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外見コンプレックス

 翌日の作業中だった。

 今日はデブルとハラミがこの作業場を視察しに来るらしく、朝から班長がピリピリしていてウザさがやばい。

 多分昨日の夜、クリフとのお楽しみを邪魔されたのも拍車をかけているのだろう。

 寝不足で眠い目をこすっていると、クリフが偶然を装ってゆっくりとこちらに近づいてきた。

 俺は気づかぬふりをしてハイパーディスチャージャーの選別を続ける。


「昨日の夜……ありがとう」

「何の話かよくわからんな」

「…………」

「それよりケツは痛くないか?」

「い、痛くないよ……誰かが夜中三回も発狂するから……。あ、あのさ君、なんで僕の事助けてくれるの?」

「何度も言わせるな。俺とイケメンは不倶戴天の敵同士だ。例え輪廻転生したとしてもこの関係はかわらない」


 覚えておけと言って胸を突こうとしたらサッとかわされた。冗談の通じん奴め。

 俺はずっしりと重いハイパーディスチャージャーが入った籠を持ち上げる。


「わからないんだ。……なんで助けてくれるのか」

「何度か似たような質問をされたことがある。その度に俺はこう答える。理由がなければ助けてはいけないのかと」


 クリフはハトがマシンガンくらったみたいにポカンと口を開けた後、顔をカッと赤くして横髪をかきあげる。

 そして熱い吐息と共に、小さな声で囁く。


「…………君ってヒーローみたいだよね」

「バカ言うな。最近のヒーローってのはもっとカッコよくて、選ばれし者しかなれないんだよ」

「顔は関係ないんじゃない?」

「ある。誰しも助けてもらえるならイケメンか美少女が良い。これは俺も納得できる。イケメンならお礼に食事でもとなるかもしれんが、ブサメンならありがとうの一言で終わりだ」

