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プリズンブレイクⅧ

「お前はほんとによく捕まるな……」

「悪かったわね」


 ジェームズに捕まったピー〇姫みたいなフレイアは、アタシだって好きで捕まってんじゃないわよと怒っている。


「悪いが混乱に紛れて後をつけさせてもらったぜ。お前がまさかあんなに強いチャリオットの王だったとはな」

「なぜそんなことをする。脱獄するなら皆について行けば逃げられたはずだ」


 坊主頭に剃り込みを入れた男は、チラリと俺の後ろにあるタナトスを見やる。


「ああ、だからお土産が欲しくてな。聖十字の新型アーマーナイツとなりゃとんでもねぇ高値で売れるはずだ」

「そんなくだらないことの為に……」

「くだらなくなんかねぇ! 俺は今まで金の為には強盗、殺人何でもやった。生きるためには金が必要なんだよ! 自由になったとしても金が無けりゃなんの意味もねぇ!」

「なんで人から奪うこと前提なんだよ。金が必要なら普通に働けば――」

「うるせー、テメーみたいに恵まれた奴が俺に指図すんじゃねぇ!」


 ジェームズは口角泡を飛ばしながら激昂する。

 ダメだコイツは何言っても自分が被害者だと考えるタイプの人間だ。

 あまりにも予想通り過ぎる腐った人間性に、どうするかと考えていると、オリオンがすっと前に出た。


「お前と咲を一緒にするな」


 オリオンの一言にジェームズは青筋をたてる。


「なんだテメェ?」

「咲が楽して仲間がいっぱいできたみたいなこと言うな。お前みたいな略奪者は一生何をやっても満たされないし、誰からも愛されない」

「わかった口きいてんじゃねぇぞ!」

「負け犬野郎」

「ぶっ殺すぞ!!」


 ベーっと舌を出すオリオン。

 挑発しすぎてジェームズの頭には血管が無数に浮かび上がっていた。

 隣に控えるオリオンとクリスは「殺す? 処す? 消す?」とやる気満々だ。

 ウチの女性陣はなぜこうも血気盛んなのか。


「皆、落ち着いて冷静になれ。お前もフレイアが囚われてる状態で挑発するな」


 俺はジェームズを含めた全員に冷静になるよう訴えかける。


「しかしよ、ほんとお前なんなんだ? なんでこんなにも強くていい女はべらせてる?」


 少しだけ興奮の冷めたジェームズは、いやらしい目をして捕まえているフレイアの体を見やった。

 そして手にしたナイフでフレイアのブラをプチっと切った。


「テメーぶっ殺すぞ!!」


 一瞬で沸点が限界突破した。

 俺が黒鉄を抜くと、髑髏のヌイグルミがすっと隣に現れる。


「さっきまで冷静になれって言ってたとは思えないよね」

「咲、ねじ切れるレベルで掌返し得意だから」

「脅してんじゃねぇよ。テメーの仲間は強ぇがテメー自体は大して強くねぇことは知ってんだよ」

「試してみるか、この野郎」


 オリオンがクリスの手を引いて二、三歩後ろに下がる。


「咲、キレちゃったから下がった方がいいよ」

「助けなくても大丈夫なの?」

「咲は基本優しいけど女の子に手を出したらマジで切れる。あんなチンピラなんかに負けないよ」


 後ろでオリオン達が何か言っているが、こちらは頭に血が上ってるのであまり耳に入ってこない。


「俺がクソザコなのは間違ってないが、女傷つけられるのわかってたらさすがに殺すぞ」

「ははっ、やれるもんならやってみやが――」


 言い切る前に、俺はナイフを持つジェームズの腕を切り飛ばした。

 鮮血と同時に奴の腕が宙を舞い、ボタリと地面に落ちる。


「はっ……えっ? 腕が……俺の腕が!?」


 ジェームズは一瞬理解できないような顔をしていたが、自分の腕の断面を見て硬直する。

 鋭利な切り口からはブシュっと血飛沫が飛び、顔を青ざめさせる。

 本気でこっちが攻撃してこないと思っていたらしい。


