に見えなくもない。


「高級感があっていいな」

「露天も開放感があっていいですね」

「この時点でいくらだ?」


 カチャノフが出した概算を見やると、既に0の数が凄いことになっていた。

 そりゃ時の権力者にしか作れないはずだと納得する。


「材料を自分達で調達できれば、もっとお安くなりやすが」

「石材が高いな」


 とにかく一番必要になるタイルやレンガ、ブロックなどの石材系が高い。これだけでもなんとかなれば、後は自分達でもどうにかなりそうなのだが。


「…………無理だな。こんなの鉱山でも持ってなきゃ不可能だ」

「魔軍金融に頼むしかないんじゃない?」

「ウチはいつでもOKですよ。一つなくなっても大丈夫な腎臓あたりから担保にしますか?」


 無茶言うな。動く限り内臓を売りに出したくはない。


「しかもこれで最低限だからな」

「完成すれば間違いなく目玉になるのですが、資金回収のリスクを考えると……」


 ディーの顔は苦い。言わずともわかる、完全に予算オーバーだと。


「やっぱり貧乏チャリオットにはハードルが高すぎたか……」

「この大浴場に滑り台とかつければ楽しそうなのにね」

「はいはい、わたしピンクのお風呂がいいです!」

「音楽鑑賞とか出来たら素敵じゃない?」


 皆作れないとわかってカチャノフの設計図に、適当に自分のやりたいことを記入していく。

 しばらくして出来上がった、俺たちの考えた最強の風呂図案を見て、ため息をついた。


「全体がピンクで、泳げるくらい風呂場が広く 、スパイラル滑り台があって、しかも音楽演奏が聞ける劇場が隣にある。一体いくらかかるんだ」


 億いくんじゃないか?

 ダメだこりゃと俺たちが諦めかけていると、イケメン美女クリスがはいっと手を上げる。


「オスカーに頼んだら? ヘックスって鉱山都市でもあったから、多分言ったらくれるよ」

「えっ、ほんとか?」

「うん、多分。この前手紙でオスカーがヘックス王代理をすることになったって言ってたから。旧ヘックスの鉱山一つ掘らせてくれって頼めば多分掘らせてくれるよ」

「いや、でも今ヘックスは国が滅んで大変だろ? そんな中、石材くれなんて言えないぞ」

「普通はダメって言われると思うけど、君なら大丈夫だよ」


 クリスはなぜか確信に満ちた目で俺を見やる。


「なんで俺なら大丈夫なんだ?」

「細かいことは詮索しない方が身のためだよ」


 クリスはこれ以上聞くなと、なぜか眉をひそめる。

 なんだか怖いんだが。


「君たちはヘックスを救った英雄なんだから、遠慮することないよ。それに、ここが大浴場で儲かればヘックスを援助してあげればいいし。今ヘックスに商業をやる余裕はないから、投資として見てもこの件は悪い話じゃない」

「そういうもんか……」


 ディーにどうする? と聞くと、彼女は首を縦に振った。


「ヘックス避難民に支援物資を持って交渉されてはどうでしょうか? オスカー王代理にダメだと言われれば引き下がればいいですし」

「そうだな、言うだけ言ってみるか」

「では、私が交渉に向かいましょう」


 ディーがそう言うとクリスは首を横に振る。


「君が良いと思うなぁ。多分その方が話早いよ。オスカー君のこと好……気に入ってるし」

「そうか、じゃあ俺が直接行こう。オスカーやグランザムにも会いたかったしな。ディーはこっちで人員を集めて大浴場を作る準備を進めてくれ」

「了解しました。では、班分けを行います――」


 こうして俺たちはトライデント大浴場を作る計画を進めるのだった。

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