「君、もしかして外見コンプレックス?」


 俺はグサッと突き刺さる言葉をもらって、膝から崩れ落ちそうになった。

 そうか、言葉にするとそうなるんだな……。

 外見コンプレックスの若者増えるとか、社会ニュースの見出しになりそうだ。


「僕は……いいと思うけど……」


 なんでこいつさっきから熱い吐息と共に喋るんだ。妙に艶めかしさを感じる。


「自分よりカッコイイ男に言われても、皮肉か哀れみにしか聞こえない」

「ひ、卑屈だ」

「お前も男なら自分の力で火の粉は振り払えよ。金玉ついてんだろ」

「う、うぅグランザムみたいなこと言う……」

「俺も一つ聞きたい。お前、姉ちゃんか妹いない?」

「えっ? い、いないよ」

「そうか残念だな。いたら相当美人だと思ったんだが」

「なに、いたら狙ってたの?」

「当たり前だろ。きっとやばいくらい美人に違いない。お前を助けたお礼を家族にしてもらう」


 そう言うとクリフは沈痛な面持ちで黙り込んだ。


「家族ネタNGな奴か? 悪かったな冗談だ」

「い、いやそうじゃないよ。あのさ……か、仮の話だよ。もし……僕が女だったらどうする?」


 何言ってんだこいつは。変身願望でもあるのだろうか。


「わからん。男だと思ってた奴がいきなり女だったと言われても、男としてしか見れないと思う」

「そ、そういうもんなんだ」

「なぜそんな深刻そうな顔になる」

「べ、別に」

「なんで急にそんな話を?」

「い、いや、まぁその……僕、ちょっと君のこと好きかもって……」

「…………」


 えっ……。

 埴輪みたいな顔でキョトンとした俺に、クリフは慌てて手を振る。


「あっ、いや、男として! 男としてだよ!!」


 えっ……。

 なんでそこを強調したんだ。


「それを言うなら友達として、とかじゃないのか……普通そんなこと言わないが……」

「そ、そう、それ!」

「だよな」


 俺お前の事男として好きだって、男から言われた時の冷や汗やばいもんな。

 一応クリフの中で友達的認定を受けているらしい。


「ごめん、何言ってんだろ僕。……君の前だと冷静じゃいられなくなる」


 えっ……待ってほんとに怖い。


「ご、ごめんな……俺ノーマルなんだ」

「ち、違うんだって! そういう意味じゃないんだ!」


 変な空気になったので、お互い何か別の話題を探す。


「そういやグランザムで思い出したが、俺オスカーとグランザムにあったぞ。お前の仲間だろ?」

「えっ!? 本当に?」

「おぉ、最初俺あいつの奴隷として牢屋に回されたんだ。結構優雅な暮らししてたぞ。楽しくはなさそうだったが」

「ほんと……良かった」


 ホッとした表情を浮かべるクリフ。その顔は可憐な花のようで、なぜか俺はその顔に一瞬見とれてしまった。

 こいつまつげ長いなとか、唇柔らかそうだなとか。あれ、俺何考えてんだろ。


「オスカーの奴隷にされたのに、なんでこっちに回されて来たの?」

「あの眼鏡、いきなり俺の囚人服をビリビリに引き裂いたんだよ。そしたらそれを見たハラミが勘違いして、ムキーこの獣! あんたなんか強制労働送りよってキレてな」

「ど、どうしたらそういう展開になるんだ……」

「グランザムはお前のこと心配してた」

「そう……」

「お前さ……なんか隠してんなら言っちまってスッキリした方がいいぞ」

「えっ?」

「お前がウォールナイツなら例え首輪で力を失っていても、班長くらい軽くぶっとばせるはずだ。それが出来ないってことはなんか弱み握られてんだろ?」

「…………」

「俺は野郎の悩みに関しては心底興味がない。だけど、お前がパーンって殴られたり、顔の痣隠してコソコソしてるの見んのは嫌だ。お前は陰のあるところもカッコイイんだろうが、花のある人間が雑草みたいに踏みつけられるのを見ても誰も喜ばん。そういう役はフツメンの俺みたいな奴の役回りだ」


 そう言うとクリフは一瞬驚いた表情をした後、顔を引き締めた。


「だから……君は誰かのかわりに踏みつけられるのかい?」

「違う。俺の背中を誰かが見てるから、そいつらに恥ずかしいとこを見せたくないだけだ」

「誰かが自分を見てる……」

「見えないけど、俺の背中には何人もの仲間がずっと俺の事を見てる。コソコソ逃げもするし弱音も吐くが、誰かあの人を助けてあげてって言う人間にはなりたくねぇ。助けてあげてっていう暇があるなら、その手で助けて見せろと思うからそうしてるだけだ」