「次は首飛ばすからな」

「ひぃっ!」


 ジェームズはフレイアを突き飛ばすと、慌ててタナトスへと乗り込んでいく。


「テメー待ちやがれ!」


 ジェームズを追いかけるが、奴がハッチを閉じるとタナトスが起動しゆっくりと立ち上がる。


「なんだタナトスはジェームズの野郎にマッチングしたのか?」

「多分違うと思う。マッチングしたならもっとスピード出るよ。きっと機体の結晶炉だけで動かしててコアは動いてない」


 確かオスカーもコアとマッチングしなくても動くことは動くって言ってたな。


「とにかく追いかけるぞ!」


 このまま奴を逃がすわけにはいかない。

 しかしいくらパワーが出ていないと言っても、タナトスはそこそこ速い。

 人の脚で走って追いつくのはかなり厳しい。


「やっぱロボットと人間じゃ歩幅が違いすぎる!」

「ねぇ咲、あれ使えないの?」


 オリオンが指さす先にあったのは、分厚い装甲に、主砲が一門ついたベーシックなキャタピラ戦車で、サイズは軽自動車より少し大きいくらいのミニサイズだ。


「それだ! 乗り込め!」



「…………ちょっと狭いんだけど」

「誰か外出ろよ!」

「み、身動き取れない」


 戦車に四人が入ると、小型ということもあって中はギューギュー詰め状態だ。


「咲が外出て」

「お前操縦できんのかよ」

「咲わかるの?」

「任せろ、戦車もどうせあの人が造ってるんだ。なら猿でも動かせるようになってるはずだ」


 俺の頭にルナリアの顔がふっと浮かぶ。

 脳筋っぽい紅がアーマーナイツを操縦していることからして、恐らく操縦構造自体は相当簡略化してるはずだ。

 そう思い俺は操縦席に座ると、足元にあったアクセルペダルらしきものを勢いよく踏み込む。

 しかし戦車はピクリとも動かなかった。


【この車両は現在機能がロックされています。ロックコードを入力してください】


 とかわりに機械音声が響く。


「ロックコードって何?」

「暗証番号みたいなもんだな。そんなもん知らねぇぞ」


 この硬いセキュリティ対策がルナリアの性格を現してんな。そう思っていると俺の持っていたG-13のコアが、二度、三度輝いた。

 よく見ると、コアの液晶画面に『ハッキング中、シバラクオ待チクダサイ』と文字が流れ、ドット絵のG-13が鍵穴をぶっ壊しているアニメーションが映し出される。

 恐らくこの戦車のセキュリティシステムに侵入しているのだろう。


【この車両は現在機能がロックされています。ロックコードを入力してください。この車両は現在機能がロッ……ロックコードを確認しました】


 ロック解除と同時にエンジンがスタートし、車内が小さく振動する。

 G-13の液晶には『ミッションコンプリート』と表示されている。

 どうやったかは知らんが、G-13が干渉してロックを外してくれたらしい。

 ほんとに有能な奴ばかりで困るな。


「行くぞ!」


 アクセルを踏み込むと、戦車はキュルルルと履帯を空転させて急加速し、凄まじいスピードで走り出す。


「うわああああ!」

「キャアアア!!」


 体を固定していなかったので、フレイアたちの体が大きく揺れ俺の視界を塞ぐ。


「前が見えん。なんだこれ!?」


 目の前を塞ぐ柔らかい何かをタプタプさせる。


「胸触んないでよ!」

「お前ブラジャーちゃんと結びなおせよ!」

「んなこと言ったってしょうがないでしょ!」

「それズルい。僕もやる!」


 フレイアは俺の頭をつかんだまま離さないし、クリスは後ろで制服のボタンをプチプチと外しだす。


「ねぇ咲、ここから外見える。コレ何?」


 振り返るとオリオンは潜望鏡と銃が合体したようなものを覗き込んでいた。


「多分主砲のトリガーだから絶対に引くなよ」

「うん、わかった」