「有言実行だね」

「尚男はその中に含まれない上に、美女が最優先される」

「よく言うよ」


 再び惚れそうになる笑みを浮かべるクリフ。

 クリフと少しだけ仲良くなった数時間後。

 珍しく平和な昼食時間が終わり午後の作業開始かと思った頃、班長がデブルとハラミを連れて帰ってきたようだ。

 作業場の外からあの甲高い声とへりくだった班長のなまった声が聞こえてきた。


「こんなところまでお越しいただいてすいやせん」

「奴隷の仕事を監督するのは監督官の役目だからな。ワハハハハハ!」

「そうです。さすが偉大なお父様!」


 全員がめんどくさい奴らが来たなと思いながら、気にせず午後の作業を開始する。

 まるまると肥え、似合わないちょび髭を生やした背の低い男が偉そうに背をそらしながら歩いてくる。

 どうやらあれがデブルらしい。

 葉巻をくわえたデブルたちが作業場に入ってきて「やっとるやっとる」と満足げに頷きながら、その辺を見て回る。


「あいつがデブルか……ここで片付けられれば早いんだが」


 当然ながらデブルは強そうで美形な護衛を数人つけているので、武器もなしに突っ込んだら返り討ちは間違いないだろう。

 奴の動きを注視していると、咥えていた葉巻の灰が落ちそうになっていた。


「班長、灰皿がないぞ」

「は、灰皿ですか? しょ、少々お待ちを!」

「あ~構わん構わん。ここにあった」


 そう言ってデブルは班長の額にジュッと音を立てて葉巻を押し付けた。


「ギャアアアアアアアアッ!!」

「フハハハハ、大げさだな。別に熱くはないだろう?」

「いや、熱っ……」

「本当に熱いのかね?」


 デブルが威圧すると、大きな火傷を負った班長は引きつった笑みを浮かべて「あ、熱くないです」と返した。


「そうだろうそうだろう。しかしここは暑いな」

「す、すいません。何分溶鉱炉が近いもので……」

「ここはもういい。ハラミ、ワシは先に他へ行くぞ」

「はい。私もしばらくしたら行きます」


 デブルは何をしに来たのか、班長を苛めただけで暑い暑いと言いながら作業場を出て行ってしまった。

 とりあえず奴の顔を確認できただけでも収穫はあった。

 残ったハラミはクリフを見つけると、ツカツカと歩み寄った。


「言い御身分ね。プリンス様」

「…………」

「同じウォールナイツと言うだけで、いつもいつもオスカー様にすり寄って。汚らしい」

「…………」

「何かお答えにならないの? つまらない人間ね」

「力で人の心は動かせないよ」

「!?」


 たった一言でカッとなったハラミはクリフの頬を引っぱたきフーフーと鼻息を荒くする。


「班長! あなたシゴキが足りないんじゃないの!?」

「す、すいやせん」

「他の連中も、コイツにはもっとキツイことをやらせなさい。そうね……この男を辱めたり、泣かせたりした人間には褒美をあげるわ。とっても面白いイジめ方をした人は釈放を考えてもいいわよ。ただし壊しちゃダメ。生かしながらとことんまで苦痛を与えるのよ」


 ハラミが凄い剣幕で言い切ると作業場の空気がかわり、全員が釈放の言葉にゴクリと生唾を飲み込む。

 ハラミが去って行ったので、俺はクリフに近づいていく。


「大丈夫か?」

「うん……」

「顔は良くても嫌な女だな」

「……彼女オスカーのことが昔から好きで、ずっと後を追ってたらしいんだ。だけど、いきなり召喚された僕に彼の隣をとられたと思い込んでるみたいで」

「男に嫉妬しなくてもいいだろ。まぁ、お前見た目女みたいだけど」

「…………」

「それより気になるのはハラミの言ったことだ」

「うん……また僕イジメられちゃうかもね」


 アハハと乾いた笑い声をあげるクリフ。


「僕のそばにいると君も危ないから、離れておいた方が良いよ。君は僕の事をイジめないでくれると助かるかな。まぁ……でも釈放って言ってるから、うん……もし君がそういうことしてきても僕は恨まないよ」

「何言ってんだお前は、あんなの嘘に決まってんだろ」

「そう、かな? でも彼女約束は守るんじゃ……」

「敵の言うこと鵜呑みにしてどうすんだ。極力俺の傍に来い」

「えっ?」

「午前中にした話の流れで、いきなり釈放に目がくらんでお前をイジめだしたら、真正のクズだろうが」

「いい……の?」

「どこまで効果あるかは知らんがな」

「なんか……人にきつく当たられるより、優しくされた方が泣けてくるね」


 ジワッと目じりに涙が浮かぶクリフ。

 こいつこれだけの美形なのに、よっぽど優しくされたことないんだろうな。なんか不憫な奴だ。

 しばらくして火傷を冷やした班長が戻って来たが、見るからに機嫌が悪い。

 こりゃ因縁つけてくる前兆だなと思ってると、やっぱり俺とクリフに文句を言って来た。


「オメらまたサボりやがって! いい加減にしろ!」


 班長の額には生々しい火傷跡が残っている。これだけなら班長可哀想ですむのだが、この人上にやられたことを下にやり返すタイプの人間だからタチが悪い。


「オメほんといい加減にしねぇと飼育係行きだぞ!」

「すんませんでした」

「すみません」

「いんや勘弁ならねぇ! 今日オメはオレと作業だ! こっち来い!」


 そう言って班長はクリフを連れて行こうとする。


「班長俺もいきまーす」

「オメは向こうでネジでも見てろ!」


 酷い言いぐさである。

 班長は無理やりクリフを連れて行ってしまった。


「班長ハラミの言葉で間違い犯さなきゃいいんだが」


 二人の様子は後でそれとなく確認しに行こうと思う。

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