 オリオンはカチンと音を立ててトリガーを引いた。

 主砲から轟音が轟き、車内が大きく振動する。

 それと同時に真っ赤な弾頭が空を舞う。


「「「あっ……」」」

「俺絶対に引くなよって言ったよな!?」

「いや、つい……」

「ちょっとあれ見て!」


 クリスの慌てた声に前を見ると、砲弾は弧を描いてさっき見たツインヘッドドラゴンに命中した。

 ドラゴンはオンギャーと痛そうな鳴き声を上げると、大暴れして拘束具を引きちぎる。

 自由になったドラゴンは二本の首から火を吹きつつ街中を駆け抜けていく。


「あれやばいんじゃないか……」

「…………あたし知らない」

「アタシも」

「僕も」


 全員に嫌な汗が流れる。

 怪獣映画みたいなツインヘッドドラゴンは、そのまま戦闘地域に向かうかと思ったが、途中何かに気づいたのかくるりと反転して南側城壁に向かっていく。

 そしてそのまま壁に向かって体当たりを始めたのだ。


「あれ何やってるの?」

「わかんねぇ。壁をぶっ壊そうとしてる? ようにしか見えんな」


 ツインヘッドドラゴンが体当たりを繰り返すと、腐食した城壁がバラバラと崩れ落ちていく。

 それと同時にドラゴンは壁の中から出てきた大量のスライムをムシャムシャと食い始めた。


「オスカーが確かあのドラゴン、スライムの肉が好きって言ってた気がする」

「アシッドスライムなんか食ったら腹壊すぞ」


 ツインヘッドドラゴンは壁の中のアシッドスライムを食べ尽くすと、次のエサを求めてのそりのそりと壁の外へと出ていく。

 しかしこれは俺たちにとっていいことだ。タナトスを使わずとも城壁が壊せたということは、あそこから三国同盟がやって来る。


「いいぞ、流れ来てるぞ」


 後はジェームズに奪われたタナトスを奪い返せればベストなのだが。

 そう思い鋼の死神の姿を探すと、タナトスはなぜかヘックス城へと吸い寄せられるように向かっていく。


「あいつなんであんな戦闘の真っただ中に向かっていくんだ?」

「ねぇ、タナトスの移動速度上がってない?」


 確かに、もっとゆっくりだったはずなのに、今では戦車を全速力で走らせても追いつけないくらいのスピードが出ている。



 その頃、タナトスのコクピット内でジェームズは慌てていた。


「畜生、止まれ! 止まりやがれ! どこに行くつもりなんだ!」


 コンソールをガンガンと殴りつけるが、タナトスはまるでいうことを聞かず、何かに吸い寄せられるようにヘックス城へと直進していく。


「なんだってんだこの野郎! 止まれ止まれって言ってんだよ!」


 すると不意に、コンソールに闇色の文字が灯る。


【我が名はタナトス、永劫の闇を彷徨いし、生と死を司る起源聖霊】

「な、なんだ……この不気味な声は……」

【貴様に闇を背負い、地獄の業火に焼かれる覚悟はあるか?】

「ふざけたこと言ってんじゃねぇ! さっさと止まれって言ってんだよ!」

【……愚かなる人の子に、死の救済を】

「な、なんだ? 何をしてる!?」


 プツンとコンソールから光が消えると、ジェームズの体からシュウシュウと煙が上がる。

 慌てて自分の手を見ると、その手は老いた老人のように骨と皮だけになっていく。

 煙と共にどんどん生気が抜け、ジェームズは自分の体が消えていく恐ろしさに震える。


「な、なんだこりゃ!? やめろ、やめ――」


 ジェームズの叫びも虚しく、タナトスに生命力を全て吸収され、骨だけになった。

 やがて、その骨も全て分解されタナトスのコクピットには何も残らなかった。


【闇を背負いし我が魂の契約者よ。今其方のもとへ向かわん】


 タナトスは骸の瞳を赤く輝かせる。

 その瞳の先に見えるのは――

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